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遊んだのは久しぶりだな (ヴィルヘルト視点)

今年もありがとうございました!

2019年最後の更新じゃー!

フィリップの言っていた期限は過ぎた。

だが、外は朝から荒れていて、昼過ぎまでは吹雪くらしい。

精霊たちが言うなら間違いないし、フィリップたちもこの吹雪で足止めをくらっているのかもしれない。


「……なんでヴィがいるの?」


寝起きの間抜けな顔をしたネマが、俺を見て怪訝そうにしたものの、すぐにラースの腹に突っ込んでいった。

パウルに注意されているのにもかかわらず、二度寝しそうな勢いだ。


「本格的に吹雪く前に、こちらに移っていただいたのです。聖獣様がいらっしゃるとはいえ、殿下の身に何か起きてからでは遅いですし」


「……ふぶく??」


パウルがネマの顔を拭きながら説明し、スピカが衣装を持って待機していた。

令嬢の身支度はほぼ使用人任せなのは仕方ないが、俺の視線から隠そうとしないのはなぜだ?


「今、凄く雪が降っているんですよ!私、吹雪って初めてみました!」


尻尾を振ってはしゃぐスピカの様子に、ネマはようやく理解したのか、パタパタと出入り口に向かって外を覗いた。

天幕自体に風が入り込まないよう魔法がかけてあるので、寒さを感じることはなかったが、ネマは顔や頭に雪をくっつけて戻ってきた。


「何も見えなかったー」


これだけ吹雪いていたら、ほんの少し先も見えないだろう。

スピカに雪を(ぬぐ)い取ってもらい、部屋着に着替えたネマは外で遊べないと気落ちしている。


「フィリップおじさんたちは?」


「まだ何も連絡はない」


精霊が生きていると言っているので、心配はしていない。

ただ、別の懸念はある。

フィリップたちの居場所を聞いても、精霊は内緒と口に手を当て言おうとしない。

こういうことは珍しくもないが、このルルド山で、というのが気にかかる。


ラースと契約をしたばかりの頃、好奇心が抑えらずに他の聖獣のことを尋ねたことがある。

炎竜殿のように隠していない聖獣のことはすぐにしゃべったのに対し、地竜殿のことは何一つしゃべらなかった。

おそらく、地竜殿が人と関わり合いたくないとお考えだからかもしれない。

風竜殿は一ヶ所にとどまることがなく、聞いてもすぐどこかに行かれてしまう。

つまり、精霊たちが慕う存在がこの山にあり、そして秘密にするよう精霊に口止めしている可能性が高い。

フィリップが予想外のことに巻き込まれたのかもしれないが、彼らなら自力でどうにかできるだろう。

俺たちは明日、予定通りに山を下りる。

このまま何事もなくすめばいいが。


外が吹雪いている間、ネマは外で遊べないからと暇を持て余していた。

いつもなら、側に侍っている魔物たちと遊んでいるが、今は個々に寛いでいる。

シンキは天幕の柱にくくりつけた布に寝転がって本を読んでおり、セーゴとリクセーは簡易暖炉の前を陣取って眠っていた。

カイは寒いといって、寝台から出てきていない。イナホの姿も見えないので、カイと一緒に寝ているのかもしれない。

つまり、今ネマの相手をしているのは、ハクとグラーティアだけだ。

しかし、グラーティアは小さいので、遊ぶと言ってもネマの体を走り回っているだけだ。

ハクは大人しくネマの手の上におり、引っ張られたり、揉まれたり、なすがままだ。

ネマは楽しいかもしれないが、ハクはどうなのだろうか?


「ヴィ、ここを持って!」


伸ばしたハクの端を俺に持てと?

何をするつもりだ?

とりあえず、ネマの言う通りにしてみるか。

ハクのふよふよした体を握ると、ネマはニコニコしながらハクを伸ばし続けた。

どこまでも伸びるハクに、ネマは凄い凄いと興奮している。


「せーので手をはなしてね!」


伸びに伸びたハクを、同時に離せばどうなるかを見たいのか。


「せーの!」


ネマのかけ声に合わせて手を離すと、ハクは一瞬で元通りになった。


「もう一回、もう一回!」


再びハクを握らされ、伸ばすネマを見て、少し悪戯心が芽生えた。

ネマよりも先にこの手を離したらどうなるのか……。

誘惑に抗えず、そっと手を離した。

すると、勢いよくハクが元に戻るのは同じだが、その衝撃が伝わったようで、ネマは後ろに転けた。

そのときの驚いた顔が面白くて、つい笑ってしまう。


「むぅ!ヴィ酷い!!」


「悪い悪い」


文句を言うネマの相手をしばらくしていたが、飽きたのか、今度はラースに突撃しにいった。

ラースの方がネマの扱いが上手いので、任せることにする。

その間、俺は送られてくる書類を片付けるか。

他国にいようと、書類仕事はできるだろうと容赦なく送られてくる紙の束。

それらにすべて目を通し、俺の裁量で処理できるものは認否を決める。

粗方片付けると、外の天気が回復していた。


「ゆっきぃぃーー!!」


新たに積もった雪に、元気よく駆け出すネマ。

昨日も散々雪で遊んだのに、まだ遊ぶつもりらしい。


「あれ?ソルがいない……」


外にあるはずの姿がないと首を傾げるネマに、炎竜殿がいない理由を教える。

炎竜殿は吹雪く前に、雪が鬱陶しいから一飛びしてくると言って空へ舞っていった。

どこでどうしているかはわからないが、吹雪いていない山で昼寝しているかもしれない。


「しょうがないなー」


まぁ、炎竜殿の方が雪山に慣れているし、ネマも心配することはないと思ったのか、すぐに遊ぶことへ意識を切り替えた。

カーナディアもネマに誘われて一緒に雪遊びを始める。

その光景を見ながら、オスフェ家の者は貴族らしくないとつくづく思う。

普通の令嬢なら、こんな雪山に来ないし、そもそも外で遊ぼうなどと考えない。

親に言われるがままに作法や教養を学び、自分を着飾り、少しでもよい家に嫁ごうとする。

子息だって、身分が上の者に取り入ろうとする者が多い。

考えてみれば、オスフェ家だけでなく、建国の英雄たちと呼ばれる五家は貴族としては変わり者の部類か。

あれだけ王族と密にありながら、建国以来どの家の者も裏切ったことが一度もない。

今では五家とも王族の血が入っている。簒奪(さんだつ)を企てる者がいてもおかしくはないのだがな。

ただ、今までがそうだったからといって、これからもそうだとは限らない。

俺が王になったとき、彼らの信を失うことだってあり得るのだ。

特にオスフェ家はネマのこととなると視野が狭くなる。

俺たちとて、ネマを易々と他国に渡すわけにもいかない。かと言って、我が国の貴族なら誰でもいいわけでもない。

ネマの力を用いれば、大陸を支配することだって可能だろう。二心を抱くような輩に嫁がせることはできない。

安心なのは五家のどこかになるが、ネマと歳が釣り合うのがゼルナンの孫くらいしかいないと言うのがな……。

まぁ、二、三巡の間に、他の三家に子ができるかもしれないが……オリヴィエとユージンは期待しない方がよさそうだ。


「難しい顔をなされて、どうされましたか?」


パウルに尋ねられて、いやと言葉を濁す。

さすがに、ネマの嫁ぎ先を考えていたなどと言っては、殴られそうだからな。


「カーナディアもネマも、令嬢らしくないと思っただけだ」


「他のご令嬢と比べられるのは遺憾ですが、どこに出しても恥ずかしくない、立派な淑女にお育ちですよ」


「……日頃のネマの言動を見ていて、立派な淑女と言うか」


使用人たちがネマを甘やかしているわけではない。過保護ではあると思うが、パウルは特に厳しく接している方だ。


「ネマお嬢様はお転婆で、言いつけを忘れることが多々ありますが、頭の回転の速さはラルフ様やカーナお嬢様に負けておりません。ネマお嬢様と同じ年頃の子供と接すれば、よくわかると思いますよ」


パウルの物言いに、俺は声を出さずに笑う。

賢いや聡明といった言葉を使わずに、頭の回転が速いと言った。

確かにネマは、歳のわりには状況判断が的確な方だろう。

知らない人物には警戒し、ちゃんと外面を取り繕っている。

しかし、一度気を許した人物に対しては甘い。幼いからなのか、無意識にこれくらいなら許してくれると甘えることが多い。

ライナス帝国の皇族への態度がそうだ。

一国を治める王が善だけであるはずがない。必要悪と割り切って、悪どいことに手を出すこともある。

父上も皇帝陛下も、ネマに見せていない顔を持っているのだ。

俺に対しては陰険だの腹黒だの言っているネマだが、父上たちのその部分も気づいているだろうか?


「ヴィ、見て見てー!大きいの作れたー!!」


丸めた大きな雪を三つ重ねた謎の物体が鎮座していた。ネマの身長を越しているので、なかなか大きい。


「……なんだ、それ?」


「雪だるまだよ!可愛いでしょー」


また妙なものを作ったな。


「可愛いか?」


令嬢が好む綺麗なものなどは理解できるが、女性特有の可愛い感性はよくわからない。

特にネマは生き物なら全部可愛いと言いかねない。

さすがに、オーグルを可愛いとは言っていなかったが。


「ヴィは女心をもっと勉強すべきだね。この可愛さを理解できないのかぁ」


煽ってくる言い方だが、自分の感性が変わっていることをわかっていない奴に言われてもな。


「ま、女心をわからなくても苦労はしていない」


「これだから令嬢に人気の王子様は……」


呆れたように呟いているが、別に俺自身に人気があるわけではない。

次期国王という肩書きが人気なだけだ。


「お前だって年頃になれば、さぞもてはやされるだろう。一応、オスフェ公爵令嬢なんだからな」


「一応は余計だよ!」


頬を膨らませ怒ったかと思えば、今度は胸を張って、オスフェの名に恥じない淑女だと言い出した。

お前……周りをよく見ろ。

カーナディアもパウルも、背伸びして大人ぶりたい子供を温かく見守る保護者の顔をしているぞ。

つまり、淑女にはまだまだ遠いということだ。

そんなことを言えば、再び怒り出しそうなので黙っておく。


「というわけで、ヴィも雪合戦しよー!」


ネマの中で何がどう結論付いたのか不明だが、やや強引に雪合戦に加わることになった。

せっかくなので、本格的にやろうということになり、雪で小さな丘を作ったり、壁を作ったりと、戦闘区域を整えていく。

だが、どうも緩い。

もう少し厳しい状況の方が面白いと、いろいろ口を出した。

シンキに頼んで倒木を持ってきてもらい、戦闘区域をより難しいものに変え、パウルには的を作ってもらった。

魔法、精霊はいっさい禁止。先に的へ雪玉を当てることができた方が勝ちという取り決めにした。

戦力を均一化するために、俺、スピカ、シェル、カイの組とネマ、カーナディア、パウル、シンキの組に分かれる。

カイは頭の上にイナホを乗せているが、動きづらくないのか?


カイには雪玉作りをお願いし、速さのあるスピカで撹乱し、シェルにネマとカーナディアを押さえてもらう作戦だ。

シンキとパウルが野放しになってしまうが、やり合うより隙をつく方が確実だろう。


「準備はいいか?」


「いいよー!」


「本気で参りますわよ!」


セーゴとリクセーの鳴き声を合図に、試合開始だ。


雪玉は体に当たっても衝撃を与えることはできないので、隙を作るには顔を狙うしかない。

シンキとパウルからの雪玉を避け、一撃必中を狙って放る。


最初は雪玉を使って攻撃していたが、次第に熱が入り、肉弾戦へと変わっていった。

二人の連携は思っていたよりも熟練していて、二対一となると本気を出さざるを得ない。

シンキを吹き飛ばし、パウルの拳を(かわ)す。

剣がないことは物足りないが、これはこれで楽しめる。

パウルに蹴りを食らわしたところで、ネマが大きな声を上げた。


「ちっがーう!!雪遊びなんだから、雪以外使うのはダメ!!」


そう言われても、正直雪玉で遊ぶよりシンキたちと戦う方が楽しい。

やり直しさせられたものの、手を出さないようにするのに苦労した。

あとでシンキと手合わせでもするか。

いろいろと発散できるだろう。


ネマも満足したのか、今度は冒険だーと言って、魔物たちを引き連れ周辺を歩き回っている。

一応、目の届くところにいるから、パウルも好きにさせるようだ。

しかし、やはりネマはネマだった。


「変なのがいるよ!」


また何か動物と遭遇したのかと見にいけば、そこにいたのは極悪甲種だった。

ただし一匹だけで、少し弱っているようにも見える。


「ネマ、それが極悪甲種だ。村でもらったやつを使ってみたらどうだ?」


涙の素と呼んでいた、なんとも表現のしづらい味がする香辛料は極悪甲種避けになるらしい。

せっかくなので、本当に近寄ってこないのか試してみろと提案する。


「えーもったいない……」


もったいないって、あれを何に使うつもりなんだ?

また、俺の食事に忍ばせる気か?

少し、警戒した方がいいかもしれない。


「お腹空いているんだよ!私のおやつあげてみる」


天幕から焼き菓子を抱えて戻ってきたネマは、それを雪の上に置き、距離を取った場所で観察し始める。

こういうときの熱意というか、集中力は凄い。何を言っても無駄だ。


「ふぉ!食べた!」


焼き菓子に食らいつく極悪甲種の姿を見て喜ぶ。


「ここに餌があると覚えられるのはよくないんじゃないか?」


「大丈夫だよ。お菓子を持って帰るから」


ネマと一緒に極悪甲種を観察していると、少しだけ食べて、残りを咥えて踵を返す。


「アリさん、フィリップおじさん見つけたら助けてあげてね!」


魔物ならまだしも、魔蟲(まむし)は言葉を理解できないだろうと思っていた矢先、ネマはあっと短く声を出した。

嫌な予感しかない。



なんとか間に合いました、年内最後の更新。

来年ももふなでと作者をよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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