第十九話 俺とイルダの力があれば常識を覆せそうだ
次の階層に上がってきた俺たちを待ち受けたものは案の定のものだった。
「…本当に壊されているなんて…一体誰が…」
口を抑えて呟くスノウ。
「おいおいおい!何でセーフエリアがこうなってんだよ!セーフエリアってのはガーディアンに襲撃されない場所だし、こんなことなるわけが無いんだろ?」
その横でバカのように騒ぐジェガル。セーフエリアが壊れた現実を受け入れられないといったところか。
「そのはずだが…」
予めスノウにはセーフエリアが壊れていたこと、この先のそれも同じことになっている可能性があることを伝えてはいたが実際に見ても受け入れられないみたいだ。
「街に連絡を取れる者はいないか?」
スノウは自分の周囲を見回してそう聞いている。
「は、はい」
そんな中手を挙げたのはあの穏和そうなマミだった。
「連絡を取ってくれないか?救援をここに送って貰えるように。このまま先に進むのは危険が伴う。一旦建て直した方がいい」
「は、はい」
彼女はそのまま魔法を展開する。声を遠くに届ける魔法だ。
しかし…
「…だ、だめです!何かに阻害されてしまいます!」
マミがそう報告した。
「馬鹿な………こんなこと今までなかったのに」
その報告を受けて重大そうな顔を作るスノウ。
それは彼女だけじゃない。他の人もそんな顔をしていた。
「くっ…ここまでなのか…?」
「スノウ」
「何?」
俺が話しかけると無理をしているのか何ともなさそうな顔をする。
「この中に鉱石生成スキルを持つ者はいるか?」
「彼女なら可能だと聞いている」
スノウは俺の質問に答えて1人の少女を指さした。
「はい。確かに…出来ますが…」
そう答えて俺を怪訝な目で見てくる。
何をさせたいか分からないからこそそんな顔をするのだろう。
そこで直球で聞くことにした。
「転移結晶は作れるか?」
その質問には流石に首を横に振る少女。
同時に場はどよめいた。
転移結晶、これに魔力を流すことによりあらゆる場所に人や物を運ぶことが出来る鉱石。
そしてこれの作成が出来れば間違いなく最優の生成スキルを持った人間と言われているだろう。
「転移結晶の生成なんて成功した人はいない。成功例はないもの」
その難易度の高さはスノウも知っているようでそう言ってきた。しかしそれについては俺も知っていることだ。確かに転移結晶の生成難易度は高いだろう。しかし、ここで作らずに現状を打開できないのも確かなことだ。
「そもそもの転移結晶の入手難易度の高さはあんたも理解しているよな?」
「それは、まぁ。何十年に一つ見つかるか見つからないかというレベルだね」
転移結晶など狙って手に入れるのは無理だと言われているレベルだ。
普通は他の鉱石と同様フィールドに落ちていたり壁に埋まっていたりするのだが、そもそも見つけることすら困難なほど数が少ない。
それを今から探すよりはこうして生成してもらう方がまだ期待値としては高い。
いや、期待値が高いというレベルじゃない。
「俺のスキルがあれば100%成功するはずだ。少し時間をくれ。素材にはガーディアンのコアを使おう」
ガーディアンを動かしているのはコアと呼ばれる人間で言う心臓のようなもの。それを失えば他の部位がどれだけ生きていようが、その時点で奴らの生命活動は終わる。
そんな大事な部位だ。それがあれば何とかなるだろう。
「ということで誰か協力してくれないか?」
「私でいいならしたい。ここまで連れてきてくれたフレイに恩返しがしたい。勿論生成スキルは持ってる」
俺の助けを乞う声に反応をくれたのはイルダ。相変わらず眠そうな顔をしている。
「協力者は決まったみたいだが、どうするつもりなんだ?」
先にすることがあるのでそのスノウの言葉に今は答えずにイルダの方を向いた。
「杖か何か持っているだろ?預けてくれないか?」
「これ」
短くそう言って差し出してきたのは杖。
少なくとも駆け出しの冒険者が持つようなチャチな杖ではないようだ。
「いい杖だな。いけそうだ」
「冒険者にとって武器は生命線だから無理してでもいい物買えって」
「誰に言われたかは分からないがいい判断だな」
少なくともその判断は今生きていると言えるだろう。
これだけの武器なら結構なスキルが導入出来るはずだ。
「今からこの武器にスキルを幾つか導入したいと思うがいいか?」
「うん。お願い」
逆にお願いされてしまった。そうだな。変なスキルは付けないようにしないとな。
「見てもいいかな?フレイ」
俺のスキルを近いところで見たいのかそう切り出してきたスノウ。そうだな。結局俺は彼女にスキルをまだ見せていない。
そう考えるならいい機会なのかもしれない。
「分かった。いいよ」
「感謝する」
短くそう言った彼女と2人で移動することにした。
※
「この辺りかな」
呟いてから平たい岩の上に借りてきたイルダの杖を置いた。
「…それにしてもスキルインストールが本当の話だとしたら歴史が変わるね…」
「そうなのか?」
「そうだよ。今まで机上の空論とされてきたスキルインストール。その方法が確立されたとなると歴史が変わるよ。今までの常識が覆る」
そう言って俺の両手を取ってきた。
「すごい事だよフレイ。君のやろうとしていることは世界中の鍛冶屋達が何よりも願った夢なんだ」
「そうなんだな」
そんなにすごい事だったのか。
「じゃあ始めるから」
そう言って道中のガーディアンから抜き出しておいたコアをいくつか取り出す。
ガーディアンのコアは魔力の塊だ。使い方次第では便利なものだし大抵のことに使える。
「…」
イルダの杖とコアを融合させるイメージだけを頭の中に浮かべる。
「スキル…消費魔力軽減、スキル効果値アップ、スキル継続時間アップ、生成成功率アップ、生成可能リスト全解除…」
導入するスキルを確認してからコアを通して杖に導入する。
「終わった」
呟いて杖を石の上から取る。
「もう…終わったのか?」
呆然とした顔で俺にそう聞いてくるスノウ。
「うん。終わった。これで何とかなるはずだ」
「…でもどうやって導入したの?」
「感覚的なことで説明が難しいんだが…装備に混ぜる素材にまずスキルを導入してそれを融合させることで本体にもスキルを導入…って感じかな」
本当は直接の導入も出来るかもしれないがこれが今のところの俺の手法だった。
「さて戻ろうぜ。みんな待ってる」
「あ、あぁ…」
目の前で起きたことの現実味がないのかまだ信じられないような顔をしているスノウだった。
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