アクムデスカネ
「ここは、一体……。」
少女と共に黒い穴に突入した彼女ら。
鷲掴みされた時の位置のまま飛んでいる。
創は自分がいる空間を眺める。
先はなく、ただひたすらに黒い景色が広がるその空間。
はっきりとフェーリスや少女の顔が見えるため、暗くはないようだが……。
「……これ、どこに向かってるんだい?」
フェーリスが創の方を向いてそう言う。
「風吹さんのところに向かってるはずですけど……?」
「いや、今向かっているの闇なんだけど……。大丈夫?」
少女を不安そうに見る彼女。
よく見たら鼻ちょうちんを出しながらよだれを垂らして目をつぶっていた。
それを見た二人は不安になりつつ、一瞬だけ言葉を失う。
また、こんな状況でも創は少女の寝顔が可愛いと、そうも思っていた。
「ちょ、ちょっと!? おーい!? 寝ないで!? 起きて!?」
「てか、この状況で寝れるんですか!? おぉ起きてください!?」
自分の手は少女の手で塞がっているためムニュンとしたりペチペチはできない。
仕方がないので大声を出して少女を起こそうとする。
……が、少女は起きもせずにうとうとし続けている。
どうにかして彼女を起こさないと不安でままならない。
今自分たちはどこへ向かっているはずなのか、それすらも分からない。
「……へっ、ヘップシッ! うう……なんか寒いですね……。」
ふと少女の背中に乗っているサノンがくしゃみをし、声を震わせながら言う。
確かに少し寒い。少女の手の温かさで一瞬気づかなかったが、
自分の頬や足がだんだん冷えてきて、しかも白い息が口から出始めた。
少女の体温と寒さがちょうどよく、なんだか眠たくなってくる。
様々な不安が積もっているというのに、何故なのだろう。
そんな甘ったれた自分を不思議に思っていると、
「……っ!」
突如として創の中に嫌なものが流れ込んできた。
恐怖、嫌悪、憤怒、怒り、哀しみ、憎悪、絶望、殺意___
それぞれ嫌なもの一つ一つが自我を持っているかのように。
誰かが苦しみ、誰かが怒り、誰かが人を殺す光景が、頭の中で廻っている。
そしてその映像の中に、必ず自分が映っていた。
その”誰か”を眺めるだけの、傍観者として。
「……!? 君! 大丈夫か!?」
フェーリスが創を見ると彼女は顔を青ざめていた。
寒さのせいなのか体全体が震えており、白い息が荒くなっている。
そして「あ……ああ……」と、悲しそうな声を出していた。
彼女に触れようと、フェーリスは頑張って少女の手の中から自分の手を出した。
大気が冷たくなっているせいか手がかじかむ。だが今は彼女の事が心配だ。
震える手で彼女に触れようとしたその時、
創の体内から黒い靄がにじみ出て、フェーリスの体の中に____
「邪魔しないでもらえるかな?
私は今、創を最強の存在に仕立て上げようとしてんだから。」
その声が聞こえたと思えば、彼女は薄暗いどこかに立っていた。
そして目の前に、変なパペット人形を持ってニヤつかせている女性がいた。
不思議な服装をしているその存在を見ていると、だんたんと気が遠くなる。
「……なっ、何者だ……」
自分の気を保ちながら、頭の中にいる人物に問いただす。
すると彼女はパペット人形の口をパクパクさせながら裏声で、
「ココロチャンダヨー(棒)」
そう言いながら、不気味な顔をして笑っていた。
どう言う存在か分からないその人物の名前を聞いた後、
彼女は一瞬にして気を失ってしまい、少女の手の中でぐったりしてしまう。
そして、フェーリスの中に入っていった靄が彼女から出ていき、
創の体内へと、戻って行った。
……その一方で、少女の背中の体温を感じるために、
がっしりと少女に抱き着く態勢で寝ていたサノンであった……
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「”いやぁ、まったく。とんだ悪夢を見せられたもんだね。私。”」
「……」
「”大丈夫? もう気絶はしてないよね?
気持ちは分かるけど、今はそんな状況じゃないよ。”」
「……ええ、大丈夫です。ああいうのは慣れてますから……。」
「”うん、あれを『慣れてる』で処理した君が今恐ろしく感じたよ。
あの時の事件を克服してるから言えるような感じはするけど、
さすがに私でもあれは……うわぁ、思い出すだけで背筋がぁ……”」
「それで、なんで私、牢屋にいるんです?」
創の目の前に木造の格子。
辺りを見回したら木造の和式便所と、二枚の薄い敷布団が牢の隅がある。
牢の外から照らされるロウソクの火。
なんで気絶してる間に私は捕まっているのか。
なんでいつの間にこんなところにいるのか。
自分の胸に手を当て、もう一人の自分の声と話をする。
「”そんな冷淡に言わなくたっていいじゃないか……。
君が気絶してる間、私が私の体を動かしてたんだよ?”
「……私の体で他の人にやらしいことしてませんよね?」
「”……(苦笑)いや、痴漢や性暴行で捕まったと思ってるのかい?
違うよ。君は総大将殿の手駒共に捕まったんだ。”」
「総大将殿って……、チャラ神が言ってた、あの!?」
創は話を聞きながら格子を掴みながら外の様子を見る。
この牢は一定の間隔で廊下の続く限り区切られており、
創の目の前には今、自分がいる牢と同じような構造の牢があるが、
そこに人はおらず、対になっている牢の左右の牢にも人はいない。
廊下には看守らしき人物はおらず、ただロウソクの火だけで照らされている。
「”そ、総大将殿の手駒がね。自分で名乗ってたよ。
まさか精神攻撃をしてくるとは。私だったから助かったけど、
他のみんなは……、頭を抱えて苦しんでたね……。”」
「なんで……そんなことに……」
創は不安そうにする。
鎧を着たお父さんを一瞬にして地に足を突かせた風吹さん。
あの忍者に気づいて一緒に逃げてくれたフェーリスさん。
そしてどこか懐かしく思う、あの大きな手をした『あの子』。
その総大将殿の手駒たちに、何かされてしまったのではないかと。
それに愁やロゼの事も心配になってくる。
何故自分が牢獄にいるのか、なぜ朝起きたら和風の国にいるのか。
そもそも何故自分がこんな世界にいるのか。
自分に『なぜ』と問い詰めても、全く分からない。
彼女は格子にコツンと頭を打ち付け、ため息を吐いた。
「”そんなことになった経緯を話してもいいけど……
あいにく直接会うことができるのは夢の中だけなんだよねぇ……
とりあえず今は脱出が先だよ。ほら、お腰についてる刀を抜くんだ。”」
「かたな……あっ。」
自分の腰についている(浮いている)、少女から貰った黒い刀。
創はゆっくりと刀を鞘から引き抜き、じっくりと刃を見る。
すると創は少女に掴まれている時に見た、あの映像がフラッシュバックする。
彼女は刀を床に落とし、息を荒くし顔を青ざめ自分を抱きしめる。
体の震えがひどい。あのおぞましい光景が蘇る。
”慣れてるとは言ったものの、受け止めてるわけじゃないんだね。”
「……な、なんですかこれ……う、うぅ……。」
「”気持ちがこもった刀(文字通り)だね。
君が感じたことがその刀に吸収されているようだ。
別にその刀からあのおぞましいのが出ている訳じゃない、安心して。”」
もう一人の自分のその声を聞いた後、
少しだけ血の気が戻り、体の震えも若干マシになった。
その隙に創は深呼吸をして冷静になろうとする。
自分の心に、大丈夫、大丈夫と声をかけて。
「”いや、私は大丈夫だから。私は大丈夫じゃないけど。”」
「何言ってるんですか……」
もう一人の自分に呆れ、哀れんだ。
結局のところ、大丈夫ではないのは事実だ。
なぜ自分がこんな怖い思いをしているのか、分からない。
でももう一人の自分は大丈夫と言う。なんだか訳がわからなくなってくる。
変な感情を抱いてしまった結果、なんとか気持ちを抑えることができた。
「”よし、落ち着いたね。
それじゃぁ、その刀を持って格子をスパッといっちゃえ!”」
「そ、そんな事言われても……斬れるわけないじゃないですか……。」
そう言いつつも、創は地面に落ちた刀を拾う。
……さっきは静電気が起こったかのようにフラッシュバックしたが、
あれほどではないが、恐怖やよくない何かを感じる。
もしかしたら漫画とかアニメみたいに意外とズバッといけるかもしれない。
そう思い風吹のように刀を構え、ひとりでに刀を格子に降った。
シュルゥ……
「……え、え?」
なんか、ケーキをナイフで斬るみたいな感じで緩ーく切れた。
「”うわぁ、こんななんだ……、なんだろう、刀として、ううーん……”」
もう一人の自分も切れ方に遺憾を感じる。
斬った後、創は刀の刃を見る。変な切れ味だなぁと思いつつ。
「”ま、まぁいい、とりあえず、格子切ろう……”」
「はーい……」
滑らかに格子が切れていく。
刀を使っている側からすれば違和感しか感じない。刀ってこんなだっけ。
そして自分が通れるぐらいに格子を斬った後、
何とも言えない顔で牢屋の廊下に出る。
「”……あー、とりあえず、右に行って。私はそこから来たから……”」
「……はい。」
創は刀を鞘にしまい、わけが分からないまま廊下を駆けていった。




