表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

第二話 イベント

社内の空気は、落ち着いていた。

柳川と細木が付き合い始めたことは、周囲もなんとなく知っている。

だが、柳川は変わらず上司として接していた。

距離は保たれている。

だから問題はない。

その日の朝、柳川は珍しく上機嫌だった。

ミーティング前から、どこか落ち着かない。

書類をめくる手が少しだけ速い。

細木はそれに気づいていた。



.....何かある。




理由は分からないが、機嫌が良さそうだというだけで、少しだけ気分が軽くなる。


「来週末、社内旅行を計画します」

ミーティングの中で、柳川が言う。

「参加希望の方は、私までお願いします」


事務的な口調。

だが、どこか力が入っている。

細木は、何も言わずに聞いていた。

これまでも社内旅行には参加してきた。

今回も、おそらく同じだ。

隣で、真鍋が小さく身を乗り出す。


「課長、最近ちょっと気合い入ってません?」

くすっと笑いながら、細木に向けて言う。


「細木さん、何かしたんですか?」

細木は一瞬だけ考える。

心当たりはない。

だが、悪い気はしない。


「そうね、頑張られてるわね」

そう答えながら、口元だけが少し緩む。


真鍋はそれを見逃さない。

「やっぱり何かあるじゃないですか」

軽い調子で笑う。

細木はそれ以上は答えない。



「旅行かあ……」

誰にも聞こえない声で、細木が呟く。


「行きたいな」

少しだけ間を置いて、


「課長と」

自分でも驚くほど、小さな声だった。



一方で、柳川には明確な思惑があった。

今回、自ら社内旅行の企画に入ったのは偶然ではない。

行き先を決められる。

その一点のためだった。

限られた予算の中で、選べる場所は多くない。

それでも、決めていた。


行きたい場所がある。


連れて行きたい場所がある。



愛媛県松山市。

柳川が生まれ育った場所だ。

海も、街も、空気も、覚えている。

その中でも、ひとつだけ。

どうしても見せたい場所があった。


「温泉もありますし、無難ですよね」

誰かが言う。


「いいですね、道後とか」

話は自然にまとまっていく。


道後温泉

反対する者はいない。

予算にも収まる。

条件は揃っていた。

企画は、そのまま通った。

参加者のリストの中に、細木の名前がある。

柳川はそれを確認して、鼻息が荒くなっていた。

まだ何も始まっていない。

ただ、場所が決まっただけだ。

それでも十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ