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成り行き天文部員牧田君の日常 〜愉快なセンパイを添えて〜  作者: 甘木 


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決意の放課後

「まずい!」


 昨日の出来事が気になってあまり眠れなかった僕は、完全に寝過ごしてしまっていた。


 幸い遅刻はしなかったけれども、新着メッセージが入っていたのに気付いたのは、昼休みになってからだった。


『みんなに相談したい事がある』


 送り主は佐藤先輩。予定には無かったけれど、出来れば放課後、全員部室に来て欲しいとの事。


 今日こそ友也と話を、と考えていたけれど、昨日の先輩の様子からすると、なんだか胸騒ぎがする。


 これ以上悩み事が増えません様に。


 半分、上の空で午後の授業が終わり、僕は部室へと向かった。




「お疲れ様です」


「おう!!」


 部室にはすでに佐藤先輩の他にも、数名の姿があった。

 

 学園祭の準備や、雑談している姿は、いつもと変わらない様に見えるけれど、少しだけ落ち着きが無い感じがする。


 その様子が気になった僕は、あえて佐藤先輩に話しかけてみる事にした。


「すいません、解説ってこんな感じでいいですか?」


「ん?」


 とりあえず昨日仕上げた分の原稿を見せてみる。


 原稿を受け取った佐藤先輩は、さっと目を通しただけで、机に置いた。


「いいんじゃないかな」


 あまりにもあっさりとした言葉に、少し不安になった僕は、続けて聞いてみた。


「読みにくいとか、変な所は無かったですか?」


「心配しなくていい。大事なのは自分の言葉で伝える事が出来ているかどうかだ」


「えっ?」


「牧田、初心者だからとか、詳しくないからなんてどうでもいい。大切なのは気持ちだし、そろそろひとり立ちしてもらわないとな」


「⋯⋯」


 あまりにも意外な佐藤先輩の言葉。


 ーーひとり立ち


 確かに入部してから今まで、あまり自分から動く事は無かった。


 先輩達や、僕よりも詳しい同級生達に頼っている事が多かったかもしれない⋯⋯。





「みんな、今日は呼び出してしまってすまない」


 ふと気付くと佐藤先輩がみんなの前に出ている。


 思わず、考え込んでしまっている間に、どうやら全員が揃っていた様だった。


「急な話で申し訳ないけれど、今やっている学園祭の原稿。これを片付けたら、天文部から離れたいと思っている」


 あまりにも予想外なそのひと言に、言葉が出てこない。


 この前の観測会の時も、あんなに楽しそうだったのに、いきなりどうして⋯⋯。


 他のみんなも戸惑っているのか、黙って話を聞いている。


「夏休み前のモデルロケット作りの事覚えているかな」


 確かにあの時、いつかは自分で作ったモデルロケットを飛ばしたいと言っていた。


「実は、この秋に全国大会があるけれど、そちらに専念したいんだ」


 その後も、説明は続いた。


 エントリーの締め切りは今月中旬まで、体験の時は市販のキットだったけれども、今回はエンジン以外は自作しなければならない事。


 来年になれば受験に専念したいから、今回が最後の機会である事。


「あの時は、みんなにも楽しんでもらいたかったけれど、今回は俺の個人的な挑戦だから、天文部の活動とは少し離れすぎると思って⋯⋯」


 そう言って語り終えた佐藤先輩は、もう1度深々と頭を下げた。





「おう!!頑張れよ!!」


 最初に声を上げたのは遠山先輩。


 そのひと言で重たかった空気が動き出す。


「別に暇な時にお手伝いに行くのはいいんだよね」


 更に宮前先輩が続く。


「逆に落ち着いたら、また観測会とか参加してもらってもいいし」


 さみしそうな顔をしながらも、うなずく幸田部長。


 1つ、1つの言葉を噛みしめる様にうつ向き気味で聞いていた佐藤先輩の顔があがる。


「みんな、ありがとう」


 少しくぐもった言葉の後、みんなの顔を見渡した佐藤先輩の顔は、いつも以上に力強く見えた。


「もちろんやり残しの無い様に仕事は片付けていくし、後は頼りになる後輩達がいるしな」


 そう言いながら僕達1年生を見渡した佐藤先輩は、少しだけ照れくさそうに微笑む。


「だったら、退部じゃなくて、休部にしましょうよ」


「休部じゃなくて、公認の幽霊部員っていうのもいいんじゃない?」 


 結星先輩と宮前先輩のやりとりに、部室が笑いに包まれる中、僕はあらためて佐藤先輩の分も頑張っていかないと、と思うのだった。






次回『勘違いの休日』は6月19日(金)21時頃更新予定です

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