普通、お金は簡単に手に入りません。
日常ような日々が続く四章。
当たり前の日々はなんとやら。
「愁ちゃん……あの……」
「どうかしたんですか創さん。」
「このあといつ休憩でしたっけ……」
彼女達は今、繁華街のとあるカフェで働いていた。
カフェ専用の制服に着替え、愁は客の接客、テーブル、カウンター拭きを、
創は調理場から出された料理や、お客の人数分のお冷を運ぶ仕事をしていた。
「13:00からまた自主的な休憩タイムが入りますが、
あんまり休憩しすぎていると減給されちゃいますよ?
冒険する上で必要な武器や道具を買うためにはお金が必要なんですから。」
「それは分かってはいるんですけど……
なんでロゼさんはお金を持っていなかったんですかね……」
「悪かったな金持ってなくて。」
調理場からロゼが創に料理を渡す。
「ほんとですよ……なんで一銭も持ってないんですか……」
「だって金必要じゃねぇんだもーん。
ほとんどの武器とか道具はコテージにそろってんだから。
ほら、持ってけ、あつあつだから気をつけろよ。」
「まかない期待してますよ。」
渡された料理を注文が入ったテーブルに持っていく。
「お待たせいたしました! 当カフェ特製、サイコロステーキでございます!」
「……ほんとにサイコロステーキだ、
まさかこの世界でも食べられるだなんてな……」
客は出されたサイコロステーキを見て、
驚きながらナイフを持ち、おいしそうに食べ始めた。
創はにっこりと笑い、
「ごゆっくりお過ごしください!」
そう言って周りを見て次にやることを模索する。
「ふぁあ……みんながんばえー」
「空菜さん……せめて調理場でロゼさんを手伝ってくださいよ……」
空菜はお客が座っていない席で寝ていた。尻尾をゆらゆらと揺らしながら。
創は彼女に近づき、手で少し尻尾をモフっとする。
「ひゃうっ!」
すると彼女はフッと起き上がり、創の方を恥ずかしそうに見る。
「空菜さん。調理場へレッツゴーです!」
「むぅ……分かったよ……」
創は調理場へ向かった彼女を見送り、自分の服装を整える。
すると、カフェのドアベルがカランカランとなり、新しいお客がやってきた。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ。」
愁が颯爽とお客を迎え、お客をテーブルへと案内した。
それを見た創はお冷を持ち、テーブルへ持っていく。
「こちらお冷でーす、ごゆっくりどう……ぞ?」
「ん? ああ、創じゃないか。
ここで働いているのであれば私に言ってくれれば良かったのに……」
創の目の前にいたお客は、七騎士の一人であるメイトであった。
彼女は黄色い鎧ではなく、私服なのかオシャレな服を着ていた。
「ああ、ええっと、働き始めたのはつい昨日のことで……
ちなみにメイトさんは、何をしにこのお店に?」
「何をしに、だと? ここはカフェではないのか?
おいしいものを食べ、ゆったりとくつろぐ場所ではないのか?」
メイトはすこしムッとしながら創を見る。
「ええっと、それはそうなんですけど……」
「創さん、どうかしましたか。」
そんな中、創の傍に愁が寄り寄り添ってきた。
「いえ、七騎士のメイトさんが来ててちょっとびっくりしただけです。」
「七騎士の……ご注文はお決まりでしょうか。」
「ああ、いつもので頼む。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
愁がそう言うと、創の肩を掴み、後ろを向かせこそこそと話し始めた。
メイトが横目で見ていたが、少ししたらすぐにメニュー表を見始めた。
「創さん、ロゼに『メイトのいつもの』と注文してください。」
「え、愁ちゃん、いつものってなんですか……?」
「ごちゃごちゃ言うより行動です、お客様ですから。」
「わ、分かりました。」
そう答え、創はいそいそと調理場に向かう。
それを確認した愁はメイトに一礼し、辺りを周回し始めた。
「ああ、そろそろ来ると思って準備しておいたよ。ほい。」
そう言って、ロゼは大きなチョコエッグと、
白い何かが入ったマグ付きのシロップ入れが乗った皿を創に渡す。
「え……なんですかこれ?」
「なんだろうなぁー、面白スイーツとだけ言っておこう。
そのチョコめっちゃ割れやすいから慎重に持ってけよ?
あと、その入れ物ちょいと熱いから触らない方がいいぞ?」
「わぁ……落としちゃいそうぅ……」
慎重に、慎重に創はそれをメイトのところへと持っていく。
途中、チョコエッグが少しばかり動きビクッとしたが、すぐさま冷静になった。
運ぶ速度が遅いせいか、周りの客の視線が創の持っている皿に向き始めた。
(そりゃあ、こんなのあったら気にしちゃいますよね……)
そんなことを思いながらも、
なんとかメイトの座っているテーブルへと運ぶことができた。
そして、ふぅーと息を吐いて緊張を少し抜いて、メイトの顔を見てこう言う。
「おまたせしました……! いつものです……!」
「ああ、ありがとう。」
若干引きつった笑顔で創に礼をする。創もその礼に応えるように礼をし、
ごゆっくりどうぞと言ってメイトの席から少しばかり離れる。
そして遠目でメイトに出されたチョコエッグをどう食べるのかを観察し始めた。
すると、メイトはシロップ入れを持ち、白い液体をチョコエッグの頂点から2cmほど離れた部分からぐるりと一周しながらかけ始めた。液体がかかったところからチョコエッグが溶け、エッグの中からおいしそうなスイーツが出てきた。
そして、美味しそうにメイトはそのスイーツを食べ始めた。
「へぇ……なかなか面白いですね。」
その時、周りの客がメイトの食べているスイーツを食べてみたいと思ったのか、
一斉に手を挙げ、創たち店員を呼ぼうとする。
「はぁ”ーい!! 今彼女が食べているスイーツを食べたいというお客様ぁ”!
今手を挙げている手をピースにしてお待ちくださぁーい!
数量限定のスイーツにつきじゃんけんでけりをつけてもらいます!
仮に負けても来週のこの時間帯にはもう一度チャンスがあるのでご安心を!」
そして急に調理場からロゼが出てきてそんなことを言い始めた。
そしたらみんな手をピースにし始めて食べたいという意思を示す。
「まぁ、食べてみたくなりますよね、おいしそうですし。」
「そうだよね~現代っ子にはああいうの刺さるよね~」
「え?」
後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返ると、
このカフェの制服を着た麻央が、お冷を持って突っ立っていた。
「うぇ!? 麻央さん?!」
「久しぶりだね創ぇ~! 元気してる~?」
「麻央さん、なんでまたここに……!?
まさか、彼氏さんの命令でここいる訳じゃないですよね?!」
「純粋にお金を稼ぐためにここに居るの。
まぁ、ここを選んだのは彼氏なんだけどね、でも特に命令とかはないよ?」
「彼氏さんが選んだ……むぅ……ほんとに命令とかないんですよね?」
「神に誓って命令なんて受けてないよ~! 神に誓ってなぁ!
大事なことだから二回言っちゃった! さ、お仕事お仕事♪」
そう言って麻央は辺りを周回しはじめ、水のおかわりを求むお客を探し始めた。
武器屋で働いていた時よりもルンルン気分でかわいらしく。
「……昨日から働いているのに、
麻央さんに会わないなんてことあるんですかね……?」
そうつぶやいた時、空菜の言葉を思い出す。
ただ確率が低いだけでないことはないと。
彼女はその言葉でいろんなことに納得がいっている。
どんなことでも確率が低いだけでいろんなことが起こる、起きてしまうのだと。
そうして創は再びカフェの仕事を務め続けた。
これから始まる人生に心躍らせ、自分の仕事に誇りを持って、
神堕 愁が満足するまでお金を稼ぎ、いち早く冒険に出るために。
一応、この物語はディストピア小説です。
どういうディストピアかは……




