真のチートは土魔法かもしれない!
森をようやく抜けると、陛下の警衛隊がすでに待機していた。
ひょっとしたら、この中に特命部隊が混じっているのかもしれないが、私に判別できるわけもなく。
本来なら、すぐに連れていかれる予定だったドワーフたちだが、陛下が塔の見学をさせると伝えると、隊員の一人が何かを持ってきた。
隊員はドワーフたちに説明をして、持ってきたものを彼らの足首に装着する。
パウルにあれは何かとこっそり聞いたら、逃走防止用の魔道具だと教えてくれた。
なんでも、親魔道具から一定の距離を離れると足首に装着した子魔道具が反応して、風魔法で足首を切断してしまうという恐ろしいものだった。
連行する際は、手足を拘束する手錠や足枷を使用するが、作業などをさせる場合はこういった魔道具を使うそうだ。
ドワーフたちの準備が整ってから塔の方へ移動すると言うので、この隙に、稲穂と遊んできて欲しいと海にお願いする。
ずっとバッグの中にいて退屈だったろうから、ストレス発散させてあげないと。
「さっきいた森の入口近くで遊ぶのよ。奥へは行っちゃダメだからね」
森の浅いところなら人目もないだろうし、迷子になっても海なら鳥バージョンになって上空から戻ってこられるので大丈夫だろう。
「ノックス、何かあったらすぐに知らせてね」
一応、保険としてノックスにもついてもらうことにしよう。森の中なら、ノックスの方が機転が利くはずだ。
ノックスと首にショルダーバッグをかけた馬バージョンの海を見送る。
他の魔物っ子たちは羨ましそうに海たちを見つめていたが、君たちは護衛のお仕事です。
白だけはいまだにラグヴィズに捕まっているから、遊んでいるのと変わらない気もするけど。
塔の周りには大勢の大工らしき人たちが動き回っていて、すでにお仕事を再開していた。
ドワーフたちが盗んだサンテートは返却されると、カイディーテによって資材置き場に戻されている。
あと、私も初めて知ったのだが、転移魔法を使わずとも荷物を運ぶ魔法があった。
水魔法や風魔法は魔力消費が大きいだとか、目視していないといけないだとか、火魔法は燃えちゃうから運べないとか、制限が多いみたい。
土魔法は、土属性の荷物に限られるけど地中を通して運べるそうだ。
土魔法の運搬は地中を通すので目視はできないが、魔力を通す関係上、荷物は術者の真下にないといけないらしい。移動速度も早くて馬車くらいって言っていたから、徒歩よりちょっと速い程度。それ以上は荷物が置いてけぼりになる。
聖獣であるカイディーテにはそんな制限はなく、カイディーテが動かなくても荷物だけを移動させることが可能だった。
地中の奥、木の根っことかが邪魔にならない深さを、鉄骨がバビューンと移動しているのを想像するとちょっと面白い。地下を移動する鉄……つまり地下鉄だね!お客は乗せられないけど!
サンテートが戻ったことで、今日は朝から建築工事を再開することができたわけだが、大工組合の長、ヴォノック親方の張り切り具合が激しい。
建築現場の外から眺めていると、親方が大きな声で指示を飛ばしているのが聞こえる。ようやく親方の姿が見えたと思ったら、塔の周りで作業している者たちに声をかけ、やり方を教えて回ったり、できあがりをチェックしたりと、一瞬たりとも立ち止まることがない。
お仕事ができて嬉しいというよりも、遅れを取り戻そうとしているのかな?
「工事の日程って、かなりよゆうを持たせて組みましたよね?」
ロスラン計画は国が主体なので、シアナ計画のときよりもしっかりと予定を組んで行っている。
シアナ計画はオスフェ家でやりたい放題やってたし、起きたらできあがっていたから、そういう進行状況とか把握していなかったね。
「技術開発と育成が順調で、早めに着工したから遅れているということもない」
塔の建設に必要なサンテートをH字型にする魔道具の製作や、サンテート同士をくっつける継ぎ手をどう作るかなどは早くに終わっているらしい。
たぶん、ヴォノック親方の圧力が恐ろしくて、作る側が必死だったと思われる。
それから、魔道具の使い方を覚えたり、職人に継ぎ手の作り方を伝授したりして量産体制を整えた。
ちなみに、私の大好きなツリーハウスはまだ着工していない。
なぜなら、宿屋組合から待ったがかかっているから。
宿泊施設なので、完成したら管理を宿屋組合に任せるそうで、他に拠点にも作るからデザインは宿屋組合でやりたいって言い出した。
ツリーハウスは冒険者専用だし、そこまでこだわらなくてもいいと思うんだけど。
ただ、そうなった原因も私だ。秘密基地のコンセプトがいたく気に入ったようで、大工組合の設計担当と日々熱い議論を交わしているそうだ。
私たちに気づきやってきたヴォノック親方に、現場を見てみたいと陛下がお願いした。
そして、ヴォノック親方にだけ、サンテートを盗んだのがここにいる少年たちであると教える。
最初はびっくりしていた親方だったけど、ラグヴィズに盗んだ理由を問う。
「あの不思議な形と計算尽くされた配分と、いろいろ刺激された」
ラグヴィズは何度か塔を見にいっているものの、すべて夜中だったため、しっかりと見ることができなかったらしい。だから、サンテートをどのように使用しているのかを近くで見たいらしい。
「お前さん、誰かに師事を受けてんのか?」
「……鍛冶見習いだ」
まだドワーフだとは言えないので、渋々といった様子で鍛冶見習いと口にするラグヴィズ。
本音では、自分を見習いとは言いたくなかったんだろうなぁ。
しかし、ヴォノック親方はそれを斜めな方向に捉えた。
本当はしっかり学びたかったのに、クソ野郎な師匠にあたったのだろうって。
「つらかったな。俺の方からも嘆願を入れてやるから」
めっちゃ誤解されてる。
でも否定しちゃうと説明も面倒臭くなるから、ラグヴィズは苦笑しながらお礼を言った。
「見学はいいが、お嬢様はついてくるなよ?」
親方の発言には、さすがの私も驚いてラグヴィズを押しのけて親方の前へ出た。
「なんで!?」
「危ねぇからに決まっているだろ!」
うっ、親方に正論を言われている……。
確かに、建築現場は関係者以外立入禁止だけども、一応、私も関係者だから!
「ヴォノック親方、私を弟子にしてくれるって言ってたのに!!」
現場を見学させないとはどういう了見だ!
「保護帽だけじゃ、お嬢様を守りきれないってことだ。服に文様魔法があったとしてもな」
保護帽とは、いわゆるヘルメットだけど、転倒や落下といった事故を起こしたときに身を守るための魔道具だ。
それならば、私にも秘密兵器がある!
「パウル、あれを用意して」
自分から使うなんて絶対にないと思っていたあれ。
ママン特製命綱!
ヴィが、これからも使うだろうってパウルに渡していたんだよね。本当に使うことになるとは……。
「これをパウルか森鬼につけてもらって、絶対に落ちないようにするから!」
「それは魔道具なのか?」
「はい。鎖の長さを調節でき、剣や魔法でも壊れないよう頑丈にできております」
パウルが私の代わりに説明してくれて、さらには性能をガシェ王国の王立魔術研究所が保証しているとまで言い切る。
まぁ、ママンが作ったものだから、王立魔術研究所の名前を出しても問題ないとは思うけど、ちょっと大げさな気もする。
「ヴォノック、ユーシェとカイディーテにもお願いしておくから、心配はいらないよ」
「私といたしましては、御身の安全のためにも、陛下にもご遠慮していただきたいのですが……」
陛下の身に何かあれば、ヴォノック親方の首が物理的に飛ぶ。責任が取れないからやめてくれって気持ちなのだろう。
「私にはユーシェがいるからね」
たぶん、親方的にはそういう問題ではないと思うけど、諦めてもらうしかない。
大丈夫、親方の首は私が守る!
私と陛下で親方を宥め、ようやく建築現場へ足を踏み入れることができた。
ちなみに、私の命綱はパウルと繋がっており、万が一が起こった場合は森鬼の精霊術で対処する。
パウル曰く、水の精霊にお願いすれば、ユーシェの力だと誤魔化すことができるから、だそうだ。
◆◆◆
ヘルメット、よーし!命綱、よーし!白もよーし!指差呼称も完璧!
ようやく返してもらった白は、もし落ちてしまったときのクッション要員として動員された。
さすがに、高いところから落ちたときの衝撃をすべて吸収できるとは思わないけど、白とヘルメットにつけられている魔法と服の文様魔法があれば、無傷ですむ可能性も高い。
それでは、安全第一で行ってみよう!!
塔の周りには様々な資材が置かれており、鉄骨を吊り上げるクレーンのようなものがいくつも設置してある。
あんな大きなものでも魔道具でいいのだろうか?魔力で動いているとしても、見た目は重機そのもの。タイヤはないので、屋上についているタイプね。
ただ、塔の高さがクレーンの稼働域を超えたらどうするんだろう?
鉄骨と鉄筋が網目状に伸びている外側には足場が組まれていて、何人もの人が働いているのが見える。中には獣人の姿もあった。
クレーンもどきと働く人々を横目に、まずは大きく広い階段の下へと来た。
塔の土台は、土の精霊が悪戯した円形の土柱を利用しているので、入口が一階ほど高い場所にある。
白とグラーティアが壁登り大会をしたあの崖は、すでに石材で固められているそうだ。外から見る限りでは、ただの白い壁にしか見えない。
「この階段もそうだが、石材が傷つかないように表面を別の石材で覆っている」
私はそれを聞いて、階段の表面を手で触ってみる。目だけではわからなかったけど、思ったよりもザラザラしていた。
でも、そのザラザラが手に付着することはなかったので、硬い石材なんだと思う。
作った部分を保護するだけのものなので、完成したら回収するそうだ。
「回収なの?」
「あぁ。これは土魔法で変化させているんだ。元はほら、この通り……」
親方は階段の一角に触れると白い粉がサッと落ちて、黒い色が現れた。
「この階段は黒い石を使っているが、あっちの壁は白い石を使っている。一番下、つまり最初は白だが、黒への階段を上る。冒険者に相応しいだろう?」
黒は神様の破壊の力、ようは滅びを象徴する色なので、普通は祝いの六色でしか使用しない。
それをあえて、黒の冒険者になる一歩だという激励を込めて、階段を黒くしたようだ。
神様の破壊の力を授けられたと思われるくらい、べらぼうに強いチートの称号が黒の冒険者なのだが、冒険者をやっているならいつかはって夢見ちゃうよね。
階段を上りきり、扉のない入口をくぐる。中にも足場が組まれていて、床には石材が積み上がっていた。なんか、レンガみたいにも見えるけど、焼いた石材を使うとは聞いていないので、ちゃんとした石なのだろう。
ちなみに、焼いた石材は陶器のタイルみたいに装飾で使われることがほとんどだ。
こちらの世界では、石・泥・砂といった土属性のものを土魔法で形成して固めるだけで、それなりに強度のあるものが作れるらしい。
でも、田舎や庶民のお家は木造が多い。理由は土の魔術師の人件費は高く、木造の方が安くすむからなんだって。
「組んだサンテートの外と内に石材を積み、その中に液化させた凝固石を流し込む」
おぉ!話には聞いていた凝固石!
凝固石もサンテートと同じで、ある性質を持つ石を混ぜ合わせて作る建築資材だ。特に、宮殿などのお城や砦といった頑丈さが求められる建物に使用されているとか。
私も実物は見たことないので、早く見たい!
「ぎょうこ石はどれ?」
まさか、あの積み上がったレンガもどきがそうなのか?
「こっちだ」
親方が促した先は足場の上だった。上がっていいようなのでワクワクしていたら、すかさずパウルに抱っこされた。階段くらい上れるのに。
ニ階分ほど上がり、鉄板で作られた通路に降ろされる。レンガもどきより小さな石が綺麗に並べてあった。
レンガもどきが長方形なら、こちらの石は正方形だな。
「これが液化する前の凝固石だ」
親方が石を一つ取り、私に手渡す。
「うっ……」
私の両手に収まるくらいの大きさしかないのに、めちゃくちゃ重い。ずっしり、中身詰まってますって感じがする。
いろんな石を混ぜて作るからなのか、全体は青味がかった灰色で、所々がキラキラと虹色に反射する。
腕がつらくなる前に、凝固石をラグヴィズに譲る。
ドワーフたちは新しい玩具を手にした子供のように、その石に群がった。
「鋼玉の成分がやや多いか?」
「石灰もそこそこ含まれているけど、針鉄やフォス石なども入っているね」
「針鉄が入っていたら、フォス石は変質するだろう?」
凝固石にどんな石材が使われているのか魔法で調べたのか、ドワーフたちだけで盛り上がっている。
「この凝固石をサンテートと石材の隙間に入れて、水をかける」
親方が実演してくれるみたいだ。
外壁とサンテート、内壁と綺麗に層みたいになっているけど、中を覗くと確かに隙間がいっぱいある。
その隙間にどんどん凝固石を置いていき、最後に大きなやかんもどきで水をドバドバとかけた。
「まぁ、水は目分量で大丈夫だ。『分散』の魔法で凝固石を粉状に戻す」
親方が隙間に手を突っ込んで分散と唱えると、灰色の濁った泥のように変化した。
そして、さらに『混練』という無属性の魔法で混ぜ合わせるそうだ。
「混ぜるのは『撹拌』では駄目なのかい?」
撹拌も無属性魔法で、調理でよく使う魔法だけど、混ぜるという効果が得られるのは同じだね。
「この通り、量も多いですし、粘度もあるので撹拌では混ざりきらないのです」
混ぜるのも力業でやらないと、ムラやダマができちゃうのかな?
混練でしっかり混ぜたあとは、謎の棒を持って、表面をトントン叩き始めた。
謎の棒、どうみてもお風呂で使う湯かき棒だよね?先っぽに板がついてて、その面で叩く動作は、堅杵で何かを潰しているようにも見える。
表面のトントンを満遍なく行えば終了だ。
あとは水と凝固石が反応して硬化し、乾くのを待つだけ。
途中で気づいてはいたんだけど、コンクリートに似ている。工事現場で見るコンクリートは、ドロッと感がもっと強いがこんな感じだった。
「そういえば、あの石はどこに使うの?」
「あれは内側の壁用だな」
レンガもどきを数個並べて、魔法でくっつけて、なんならちょっと湾曲させることもできるらしい。
それで繋ぎ目がなくなり、強度も上がるんだって。
というか、土魔法って超便利じゃない!?ガシェ王国の初代国王が土魔法で砦とかお城を作ったって逸話も納得だわ。
「サンテートはどうやって繋いでいるんだ?」
ラグヴィズの質問に、親方は外の方が見やすいだろうと言って、場所を移動することになった。
外の足場に行く前に、親方はわざわざ資材を広げて一つ一つ説明し始める。
サンテートの継ぎ手に関しては、見本を見せてもらったことがあるので知っているけど、見たことない形のものもあった。
「こいつはサンテートを直線に繋げる継ぎ手で、こっちが直角。これが縦横四方向……」
ドワーフたち、鍛冶師じゃなくて大工になるつもりなのかと勘違いしそうになるほど真剣な様子。これは現場見学というより、親方に教えを受ける弟子の図だね。
ちなみに、継ぎ手の発案も私ですよー!
ガス溶接みたいに火の魔法でサンテートをくっつけてもよかったんだけど、親方が溶接部分が弱くなって上層階が不安だって言うから頑張って捻り出したの。
そうしたら、塩ビパイプのジョイントみたいになってしまい、形を複雑にした自覚はある。
パイプなら円形なので分岐させるのも簡単だが、鉄骨はH字だったりコの字だったり、四角もあるので、分岐が増えれば増えるほどとんでもない形のジョイントになった。
それを作らされた鍛冶師たちに申し訳なさを感じるし、なんならもっと簡単にできたのではと思う。
もっと言うなら、既存の技術でも建てられたのではないかと疑っていたりもする。
「これだと接合部が広いから、摩擦による疲労が早く出るのでは?」
「問題ない。それも含めて、サンテートの強度を上げてある」
フラールさんの旦那さんが質問すると、親方はよくぞ聞いてくれたという顔をした。
話がどんどん専門的になっていき、正直もうついていけない。
そして、ちょっと飽きてきた。早く外側の足場に上りたいんだけどなぁ。
建築関係は難しくて、本当にわからない(T_T)
間違っているところがあったらこっそりメッセージで教えてください。




