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俺の名は坂本龍馬(AI漫画)  作者: MOKOTA
第三章 脱藩して飛翔する龍馬

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第48話 坂本龍馬は久坂玄瑞に会う

挿絵(By みてみん)


「長州藩の久坂に、これを届けてもらいたい」


 武市半平太が差し出した親書を受け取ったことで、龍馬の剣術遊学が決まった。

 表向きの目的は剣術修行である。土佐藩に長州まで行って尊王攘夷の志士と会ってきます、などと正直に言えるわけがない。

 そこで文久元年十月、龍馬は讃岐丸亀藩の矢野道場で修行するという名目で土佐を出た。


 もちろん、丸亀は途中である。

 適当に剣術を教え、逆に学び、時機を見て丸亀を離れ、長州へ向かう。

 完璧な計画だった。


「坂本どの、今夜は花街へ繰り出しませんか」


 道場の者に誘われた龍馬は、少し考えた。

 少しだけである。


「それは断れんのう」


 長州は逃げない。

 だが今夜の酒と女は今夜しかない。

 土佐では何かと顔が知られすぎて遊びにくかったが、丸亀では違う。ここでは誰も坂本龍馬の昔の悪評を知らない。

 実に素晴らしい土地だった。


 そして一か月が過ぎた。


 気がつけば、藩から許された剣術修行の期限が切れようとしていた。

 長州どころか四国からも出ていない。


 まずい。

 非常にまずい。


 龍馬は慌てて修行延長の許可を取りつけ、ようやく丸亀を出た。

 土佐で禁欲しすぎた反動だったのかもしれない。

 やはり人間、何事も溜め込みすぎるのはよくない。

 そう自分に言い聞かせた。

 反省しているかどうかは、かなり怪しかった。




 文久二年の正月を少し過ぎた頃、龍馬はようやく長州へ入った。

 長州といえば、今や尊王攘夷を語るうえで外せない藩である。

 以前なら水戸の名が真っ先に挙がったが、近頃は内部の争いが激しく、勢いを失いつつある。その一方で長州では吉田松陰の門下生を中心に若い志士が育ち、京都や江戸でも動き始めていた。


「遠いところをよう長州まで来られました。まあ、ゆっくりしていって下さい」


 迎えに現れた久坂玄瑞を見て、龍馬は少し拍子抜けした。

 もっと眼光鋭い策士を想像していたのだが、実際には年若く、どちらかといえば学者に見える。

 この男が武市と江戸で通じ、土佐勤王党の結成にも力を貸したという。


「もっと早く来られると聞いていましたが」


「イロイロト問題がアリマシテ」


 主に下半身方面で。

 そんな説明はできないので、龍馬は曖昧に笑った。


「坂本さんの話は武市さんから聞いてます。土佐では武市さんの一番の理解者であるとか」


「それは言い過ぎぜよ」


「桂さんも、面白い男と言っていました」


「桂が?」


 龍馬は少し顔をしかめた。

 面白い男という言葉は、褒めるところに困った相手へ使う場合もある。

 桂め。

 次に会ったら問い詰めてやる。


「わしなんぞ大したことないぜよ。土佐は武市に任せちゅう。それより尊王攘夷いうたら長州じゃろう」


 ところが久坂の顔は曇った。


「そう言ってもらうのは嬉しいですが、今の長州はそんな単純じゃないんです」


「長井雅楽か?」


「さすがですね」


「武市から聞いちゅう」


「長井さんの航海遠略策は、藩でもかなり力を持ちはじめています。このままでは、長州まで幕府に合わせることになりかねません」


「けんど、もう開国はしちゅう。今さら昔みたいな鎖国へ戻すんは難しいがやないか?」


 久坂の目つきが変わった。


「今のまま外国の言いなりで開国を続けたら、日本は西洋に呑まれます! 清国がどれほど深刻な目に遭っているのか、坂本さんも知っていますでしょう。攘夷の火を消してはいけないのでです!」


 清国が深刻。

 一瞬、龍馬の口元が緩んだ。


「何がおかしいんです!」

「いやいや、おまんの情熱に感心しただけぜよ」


 危ない。

 駄洒落かと思ったなどと言えば、本気で怒られそうだ。

 深謀遠慮の策士という第一印象も少し修正した。

 この男、かなり熱い。


「土佐も藩は幕府寄りじゃ。武市も苦労しゆう」

「長州も同じです。長井さんの策がこのまま通るなら、僕は脱藩してでも志を貫くつもりです」


 龍馬は思わず久坂を見た。


「脱藩するがか」

「必要なら。幕府だの藩だのの許しを待っていいる間に、日本が手遅れになったら意味がありません」


 その言葉が妙に胸へ残った。

 この数か月、龍馬は土佐の外を歩いた。

 たかが四国を出て長州へ来ただけでも、見えるものが違う。土佐の中だけにいた頃より、人も考えもずっと多い。


 土佐藩を動かすのは武市がやればいい。

 では、自分は何をする。

 藩の中で上士や吉田東洋に睨まれながら動くことだけが道なのか。


 脱藩。

 その二文字が、龍馬の中に引っかかった。




 久坂から武市への返書を受け取った龍馬は、長州を離れ、やがて土佐へ戻った。

 旅を終えたその足で武市のもとへ向かい、預かった返書を渡す。


「長州はどうじゃった」

「いろいろ勉強になったぜよ。土佐はどうじゃ」

「難しいな」


 武市は苦い顔をした。


「藩の重役とのつながりはできた。京の情勢も加尾から入る。他藩との連携も進みゆう。けんど一つだけ、どうにもならん壁がある」

「吉田東洋か」

「そうじゃ」


 吉田東洋は土佐藩の参政として改革を進め、財政や産業を立て直していた。

 有能なのは間違いない。だが幕府寄りで開国にも理解を示し、勤王党の動きを警戒している。

 武市にとっては最大の障害だった。


「いっそ斬っちゃえ」


 龍馬が軽く言うと、武市は呆れた顔をした。


「気軽に言うなや。勤王党の過激な連中は東洋を斬れ斬れ言いゆうが、お前はもう少し違うと思うちょったぞ」

「わしだって過激な志士ぜよ。旅をして、ちょっと思うところもあってな」


 龍馬は姿勢を正した。

 ここからは冗談ではない。


「このまま土佐におっても、吉田東洋や上士らに押さえられて思うように動けん。じゃき、いっそのこと脱藩も考えちゅう」


 言ってしまった。

 まだ決めたわけではない。

 だが龍馬なりに、かなり真剣な告白だった。


 武市は少し目を見開き、それから妙に納得した顔になった。


「なんじゃ。龍馬もか」

「……も?」

「吉村寅太郎と沢村惣之丞が脱藩することになった」

「他にもおるがか!」


 龍馬は思わず声を上げた。

 こちらは腹を決めるかどうか悩み抜いて、重々しく打ち明けたのだ。

 先客が二人もいた。


 何だ、この恥ずかしさは。


「脱藩して藩外へ出ても、勤王党とは協力してくれ」

「軽いのう!」

「何がじゃ」

「いや、もっと止めるとか、考え直せとかないがか」

「お前が決めたことなら、わしが止めても仕方ないろう」


 武市は当然のように言った。


「ほんなら、早めに龍馬の脱藩の準備も整えるか」

「待て待て! まだ決心してないぜよ!」


 気が早すぎる。

 悩みを打ち明けたら、もう旅支度の話になっている。


 だが龍馬の胸の奥では、長州で聞いた久坂の言葉が再び響いていた。

 藩の外へ出る。

 自分の意思で、日本中を歩く。


 その道は、思っていたより近くまで来ているのかもしれなかった。


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