第二十話:実力を見てみよう――準備編
「実力、ですか」
屋敷に来て、数日が経ったある日。
珍しく統率官であるジェイドに呼び出され、彼の執務室を訪れていたユイは、自身に向けられた言葉を復唱した。
「そうだ。本来であれば、実力を測り、認められた者だけが守護者になることが出来る」
「けど、ユイちゃんは中途半端な状態で守護者になってるから、コネだ何だって言ってる連中を黙らせる目的ついでに、実力を見てみようか、って話になったわけ」
ジェイドの言葉に続くように告げるケインに、ふむとユイは内心納得する。
まあ、ユイ自身、そんな目を向けてくる連中がいないとは思っていない。それに、今更実力を示したところで納得してもらえるとも思えない。
(けど――)
それでも、少しでも疑いの目を減らせるのであれば、引き受けるべきなのだろう。
たとえ、この屋敷に来て以降、自分の実力を知り、把握してくれている人たちのためにも。
「お話は分かりました。実力を測るというのも、私は構いませんが、一体、どのようにするのかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「それぐらいなら、別に構わん」
「方法は対人戦。相手は――僕だよ」
ケインに言われ、ユイは瞬きをする。
「統率役ではないのですか……?」
「あー、そうだよね。そう思っちゃうよね」
参った、とばかりの言動に、ユイは何だか申し訳なさが出てくるが、言葉を発しようとするタイミングで、今度はジェイドが口を開く。
「この役目は、代々副統率官の役目だ」
「まあ、そういうことだよ」
「そうなんですね」
本来なら、他の意味もあるんだろうが、聞いても理解できるかどうかは分からないし、そもそも面倒事に巻き込まれたくないので、彼らの言葉だけで納得しておく。
「そういえば、場所や武器とかはどうするんですか?」
「場所は、それなりの場所があるから、そこで。武器とかは得物を使ってもらってくれて構わないよ」
「……真剣でも?」
「まあ、そうだね。使えるのであれば、使ってくれて構わないけど」
どうやら、どんな武器でも使用可能らしい。
副統率官を相手に対人戦。
どのような結果になるのかは分からないが、『副統率官』なんて地位に居る男である。
そんな人間が、肉体的だろうが、精神的だろうが、頭脳的だろうが――弱いはずがない。
「分かりました。それと――」
「おい、このまま話すつもりなら、場所を移せ」
「それじゃ、僕はユイちゃん連れて、行ってくるよ」
「ああ、任せた」
ユイが続けようとしたことで、話が長引きそうなのを把握したんだろう。ジェイドが会話を遮り、部屋から出ていくように促す。
そして、その事を察したんだろうケインがユイの方向を変え、その背中を押しながら、声を掛け、執務室から出ていく。
「あの、ご挨拶は……」
「いいの、いいの。ああ言ったってことは、言いたいことは言い終えたってことだから」
「……それなら良いのですが……」
ケインの言葉が、本当なのか嘘なのか。もし違っていたらどうしようか。
そんなことを考えながら、ケインとともに廊下を歩いていく。
「あ、そういえば、ユイちゃんの得物って、弓矢で良いんだよね?」
「そうですね。近距離から中距離戦も出来なくはありませんが、基本的には弓を主体に遠距離メインですね」
ユイの場合、対戦して厄介だったり、近距離~中距離じゃないと駄目な場合は、短剣や短刀、ディザイアを使ったりする。
実際、短剣や短刀を使っているところはルークたちやオブリウスたちが見ているので、ユイとて隠すつもりはない。
「さて、着いたよ」
ケインに促され、ユイは飛び込んできた景色に瞬きをした。
「こんな所、あったんですね」
闘技場のような戦闘用フィールドとその周囲を見て、そう感想を洩らすユイに、ケインはこっちと声を掛けつつ、説明を続ける。
「まあ、訓練場ぐらい無いと、みんな腕が鈍るし、ここでなら好きなだけ模擬戦も出来るからね。新技の確認とかで使う奴らも多いし」
「なるほど」
少しばかり強力な魔法などが放たれても大丈夫なように、広いスペースと結界が張ってあるのも、そういう面があるのだろう。
「で、ここが武器庫。剣から特殊な武器まで一通り揃ってるから、気になるやつは持ってみればいいよ」
「さすがに、使ってそのままの奴はいないだろうけど」とケインは言うが、ここでの『使ってそのまま』というのは、安全装置などのことである。
基本的に、武器庫の武器は誰が使っても良いようになっているのだが、次に誰が使うのか分からない以上、ここにあったものはあった通りにしておくようにと言われているし、同じことが書かれた貼り紙もしてある。
ただ、中には元通りにしてない物もあり、そういうものに関しては持った途端に何か起きかねないので、ケインとしてもそれはないと思いつつ、ユイに促してみたと言うわけである。
「あ、クロスボウ」
同じ遠距離系の武器であるクロスボウを見つけたユイは、試しに持ってみる。
「使ったことあるの?」
「いえ、実物を見るのも触るのも初めてです。ただ、あるのは知ってたので」
「そっか」
使用を促そうかと思ったケインだが、初めてなら仕方ないとばかりに口に出すのを止める。
「それじゃあ……武器は得物だけでいいのかな?」
「そうですね」
ケインの確認にユイは頷く。
武器庫の武器を使ってみたくはあるが、実力を測ろうとしているときに使いなれない武器を使っては、きちんと把握してもらえない可能性もある。
だったら得物を使って、きちんと把握してもらえた方が、ユイとしても今後のことを思うと有り難い。
「さて、それじゃあ――移動して始めようか」
そんなケインの言葉を合図に、二人は武器庫を出て、フィールドに向かうのだった。
ケインの呼び方が『ユイ嬢』から『ユイちゃん』に変わったのは、お客様ではなく、仲間になったからです。




