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 会議から3日後。ファリス家に待ちわびた1組の客が訪れた。

 彼らは王都から王命でやって来た役人と護衛の騎士であった。


 レイは城の応接間に彼らを通し、レイと私、リカルドとラシアスの4人で対応にあたった。

 表面的にはにこやかにしていた客たちだが、私の格好を見て隠れて顔をしかめていたのを私は見逃さなかった。怪しい格好の怪しいやつが何でこの場にいるのだ? と言わんばかりに当主であるレイの方に目配せをしていたが、レイも華麗にそれをスルーしている。


「ここに来るまでに拝見しましたが、ファリス家の治める領は、随分と活気に満ち溢れていますな」

「ええ。そう言っていただけると幸いです。それで、王都からはるばるこんな僻地まで一体どのようなご要件でしょうか?」

 当たり障りのないそんな前置きから入る。

「……実は、ファリス家は多額の脱税をしているのではないかという噂が流れてきましてね。疑っているわけではないが、火のないところに煙は立たぬというものだし、ファリス男爵の無実を証明するために今回、我々は派遣されました」

 レイのために来たのだとにこやかに主張するが、相手は非常に胡散臭い笑みを浮かべている。


「我々は腹を探られても痛くも痒くもありませんが……どうやって無罪を証明すればよいのでしょうか? 我々は言われた額の税を納めているはずです」

「ファリス男爵。税というものは収穫量や売上の8割を納めるものですよ。明らかに昨年ファリス男爵が収めた農産物よりも多くのものを溜め込んでいるでしょう?……まあ、後はあなた次第ですね」

 役人はファリス家が領民に大盤振る舞いをしているのを見て、脱税をしていると確信している。それを隠すために賄賂を要求しているのだろうか。

 だが、相手のレイを見る目つきが異様であることにハッと気づき、嫌な要求を相手が言い出す前に、私は威圧的に話を切り出した。


「王都からの使者よ、名をゲイルと言ったか?」

「な、なんだ、お前は、いきなり……!」

「私は一般的に“森の魔女”と呼ばれている者だ」

「なっ……!?“森の魔女”!? あの回復薬を作っている、“森の魔女”ですか!?」

 私が肯定すると、相手はさらに目の色を変えた。

「ああ。私はここにいるリカルドという青年に“領主が飢える民を助けたいと願っている、なんとかできないだろうか”と頼まれ、ここに参った。それで、今民に配っているものは全て私がレイに提供したものだ。だから、レイの脱税の疑惑は無罪であると私が証明しよう」

「そ、そうなのですね! あの有名な魔女様が我が国にお越しになるとは……! ぜひ歓迎会を開きたいので、我々と共に王都へご同行願えませんか!?」

 興奮気味にゲイルは立ち上がって声を上げる。さっきまで私を鼻つまみのように扱っていたのに、この変わりようにはげんなりする。

「断る。私はそういうものに興味がないのだ」

「魔女様、遠慮なさらずに……こんな地よりもきっと居心地が良いところですぞ!」

 ゲイルの提案を冷たくあしらうと、彼は焦りを隠そうとしなくなった。


「魔女様、なぜそれほどにファリス家に固執するのですか?」

「それは、このレイがいるからだな」

 私は隣に座っていたレイにもたれかかった。

「レイは、美しいであろう? 私はレイの美しさの虜となった。だから、彼の願いは何でも叶えたいと思っている。領民が飢えているから何とかして欲しいと言うから食料を提供しているし、領民が病気に罹ったから回復薬が欲しいと言えば与えるし、貧しい土地を豊かにしたいと願えば私はこの地を肥沃な地に変えてみせる」

 レイは私の豹変ぶりに少し驚いたようで身体を一瞬ピクリとさせたが、後は冷静に私の演技に乗ってきている。対して、ゲイルは私の発言に色めきだっている。

「魔女様、ありがとうございます。ですが、俺の願いは民が飢えないということです。それだけでもう魔女様に感謝してもしきれません」

 レイは無邪気を装って笑いかけてくる。

 今度はそんなレイをせっかくの森の魔女を利用しない愚か者であると言わんばかりに嫌悪のような目でゲイルは見ていた。さっきからゲイルは一人で百面相をしていて忙しそうだ。

「そうか。レイは無欲なのだな。……なあ、ゲイルよ。私はこれからもレイの願い通りに民への食料を供給し続けるつもりだが、それは何か問題となるのか?」

「い、いいえ! 森の魔女様の庇護によるものでしたら、何の問題もございません!」

「了解した。ああ、あと、レイが食料を配布することで、他領からの人間もかなりの数がファリス家の領に流れてきている。それも何か問題となるか?」

「そちらの方は……」

 この国は、基本的に国民の大幅な移転を禁止しているらしい。国外逃亡防止でもあるし、その地を耕す人間をある程度確保するためだ。

「……私が何としても国王を説得してみせましょう」

「おお、ゲイル。そなたは話が通じるやつだな。褒美をやろう。」

 そう言って金貨を10枚無造作に取り出し、相手に渡すと、ゲイルは喜びを隠せないようで嫌らしい顔をする。そして、さすがに大金をおいそれと相手に渡す姿にリカルドたちも息を飲んだ。

「こ、こんなにたくさん……!」

「私にははした金よ。素直に受け取っておけ」

「魔女様、ありがとうございます!」

「ゲイル。先ほどの件、よい返答が得られることを願っている」

「ええ、もちろんですとも。魔女様。これからも、あなたとは良い関係が築けるように精進します」

 同行していた騎士たちにも金貨を1枚ずつ渡すと、一行は喜びを禁じえない様子で帰っていった。



「うおー。魔女殿、事前に言われていたが、あのパフォーマンスは鳥肌が立ったぞ」

「リカルド。それは申し訳ないわね。でも私たちはさぞかし愚か者に見えていたことでしょう?」

「ええ、あのゲイルの顔……。あれは俺たちの演技を全く疑っていませんでしたね」

 あの様子では、きっと彼らはレイを傀儡にさえすれば“森の魔女”を手中に納めることができると国王に報告をする。

 私さえ飼うことができたら、回復薬も大量に得ることができる。そう欲張った人間であるなら、まずはレイの機嫌をとるためにファリス領の人口増加や土地拡大の許可を簡単に出すだろう。現状、移住者を無条件で受け入れていることを咎められると困るのだが、その不安も解消される。


 リカルドを王にするためには、まだ人が足りない。それも、力のある人が。

 しかし、法によって制約を受けると現在の力不足の状況で叛旗を翻さなければならない。だが、国王のお墨付きがあるならば、この地はいくらでも人材が豊かになっても構わない。

 まずはこの地に人を定着させて、安定した生活を民に提供する。それだけでレイの名はさらに上がっていく。

 そして、名声を博するレイが“王紋”をもつリカルドを擁立し、新国家の建国を宣言すると……きっとこの腐りきった国をなんとかしようと彼らに賛同する者が多数名乗りをあげてくれるはずだ。

 リカルドを王としてこの地に新たな国を作る準備は着実に進んでいっている。



「なあなあ、魔女殿にとって金貨10枚は端金なのか?」

「それはそうでもないのよ……」

 地味に痛い出費だったりする。だが、未来への投資のためだ。甘い蜜をちらつかせる必要があっただけで、本当はそんな金銭感覚の持ち主ではない。

「あなたは王となっても倹約するのよ、人の見本となる人間なのだから」

「はいはい、分かっていますよ。……俺が私利私欲に走ったら魔女殿の鉄拳制裁が来そうだな」

「もちろんよ」

 まあ、発言するだけで彼に限ってはそんなことはありえないのはわかりきっている。



 5日後、ゲイルからファリス領の人口増加の許可が降りたことを告げる便りが届いた。

 それから定期的にゲイルは甘い汁を吸いに、またレイと私の様子を観察するために来ることがあったが、その時は、私は相変わらずレイの容姿を愛でる振り、レイは魔女の寵を考えなしに喜んでいる振りをし続けた。

 自然とレイとの顔同士の距離が近くなり、彼の顔を間近で見つめると、その美しさに心臓がバクバク音を立てる。ゲイルの訪問は本当に身体に悪い。

 レイも演技に慣れてきたようで、行動が回を重ねるごとに大胆になってくるようになった。

 私を鼻血による出血死させるつもりか!? というほどの色気たっぷりな表情で甘い言葉を吐いてくるのだ。わざとなのか!? 楽しんでいるのか!?

 そういえば以前、ラシアスが、レイはすっかりやさぐれてしまったと言っていた。

 結論、父親の躾が悪い。



「ラシアス……何であそこまで年に相応しくない色気まみれの息子に育てたのよ」

「いや、魔女殿。あれは幼児期から一部の人間から魔の手が伸びていたほどだった。もう天性のものだ。俺のせいではない」

 父親(代理)に八つ当たりをしても、彼に責任逃れをされてしまった。


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