マッチ売りの少女2
マッチ売りの少女の名前は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンからきています。
「えっ。し、白雪姫。お姉さん白雪姫なの!!」ハクアはとても驚いて白雪姫を凝視しました。
「うん。確かにとっても美しい。お姉さんが白雪姫でも充分に納得できるわ」ハクアは呟くようにいいました。
「ど、どうかしたの、ハクア」白雪姫はハクアの言動がよく分からずに聞きました。
「い、いや。前の世界のお話にあったのさ、白雪姫っていうお話が」
「ほ、ほんとうに。それは本当なの!」
白雪姫はハクアの手をより一層強く握り聞きました。これからのことが何か分かるかもしれないと白雪姫は思ったのです。
「うん。さっき話を聞いたときから、もしかしてって思ってはいたの。でも私の世界のお話とは少し違うの。魔女に化けた王妃が毒リンゴを白雪姫にあげるまでは同じなんだけど、私の知っているお話は、その毒リンゴは白雪姫、貴女がその場で食べて死んでしまうの。でもそのあと王子様が来て、貴女のこと運び出そうとしたとき、いやキスをしたときだったかな。とりあえず白雪姫は王子様のおかげで生き返って、そのまま王子様と結ばれてハッピーエンドだった」
それを聞いた白雪姫の顔は一気に暗くなりました。
「じゃあ、私があのときに好き嫌いをせずにリンゴを食べてさえいればよかったってこと。誰も死なずに済んだってこと。私のせいでハッピーエンドじゃなくなったいうの・・・・」
白雪姫は崖から落とされたように感じました。でも今の白雪姫には崖から手を伸ばすものがいました。
「何を言ってるの。白雪姫は何も悪くないじゃない。今のはただの私が前に生きた世界のお話だし、悪いのは、あの王妃だよ。白雪姫は悪くないんだよ。それに今は逃げないと。このまま捕まって白雪姫が殺されてしまったら、きっとあの世で小人たちに怒られてしまうよ。白雪姫がそんなことになるのは小人たちも望んでいないと思うよ」
ハクアのその言葉に、白雪姫は少しだけ救われたような気がしました。
「そうね。ハクアのいうとおりだわ。私まであんな王妃に殺されるわけにはいかないものね」
白雪姫のその言葉にハクアは満面の笑みで答えました。
「それじゃ私の家にいくから付いてきて」そういうとハクアは白雪姫の前を歩き出しました。そのとき白雪姫は気付きました。ハクアが靴を履いていないことに。
「ハクア、あなた靴を履いていないじゃない。どうしたの」
「履いていたんだけどね、色々あって裸足になっちゃたの。そんなことより早く行きましょう」
「そんなことじゃないわよ」
そういうと白雪姫はハクアの前にしゃがんで言いました。
「乗って。おんぶするから」
「お姫様のうえに乗るなんてそんなこと出来ないよ。私は大丈夫だから気にしないで」
「私は国に追われているんだから、もうお姫様じゃないの。そんなこと気にしないで乗ってよ。これから一緒に助け合っていくんだから、これくらいどうってことないよ。案内だけよろしくね」
白雪姫は少し強引に自分の背中にハクアを乗せました。ハクアは思いました。白雪姫の背中はなんて温かいのだろう。きっとマッチの火なんかよりずっと温かいと。今の世界でも、前の世界でもこんなに心地の良いおんぶを味わった記憶はありませんでした。
数十分歩くと、白雪姫たちはハクアの家に着きました。
「ありがとう、白雪姫。ここで少し待っていて。中の様子を見てくるよ」
「いえいえ、どうってことないわよ。でも姫じゃないっていってるでしょ。白雪って呼んで」
「うん、白雪。じゃ行ってくるね」
ハクアはそういうと家のなかに入っていきました。数分経つと家からハクアが出てきました。
「大丈夫。あの人はお酒でもう寝ていたわ。散らかっているけど入って」
白雪姫はハクアのあとに続いて家に入りました。奥から男のいびき声が聞こえました。
「いびき声を出して寝てるときはしばらく起きないから安心していいよ。私は明日の出発の準備をするから、白雪は先に寝て」
白雪姫は自分も手伝うと言いましたが、ハクアは私の方がどこに何があるかよく知っているからと言って白雪姫を寝かせました。
そこで白雪姫は初めて知りました。自分の国の民がどんなところでどうやって寝ているのかを。寒い隙間風が吹き抜け、ベッドなどなく、床に薄い布を敷き硬い枕に頭を載せ使い古した小さな布団を被り寝ていることに。こんなところで白雪姫は寝れるだろうかと思いましたが、疲れ切った体はすぐに眠りに落ちました。
次の日、白雪姫はハクアの声で目を覚ましました。
「起きて、白雪。少し早いけれど、あの人が起きる前にここを出発しないと。準備はもう出来ているから、白雪起きて」
「おはよう・・・・。ハクア・・・」
そういうと白雪姫はゆっくりと体を起こしました。
「ありがとう。ハクア。私が寝ている間に手当してくれたんだね。ぐっすり寝ていたから全然気が付かなかったよ」白雪姫は膝小僧に巻かれた包帯を見ながら言いました。
「別にこれくらいどうってことないさ。ただの昨日のおんぶのお礼だよ。ほら、それより早く行くよ」ハクアはそういって足早に家の外に出て行ってしまいました。
「ハクアったら照れ屋なんだから」そういうと白雪姫も家の外に出ました。
家の外には昨日ハクアがいったとおり、体に荷物を括り付けらけた馬がいました。
「早く出発してこんな国、出ましょう」
そして白雪姫とハクアは馬に乗り出発しました。
「ハクア、馬を操るのがとても上手なのね」
「うん。前の世界でよく乗ってたんだ。馬に乗るとどこまででも行けるような気がして好きだった。馬に乗ると今の世界じゃないどこか遠くの世界に行けるような気がしたんだ」
「そうだね。私たちも今から遠くに行くものね。まだ見たことがない世界に」
白雪姫はどうやってハクアが馬などを用意したのか気になりましたが、それは聞いてはいけないような気がして聞けませんでした。
2人は街を後にして、森の中に足を踏み入れました。