★8巻発売お礼小話 夏の風物詩
今回は8巻収録分に出てくる魔道具の裏話です(笑)
暑い……もの凄く暑い!!
お外も暑けりゃお家の中も暑い!
このままじゃ熱中症になってしまうよ!!
それにしても、なんでいきなり?
去年の夏もその前の夏も、夏だけど暑いなんて感じなかった。お外で遊んでても適温だった。
家族も使用人たちも暑さなんて感じてないようだし、何がどうなってんだか…。
ということで、ママンに突撃してみた。
「おかー様はあつくないの?」
「……あっ!」
ママンにしては珍しく、しまったって顔をした。
「ごめんなさい、ネマ。すっかり忘れていたわ」
そう言って、ママンが私に手をかざした。
すると、暑さが和らぎ、冷んやりとした空気に包まれた。魔法か!?
「フェーオ、急いで冷風の魔道具を用意してくれる?ネマにあう、可愛らしいものがいいわ」
「畏まりました」
ママンの部屋にいた、ママンの専属執事のフェーオが恭しくお辞儀して部屋を出ていった。
「前巡、わたくしがあげた髪飾りを覚えていて?」
確か、ユリに似た花をモチーフにした清楚な髪飾りだったな。花弁は白だったけど、中の雄しべには小さな水色の石がついていた。
「あれはね、暑さを和らげる魔道具なの。わたくしたちは魔法を使っていたから、つい失念していたわ」
知らなかった。そんな便利な物があったとは!
そもそも魔道具自体が、魔力のない人や少ない人が日常生活で困らないようにするための物だもんね。
ただ、消耗品だから去年の髪飾りはもう使えないんだって。
私も身につけるアクセサリーとかは、お世話してくれる人にお任せしてるから、全然気にしてなかったよ。
暑くもなくなったし、謎も解けたし、今日は何して遊ぼうかな?
あっ!そうだ!アイス作ろう!!
さっきまで暑かったから、アイス食べたいって思ってたんだ。
というわけで、意気揚々と厨房に向かう。
途中でお兄ちゃんがいたので、お兄ちゃんにも強制参加してもらった。
アイスの他に、もう一つ作りたい物があるんだが、それにはお兄ちゃんの力が必要なのだ!
「ネマ、何を作るんだい?」
「できてからのおたのしみ!」
厨房を覗くと、夕飯の仕込みは終わってるのか、休憩中だった。
「ラルフ様、ネマお嬢様、お二人揃ってどうされました?」
真っ先に気づいてくれたのが、料理長のヨーダ。またの名を火力の達人!火の下級魔術師でもある。
彼は焼き場というか、温かい料理が専門。
オードブルなど冷たい料理が専門のミュゲルは水の下級魔術師。
パンやパスタなどの粉物が専門のジュットは土の下級魔術師。生地は土扱いなのかとお腹を抱えるほど大笑いしたのは黒歴史だ。
そして、最近我が家の一員になったトート。
彼はまだ十五歳と若いが、ミュゲルのお友達のお菓子職人のお弟子さんだ。パパンがお菓子職人を探してるって聞いて、我が家に来てくれた。
属性はとても珍しい火と水の下級魔術師だ。反する属性故に、魔力はあるけど下級留まりだとパパンが言っていたな。
「おやつをつくるのてつだってほしいの!」
さぁ、アイスクリーム作戦開始だ!!
作ろうと思えば、牛乳と砂糖だけでも作れるけど、お値段のはる生クリームがあるからちゃんとしたやつにチャレンジ!
牛乳はランドブルやヤギやヒツジに似た動物の乳が主流。今日はランドブルをチョイス。生クリームの方はリトルホーンっていう、ランドブルとホーンヘッドの交配種の乳から作った物を使う。
あ、ちなみに、ラーシア語で乳がパル、生クリームはカイパルと言うんだよ。
そういえば、分量が曖昧だけど、何とかなるよね?
まずは試しで2パターン作ってみることにした。
生クリームだけのやつと牛乳だけのやつ。
生クリームの方は卵と砂糖、牛乳の方は砂糖だけにしてみた。
まずは生クリームの方。
確か、牛乳入れない場合は火を使わなかったはず。
うろ覚えの記憶を頼りに、卵を卵白と黄身に分けて、卵白をメレンゲにするために、砂糖を分割しつつひたすら泡立てる。
空気を含ませないといけないから、ひたすら混ぜる。ちょっとズルをして、お兄ちゃんに風の魔法を使ってもらったら爆発した。なぜだ!?
卵白があっちこっちに飛び散って大惨事になったのは言うまでもない。
一番被害が酷いのはお兄ちゃん。服にまで卵白がべっとりだ。
「おにー様、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。着替えてくるからちょっと待っててくれるかな?」
お兄ちゃんが厨房から出て行き、戻ってくるまで一人反省会。
風魔法でやったから爆発したのか?水魔法の方がよかったのか……。ずっと液体なら水魔法でもよさそうなんだけど、メレンゲも生クリームも固くなるからなぁ。
「ネマお嬢様、攪拌は無属性魔法ですよ?」
教えてくれたのはジュットでした。
理由はよくわからないけど、混ぜることでもたらされる効果がいろいろあるからだと思われる。
お兄ちゃんが着替えて戻ってくると、
気を取り直して、今度は攪拌の魔法を使って再チャレンジ!
無事に成功すると、生クリームも柔らかめに泡立てておく。
お兄ちゃん、器用だねー。
属性持ちは無属性の魔力を生み出すの、大変なんじゃなかったっけ?
次は、メレンゲに黄身を入れてよく混ぜ、生クリームも分割しながらよく混ぜ、空気を含んで滑らかになるまでしっかり混ぜる!
さすがにこの過程は人力でやってもらった。
あとは冷やして、固まったらほぐして、また冷やす!
ミュゲルに徐々に冷やしてもらって、最後にお兄ちゃんに一気に冷やしてもらう。
ミュゲルの力だとマイナス3度くらいが限界なんだって。すぐに食べるならそれでもいいんだけどね。食べ比べしたいから、溶けないようにマイナス10度くらいにしてもらった。
お兄ちゃんとミュゲルに頑張ってもらっている間に、ジュットとトートにはフルーツシロップを作ってもらっている。
濃いめで水っぽくとむちゃぶりも忘れてはいけない。
牛乳の方はヨーダに任せた!
牛乳と砂糖、香りづけにお酒を少々。
あとはふきこぼれないよう弱火で煮詰めていく。
味見をしつつ、好みの濃さになったら粗熱をとって一気に冷やす。
粗熱をとってから布などで濾すと舌触りがよくなるが、美味しい部分でもあるので今回はやらない。
完成したアイスクリームをお皿に盛って、いざ、実食!!
まずは生クリームの方。
むむっ!うっまー!つめたー!
牧場とかで売ってる、濃厚アイスだ。
こっちの世界の生クリーム、アイスにピッタリだよ。てか、これだけ濃厚な味なら、他のお菓子にも多用できそう!
次は牛乳の方。
うむっ、これはアイス◯リンではないか!?ほどよい牛乳の甘み、シャリシャリした食感、素朴というより懐かしい味がする。
「カイパルを凍らせるって、凄い発想ですね!これ、改良すればもっと美味しくなりますよ」
トートが興奮気味にまくしたてる。
他のみんなも絶賛とまではいかないが、経験のない食べ物に料理人としての好奇心が抑えられないみたいで、いろいろと議論している。
「じゃあ、トートがもっとおいしいのつくってくれる?」
「え!?いいんですか!!」
「ヨーダ、いいよね?」
ちゃんと、厨房のボスには了解をとっておかないとね。新人だからなおさら。
「発案者であるお嬢様がよろしければ」
「ヨーダもこう言ってるし、どうかな?」
「ぜひ、やらせてください!」
アイスクリームの改良はトートのお仕事となった。
「ところでネマ。これはどうするのかな?」
お兄ちゃんは作ってもらったシロップに興味津々なようだ。
あ、忘れてた!
「おにー様、こおりのかたまりを作ってほしいです!」
「いいけど、母上みたいに大きな物は出せないよ?」
「だいじょーぶ!このお皿がうまるくらいのふんわりけずったこおりだから!」
そう、夏と言えばカキ氷!!
だが、ふんわり削るというのが伝わらなくて、五回ほどやり直してもらったが。
ふわふわ氷が山のようになったところで、シロップをたっぷりかける。
すると、氷が半分くらいに溶けてしまうので、その上から再びふんわり氷を乗せる。
もう一度シロップをかければ完成だ!
「できたー!」
早速、カキ氷を頬張ると、口の中が一気に冷たくなり、シロップの甘みできゅーってなった。
「なるほど。氷を食べるために味を足したんだね」
ネマらしいと笑うお兄ちゃんだが、私が食い意地が張っているってことではないぞ!
カキ氷と言えば、夏の風物詩。なくてはならない存在なのだ!!
「この蜜自体を凍らせたら駄目なのかな?」
そう言って、お兄ちゃんは余ったシロップを凍らせて、同じように削ろうとした。
しかし、上手くいかなかったみたい。
ふんわりではなく、シャーベット状にザリザリした感じで削れてしまったのだ。
「……水と蜜の性質の違いか。しかし、水が多ければ味が薄まるし」
と、何やら真剣に考え込んでいる。
「しかし、氷を削るとなると、私たちでは無理ですね」
ミュゲルが残念そうに言った。
この厨房のメンバーには、風魔法を使える人がいないし、いたとしても下級だとお兄ちゃんが使っていた魔法が使えない。
「けずるものをつくってもらうのは?」
カキ氷機自体の構造はいたって簡単なので、こちらでも作れると思うんだ。
魔道具にしちゃうと、開発から時間がかかってしまうので、大工さんとかにお願いできないかな?
「ここまで柔らかく削るというのは難しくないですか?」
ジュットはカキ氷が気に入ったのか、パクパクと凄い勢いで食べている。
そんなに急いで食べると、アレが来るよ!
心配していたら案の定、あの、頭キーン現象に見舞われたみたい。
ジュットが頭を押さえて苦しみだしたので、温かいお茶をそっと渡した。
「できなくはないと思うけど、組合に依頼するにしても、まずは父上と相談だね」
そうだね。依頼するなら、お金がかかっちゃうもんね。
「じゃあ、おとー様におねがいしてみる!」
「うん。ネマのお願いなら、父上も無下にできないだろう」
娘に甘いパパンは、余程のわがままでない限り叶えてくれる。
ただ、私は普通のご令嬢がお願いするようなわがままを言ったことはない。
だいたい、食べ物かもふもふに関することばかりだから。
アイスとカキ氷が成功して満足した私は、パパンが帰ってくるとすぐに突撃した。
「おとー様!」
帰ってきたばかりで、上着をマージェスに預けていたパパン。
私に気がつくと、すぐに膝を折って私を抱き上げた。
「ただいま、ネマ」
「おかえりなさい、おとー様」
「ネマがお出迎えしてくれるということは、何かお願いごとかな?」
さすが、パパン。よくわかってらっしゃる!
「あのね、つくりたいものがあるの!」
「作りたいもの?」
どう説明しようかと考えていると、お兄ちゃんが現れた。
「父上、おかえりなさい。僕が説明してもいいですか?」
「ただいま、ラルフ。ということは、お前も一枚噛んでいるんだな?」
「はい。ネマの発想には、いつも驚かされます」
何を思い出して笑っているのかわからないけど、とりあえず味方になってくれるようなので、お任せするしかない。
「それじゃあ二人とも、何をして遊んだのか話を聞かせてくれるかな?」
パパンの執務室でアイスとカキ氷のことを話すと、食べてみたいと言うので夕食のデザートに出してもらうことにした。
パパンはアイス◯リンを気に入ったようで、ママンとお姉ちゃんは生クリームのアイスを気に入ってくれた。
「この氷も美味しいわ。これなら、いろいろな果物でできそうね」
やはり、食らいついたのはママンだった。
研究者としての血が騒ぐのか、どう魔法構造を作ろうかと、お姉ちゃんと盛り上がっている。
盛り上がっているところ悪いのだが、魔道具でなくてもできるんだよなぁ。
パパンから許可が下りたので、厨房のメンバーとどういうふうにするのがいいのか話し合って、簡単な設計図みたいなものを作った。
それを元に鍛冶組合が作ってくれたカキ氷機は、残念ながらふわふわな氷にはならなかった。
いろいろと試行錯誤した結果、魔法を使って、魔術師による微調整を行わないとふわふわ状態にすることが難しいことが判明した。
食べるなら、美味しい最高のものを食べたい!
なので、ママンとお兄ちゃんが猛練習して、我が家のカキ氷を完成させたのだ。
しかし、ママンは魔道具化を諦めていなかった。
仕事の合間に研究しているようだが、いまだ完成したという話は聞かない。
私たちがカキ氷で一喜一憂している間、厨房のメンバーはアイスクリームの改良にも熱意を注いでいた。
どんどん美味しくなっているけど、プロ意識の高い料理人たちはまだまだだと言う。
よって、アイスはまだ我が家で独占状態!
トートには頑張ってもらわないと!!
もふなでももう8巻。
本当にここまで続けることができるなんて感無量です。
シビアな世界なので、打ち切られても仕方ないなんて思っていたときもありましたが、ここまでこれたのも、購入してくださった皆様、応援してくれる皆様のおかげです。
書くのが遅い作者ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
追記:誤字報告をしてくださった皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m