お家に帰るまでが遠足です! 後編
ウルクのことはヴィが先に先帝様たちに伝えてくれると言うので、お言葉に甘えることにした。
突然ムシュフシュが現れたら、みんな驚いちゃうもんね。
あと、さすがに稲穂が可哀想になって外に出した。
最強の地竜ムシュフシュがいるのだから、キュウビがいても騒ぎにはならないと思って。
ちょこんとお座りをして、周囲をキョロキョロしている姿がなんとも可愛らしい!
稲穂が外に出ていることに気づいた星伍と陸星がワンワンっと鳴くと、稲穂は二匹のもとへ駆けていく。
稲穂のことは星伍と陸星に任せて、私は周囲を観察する。
やはり、稲穂に注意を払っている人はいな……あ、ヴィと目が合っちゃった。
これ見よがしにため息を吐かれたけど、騒ぎになったらなんとかしてくれるはず。たぶんね。
いろいろと解決したので、あとは帰るだけと思ったら、体が重くなった気がする。さすがにもう疲れたよ。
山を下りて、遺跡を隠すっていう大仕事が残っているんだけどさ。
道中、ディーに関して驚きの発見があったり、ウルクの思わぬ難点が発覚したり、魔物っ子たちが暴れ回ったりしたけど、なんとか無事に大きな穴を通過した。
トンネルを過ぎれば、あとは山を下りるだけ。
砂の坂道を見て、私は閃いた!
行きとは違い、今はドワーフたちがいるのだから、砂を動かして移動する魔法が使えるじゃないかと。
早速、姐御さんに聞いてみる。
「砂を動かす……『細砂流動』のことか?」
「あ、そんな感じのやつでした」
「普段であれば、細砂流動で移動することも多いが、今は魔力をかなり消費しているから無理だ」
と、あっさり断られてしまった。しょんぼり。
「そんなこともあろうかと、魔力回復薬はいっぱい用意してありますよ!!」
会話に割り込んできたルシュさんは、手に持っている何かを掲げた。
「エルフの里に伝わる製法で作ったこの薬の効果は、姐御もご存じでしょ!」
ルシュさん、最初に会ったときよりもさらにウキウキしてない?
聖獣が三頭もいるから、テンション爆上げ状態なのかな??
手に持っていた何か……まぁ、手のひらに収まるくらいの瓶だったんだけど、ルシュさんはそれを私に見せてくれた。
なんでも、薬師組合でもなかなか手に入らない超レアなお薬だそうで、売ればいいお金になるんだとか。その分、原価もかかるんですけどねーと笑っている。
先ほどドワーフたちに飲ませていた何かの正体はこれだった。
粘土板を大量生産したせいで魔力を消費したドワーフに、運ぶ魔法を使わせるために魔力を回復させたそうだ。
瓶の中身も見せてもらったがこれは……。
コロコロと出てきた黒く丸い粒。何よりヤバいのは、瓶を開けた瞬間に漂ってきた臭い。某整腸剤をより強烈にしたらこんな臭いするかもっていうくらい臭い!!
臭いだけでオエッてなりそう。
これを嬉々として飲ませ回っていたなんて、ルシュさんは意外と恐ろしいエルフなのかもしれない。
「待て待て!いくらエルフの薬と言えど、魔力回復薬はその後の反動がある。このあとのことを考えると、魔法が使えなくなるのはまずいんだ」
姐御さんはこれ以上、魔力回復薬を使いたくないようで、ルシュさんから距離を取ろうと体が逃げている。
「反動って何が起きるの?」
側に控えていたパウルに聞いてみた。
パウルは、薬師組合が作っている一般的な魔力回復薬の場合ですがと前置きしてから教えてくれた。
魔力回復薬は、外部から魔力を取り込むものと回復速度を上げるものの二種類あるそうだ。
外部から魔力を取り込む薬は魔石を用いているので、法律によって厳しく規制されているらしい。
下級の人の服用禁止、並びに販売禁止。原材料に使う魔石は無属性のものに限り、大きさも地球サイズに換算して約2ミリ以下のものと定められているんだって。もちろん、子供に与えるのも禁止だ。
「魔石って体内に入るとそんなに危ないの?」
「ようは魔力の塊ですからね。魔力を取り込み、それが自分の体に備わっている容量を超えると、魔力の源を壊すのです」
余分な魔力を体から排出しようと魔力暴走が起こる。感情によって魔力の制御が利かなくなる暴走とは異なり、体を傷つけてしまうのだとか。
「回復速度を上げる薬は、効果が切れるとしばらくの間、自然回復しなくなるのです」
こちらの魔力回復薬はいくつか種類があり、効果と持続時間が違うそうだ。
回復量爆上げは持続時間が短く、反動も大きい。回復量は少ないが持続時間が長いものは、反動が中くらい。回復量が少なく、持続時間も短いものは反動も小さい。
パウルは使ったことはあるそうで、少しは自然回復するけど、物凄く微々たる量で、体感ではまず感じられないほど少量だって。
体質にもよるけど、酷いときは百日も反動が続く場合があるらしい。
つまりそれは、魔法が使えなくなると同義なわけで、使える人からするとめちゃくちゃ不便なんだろうなぁ。
「あれ?じゃあ、あの王女様たちが持っていたお豆ってもしかして……」
本当にとんでもない代物だったことに気づいた。
「さすがネマお嬢様。よく気づかれましたね」
わーい!パウルに褒められた!!
「例の植物の豆は魔力の容量自体を増やすようです。ですが、ネマお嬢様のように、魔法が使えない者にとっては毒と同じ。くれぐれも、魔法が使えるようになるかも、などと思わないでください」
「……はい」
ひょっとしたらと思ったけどダメだった。
せっかくファンタジーな世界に生まれたんだから、魔法の一つや二つ、使ってみたいのに!!
希望を絶たれ、気落ちしていたらカイディーテの姿が目に留まった。
土のスペシャリストがいるじゃないか!ダメ元でお願いしてみようっと。
「ちょっとカイディーテのところに行ってくるね」
魔力回復薬の押し問答をしている姐御さんとルシュさんを置いて、私は走ってカイディーテを捕まえにいく。
「カイディーテ、提案があるんだけど……」
小さな声で魔法のことを話すと、カイディーテの片方の耳がピコピコ動いた。
小さい声にしたのは、ヴィにバレると反対されそうだからだ。
「それでね、ドワーフたちが運んでいる荷物ごとバビューンって下りられたら、カイディーテも早く帰れると思うんだ」
早く帰れるという言葉に、カイディーテの目が光る。そして、グルルとちょっと高めの音で喉を鳴らすと、風が舞った。
精霊たちに何か言ったのかな?
「ネマ!カイディーテ殿に何を吹き込んだ!?」
もう、精霊たちが騒ぐからヴィにバレちゃったじゃん。
「ヴィル、地虎様は乗り気なようだから、安全策を考えるべきだと思うよ」
お兄ちゃんは私に言っても無駄だと思ったのか、ヴィを説得してくれた。
「パウルは魔法でネマたちを運ぶ箱を作って。カイは僕がどうにかするよ」
大きな穴を下りるときも海を一番最後にして、鳥バージョンの姿を見られないようにしていた。
今回も同じようにするのだろう。
「ウルクはどうする?パウルが作った箱に入るかな?」
――体が沈むようであれば無理だが……。
ウルク、そこそこ体重がありそうだもんね。
カイディーテに聞いてみたら、精霊が沈まないようにするとのことだったので、ウルクはそのまま滑り下りることを選んだ。
「ウルクに乗れたら楽しそうなのになぁ」
遺跡から出るときにウルクに乗せてもらおうとしたんだけど、ある難点が判明した。
ウルクに乗ると、頭の真上に毒針がくる――。
ふとした衝撃とかでプスリと刺されてしまう可能性が非常に高いということで、騎乗は見送られたのだ。
「ようやく届きましたので、こちらをお試しください」
そう言ってパウルが取り出したものは……スライム!?
白じゃなくて、この色は……。
「もしかして、紫紺?」
こんなに濃い紫は一匹しかいなかったので、紫紺で間違いないはず。
――むぅっ!むむむむむぅ!
鳴き声も紫を強調するような『むぅ』で、大変可愛らしい。
他の紫系のスライムたちの鳴き声、「ら」と「さ」と「き」だったりしたら面白いんだが……。
でも、「き」だとショッ……やっぱり可愛い鳴き声の方がいいね。
「どうやって紫紺を連れてきたの?」
「手紙用の転移魔法陣です。念のため、スライム用の箱に入れていたので、問題はないかと」
スライム用の箱って……パウルが白や黒をお仕置きするときに使っているあれかな?
ただのタッパーだと思っていたよ!
「それで、紫紺を試すって何を試すの?」
「実際にやってみましょう」
パウルは紫紺を持ったままウルクに近づくと、サソリのような尻尾の先、毒針に紫紺を突き刺した!!
「えぇっ!?ちょっ……紫紺!!」
無敵に思えるスライムでも、さすがに魔法と猛毒は効く。
毒が効かないのは、親スライムと特異体くらいらしいので、うちの子だと雫と黒が当てはまる。
白も強い毒耐性を持っているものの、猛毒クラスは効いちゃうので油断できない。
「大丈夫ですよ。紫色のスライムは毒を好んで食すので、ワイバーンの毒ですら効かないそうです」
あ、そういえば、紫系は毒の子たちだったね。
「紫紺、大丈夫?」
――むぅ!むむむーっ!!
うん、喜んでいるのは伝わったよ。
「最初は毒針に革でもつけようかと思ったのですが、それだといざというときに使えないですから。ネマお嬢様が名付けたスライムなら、毒針がお嬢様に触れないようにすることも、敵に刺さるようにすることもできるだろうと」
なるほど。紫紺が毒針のキャップ代わりなのか。
でもさ……。
「ウルクはじゃまじゃない?」
絶対邪魔だよね?尻尾の先だもん。バランスが崩れちゃうと思うんだ。
ウルクはブンブンと尻尾を振って、感覚を確かめる。
その際、紫紺がむーむーと鳴き声をあげるので、子供をあやす玩具みたいになっていた。
――特には問題ないようだ。
えっ、本当に!?
ウルクの答えには驚いたけど、彼が問題ないというのなら、紫紺をくっつけたままで様子を見よう。
やっぱりダメだってなったら、他の方法を考えればいいしね。
◆◆◆
よーし、準備はOKかな?
お兄ちゃんとディー、ヴィとラース君は到着地点に待機しているし、海も岩場の影に隠れて鳥バージョンに変身しているはず。みんなが坂を滑り始めたら、しれっと飛んでお兄ちゃんと合流することになっている。
お姉ちゃん、スピカ、シェルの組とパウル、マックス、魔物っ子たちの組はそれぞれ土でできた箱に入って準備万端!
なんか、こっちの方がトロッコっぽいな。
ちなみに、森鬼は私と一緒に相乗りすることになっている。付き合わせちゃってごめんよ。
「カイディーテ、いいよー!」
私がそう言うやいなや、大きな咆哮が轟いた。
空気が震えていると感じたのは、気のせいではないと思う。
風もなく無音になったと思ったら、ザーッというテレビの砂嵐に似た音が坂の方から押し寄せてきた。
「お……おぉぉ!!」
目の前で坂道に積もっていた砂が踊るように動き、一本のなっがーーーい滑り台を形取る。
しかも、何が嬉しいって、カイディーテが私の好きなことを覚えてくれていたことに感動した!
この砂の滑り台、サチェとユーシェに作ってもらったウォータースライダーを真似ているんだよ!!
いつも興味ないってお昼寝していたのにね。
「ありがとうカイディーテ!!」
興奮のあまり、カイディーテに勢いよく飛びつき、大好きって言いながらしなやかな毛にうりうりと顔を擦りつける。
「こ、これを滑るのか……?」
「これに似たものを水で作ったことあるんだけど、すっごく楽しいよ!」
顔を引きつらせている姐御さんは、水よりはこちらの方が……と呟いた。
ドワーフって水が苦手なのかな?
「寝そべって、両手はここ!起き上がったり、立ち上がると危険なのでやっちゃダメですからね!」
胸元で腕を交差させるポーズを実演し、滑るときの注意点を説明する。
滑り台の幅は一人分くらいなので、男性ドワーフだと左右に振られることもあるかもしれないしね。
「どんどん行くから、ここに並んでくださーい!」
私はドワーフたちを一列に並ばせて、森鬼がスタンバイしたドワーフを次々と押して滑り台に送り出す。
……が、私が想定していたよりもスピードが速い。ウォータースライダーで魔法ブーストを使ったときくらいの速度が出てない?
あと、ドワーフたちの絶叫が悲鳴を通り越して断末魔ようになっているのも……。
滑っている途中で気を失っていたりしたらどうしよう。
「カイディーテ、もっとゆっくり!安全に行こう!」
だが、カイディーテは不満そうに首を横に振って一鳴きする。
「怪我しないようにしているから大丈夫だそうだ」
せっせとドワーフを送り出していた森鬼が手を止めずに、カイディーテの言葉を伝えてくれた。
つか、森鬼の送り出す作業ももはや強制みたくなっている。
早く帰りたいからと、カイディーテが超高速滑り台にするとは思わなかったんだ!!
ドワーフたち、本当にごめんなさい。
「僕は自力で下ります!精霊様!楽しそうなのは大変よろしいのですが助けてください!!ご慈悲を……うわぁぁぁぁぁ……」
私が心の中で謝っているとドワーフの列がなくなっていて、最後のルシュさんも抵抗のかいなく犠牲に。彼の悲鳴があっという間に遠のいていった。
ただ、この滑り台が思わぬ惨事になってしまったのは、カイディーテのせいだけではないかもしれない。
精霊たちもノリノリで楽しんでいるのだとしたら、やりすぎなのも頷ける。精霊もこういうの好きそうだもんなぁ。
――みゅっ!みゅぅみゅっ!!
白が私に何かを告げて、ウキウキな様子で滑り台の方に跳んでいく。
そして、いざ滑り台に……って。
「森鬼、待ったぁぁぁ!!!」
私の叫び声で察した森鬼が、寸前のところで白を確保した。
離してーと暴れる白だが、スライムの扱いに慣れている森鬼なので逃すことはない。
「白だけじゃ危ないでしょ!」
危ないというか、何か仕出かす可能性が非常に高いので、単独で滑らせるわけにはいかない。
先ほども大きな穴の螺旋階段でやらかしたばかりだ。それで、グラーティアが疲れ果て、今は私の髪の中で休んでいる。
――みゅぅぅぅぅぅ……。
「不満そうに鳴いてもダメ!」
しかし、白は諦めない。
目がないのに、うるうる上目遣いの幻覚が見えそうなくらい、全身でアピールしている。
………………くっ。
「ノックス、おいで!」
お姉ちゃんの肩で羽を休めていたノックスを呼び寄せる。
「白が滑る以外に変なことをしたら、速攻で捕まえておにい様のところまで運んでくれる?」
――ピュイ!
白のお願い攻撃に勝てなかった私は、妥協案としてノックスを監視役につけることにした。
だが、滑り台のスピードを考えると、ノックスが追いつけないかもしれない。
そこで、ノックスの補助を精霊たちにお願いする。
「風の精霊さん、本当にちょこっとでいいからね?ノックスを吹き飛ばしたりしないでね?」
やることなすこと過激な精霊たちだ。強く念押ししておく。
ノックスは上空を旋回して勢いをつけると、ピィと合図を出す。白もみゅっと鳴いて滑る……と思ったら、滑り台を転がりながら消えていった。
じっとしてても砂が運んでくれるのに。それとも、いつも転がっているから、スピードを出すのが癖になっちゃったとか?
もしそうなら、事故らないよう安全第一を徹底させよう!
さて、次はお姉ちゃんたちだね。
お姉ちゃんたちが乗った箱がスススッと勝手に動いてきた。カイディーテが運んでくれたようだ。
そして、滑り台が箱のサイズに合うように幅が広がる。
超高速はお姉ちゃんには無理だろうと思い、カイディーテと精霊に速度を落とすようお願いする。
普通でいいからね?普通だよ?
「それじゃあ、またあとでね」
お姉ちゃんも滑り台が楽しみなのか、魔法のときのように目をキラキラさせている。
きっと、数秒後には消えて、生気がない目になってしまうのだろう。
「いってらっしゃーい!!」
「……きゃぁぁぁぁ!!」
お姉ちゃん、悲鳴まで可愛いって凄い!
スピカとシェルは悲鳴をあげないよう耐えているみたい。たぶん、パウルに何か言われたな。
その次にパウルたちが乗った箱が滑っていったけど、マックスの悲鳴は……うん、聞かなかったことにしてあげよう。
「じゃあ、私たちも行こう!」
森鬼の手を借りてウルクに乗り、スタート地点にスタンバイ。
スピードは私の希望で超高速モードにしてもらった。
ウルクにも、安全のために伏せたままでいるようにとお願いしてある。ウルクが立ったままだと、私が滑り台の外に飛んでいっちゃうかもしれないからね。
ズズッと動いたと思ったら、グンッと体が後ろに押しつけられる感覚が来た。
森鬼がいなかったら、確実に後ろへ吹っ飛んでるわ……。
台風の中、風上に向かって飛ぶとこうなるって感じで、ちょっと後悔した。
目は乾燥してしょぼしょぼするし、息はしにくいし、音がうるさい。
ジェットコースターの方がまだ優しいような気がする。
いや、高さの恐怖がないこちらがマシだと思う人もいるかもしれない。海外のジェットコースターとか、マジで怖いやつがいっぱいあるしね。
なんてことを考えていると、もう終点が見えてきて……ぼよんっと何かに当たった感触がしたあとには、ウルクごと停止していた。
「楽しかった!」
現金なもので、終わってしまうともう一回やりたくなる。
オスフェ家の屋敷に帰ったら、お庭にスライダーを作ろうかな?
さすがにライナス帝国の宮殿のお庭に作るのは反対されそうだし。特にパウルが!
「ほら、ネマはウルクから降りよう。だいぶ疲れているみたいだよ?」
お兄ちゃんに言われて、ウルクがまったく動いていないことに気づいた。
「ごめんね、ウルク!大丈夫!?」
ウルクから飛び降りて、くたぁっとなった顔を覗き込む。
――あんなものを好むとは……人とは恐ろしい生き物だったんだな。
苦手な人も多いと思うけど、ダオの警衛隊のみなさんはウォータースライダーをかなり気に入っていたね。
怖いもの見たさ的なドキドキを求めるのって、他の種族からしたらおかしいのかな?
「治癒魔法をかけるから動かないようにね」
――助かる。
「これからもネマの無茶に付き合ってもらうことになるから」
精霊に通訳してもらっているのか、私を介さなくてもお兄ちゃんとウルクの会話が成り立っている。
ということは、お兄ちゃんも魔物っ子たちと意思疎通ができるのでは!?
なんと羨ましい!!!
「ネマはラルフに礼を言っておけ。ムシュフシュだけでなく、ドワーフたちにも治癒魔法を施したのだからな」
ヴィに頭をわしゃわしゃされながらも周りを見たら、確かにドワーフたちが元気になっていた。
遺跡にいたときのゾンビ具合が綺麗になくなっている。
「おにい様、ありがとう!おにい様は疲れてない?無理しないでね?」
「大丈夫だよ。ディーと契約したからか、以前より魔法の調子がいいんだ」
「魔力が増えたの?」
「増えたことよりも、魔法の効率が上がったのかな?少ない魔力で発動できるし、効果も上がっていると思う」
お兄ちゃんはちゃんと比べてみないと断言できないと言いつつも、魔法が強くなったことは確信しているようだ。
聖獣と契約すると、そんな恩恵もあるだね。
「全員揃ったことだし、カイディーテ殿、あとはお任せする」
ヴィの言葉に、カイディーテは待ってましたと言わんばかりに、力強く咆哮をあげる。
すると、ドンッという衝撃が足元から伝わり、小さく地面が揺れた。
地震だ!って思ったのも束の間、ドワーフたちから悲愴感に満ちた声が聞こえてくる。
「山が……」
山頂の方を見上げると、二つあった山が消えていた。
地面の揺れに気を取られた数秒の間になくなったというのか!?
……カイディーテ、凄すぎない??
あと、できるなら真上から観察してみたい。カルデラのように窪んでいるのか、それとも平地になっているのか。カメラがあればなぁ。
山に注目していると、徐々に揺れが強くなってきた。
たぶん、震度3くらいかな?
私は平気だし、ドワーフたちも揺れ自体は気にしていないように見える。
地震なんて経験したことないと思われるお兄ちゃんたちが平然としているのは意外だった。
逆に魔物っ子たちの方が怯えている。
星伍と陸星は尻尾を脚の間に挟み、パウルの足元で固まっていて、スピカも同じように尻尾を前に持ってきて、お姉ちゃんの背中にしがみついていた。稲穂はいつの間にか馬バージョンの海の上に張りついている。
ノックスは上空に避難。一番安全なところだね!
揺れは収まることなく、油断すると立っていられなくなりそうだ。
私は足を肩幅よりも大きく開き、仁王立ちをして揺れに対抗した。
すると、再び山が……と呟きが聞こえたのだが、今回は私も見逃さなかった。
うん、山が生えてきてるね!!こう、にょきにょきって感じで!!
しかし、山は山でも針山地獄みたいな様相をしている。先の尖った無数の岩が山の表面を覆っているのだ。以前の面影は微塵もない!
「カイディーテ、あれは?」
すっごく満足そうな顔をして、グルルと何かを言ったカイディーテ。そして、地面の中に消えていった。
精霊の通訳を聞いたお兄ちゃんとヴィはなんとも言えない表情になった。
「人を近寄らせないためのものだそうだ。あそこに立ち入った者には、精霊が悪戯をしかけると」
あー、それでなんとも言えない表情をしていたのか。
精霊の悪戯って、微妙に嫌なことばかりしてくるもんね。
それにしても、カイディーテの能力には驚いた。ラグヴィズたちと会ったときやロスラン計画の建設現場を見学したときも思ったけど、土属性が便利すぎる!
しかし、カイディーテの言葉でとどめを刺された者たちがいた。
ドワーフたちと案内役のお兄さんだ。
遺跡は地中奥深くにやられ、山そのものも姿を変えられ、立ち入ることすらできなくなった。
案内役のお兄さんは静かに涙を流しながら、茫然自失の状態。
自分の部族の聖地ということもあり、受け入れられないのだろう。
こればかりは、慰めの言葉も見つからない。
私たちは彼らの気持ちが落ち着くのを待つしかなく、陽があるうちに離宮には戻れそうになかった。
太陽は、山の向こうに沈んでいこうとしている。
滑り台に砂を撒くと速くなるよねってことで、砂の滑り台になりました(笑)
あと、尻尾の先にスライム付けてるムシュフシュ……気に入ってます(←犯人はこいつです)




