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第四十三話 再び

 翌日の天流剣術道場に丈一郎と累の姿があった。二人は道場の中央に正座で相対している。道場内には他に斎藤、新之助、十三郎と卜伝の姿もあった。四人は道場の隅で座して中央の二人を見守っている。


 二人は傍らに置いた木刀を握ると蹲踞そんきょの体制を取った後に立ち上がって中段に構えた。しばらくの間二人の睨み合いが続く。二人だけの話ではない、そこにいた全員が段々と静寂に包まれていった。そうしてそこは全てが全く音のない世界になっていた。累は深く息を吸ってからゆっくりと吐き出した。その音のない世界に呼吸の音だけが聞こえている。そうして累の瞳は真紅に染まった。


 突如として静寂を破り丈一郎が声をあげた。

一之太刀ひとつのたち!!」

 丈一郎はそう言い放ち、昨日と同じく自然な流れで振りかぶって累に打ち込む。


 ……しかしそれは累の木刀で難なく横へと振り払われてしまった。


「あれ?!」

 丈一郎はその意外な展開に呆然としている。

「どうした丈一郎殿、昨日とは全然違うではないか?」

 累が丈一郎にそう声を掛けた。


「はっはっはっ」

 卜伝が高笑いをした。

「元々一之太刀というのは特定の技の名前ではないんじゃよ。何というか心持ちの問題だな。その心持ちで放つ技は全て一之太刀になり得る。そこには凄まじい集中が必要だ。昨夜は生まれて初めての真剣勝負だという事で、たまたまうまく行ったんじゃろうな」

 そう卜伝は説明した。


「なるほど、ところで技でもないのにどうして事前にその名を叫ばねばならぬのですか?」

 累は前から不思議に思っていた事なので、卜伝に聞いてみた。

「それは己に対する宣言みたいなもんじゃな……というのは建前で、その方が格好がいいであろう?」


「なかなかしょうもないですな……」

 そう言いながら累は笑っている。しかし次の瞬間顔を引き締めて丈一郎に向かってこう言った。

「では我々も真剣で立ち会うとしましょうか」


「いや、それ無理なやつだから……」

 丈一郎は食い気味に拒否をした。


「あいも変わらず有寄りの無しなやつだな」

 累は心でそう思っただけのつもりが、不意に口からそう漏らしてしまっていた。


<了>

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