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極上のアニマルセラピー

ぐっすり寝たおかげで、朝から元気よく歩くことができた。

でも、一時間も経たずに、ユーシェによって鞍の上に乗せられる。


「ユーシェ、私まだ歩けるよ?」


――ヒィンッ!


あ、はい。乗っていないといけないのね。

乗ったからにはユーシェの(たてがみ)で手遊びをし、水の鬣で三つ編みできるかチャレンジしてみる。

水の触手と言ってしまえばアレだけど、太い髪束だと思えば編めなくもない。ただ、トゥルンとすぐにほどけてしまう。


「かざりで止めたりできないのかな?」


「さすがにそれは無理だろう」


私の呟きを陛下が拾って返してきた。


「魔石とかで作ってもつけられない?」


――ヒィィンッ!!


「ユーシェは嫌だと言っているね」


本人が嫌だと言うなら無理強いはできない。鬣を三つ編みにするのは諦める。

ラース君やカイディーテも、何か飾りをつけるのは嫌なのかな?

尻尾にリボンとか、格好いい首輪とか……。今、コンマ数秒で壊される未来が見えた気がする。


「ユーシェは着飾らなくても十分美しいよ」


陛下が手を伸ばして、三つ編みがほどけた部分の鬣を撫でる。そして、ユーシェはもっと()めろと言わんばかりの、勢いのいい鼻息が聞こえてきた。

しかし、陛下が甘やかすからか、ユーシェは他の聖獣に比べると幼い感じがするよね。

ラース君たちは大人クール系で、ユーシェは末っ子小悪魔系。

ふむ。末っ子なのは同じだから、私も小悪魔系になれるのではなかろうか?

パパンとお姉ちゃんはどんな私でも喜んでくれるだろう。ママンは目が笑っていない笑顔を浮かべ、お兄ちゃんは困った笑顔で正道を説いてきそう。パウルは盛大なため息を吐いたあと、真顔でお勉強の時間を増やしましょうって言うんじゃないかなぁ。

うん。無謀(むぼう)なことはやらない方がいいね!

自分の考えに没頭(ぼっとう)していると、ついに陛下が動いた。


「長殿、話があるのだが……」


いよいよあれを伝えるのかと、私もつい身構える。


「皇帝さんもラグヴィズでいいよ。無礼なことばかりしているから、長殿って呼ばれると気まずい」


陛下がラグヴィズの態度に何も言わない時点でそれを許しているし、許しているのも打算があってのことだろう。

ラグヴィズは、陛下に権力者らしい態度をとってもらった方が変に気を使わなくてすむとか考えていそうだけど。

普通にしてても陛下はただ者じゃないオーラが放出されているから、丁寧な言葉を使われると酷い違和感に襲われるってパターンもありえそう。

ただ、ユーシェを()でているときの陛下は、パパンのように残念なイケメンと化す。


「聖獣たちが言っていたことなので、事実として受け止めて欲しい」


聖獣という単語に反応してか、それとも陛下の真剣な表情につられてか、ラグヴィズの眼差しが強くなる。


「地竜様が……」


地竜の単語だけ、あからさまに反応が違う!

目はギラギラし出したし、きっと心のアンテナはビンビンに立っているのだろう。

ストーカーと言うよりも、ターゲットを逃がさないハンターのようだ。

もしかして……と、ラグヴィズの頭の上を見たが、さすがに髪の毛がピンッと立っていたりはしなかった。

某妖怪少年みたいになってるかもって思ったんだけど、地竜は妖怪じゃないから当たり前か。


「以前、ドワーフ族について回られて困ると、地竜様が仰っていたそうだ」


四百年前を以前ですませていいものなのか、(はなは)だ疑問なのだが?それに、あの人と前に会ったときにこんなこと愚痴っていたよ、っていう告げ口になってしまっているけど大丈夫?


「地竜様がドワーフ族に何も言わなかったのは優しさからだろう」


その言葉で、本当に迷惑かけていたんだなぁと罪悪感が湧いてくるのはなぜだ?

関係ない私でそれだと、ラグヴィズは致命傷レベルの衝撃を受けているのではと思って見やると、案の定、地面に崩れ落ちていた。

ドワーフの青年組が地面に両手両膝をつき涙する姿に、子供を(しいた)げたようで心が痛む。

フラールさんも嗚咽(おえつ)混じりの号泣で、エレルーンさんにいたっては天を仰いだまま固まってしまっている。

まさに、『絶望』というタイトルが相応しい絵面が目の前にあった。


彼らはしばらく動くことができないだろうからと、陛下の提案で休憩することに。

転移魔法陣から送られてきたティーセットを使って、森の中で優雅にティータイム。

いつも飲んでいるお茶とは違うけど、高級なものであることは香りと味から知れた。

その香りに誘われるかのごとくあることを思いつき、私は茶葉の種類を指定して警衛隊員に取り寄せてもらった。その茶葉でお茶を用意するようパウルに指示を出す。

そして急いで残りのお茶を飲み干し、そこら辺で遊んでいた白を捕まえ、星伍、陸星、ノックスを呼び寄せる。

森鬼には稲穂のお世話をお願いして、馬バージョンの海も動員だ!


さて、まずはエレルーンさんかな。

さすがにもう天を仰くのはやめていたけど、ただ呆然(ぼうぜん)(たたず)む姿から遣る瀬ない気持ちが伝わってくる。


「エレルーンさん」


彼女が私の方を見ようと顔を動かした拍子(ひょうし)に、目元に溜まっていた涙がハラリと落ちる。

ドワーフたちの(なげ)きっぷりを見て、地竜のことを伝えたのは失敗だったなと後悔した。

早速、ノックスにエレルーンさんの肩に移るようお願いする。


「なぐさめてあげてね」


自分とは別の重みを感じれば一人ではないとわかるし、ノックスの羽毛に触れればその柔らかさと温かさに優しさを覚えるだろう。

ノックスもエレルーンさんが弱っているのを感じ取ったのか、パウルやお姉ちゃんに甘えるときのように頭を頬に軽く擦りつける仕草を見せた。

私はエレルーンさんの手を取り、その場で座ろうと促す。

そして、パウルが()れたお茶を持ってきてもらい、飲むようにすすめた。

このお茶、気持ちを落ち着かせる効果のある香草茶なんだよね。警衛隊員に言って、宮殿から取り寄せてもらったやつ。

お茶の作法としては邪道だけど、木の器に(ぬる)く冷ました状態にしてあった。陶器のティーカップに適温のお茶だとすぐに飲めないと判断したパウルの心配り、さすがである。

ぼんやりとしながらもお茶を口にするエレルーンさんを見て、あとはノックスに任せて大丈夫そうだ。


「ノックスはね、お腹の中の毛がすごくもふもふなのよ」


聞いているかわからないけど、ノックスの羽毛の中でも極上の部位をおすすめしておく。

ノックスは猛禽類の中でも小型の方に部類されるので、指先でしかその感触を味わえないが、プルーマだったら思い切り顔を(うず)めることができる。

ただし、池から上がってしばらくはちょっと苔臭いにおいがすることもあるので気をつけないといけない。

……プルーマ、元気にしているかなぁ。アイルが過剰にお世話してないといいけど。


さて、次はフラールさんだ。

フラールさんは号泣しすぎて疲れたのか、青年組たちと同じように地面に座り込んでいた。


「フラールさん、大丈夫?」


フラールさんの方は、エレルーンさんと比べると少しは気力が残っているみたい。

私の言葉にかすかだけど(うなず)いてみせた。

フラールさんにもお茶を飲ませて、慰める係には星伍をつけた。

星伍が心配げにフラールさんの顔を覗き込み、ペロペロと頬を舐めて励ます。


「この子は星伍っていうの。いっぱいなでてあげてね」


飲み終えた器を受け取り、空いた手を星伍の頭へ。

撫でてもらえるとわかった星伍は、尻尾を振りながら前脚をフラールさんの太ももに置いた。


「ぼくと遊びたいの?」


――ワンッ!


フラールさんにも星伍のおすすめ部位を紹介したいのだが、星伍と陸星はどこを触ってももふもふなので悩むな。

ほっぺたのむっちり具合もやみつきになるし、喉元から前脚つけ根の部分もふわっとした毛並みと筋肉の感触が楽しめるし、頭から背中にかけては(なめ)らかな肌触りだし、尻尾のくりんを伸ばして遊ぶのも捨てがたい。

しかし、星伍と言えば……。


「やっぱりお尻ね!」


見た目はぷりちーなお尻だけど、触るとほふっと指が埋まる。

パウルが腕によりをかけてトリミングした桃尻は、見てもよし!触ってもよし!なんなら、揉んでもよし!


「お尻?」


唐突にお尻という単語が出たからか、フラールさんが不思議そうに首を傾げる。


「そう!星伍のお尻をさわってみて!」


私がそう促すと、フラールさんはおそるおそるといった様子で手を伸ばす。

最初は指の腹が毛先に触れるか触れないかくらいのフェザータッチだったが、星伍が怒らないとわかると、手のひら全体で撫で始めた。


――クゥ~ン。


甘えるような鳴き声だけど、星伍は恥ずかしがっていた。

散々、私やお姉ちゃん、パウルに揉まれたお尻だ。今さら恥ずかしがることはない!その美尻に自信を持つんだ!

心の中で星伍にエールを送り、私は次へ向かった。


同じように、ドワーフの青年組にも陸星と海を慰め係にあて、場合によっては欲を食べてもいいと海に(こと)づける。

ちなみに、陸星は尻尾とお尻、海はサラサラキューティクルヘアーの鬣をおすすめしておいた。本当は海も尻尾って言いたかったんだけど、やっぱり馬の後ろに立つのは危ないからね。

陸星と海と触れあいながらお茶を飲み、少しずつではあるが会話も交わすようになってきた。

そしてラグヴィズには白を渡す。

ラグヴィズはやはり衝撃が大きかったのか、白を無理やり持たせても反応がない。


「ラグヴィズ、この子はスライムの白よ。こう、ぐにぐにしてみて」


ラグヴィズの手ごと、私は白を()んだ。

私にはラグヴィズの手の感触しか伝わってこないが、ラグヴィズは白の柔らかなふにふにを感じているはずだ。


「お互いにいしそつうができなかったからで、ドワーフが悪いとかじゃないよ」


根気よくふにふにし続け、ラグヴィズの意識を戻そうと頑張ってみる。

なんだったら伸ばしたり、握り潰してみたり、白の楽しみ方はいろいろとあるんだよ?

操り人形のようにされるがままのラグヴィズだったが、ようやく自ら手を動かすようになった。


「顔に当てても気持ちいいよ?」


泣いて目が()れるから、冷やすのにもちょうどいい。


「白、目元に張りついてあげて」


アイマスクのように白が張りつけば、ラグヴィズがピクリと体を跳ねさせる。


「冷たかった?」


「……いや」


しゃべられるまで気持ちが持ち直したのか、ラグヴィズはアイマスクと化した白をおそるおそる指先で触れる。


「スライムってこんなに(なつ)くのか?」


「うーん、白は少し変わっているから……」


まぁ、白がって言うよりは、(しずく)の子供たちみんな変わっているけど。

色の名前を付けた子たちなんて、人間を警戒しないしね。ひょっとしたら、人間なんてすぐに倒せるって思っていたりして。


「ラグヴィズ、お茶をどうぞ」


まだアイマスクをしているけど、お茶は飲めるからと器を渡した。残念ながら、お茶はすっかり冷めてしまっている。


「ラグヴィズ、少しは落ち着いたかい?」


「……あぁ、お姫さんのおかげでな」


陛下と話しているのに、ラグヴィズはアイマスクしたままという、面白いことになっているけど、ここで白を呼び戻していいのか悩む。


「私の伝え方がよくなかったせいで悪かった」


「いや、皇帝さんのせいじゃないさ。自分たちのことしか考えていなかった僕らの方が悪い」


「長い時間の中で、崇拝する気持ちが根強くなったのだろう」


四百年も経てば、当時を詳細に知る人もおらず、世代を重ねていくにつれ神格化されていったということか。

それよりも、陛下とラグヴィズの謝罪合戦に白が張りついている……。面白すぎて、もうこのままでもいいんじゃないかなって思ってきた。


「そもそも聖獣は、契約者に関わるものでなければ無関心だし、創造主様の意志でしか動かない。そして、己と契約者に害をおよぼす者には無慈悲だ」


それなのに、地竜は迷惑っていう感情を抱きながらも、彼らから距離を取るだけですませたのは凄く珍しいってこと?

そういえば、地竜ってよく寝ぼけて地形を変えちゃうんだよね?だとしたら、ドワーフたちがうるさかったときにドワーフ側に被害があったりしなかったのかな?

ちょっと気になったので、陛下に耳打ちして疑問を伝える。私がラグヴィズに地竜のことを話したら、なぜ知っているんだと怪しまれそうだからね。


「地竜様は時折、地上に上がってくると地形を変えることがあったそうだが、当時のドワーフ族は巻き込まれなかったか?」


これ以上、ドワーフたちを傷つけないために、地竜がお寝ぼけさんっていうのは黙っているみたい。


「……いや、そういう話は伝わっていないが?」


やっぱり!地竜は頑張ってドワーフに被害を与えないようにしていたんだ!


「地竜さんはドワーフたちを守っていたんだね!」


ソルから聞いた規模の地形変化が起きれば、ドワーフたちの全滅もありえたはずだ。

精霊たちがいろいろと手助けをしていたとしても、地竜からしたら小さなドワーフを巻き込まないようにするのは大変だっただろうに。


「とても珍しいことだと思うが、次もそうだとは限らない。今のように距離を保つのがお互いのためだろう」


陛下はラグヴィズの肩にポンッと手を置き、さらに言葉を続ける。


「地竜が移動したあとの寝床が帝国内にあれば、採掘を手伝ってもらうこともあるだろう」


少しボリュームを落として、提案という名の悪魔の(ささや)きを口にした。

陛下、本気でドワーフをライナス帝国に取り込む気だ!

陛下の妹設定がなければ、私もオスフェ家の人間として堂々と勧誘できるのに。

まさか、妹とか言い出したのは、これが狙いだったのか!?


そんな悪魔の囁きに心が揺れたのか、ラグヴィズは思案顔になる。

しかし、ラグヴィズの顔に張りついていた白が飽きたのか、アイマスクからフェイスマスクに変化し、うにうにと顔の上で(うごめ)く。


「くすぐってぇ」


ペリッとフェイスマスク白を引き()がしたあと、ラグヴィズは自分の意思で揉み始めた。


「お前、面白いな」


――みゅっ!


面白いと言われて、手のひらの上で嬉しそうに飛び跳ねる白。そして、ブルブルとバイブレーションの真似を始める。


――みみみみみみみ……。


「ふっははははっ!」


なぜか振動とともに鳴き声を出す技を披露し、(あるじ)の私としては壊れた玩具にしか見えず、何もコメントできなかった。

強いて言うなら、ラグヴィズに笑ってもらえてよかったね、だろうか。


「エルに見せてくる!」


ラグヴィズは嬉々として白を連れ去っていった。

ラグヴィズとエレルーンさんが白とノックスと(たわむ)れていると、フラールさんや他の青年組も合流し、魔物っ子たちを交換しながらふれあいを続けている。


ドワーフたちがだいぶ復活したので、先に進み始めたのはいいのだけれど、いまだにラグヴィズは白をその手に持っていた。

なんなら、ちゃっかり餌づけまでしちゃっている。

服のポケットに魔石が入っているって、ドワーフの常識なのかな?


「先ほどのお詫びと言ってはなんだが、塔に興味があるなら見学していくかい?」


「いいのか!?」


陛下の提案にラグヴィズが驚いているが、他のドワーフたちも期待からかソワソワしているのが見て取れた。


「ぼくも見たい!」


特にフラールさんが前のめりになるほど興味津々なのが意外だった。


「塔は元より視察する予定だから、遠慮しなくていいよ」


やったーと喜んでいるドワーフたちを尻目に、私は初めて聞いたよと陛下を見やる。


「ネフェルティマも発案者(・・・)なのだから、気になるだろう?」


私の視線に気づいた陛下は、なぜか発案者を強調して言った。

まぁ、気になると言えば気になるけど、予定とは最初に伝えるものではないのか!?


そうこうしているうちに、森の終わりが見えてきた。



デビュー五周年を迎えることができました!

もふなでをここまで長く続けられたのも、皆様のおかげです。

ありがとうございますm(_ _)m

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