第十七話 自作武器がチート武器だった、適当に振ってるだけで勝ててしまう
「ん…何何…」
「起きたか」
次の日俺はミーシャが起きてくるのをずっと待っていた。
「…何その剣」
起きて早々俺の手にある剣を訝しげな目で見てくる彼女。
「俺が作った。SとまではいかないがAランク相当の武器だ」
「…フレイが作ったならSありそうだけどね」
ルーシーはそう言っているがそんなにない気がする。Aランクの武器といったところだろう。
「それでな、大変なことを伝えるが。今俺達はガーディアンに囲まれている」
「本当?なら私の出番だね」
そう言って剣を抜こうとした彼女を手で制する。
「待て。俺にやらせてくれ。お前が起きるのを待っていたのは、俺が失敗した場合フォローを頼みたかったから」
初めて使う武器だ。しかもそれも難易度の比較的高いと言われている40階層のガーディアン達。
それを相手に1人で行くのは少し不安があった。
だからこそこうしてミーシャの目覚めを待っていた。
「うん。分かった。無理しちゃダメだよ?」
「お前は俺の母親か…」
そう言ってはいるが悪い気はしない。
「…」
剣を鞘から抜いて窓際に近付く。
外には犬に似た獣型ガーディアンの群れ。このテントを囲むようにそいつらが50はいるように思える。
「いけるんですか?」
「俺の剣がなまくらでなければ届く」
そう伝えてから扉に手をかける。
「…沈め…」
一気に外に出ると何も考えずに剣を横に振る。
刹那…全てのガーディアンが真っ二つになり地にその体を地に横たえた。
「…え?」
「何なんですかぁ!今の!」
中から声を上げながら出てくるルイズ達。
「すごいね」
自分と同じことを俺がやってみせたからかミーシャも少しばかりは目を見開いて驚いているように見えた。
「これでお前に迷惑をかけずに済むかもな」
確信できた。俺が手に入れた武器は間違いなく強いと。
「私が逆に迷惑かけちゃうよ…」
モジモジし始めたミーシャ。
「私が唯一フレイに頼られるところだったのに」
「お前の力は今も尚俺の上だと思う。期待してるよ」
そう言って頭を撫でてやる。俺の武器はしょせん自分で作った上満足な工房で作ったものでもないその場限りの剣だ。
それと比べてればまだまだミーシャの持つ武器の方が基本スペックというのも高いし使いこなせばもっと多くのことが出来るだろう。
「私から見ればフレイも十分すごいですよ…」
アリアの見開いた目が俺を捉える。
「そうか?」
「少なくともあれだけの量をあの一振で殲滅させられる人なんて人2人の他に知りませんよ…」
ルイズの一言で何かやってしまったことに気付いた。
「俺はそんなに凄いことだとも思えないがやはり凄いことなんだろうか?」
「それはもう凄いことですよ」
相変わらずマミが聖母のような顔で微笑む。
「みんな言っていますがこんなにあっさりとガーディアンの群れを倒してしまう人はそういませんよ。以前…この王国には全てをなぎ倒して突き進んでいく鬼神と呼ばれる存在がいたみたいですけど…その人も超えてると思いますよ」
アリアもそう言ってきた。
鬼神、と言うと…。ルーシーの顔を見る。彼女の父親がそう呼ばれていたはずだ。
「フレイはその鬼神を確かに超えてると思うよ」
嬉しそうな顔が浮かんでいる。
「そんなに大したことしたつもりはないんだがな…」
俺がしたのはただの空振り。それだからこそ余計にそう思えて仕方がない。でも…鬼神の上か…そうとまで言ってくれるのなら調子に乗ってしまいそうになるな。
「フレイ」
俺の名を呼ぶミーシャ。
「かっこよかったよ」
「そ、そうです。すごくかっこよかったですよフレイ」
ミーシャの後に何故か必死にそう伝えてくるリオ。
「そうか。ありがとうな。さ、先に進もうか」
全員が頷いたのを見てから動き始める。
丁度耐久力が無くなってきたのか形を崩していくテントも視界の端に映った。
「ミーシャ。これからは俺も手伝う。とりあえず上に上がろう」
「うん。ありがとう頑張ろうね」
昨日は疲れていたはずなのにそんな気配を感じさせずに頷いてくれた彼女。
「でも、この先もセーフエリアが壊されていたら…」
隣に立つルイズが不安そうな声を上げていた。
確かにそう不安になるのも仕方なくはない。だってもう連続でセーフエリアが壊れているのを見たところなのだから。
「…その時は何とかして下への橋を修理するしかないな。とりあえず前に進もう。前に進めば作戦に参加したヤツらがいるはずだから」
俺達はまだ作戦参加組に出会っていない。ということは奴らはもっと前にいるだろう。
今は状況が状況だ。早めに合流したいところだな。
※
その後も俺達は登り続けた。
そして
「50階層…」
目的の50まですんなりと登ってしまった。
それとここにはスノウ達がいた。周りには色んなパーティが集まっていたがその中には当然会いたくないやつがいた。
「ようゴミ。どうやってここまで登ってきた?」
「お前に答える義務はないぞジェガル」
俺を見て舌打ちするジェガル。
こいつは無視してスノウに近付く。
「何故ここで止まってるんだ?」
そのうち追いつくだろうと思ったがこんなところで出会うとは思っていなかった。
出会うにしても、もう少し先だろうと勝手に思っていた矢先の出会いだから意外感は拭えない。
「…あれだ」
首を降って前方に俺の視線を促す彼女。
視線のはるか先。そこには5mくらいだろうか。座った状態なのにそれ程はあると思われる人型の巨大なガーディアンがどっしりと座っていた。
「動く様子は見えないが…あんなところにあんなものがいるなんて報告はない。本来ここには空を舞う鳥型の大型ガーディアンがいるはずなのだがそれの姿はない」
それを聞いて思い出す。
「何かおかしいな。迷宮のフロアにも本来存在しないはずのガーディアンが出現したりしていた。そして破壊されているセーフエリア」
「セーフエリアが破壊されている?!」
そっちの話は知らないのか大声でそう聞いてきた彼女。
「知らないのか?ここまでのセーフエリアは全滅だった」
そう言って後ろにいたルイズ達に一瞬だけ見る。
「彼女達を帰還装置で下まで送り届けようと思っていたがそれも出来ない。だからこうして登ってきたところだ」
「下ればいいのでは?」
「谷がある階層の橋が崩れた。もう戻れない」
「橋が…崩れた…?」
「あぁ。もう登るしかない。何処かのセーフエリアが生きているのではないかと信じて登ってきたのだがこの有様だ」
目の前では巨大なガーディアンがどっしりと座っている有様。
どうしたものか。
一旦会話を切り上げて俺は1人でその辺を見て回ることにした。見るところかなり長い間この膠着状態は続いているみたいだ。直ぐに動き出すということもないだろう。




