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レイに提示された地図を基に転移魔法を使い、瞬時に城の近くまで移動した。
「ここは!? なっ!? あそこに見えるのはビリアエ伯爵の城!?」
「レイ……気持ちは分かるが、この魔女殿は規格外だ。いちいち驚いていたら身が持たない」
レイもこんらんしている! でもすぐにわれをとりもどした!
「それで、穏便に救出したいの? 派手にやっちゃっていいの?」
「穏便に頼みたい。我々はまだ国を建てられるほどの力を得ていないので……」
即答であった。
「分かったわ。フレイヤ、お願い」
私の合図とともに、フレイヤは普段は隠している2尾の尻尾を具現化させた。
そして私が彼女の尾の辺りに魔法で作った風を当てると、大量の毛がビリアエ伯爵の城へと風に乗って運ばれていく。
「師匠、フレイヤさん。何をしているのですか?」
「城の大体の間取りを確認しているのよ。あと、フレイヤの毛を媒体とすることで、城内のどこでどのくらいの人が動いているのか確認するの。間取りを確認する正確さもフレイヤの毛があると高くなるわ」
今回、リカルドとともに捕らえられた人数は5人であるらしい。それぐらいの人数があまり動かずにいる場所が、囚われている牢であるだろう。
遠隔で風を操作しながら、城の間取りや、リカルドたちらしき人物の居場所を探っていく。
「……だいたい分かったわ」
「本当か!? 魔女殿!!」
「今からリカルドがいるところまで私が転移して、彼らを連れてくるわね」
さすがに遠隔転移はできないし、ぶっつけでやってみても失敗するリスクを考えると私が直接赴くのが最善である。
(……ふう)
かなり正確な位置の転移も成功だ。突然彼らの元に怪しい人物が現れたら、悲鳴を上げられて面倒なことになるかもしれない。私はとりあえず隣の牢に一旦転移をすることにした。
『リカルドという人物はいるかしら? レイ・ファリスの依頼を受けてあなたたちの救出に来たわ』
小声で語りかけると、すぐに反応が返ってきた。
『確かに、リカルドは俺だ。……だが、いかにしてここから俺たちを救出するというのだ?』
『今から1分後にそちらに行きます。突然のことで、そちらにいる皆が動揺しないように心構えをお願いしますわ』
そして、きっかり1分後に、皆が囚われている牢へと転移をする。
やはり、急に現れた怪しい人物を見て皆が息を飲んでいるが頼んでいた通り、大声を上げる者はいなかった。
「早く、皆さん。私の元へ来てください」
全員が私の指示に従って素直に行動してくれた。
「いきますね」
そして、私はレイたちが待機する場所を目指して転移を試みる。目標から1メートルも離れていない場所に私とリカルド達全員を連れての転移を成功させることができた。
「なっ!? レイとラシアス!?」
「リカルド!!」
「ここは!? 牢から転移した!?」
「転移魔法!? この人数を!? 嘘だろう!?」
再会を喜ぶ者もいれば、怒涛の展開についていけない者もいた。
「それで、ちゃちゃっとレイの屋敷に移動しても良いかしら?」
「ああ、魔女殿。ぜひ。……信じられません、俺たちはさっきまでどのような手段をとるか悩みに悩み抜いていたというのに、こんなに簡単に解決していただけるなんて。“森の魔女”は噂に違わない実力の持ち主なのですね」
「あら、ありがとう」
やっぱり美人って得ね。美貌な人に褒められると全く悪い気がしないし、普通にテンションが上がる。
宣言した通り、今度は全員を連れてファリス家を目指して転移魔法を唱える。元にいた室内を目指したはずだが、私たちはファリス家の城の門外に現れてしまった。人数が多く、距離が長くなると多少精度が落ちるようだ。これも私の良い収穫となった。
皆で室内に素早く移動すると、レイは早速リカルドたちに労いの言葉をかけていた。
「リカルド……皆も、特に大きな怪我がないようで本当に良かった。特にリカルド、ビリアエ伯爵に王紋は見つかっていないか?」
「ああ。でも見張りは『来週憲兵が来るから明日1度身体検査を行う』と言っていたからな……かなりギリギリだった」
1日でも遅くなっていたら危ない状態だったようだ。
仲間たちがある程度お互いの無事を確認し合うと、今度は私の存在を皆気にしだす。
「レイ。あの俺たちを助けてくれたとんでもない魔法使いは何だ!?」
「そうよ、転移魔法でしょう? 転移魔法が使えること自体すごいのに、私たち全員を転移させるなんて……」
注目が集まる中、私は話したくて仕方が無かったリカルドの元へ近づき挨拶を交わす。
「リカルド、初めまして。私は“森の魔女”と呼ばれている者です」
「初めまして……に今更なるのか? 知っているようだが、俺はリカルドという。身分は平民だ。って! “森の魔女”!? あの回復薬の作成者か!?」
「ええ……」
私の肯定によって周囲から驚きの声が上がった。
「どうやら、私の薬をご存知のようね」
「当たり前だろう!! あの回復薬は、効果が凄すぎて知らない者などほとんどいないだろう。戦になれば、まあ前線で兵士が傷つくだろう? でも即回復薬を1滴でも取ればすぐに戦える。だから、回復薬さえ無限にあったら、駒もほぼ無限に作れるというわけだ。だから、魔女殿の回復薬をどれだけ所持しているかが国の力を図るバロメーターになっている。」
おおう……。私の回復薬の所持数が国の力になっているとは。自分でも自分の作品の価値の高さに驚いている。
「リカルド、尋ねたいことがあります。あなたは生まれてくる前の記憶がありますか?」
「あー、魔女殿。王紋が浮かび上がってから、よく『神に出会ったのか?』とか『神から何かお告げをいただいていないのか?』とか聞かれるが、俺は生まれてくる前や王紋が浮かび上がってくる直前に神に会っていない。そういう体験には縁がないから、何も答えられない」
かなり緊張しながら肝心の質問をしたのだが、私の期待通りの返事は返ってこなかった。どうやら、彼は私が期待していた人ではなかったようだ。
「そうですか……」
「せっかくだから、見てみるか? 俺の王紋を」
断る理由もないので、見せてもらうことにした。
「これが……」
彼の紋には、何らかの記号が規則的に円の中に並んでいた。文字のようにも見えるが、何と書いてあるかは判読できない。
「これは、神の言語であると言われているから、この紋に書かれていることは分かっていない。そして、単なる刺青との大きな違いは――魔女殿。ここに手を翳して魔力を流し込んでみてくれ」
言われた通り、彼の王紋に軽く触れて、魔力を流してみる。
「っ!!」
『要。わたしは、変わらず君の幸せを願い続けているよ。だから――』
(神様っ!!!!)
一瞬ではあるが、前世の私が命を落とし、この世界に生まれ変わる前にわずかなに過ごしたあの空間が私の目の前に広がった。
「い、今のは……!?」
「これが、王紋が真実、神からいただいたものであるという証明だ。ただの刺青に魔力を流したところで何も起きないが、王紋に魔力を流すと、何らかの出来事を体感する。人によって何が起こるか、何を感じるかは異なっているがな」
「うん、信じる。信じますわ……! それが確かに神からいただいた王紋であると。あなたが人の上に立つ王になるべき人物であることも」
「そりゃあどうも。って、まさか、魔女殿は俺たちに協力してくれるとでも言うのか?」
「全力を尽くすわ」
確かに神様の加護をもらった青年だ。私に神様ともう一度会わせてくれた彼を一点に曇りなく信頼する。そして、神様が彼を王にと望んでいるのならば、私は全身全霊を注いで彼を王にしたいとも思う。
「まじか……あの魔女殿が。それは百人力だな。俺の願いは、誰もが飢えず、不当に財産や生命を奪われることがなく、衛生的な環境で暮らすことができる国を作ることだ。賛同してもらえるか?」
「何も反対をする要素がないわ。むしろ、そんな低い目標で良いの? ってぐらいだわ」
「……それが難しいんだよ、なかなか」
リカルドは私の同郷の人間ではなかったが、私にとっては特別な人間となった。
「もう一度魔力を流させて!」
「残念だが、この効果も一人一回しかない」
あの体験は1回限りの限定品だったのか! それならもっと心構えをしてから魔力を流したのに!
自分でも現金ではあるが、2回目の神様との対峙を経て、私の心は非常に安定していった。あのとき一瞬ではあるが神様からの激励があり、私は前世への未練を少しだけ忘れて今生きている世界に改めて目を向けようという気持ちになれた。
「アレン、フレイヤ。私を励ましてくれてありがとう」
それも、ここに私が来るようにしてくれた二人のおかげでもある。二人の突出した能力だけでなく二人の温かい性格に私は救われたのだ。




