うっかりには気をつけよう!
今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
※虫描写ありです。苦手な方はご注意ください。
朝起きたらヴィがいて驚いたけど、吹雪になったからこっちの天幕に来たようだ。
天気が悪いとお外で遊べないなーってぶう垂れていたら、昼過ぎには晴れるとヴィが教えてくれた。
精霊は気象予報士も兼ねていたのか……。
私も精霊とおしゃべりできるようになりたい!
精霊の言った通り、昼過ぎには太陽が顔を出した。
お外に出ると、ソルの姿がない。
「炎竜殿は、山を回ってくると言っていたぞ」
あー、たぶん、洞窟でも探しにいったのかな?
ソル、雪山に住んでいるくせに、雪が体に積もるのが嫌なんだって。
体温で溶けるんじゃ?と思ったが、そういえばソルの表面は冷んやりすべすべだったね。
炎竜なのに雪が積もるのも意外だけどさ。
北の山脈の住処は、ソルが魔法で大きな穴を開けて作ったと言っていた。
なぜ、わざわざ雪山に住むのかと質問したら、精霊が大人しくて静かだからだって。
火の精霊、そんなにソルにまとわりつくのが好きなのか!
――ソルさんやーい。こっちは晴れたよ!
――そうか。ゆっくりと戻るとするか。
――戻ってきたら遊ぼうねー。
――気が向いたら、付き合うとしよう。
気が向かなくても付き合って欲しいんだが。
まぁ、ソルにとっては子守みたいなものだし、無理を言うのはやめよう。
白やグラーティアに飛ばされる遊びをねだられそうだしね。
吹雪のおかげで綺麗な雪が降り積もったから、早速雪だるまを作ることにした。
コロコロと雪の上を転がして、徐々に大きくしていく。
私の真似をしたいのか、白がぴょんぴょん飛び跳ねて、森鬼に何か訴えていた。
森鬼はおもむろにしゃがみ込むと、雪玉を作って白の前に置いた。
白よりも先にグラーティアが雪玉に飛びつく。
そして、一生懸命に雪玉を動かそうと悪戦苦闘している。
グラーティア、今の君は蜘蛛ではなくフンコロガシみたいだよ……。
白がグラーティアの足場になるように位置取り、二匹で雪玉を転がし始めた。
「ぼくたちもやりたい!」
「やりたい!」
コボルト、つまり犬だからボール状のものに目がないのか、星伍と陸星もやりたいと訴えてきた。
君たちはどうやって雪玉を転がすのかな?
興味本位で二匹の前に雪玉を置いてみる。
器用に鼻先で押していく姿は、とても犬には見えない。どちらかと言うと……いや、やめておこう。
それを口にすれば、星伍と陸星が悲しむ。
みんな一緒になって、雪玉をコロコロ転がしていくと、私のものが一番大きく作れた。
雪だるまは普通二つ重ねるものだが、せっかく三つあるんだしと、森鬼にお願いして全部重ねてもらう。
うーん、これは!
北欧とか、海外で見かける雪だるまだ!
三段でもちゃんと雪だるまだったので、枝で腕を作り、葉っぱをボタンに見立てることにした。
「……物足りないなぁ」
どうせなら、メルヘン風にマフラーや帽子も欲しいところだ。
あ、あと人参ね!
海外の雪だるまの鼻は人参と相場が決まっている!!
パウルに人参もどきをねだり、ついでに私の帽子も乗っけることにした。
「できたー!!」
大きさといい、可愛さといい、傑作だと思う。
お姉ちゃんは可愛いと褒めてくれたのに、ヴィは首を傾げる。
「可愛いか?」
我が国の王子ともあろう者が、この可愛さを理解できないなんて嘆かわしい。
もっと女心を勉強した方がいいよと言ったら、わからなくても苦労しないって返された。
けっ。モテる男は言うことが違うね。
これだから……と嫌味を呟けば、私も年頃になればモテるだろうと言われた。
一応公爵令嬢なんだからと。
「一応は余計だよ!もう、オスフェの名に恥じないしゅくじょだもん!」
公式の場での礼儀作法もしっかり叩き込まれているし、お勉強もちゃんとやっている。
……お兄ちゃんとお姉ちゃんの勤勉さには敵わないけど。
自信たっぷりにそう宣言したら、ヴィは呆れたようにため息を一つこぼした。
なんとなく言いたいことはわかるぞ。
淑女と言うなら大人しくしろってことでしょ?
しかーし!淑女であると同時に、私はお子様でもある。
つまり、遊ぶことがお仕事みたいなものだ。
いっぱい遊ぶからこそ、健康的に成長できるのだよ!
だから、早く伸びてくれ!私の身長!!
私の成長期のためにも、体を動かす遊びは必須。
というわけで、遊ぶなら雪合戦でしょ。
お姉ちゃんとヴィも誘って雪合戦をすることにした。
そして、私は新たな発見をする。
ヴィがとても負けず嫌いだということを!!
雪合戦を始めようとしたら、ただ雪を投げ合うだけではヌルいとか言い出した。
雪を掘って塹壕みたいにしたり、掘った雪を小山して固めたり。それでも足りないと言って、森鬼に倒木まで持ってこさせていた。
言い出しっぺのヴィは動くことなく、ただ指示を出すだけ。
まぁ、王子だし、パウルたちも当たり前のように従っている。
チーム分けをして、的に雪を当てた方が勝ちとなる。
いざ、尋常に勝負!!
……をしていたはずなんだよ。
森鬼とパウルには王子だからって遠慮するなって言ったから、二人は容赦なく雪をヴィに当てにいく。
二対一の戦いだからか、雪だけでなく手足も出るようになり、しまいにはただの格闘になっていた。
私とお姉ちゃんは加わるなんてできるわけもなく、ハイレベルの戦いを見守るしかない。
足場の悪い中、よくも動けるものだ。
コマンドを入力したら、必殺技が出せるのではなかろうか?
……コントローラーはどこだ!?必殺技を出したい!!
そう願ったところで、必殺技が出せるようにはならないけど、やっぱり格闘ゲームみたいだよねぇ。
……あれ?私、今何をやっているんだっけ?
「ちっがーう!!雪遊びなんだから、雪以外使うのはダメ!!」
そう。私は雪合戦をしていたのだ。けっして格闘ゲームをしたいんじゃない!
肉弾戦を禁止にして、再び雪合戦を再開した。
ヴィは不服そうだったけど、なんとか形にはなった。
負けたけどな!!
いっぱい動いて満足したので、今度は周辺を冒険だー!
天幕の周りはまばらに木が生えているだけだが、動物はいそう。
動物の巣があったりしないかなぁと、魔物っ子たちを引き連れてウロウロと歩き回った。
耳折れリスもどきのポテは、こんな寒い場所でも元気に木の枝を走り回っているが、巣らしきものは見当たらない。
動物を探し求めていると、私の後ろをトテトテついてきていた稲穂がきゅっと短く鳴いた。
なんだと思う暇もなく、稲穂は雪の上を駆けていき、何もない場所でピタッと止まる。
「稲穂、どうし……」
稲穂の耳がピコピコ動いた次の瞬間。見事に雪に埋もれていた。
稲穂の尻尾と後ろ脚が雪に突き刺さっている。
……ネタがわかる人がいれば、お前はスケキヨかと突っ込みたいくらいである。
まぁ、稲穂の行動理由はわかるけど。だって、キツネだし!
あの雪の下に何か生き物がいたのだろう。
聴力は星伍や陸星よりもいいはずだ。
さて、捕まえることができたのかなぁと、稲穂を引っ張りあげてみると、その口に咥えられていたのは棒というか折れた枝?
でも、なんかしおしおしてない?
その正体を見極めようと、咥えさせたまま稲穂を抱き上げる。
――おぎゃぁぁぁぁぁーーー!!
突如として響き渡る赤ん坊の泣き声。
発生源は稲穂の口元からだ。
驚いて稲穂を落としてしまったが、稲穂はスタンと着地して、謎の生命体を齧り始めた。
――んぎゃぁぁぁぁぁーーー!!
この小さなものから出ていると思えない声量。
枝のように見えるが、確実に生きている!
これが何か、なんとなく予想はつくけど、認めたくない気持ちの方が強い。
「森鬼……」
「マンドレイクだ」
尋ねる前に答えを言われた。
そして、やっぱりかぁと天を仰ぐ。
魔物的なマンドレイクってさ、人参とか大根とか蕪あたりじゃないの?
……あっ、ごぼうか!枝じゃなくてごぼうなのか!!
ごぼうは根菜だし、枝に見えるのも頷ける。
――あぎゃぁぁぁぁーーー!!
稲穂が齧っているのを、星伍と陸星も興味深そうにしている。臭いを嗅いでみたり、舌を伸ばしてみたり。
「ん?って、稲穂、変なの食べちゃダメ!」
慌てて取り上げようとするも、稲穂は気配を察知して躱す。
――ほぎゃぁぁぁーー!
なんか、ごぼうの悲鳴が徐々に弱くなっている気がする。
それに、マンドレイクの悲鳴を聞いて、私、死んだりしない?
「マンドレイクの声聞いちゃって大丈夫かな?」
またも森鬼に尋ねるが、今度は首を傾げられた。
質問の意図が伝わらないことに、私も首を傾げる。
「マンドレイクの悲鳴を聞いたら死んじゃうんじゃないの?」
「初めて聞いたな。あの声に驚いて気絶する動物ならいるが」
中には死んだふりをする動物もいるらしく、それを見た人が勘違いをしたのかもしれない。
死なないとわかって一安心だね。
――ほぎゃ……。
マンドレイクは最期に一鳴きして息絶えた。
そして、すべてを綺麗に平らげた稲穂はご満悦だと尻尾が語っている。
分けてもらえなかった星伍と陸星は、耳と尻尾の元気がない。
「マンドレイクって食べても平気なの?」
稲穂は平気でも、何か毒を持っているかもしれない。
魔物も動物と一緒で、ある毒性にだけ耐性をつけて主食にしているものもいるから。
「マンドレイクもいろいろと種類はあるが、ほとんど毒はない。見つけたら取り合いになるくらいのご馳走だな」
ごぼうがご馳走と言われてもピンと来ないが、精がつく的な効果があるみたいだ。
森鬼がホブゴブリンのときに食べたときには、力が増して、大きな獲物を仕留めることができたとか。
「よし、みんなでマンドレイクを探そう!」
魔物にとってご馳走ならば、稲穂だけでなく他の子たちにも食べさせてあげたい。
一匹いるならもっといるはず!
というわけで、マンドレイク大捜索を開始した。
みんなで探すものの、先ほどから見つけることができているのは稲穂だけだ。
マンドレイクが雪の下にいるため、星伍と陸星は臭いで嗅ぎ分けることができない。
白とグラーティアは探しているというより、雪に潜って遊んでいる。
――あんぎゃぁぁぁぁーーー!!
――おんぎゃぁぁぁぁーーー!!
不気味な赤ん坊の泣き声大合唱はとてもうるさかった。
魔物っ子たちの分を確保したので、早速一匹ずつ分ける。
さすがにグラーティアには大きいので、森鬼に小さく刻んでもらってから与えた。
そのときの断末魔が、これまた凄かったけどね。
稲穂は変わらず勢いよく噛りつき、陸星も同じように躊躇なくいった。星伍だけが、念入りに臭いを嗅いでから口にした。
白はすでに体に取り込んで消化を始めている。
「美味しい?」
この子たちの食いつきを見れば明らかではあるが、私としては生のごぼうが美味しいとは思えないのだ。
「主も食べてみるか?」
森鬼もマンドレイクを食べており、ポリポリとたくあんのような咀嚼音をさせている。
音だけなら美味しそうではあるのだが、あの悲鳴を聞いちゃうとねぇ。
でも、気になるのは気になる。
グラーティア用に小さくしたマンドレイクを森鬼からもらい、まずは臭いを嗅いでみた。
予想通り、土の臭いがする。
「黒、お願いね」
人間に害があるものなら、寄生している黒がどうにかしてくれる。死にはしない。そう自分に言い聞かせて、マンドレイクを口に放り込んだ。
奥歯で噛みしめると、じわりと汁のようなものが出たのを感じた。
鼻から突き抜ける独特な香り。
「うぉえぇぇ……」
乙女としてあるまじき声が出てしまったが、それくらい臭い!!
雑草を口にしたときのような、言葉にし難い香りが襲ってくる。
前世で初めてパクチーを食べ、あまりの臭いに悶絶した記憶が蘇る。
「み……みずぅ……」
なんとか気合いで飲み込んだが、気を抜くと逆流してきそう。
水で押し流して、早く黒に消化してもらわねば!!
森鬼から水筒を受け取り、勢いよく水を飲み干す。
あ゛ぁぁ、不味かったーー!!
まだ口の中は臭いが、吐き気は治った。
いくら体にいいものでも、これは生で食べるものではないな!
みんなよく生で食べられるね。やっぱり、魔物と人間では味覚も違うってことか。
それにしても、久しぶりに不味いものを食べたから体がびっくりしたようだ。
疲労感でドッと体が重くなった気がする。
そもそも、味覚は食事を楽しむためだけのものではない。
食べてはいけないものを判別する防衛機能だ。
良薬口に苦しと言うが、苦いということは大量に摂取してはいけないものなのだ。
よって、マンドレイクも生薬みたいな効能があろうと、人間は生で口にしてはいけないという結論にいたる。
いくら黒がいようと、味覚まではどうしようもできないと身をもって学んだね。
不味いものを口にしたので、美味しいもので口直しがしたい!
というわけで、おやつを食べに天幕へ戻ることにした。
一応、海とラース君も食べるかなと、マンドレイクを二、三匹、お土産として持ち帰る。
あの赤ん坊の泣き声がうるさいのだが、森鬼が葉っぱを口らしき場所に詰め込むと鳴かなくなった。
うーん、窒息死して鮮度落ちたりしないよね?
早く戻ろうと急いでいたら、生き物を発見!
動物かと思って足を止めたら、動物じゃなかった。
「魔蟲だな」
森鬼に言われる前から知ってた。
だって、どう見ても虫の形をしているからね。
大きさを除けば、前世では見慣れた虫だ。
「なんのまむしだろうね?」
魔蟲にも種類がいっぱいあって、甲種なのか跳種なのか不明だ。
ただ、地球と似たような生き物であるなら、おそらく甲種だと思うけど……。
神様、たまにとんでもミックスやらかしているからなぁ。
この魔蟲もよくよく見ると地球産と違いがあるし。
魔蟲なら危険はないと思うけど、怒られるのも嫌なので、近づくのは報告をしてからにしよう。
天幕の場所まで戻ると、ちょうどヴィが暇そうにしていたので声をかける。
「変なのがいるよ!」
ヴィは来てくれたが、ラース君の姿は側にない。
どこにいるのかと探しても見当たらないなぁ。
「ラース君は?」
「ラースなら、あそこで昼寝しているぞ」
そう言ってヴィが指差した先は、雪合戦で使用した雪の小山。
……ん?
先ほどまでは小山だったはずなのに、鏡餅のようなフォルムになっているね。
よーく見ると、黒い縞模様があるような。
雪の小山で丸くなって寝ているラース君だった。
白い毛並みが保護色となり、雪が光を反射して縞模様をわかりにくくしているせいで、特大鏡餅にしか見えないけど。
「なんであんなところで……」
ラース君の上に、大きなみかんを置きたくなるではないか!
「日当たりがいいからだろう」
日当たりがよくても、ネコ科なら暖かい天幕の中とかの方を好みそうなのにね。
お外の方が好きなのかな?
「で、何を見つけたんだ?」
「あ、そうだった。こっちこっち!」
ヴィの腕を引っ張って、魔蟲がいるところまで連れていくと、お前を甘く見ていたとボヤかれた。
「それが極悪甲種だ」
ほうほう。この子が噂の極悪甲種なのか。
聞いていたより大人しいね。
怪我をしているというわけでもなさそうだし、お腹空いているのかな?
ヴィがあのわさびもどきを使ってはどうだと言ってきたので、もったいないと断る。
あれはシアナ特区に行ったとき、刺身につけて食べるんだい!
もったいないと言ったら、凄く胡乱げな目で見られた。
何か怪しまれていることを察知したので、話を変えることにする。
極悪甲種はお腹空いているはずだと力説し、天幕からおやつを持ってくると言ってヴィの側を離れた。
ふぅ。危ない危ない。
変なことを企んでいると勘違いされて、わさびもどきを取り上げられたら、美味しいお刺身が食べられなくなっちゃう。
スピカにお願いして、多めに焼き菓子を用意してもらう。
それを抱えて極悪甲種のもとに戻り、ちょっと離れた場所にお菓子を置いた。
私たちは木の影に隠れて、そっと見守る。
じっくり観察すると、地球産とは違う生き物であると認識できる。
体は私よりも大きく、甲種特有の外骨格は艶やかな栗色だ。ちょっと美味しそう。
触角に、おにぎりのような形の頭、口元はクワガタの顎に似ており、トゲトゲしている。
脚は三対で、腹部の膨らみといい、昆虫ならではの特徴が見て取れる。
色を除けば、その姿はオオクロアリに酷似しているが、前脚の先端付近はカマキリの鎌のようにギザギザが発達していた。
記憶にあるアリよりもお腹が萎んで
いるので、何も食べていないみたい。あのお菓子食べてくれるかな?
極悪甲種もといアリさんは触角を頻繁に動かし始め、小さく脚も動かしていた。
私たちの姿が見えなくなったと判断したのか、触角で周囲を確かめながらお菓子に近づいていく。
あんなに大きな体で、あんなに細い脚なのに、雪に沈んでいかないのも不思議だな。
昆虫界の鉄板としては、目に見えないほど細かな毛があって、摩擦力とかなんとかでってやつだけど。
それとも、アメンボのような表面張力とか?
まぁ、地球の科学で判明していないこと魔法の世界で悩んでも解決できるわけがないか。
器用に触角で安全を確かめた場所だけを歩き、お菓子にたどり着いたアリさん。
さらに触角でお菓子を念入りに調べる。
アリさんにとっては小さなお菓子だ。
「ふぉ!食べた!」
やっと口にしてくれた!
顎がもごもご動いているのを見て、少し感動した。
順調に食べていたのが止まってしまった。
再び食べ始めたと思ったら、今度は顎だけでなく、触角と前脚を動かして何かやっているようだ。
食べているのか?
前脚があるので、口元がよく見えない。
何かこねこねしている?
うーん……まさか……!
私が閃いたとき、他の極悪甲種が餌があると知って、やってくるんじゃないかとヴィが心配しだした。
「大丈夫だよ。お菓子を持って帰るから」
アリは幼虫に取ってきた餌を肉団子状にして与えることがある。
先ほどのお菓子は小さくて、一気に持ち運べないから肉団子状にしているんだと思う。
こねこねが終わると、それを咥えて去ろうとするアリさんに手を振る。
「アリさん、フィリップおじさんを見つけたら助けてあげてね!」
その瞬間、ある感覚に襲われる。
「あっ……」
神様……そうじゃない!そうじゃないんだ!!
『アリさん』は名前じゃないってば!!
今頃、アリさんの額に紋章が浮き出ていることだろう。
ごめんよ、アリさん。
私がうっかり声に出しちゃったから、神様が……神様が悪いんだぁぁぁ!
アリさんという名前になってしまったアリさんは立ち止まり、こちらに戻るべきなのかと私を見つめる。
いいんやで。それをお仲間のところに持っていってあげて。
そう心の中で語りかけると、アリさんは触角をピコピコ動かしてから山の方へ去っていく。
アリさん、達者で暮らすんだぞー!
極悪甲種はアリでしたー!
アリさんはこのあとも出てきますよ。
番外編や小話が挟まっていることで、本編が読みにくいというお声をいただいております。
私としましては、今まで通り書き上げたものから更新するという方法を変えるつもりはございません。
あらすじにも追加したのですが、本編一気読みされる方はタイトルに番外編、小話が含まれているものを飛ばしていただけるようお願いいたします。