露店
ルゥナミアたちは、とりあえず軽くなにかを食べることにした。
市はまだ出ているだろうかと広場に行って驚いた。そこには露店がずらりと並んでいたのだ。
「すごいな、これは……」
「うん、こんなに物が集まるなんて……」
よく見れば、品揃えなどは戦前とは比べ物にならないはずだ。
けれどそれでも、商人たちは用意できた物を持ち寄り、商売をしているようだ。
ふたりは露店をひとつひとつのぞきながら歩いた。
織物や毛皮、雑貨などを扱う店をはじめ、様々な店が出ている。
それ以外に、果物など食料を扱う店も多い。
そこには、ルゥナミアがこれまでに見たことのない食べ物がたくさんあった。
毛むくじゃらの果物や、いびつな形をした、本当に食べられるのかどうか怪しい果実、まずそうな色からは想像できない甘い匂いのするもの。
ルゥナミアは興味津々でそれらを観察する。
焼き菓子やら砂糖菓子などの贅沢な菓子類まであって驚く。
更には肉を焼く香ばしい香りがどこからともなく漂ってきて、ルゥナミアはふらふらとそちらに踏み出した。
「よだれが垂れてるぞ」
「へっ!?」
シャンに言われて、ルゥナミアは慌てて手の平で口もとを拭った。
(ん? 濡れてない……)
「嘘。でも、今にも垂らしそうだったのは本当。前もって注意してやったんだから、感謝しろよ」
(やられた!)
ルゥナミアはシャンを睨みつけた。
けれどシャンが肩を揺らして愉快そうに笑っているので、ついつい許してしまう。
当初は表情に乏しかったシャンだが、一緒に旅をするうちにその無表情さは幾らかやわらいできた。
今ではこうしてルゥナミアをからかって笑うこともあり、その変化が嬉しかった。
ルゥナミアはシャンの笑顔が好きだ。
「もう! お詫びにお昼をおごってよね」
ルゥナミアが怒ったふりをして言うと、シャンが肩をすくめて「はいはい」と安請け合いをする。
それもそのはず、旅費はふたり分まとめて管理しているから、本当は奢るも奢らないもないのだ。
「なんでも好きなものを好きなだけ食べてもいい?」
「わかったよ。食べられるだけ食べればいい」
シャンが呆れたように言う。
ルゥナミアはよし、と気合いを入れて物色を始めた。
結局、こんがりと焼かれた太い腸詰肉を買って食べた。
噛みつくと肉汁があふれ出す。
口の周りがべとべとになるのも気にならないくらい美味しかった。
肉汁がちょっと袖口についてしまったのは少し悲しかったけれど、それでも満足だった。
袖はすぐにきちんと洗っておいたから、大丈夫だろう。
チロロには森の中で集めておいた木の実や種を与える。
するとチロロは、ルゥナミアの肩に乗ったまま、おいしそうにカリカリと食べていた。
その後、手ごろな宿を見つけて一部屋を借りた。
ルゥナミアたちが宿に泊まるとき、二部屋借りることはまずない。
初めて一緒に泊まるとき、シャンが「おまえに手を出すことは有り得ない」と断言したし、実際にその通りだったからだ。
宿屋の主人に案内された部屋は、簡素だけれど清潔そうに見えた。
ふたつの寝台と架台、そして椅子が二脚。
小さな架台の上には、ふたりを案内するときに主人が運んできたばかりの水差しが置かれている。
荷物を下ろすなり、シャンが寝台に横になった。
「で、どうする?」
仰向けになってルゥナミアに問いかける。
「どうしようかな」
実は、宿屋に着くまでにシャンと一緒にひと通り市を見て歩いたから、それで結構満足していたのだ。
それもシャンの策略なのかもしれない、と今更ながらルゥナミアは思う。
女の子のひとり歩きは、たとえそれが昼間でも、やはり心配なのだろう。
もしかしたら、シャンが心配しているのは発作のほうかもしれないけれど。
「疲れたんなら、休んどけよ。明日からまた結構歩くんだから。……どこかで馬を調達できたらいいんだけどな」
シャンが呟くように言うが、はなからそんな期待はしていない。
終戦後一年が経つとはいえ、激減した馬の数が急激に増えるわけがない。
特にミシェンバール側の被害は甚大だったから、いまだに市民の日常に馬が戻るには至っていない。
馬であればとっくにファフティリヤの丘に着いていただろうとは思うけれど、考えるだけ無駄だとも思う。
万が一売買されていても、ルゥナミアたちには手が出ない額なのに決まっている。
乗り合い馬車もなくはないが戦前と比べるとやはり少なく、乗車賃は短距離でも一晩の宿代に匹敵するほど高額だった。
「わたしは歩くのが好きだから、別にいいよ」
「じゃあ、もし幸運に恵まれたら考えるってことで」
シャンが言いながら欠伸をする。
ルゥナミアもそれにつられて欠伸が出た。
「うん。わたしも少し休もうかな」
「それがいい」
空いているほうの寝台に腰を下ろす。
靴を脱いで横になると、思いがけず強い睡魔に襲われた。
(おかしいな、そんなに疲れたとは感じていなかったのに……)
シャンの声が聞こえたような気がしたけれど、聞き取ることはできなかった。
ルゥナミアはそのまま眠りに落ちていった。




