残された問題と明かされた秘密と
真理恵ちゃん達が帰った後、僕と幸田部長はとある問題に直面していた。
僕達の目の前にあるのは、2包みの紙袋。
そう、宮前先輩に勧められて僕が買ってきた物ともう1つ、真理恵ちゃんからの差し入れである例の料理部特製ロシアンポップコーン。
「どちらも牧田君関係だよね⋯⋯」
「⋯⋯どちらも差し入れですよね」
「さっきの彼女は牧田君の為に買ってきてくれたはずだよね⋯⋯」
「⋯⋯いや、みんなへの差し入れだと思いますよ」
「ロシアンなんだよね⋯⋯」
「「⋯⋯⋯⋯。」」
お互い思いがけない知り合いの来場で、少しだけ気まずかったさっきまでとはまた違った緊張感。
多分考えていることは2人とも同じ、自分への被害を最小限にしたいという事に違いない。
何も知らなければ、おやつ代わりにつまんでいたとは思うけれど、僕達はすでにその芳醇(?)な香りを知ってしまっていた。
「宮前先輩のお勧めだし、料理部の看板もあるから大丈夫なのでは」
「宮前さんだからこそなんだよね」
「そうですね⋯⋯」
そう、問題は宮前先輩だからこそという点にある。
今までも、観測会の時などに美味しい差し入れを持ってきてくれたりと、その料理の腕に関しては誰もが信頼している。
と同時に、新作の試作品という名目で個性的な料理に天文部員全員が犠牲になった事があるというのもまた事実なのだ。
果たして今回は吉と出るのか、それとも⋯⋯。
「でも、ロシアンだったら、全部が外れという訳でも無いのでは?」
「そうなんだけど問題は、その外れの基準なんだよね」
「なるほど⋯⋯」
「お祭り騒ぎのどさくさで、つい勢い余ってとか⋯⋯」
さすが部長、今までにも度々ハプニングに襲われているだけあって、警戒心が並大抵では無い。
だけれども、いくらなんでも料理部全員がお祭り騒ぎのノリで暴走する事はないだろう。
そう決心した僕は思い切って自分が買ってきた方のポップコーンを手にとった。
「牧田君!?」
「確かに最初に買ってきたのは僕です」
「早まらないで」
「後はよろしくお願いします」
「待って、君にはまだ来年もあるんだ」
「部長!!」
そう言って、ポップコーンをつかんだ部長は、目をつむりながら一気に口の中へと放り込んだ。
「?!」
「部長!?」
しばらく静かに口を動かしていた部長の動きが、急に固まる。
「⋯⋯⋯⋯」
「部長?」
無言のまま、ペットボトルのお茶を飲み始めた部長。
「あの⋯⋯」
「うん、意外といけるかも」
もしかして僕達は助かったのだろうか。
ロシアンなんていうから、もっと危険なのかと想像していたけれど、さすがに料理部の評判を落とす程の冒険はしていなかったらしい。
「それじゃあ僕も折角だから⋯⋯」
適当につまんだその時だった。
「!?!?!?」
「牧田君?」
最初に感じたのは少しだけ刺激的な辛み、それはやがて口中にあふれて、食道の方へと襲いかかった。
その刺激に思わずむせそうになった後、さらに癖のある酸味が追い討ちをかける。
「み、水を⋯⋯」
「しっかりするんだ牧田君」
慌てて部長の渡してくれた水を飲み干すと、口の中ではカレーの風味が広がり、いっそう後味は複雑なものとなったのだった。
「な、なんですかこれは!?」
「おかしいな、確かに少し癖はあったけれど⋯⋯」
そう言いながら、ポップコーンの袋を見直すと、フレーバーの解説が目に入る。
「ドキドキ和風フレーバーセット⋯⋯ですか」
あらためて読んでみると、昆布茶、カレー粉、一味、バルサミコ酢、レモン、ブラックペッパーといった味付けになっているらしい。
「ここに、当たりはフレーバー量大サービスと書いてあるね⋯⋯」
「部長⋯⋯」
「牧田君⋯⋯」
こうして無事ポップコーンは、次の当番の遠山先輩と大山の為に(?)再び机の奥深くへとしまいこまれたのだった。




