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if白雪姫・白雪の逃避行  作者: 秋和翔
5/10

赤ずきん2

「どこかからまだ人の美味そうな匂いがすると思ったら、こんな可愛い少女が隠れていたなんて。で、なんだっけ。俺をどうするって」

「だから、あんたから2人を助けるって言ったの」

 ハクアは狼から白雪姫が見えないよう、ゆっくりと動きながら言いました。白雪姫も音を立てないように細心の注意を払いながら、狩人に近づきます。

「それは驚いた。お嬢ちゃんが1人で俺を倒そうってか。いや、お嬢ちゃん以外にもう1人いるな。まだ匂う」狼はそう言いながら、目線を動かしました。左、右、そして後ろ。そこには狩人の死体と、それに近づく者がいました。狼はすぐさま気が付きました。鉄砲で自分を殺すつもりだということに。

「白雪、急いでっ!!!」ハクアは咄嗟に叫びました。白雪姫は後ろを振り返らずに、鉄砲に向かって走りました。

 白雪姫が鉄砲を取り、振り返ってみるとそこには狼がハクアを人質にして立っていました。

「おい。鉄砲を置くんだ。そしてそこから10歩後ろに下がれ」

 狼は声を荒げて言いました。白雪姫が指示通りにしようとするとハクアが言いました。

「ダメ。白雪。こいつは私たちを食べるつもりだわ。じゃないと気付いた時点で逃げているはず。そうしなかったのは、まだ自分に運があると思っているからよ。白雪が言うとおりにしたら私たちはどっちも死ぬ。でも白雪がそれを持って逃げれば白雪は助かるわ」

「このお嬢ちゃんは小さいのに頭がよく切れるみたいだ。そう、その通り。俺は2人も喰うつもりだ。選ぶんだ。一緒に死ぬか、見捨てて1人だけで逃げて生きるか」

 狼が鋭い歯を剥き出しに笑っているのが、白雪姫は悔しくてたまりませんでした。強者が強者であるゆえに勝ち誇っているのが悔しくてたまりませんでした。

 白雪姫は鉄砲を置くのを止めました。そして銃口を狼に向けました。予想外の行動に狼の笑いは消え去りました。ハクアも驚きを隠せませんでした。

「お前、こいつがどうなってもいいのか。それにお前の撃った弾がこいつに」

 白雪姫は狼の言葉を最後まで聞かず、引き金を引きました。あの言葉の続きを聞いたらきっと引き金を引けなくなると思ったからです。

 白雪姫の撃った弾は狼の肩に直撃しました。狼は転がりながら、痛い痛いと叫びました。ハクアはその間に白雪姫のもとに駆け寄りました。

「白雪って意外と思い切りがいいっていうか、賭けに出るのね」

「え、あ、そうね」

 我に返った白雪姫自身も自分のとった行動に理解できずにいました。1歩間違えればもう一度人を殺すところだったのにと白雪姫は自分に恐れを抱きました。

「それより早く2人を助け出さないと。急ぎましょう、白雪」


 狼はまだ痛みにもだえていました。恨めしそうに白雪姫たちを見つめました。

「生きるために喰うことの何が悪いっていうんだ」狼はそう言うと、自ら銃口に頭をつけました。白雪姫たちが疑問に思い眉をひそめると狼は言いました。

「たとえ、ここで逃げて生き延びても、これじゃあ狩りは出来ないからな。飢えて死ぬよりここでバンッと死んだほうがましなのさ。さぁやってくれ」

 その潔さに驚きながらも、引き金に指をかけました。しかし今頃になって命を奪うことが怖くなってきました。

「早くしてくれ、痛くてたまらないんだ」

 白雪姫は目を強くつぶり、引き金を引きました。


 赤ずきんが目を覚ますとそこはおばあさんの家でした。とても怖い夢を見ていた気がします。顔を洗おうと体を起こすと、どこかで見たことのあるような顔が2つありました。

「よかった、目を覚ましたのね。痛いところはない?」

 1人が近寄ってきました。もう1人はどこか魂が抜けているように、壁の1点を見つめていました。

「大丈夫です。それよりあなたたちは・・・・」

「覚えてない?一応、お花畑で一度会っているんだけど」

 ハクアは一連の出来事を話しました。目覚めてばかりの女の子は思い出したのか、目をギョッとさせ、口をわなわなと振るわせました。

「お、お、おばあさんは、おばあさんはどこ?」女の子はハクアの両肩を抑えて聞きました。

「隣で寝てるよ。でも・・・早くお医者さんに見せないとどうにもならないと思う」

 そう言われて赤ずきんは隣を見ました。顔は茹で上がったように赤く、息も荒いおばあさんがいました。

「それなら早く、早くお医者様を呼んできてよ。なんでまだここでゆっくりしてるのよ」赤ずきんはおばあさんの手を握りながら言いました。

「私たちは街に戻るわけにはいかないの。だからお医者さんを呼ぶことは私たちには出来ないの」

「それでただここにいたの。中途半端に私たちを助けて何がしたいの?起きたらお礼がいわれると思っていたの。命を懸けたかもしれないけど、おばあさんが死ぬっていう絶望を、死んでいく姿をどうしてあじあわなきゃいけないの」

 ハクアはその言葉に怒りを覚えました。自分でこうすると決めたことだけど、自己満足でしたことだけど、その言い方はないだろう。ハクアが言葉を返そうとしていると、赤ずきんは言いました。

「貴方たちがいかないなら、私がお医者様呼んでくる!ここでおばあさんを見ていて!!」

 返事を待たず、赤ずきんは家を飛び出していきました。

「白雪、どうしよう。あの子街に行って私たちのことを知ったらきっと誰かを呼んで私たちを捕まえようとするよ。早く逃げたほうがいいんじゃない?」

 白雪姫は未だ放心状態で、ハクアの言葉に答えませんでした。ハクアは躊躇いつつも平手で白雪姫の頬を打ちました。それでも白雪姫は心ここにあらずといったような雰囲気でした。

「もう白雪、しっかりしてよ!!早くここを出ましょう」とハクアが白雪姫の手を引っ張っても、白雪は動こうとしませんでした。

「待ちましょう。大切なおばあさんを私たちに頼んだってことは、きっとあの子は私たちを信じているのよ。きっと街で私たちのことを知っても、私たちを捕まえようなんてしないはずだわ」

 白雪姫の心はまだどこかを旅している様子でしたが、その言葉にハクアも何故かここで待っていようと思いました。

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