第二十一話:実力を見てみよう――本番編Ⅰ
「ユイとケインさんが決闘!?」
いきなりもたらされた情報に、ルークが声を上げる。
「何でまたそんなことになってんだよ」
「ああ、それなんだが、『決闘』だなんて言い方をしているが、嬢ちゃんの実力を見るんだろ。ケインもそれが仕事だしな」
「でも、近接から中距離戦闘系のケインさんに、遠距離系のユイちゃんの組み合わせってどうなるのか、ちょっと気になるね」
ユーリの言葉に、ルークが納得できなさそうな顔をする。
「まあ、そこまで心配する程じゃないだろ。ケインも女の子の顔に傷を付けるようなこと、しないだろうしな」
「けどなぁ……」
「ルークは心配なんだよね」
ユーリがからかうように言えば、「ちげーよ!」とルークが反論する。
だが、その返しが二人のからかいの対象になる。
「だって、ルークにとってはユイちゃんが初めての後輩でしょ? それに女の子だから、心配になっても仕方ないよねぇ」
「なるほどなぁ。そりゃあ、気になるか」
「だから、ちげーって言ってんだろうが!!」
そうやって噛みつきながら反論するものだから、それが当たっていると言っているようなものなのだが、それを認めたくないルークは不機嫌そうな顔になる。
「ごめんね、ルーク」
「からかって悪かったって」
「ふん」
どうやら少しの間、機嫌を直してもらえないらしい。
「それじゃあ、そろそろ様子を見に行ってみようか」
そうユーリが切り出せば、三人は場所を移動するのであった。
☆★☆
さて、時間は少しだけ戻って、試合開始時。
ユイとケインは、それぞれ一定の距離を空け、向かい合うようにして立っていた。
「勝敗の決め方は二つ。一つは、相手を戦意喪失または戦闘不能にさせること。もう一つは、相手をフィールドの外へ出すこと。ここまでで何か質問はあるかな?」
「いえ、特には」
簡単にルール説明をするケインから最後に質問は無いか問われ、それは無いとばかりにユイは首を横に振る。
「それじゃあ、どこからでもどうぞ」
先攻を譲るかのようなケインの発言に、ユイはどうしたものかと考える。
そもそもユイは、これまでのことから考えるに、仕掛けるよりも仕掛けられるタイプの人間である。
仕掛けようと思えば仕掛けられなくはないが、何分自分から仕掛けようとしないタイプなので、顔見知りではあるが、その手の内を知らないがために、どの手を使うか悩んでいるのである。
(まあ、迷ってたら、実戦では死んでるよね)
ロイドとの模擬戦の時にも、何度も言われた言葉である。
「そっちから来ないのなら、こっちから行くよ」
どうやら、待ち時間は無くなったらしい。
剣片手に突っ込んでくるケインの攻撃を避けるが、弓を構え、放てるほどの距離を取ることはできていない。
「ほらほら、どうしたの? 応戦しないと」
「それは分かってるんですがねぇ……」
どうにも距離を詰められる。
弓を警戒して放てないようにしているのか、それとも短剣やディザイアを使わせるためなのかは分からないが、これでは弓で応戦できるはずもない。
正直、誘導されてる気もしなくはないが、その時が来るまで弓を使うのは止めておこうとユイは思案する。
「っ、と」
ケインの刃に触れたのか、髪がいくつか舞う。
「まだ出さない?」
「そうですねぇ……」
少しだけ目を細め、ユイは思案するのを止める。
「手は、出してるんですけどねぇ」
――ただ、攻撃していないだけで。
だから、その事を察したのだろう、ケインの動きは鈍り、彼が周囲を確認したことで、ユイはその手に弓を構える。
「――ッツ!!」
だが、その事に気付かないほど、ケインも馬鹿ではない。
ユイによって、矢が射られない様にしようと動き出す。
「私の『矢』は――」
ユイが口を開き、
「ただの『矢』ではないので」
弓を構え、矢を支えるための指を動かす。
それがまるで発射の合図かのように、それと同時に、仕掛けられていたであろう魔力による大量の矢が、ケインに向けられる。
「っ、この数は! 面倒!」
回避したり、捌いたりと、先程までの余裕はどこへやら。
言葉通り、面倒だと言いたげにケインの顔が歪む。
「でも、君を先に倒せば、この大量の矢は消えるんだよね」
「まあ……そうですね」
ケインの言い分は間違っていない。
確かに、矢が放たれる原因であるユイを倒せば、矢の乱射も止まるだろう。
(でも……)
それまでに、ケインの体力が持つかどうかである。
ユイを倒すためには、あの矢の雨を攻略しながらになる。それをしながら、ユイを倒すとなると、いくらケインでも限界というものが来るのではないのだろうか。
「そんな不安そうな顔されてもね」
大丈夫なのかと言いたげなユイの顔を確認したケインがそう呟く。
(こんな大量の矢を出しておいて、心配してくるなんてね)
それを狙っているのか、いないのか。
それとも、少しずつ不安になってきたのか。
「そもそも――これを捌けないんじゃあ、副統率官なんてやってないよ」
そんなケインの言葉に、それもそうかとユイは納得する。
逆に言えば、そのぐらいの実力がないと、副統率官なんて出来ないと言っているようなものである。
(実際、これぐらいならどうってことないし)
別に強がりで言ったわけではないが、ユイの表情は変わらない。
つまり、ケインの言い分を信じてもらえていないのか、この大量の矢に何かあるのかのどちらかになるのだが――
「やれやれ。それじゃ、これはどう?」
ケインと彼が持つ剣を中心に、強風が吹き荒れる。
大量の矢は基本的にユイの魔力なので、普通の矢のように吹き飛ばしたり出来るかどうか疑問だったが、どうやら可能らしい。
「マズい! 逃げろ、ユイ!」
いつから見ていたんだろう。この後の光景を想像したであろうルークが叫ぶが、その声よりもケインが大量の矢のコントロールを奪う方が早かった。
「うわぁ、マジか。一応、私の魔力で動いているって言うのに」
さすがのユイも、魔力まで操作されるのは想定外である。
だが、何か攻略法はないのかと、やや目を細めれば、《ケイン・レインベルグ 職業:守護者副統率官/???》とステータスが表示され、その中の【スキル一覧】の場所に『魔力操作』の四文字を見つける。
(魔力操作、ね……)
そもそもあの強風は、一目で『魔力操作』していると分からせないようにするためのものだろう。
しかも、スキルの詳細には、『使用されている魔法等にもよるが、相手の魔力もコントロールできる』と書かれている。
「これは……自分の魔力相手だけど、さすがに短剣じゃ防ぎきるのは無理か」
どんな手を使おうにも、短剣では限界がある。となれば――……
「ディザイア」
愛剣を使うしかない。
だが、使うのは通常モードでのディザイアである。シェルトフォードの時みたいに能力解放なんてしたら、大きな穴を空けかねないからだ。
そんなディザイアを手にしたユイを見たケインも、笑みを浮かべる。
「良かった。これで君の本気を見れるわけだ」
これぐらいだとまだ本気じゃないんだけどな、とユイは心の中で返しつつ、ケインにコントロールを奪われた大量の矢に目を向ける。
「それじゃ、行くよ!」
そして、ケインのコントロールにより、大量の矢が放たれる。
「うん、これは確かに厄介」
元々は自分のものだと言うのに、それが敵や相手の手に回ると厄介になるのだから、笑えない。
「でも、どうにか出来ないレベルじゃない」
そもそも、あの大量の矢は何も仕掛けていない、その目に写る――量しかないものである。
つまり、通常形態のディザイアだけで、対処可能な訳で。
「いちいち分けるなんて、面倒な真似しなくていい。全てまとめて――喰らえ」
きっと、そんなユイの声が聞こえたのは、手にされていたディザイアだけだろうし、彼女が何か言ったと分かったのは、それを見ていた面々だろう。
「何する気だ? あいつ……」
吹き荒れる魔力の風を受けながら、ルークが呟く。
ディザイアを出した時点で、何かしようとしていることには察しがつくが、その内容までは分からない。
「あれをもし、切り裂くつもりだとして、そのあとはどうするんだろうね」
「どうって……」
あの風を切り裂いたところで、切り裂かれた風は操作元であるケインによって再び集められ、ユイに向けられることだろう。
つまり、いつまで経っても終わらない堂々巡りになりかねない。
「追加で矢を放ったとしても、あの風に巻き込まれるだろうし……」
ユーリの言葉に、ルークは視線をフィールドに向けるのだが、そのフィールドの状況はと言うと、彼らの予想通りの展開となっていた。
「切り裂いても駄目とか、予想外なんですが」
数も数だが、そもそもそれでどうにか出来ると思っていたから余裕ぶってもいたのに、これでは作戦を練り直さないといけない。
(通常形態とはいえ、ディザイアに喰わせてるっていうのに、変化も乏しいしさぁ……)
切り裂いたりした矢は粒子化して吸収されたり、こちらで吸収したりしているが、それでも状況は変わらない。
けれど、ここで冷静さを失えば、負けかねない。
「次の作戦は決まった?」
どれだけ余裕なのか、黙り込むユイに対して一度攻撃の手を止め、そう尋ねるケイン。
「そうやって余裕みせながら聞かれると、腹立ちますね」
「だって余裕なのは事実だし、新人相手で簡単に負けるほど弱いつもりもないよ」
だから、副統率官なんてやってるとも言えるのだが、ユイとしてはその余裕を何とか崩したいところである。
(別に、絶対に勝たないといけない相手というわけでもない……けど!)
このまま何もしないで負けるというのは、腹が立つというもので。
そっと後ろに回していたディザイアを持っている手とは逆の手に、一つの短剣を出現させる。
「それとも、今度はまた別の手を見せてもらえるのかな?」
「まあ……驚いてもらえるといいんですけどね」
そもそも魔力操作なんてことが出来てしまうケインに、今からしようとしている手が通じるのかは分からない。
そして、ユイは一時的にケインから視線を逸らし、フィールドの角の一つに、先ほど出現させた短剣を投げ刺す。
「もしかして……それが手?」
改めて自分に視線を向けたユイに、使おうとしていた手の準備が終わったと判断したケインは問い掛ける。
彼にしてみれば、正直、拍子抜けとも言える。
「そうですが」
だが、ユイはそんなこと関係ないとばかりに肯定する。
本来であれば、四つ角全てに刺したいところではあるが、物が物だし、そんな時間を与えてもらえるわけがないと判断して、ユイは一番近い角一つに絞ったのである。
「それに、あんまり時間を掛けると、タネがバレかねませんし」
一応味方と言えば味方ではあるが、相手にタネがバレるのだけは、何としても阻止したいところ。
「なるほどね」
ユイの説明に納得したかのようなケインは頷くと、「それじゃ行くよ」と声を掛け、まだユイの矢を含んでいる魔力の刃のような風を再度放つ。
「っ、」
その風を、ユイはディザイアで正面から受け止めるが、その際、頬を風が掠るものの、そんなの気にしないとばかりに、ユイは目を離さない。
「切っても駄目なら受け止める、か」
だが、ケインとてユイが先ほど投げ刺した短剣のことを忘れたわけではない。
視線誘導のためか、何らかの能力があるのかは分からないが、現状では無視することなど出来ない。
「でも、やっぱりそれだけなら――僕には勝てないよ」
魔力の風を受け止めているユイが押されるかのように、じりじりと少しずつ後ろにずれ始める。
そんな彼女の足元は、どれだけズレたのかを示すかのように、跡が出来ている。
(さっきより、圧されてる……!)
単純に威力が増したのか、ケインが本気を出したのかは分からない。
けれど、このままだとマズいことだけは分かる。
「っ、」
ユイはこの状況を打開するためにも、頭をフル回転させるのだった。




