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ライナス帝国軍に突撃だー! 前編

平和だ。

ダオとマーリエと、遠慮なく遊べるようにもなった。

お姉ちゃんが学校に行っている間は暇なので、遊べるようになったのは大変喜ばしい。

ロスラン計画も順調に進んでいる。

ただ、塔については設計図の段階のままだったりする。

少しだけ見せてもらった設計図は、私が想像していたものとは違って、なんかの要塞かなっていうゴツい印象を持ってしまった。

せめて、円筒形にしようよ。塔なんだからさ。

なので、丸くしようってお願いしたら、強度が不安だって言われた。

それならばと、建築素材の中に鉄筋を入れるって話もしてみたけど、鉄とかの鉱物素材って、武器にしか使っていないんだね。

全然話が通じなかったから、今度、大工組合と鍛冶組合同席で会議することになったの。

それまでに、サンプルみたいなのを用意したいんだけど、絵は下手くそなので粘土で作ってみるつもり。

あ、ダオにも手伝ってもらえばいいじゃん!ダオ、手先がめっちゃ器用だし。

でも今日は、ぼっち確定なので、宮殿内で行ったことない場所に行く予定。

森鬼とスピカをお供に、星伍(せいご)陸星(りくせい)は案内役で。

(かい)は順調に宮殿に馴染んでいるみたい。

麗しの美少年って噂をマーリエから教えてもらった。

だけど、日中何をしているかは謎なんだよねぇ。


「ネマ様、どちらに行かれるのですか?」


「今日は軍人さんたちに会いにいくの!」


我がガシェ王国よりも強大な軍事力を見ないと損だよね!

獣人もいっぱいいるっていうし、少数だけどエルフの軍人さんもいるらしいよ。

というわけで、星伍たちが案内してくれている先は、軍人たちの詰所的な場所だ。

事務作業をする場所は宮殿内にあるらしいが、本部というか軍施設は別の場所にあるらしい。

ワイバーンがいる竜舎はそちらにあると言うので、近いうちに見学に行きたい。


「…ワイバーンは苦手です」


竜舎にも行きたいと言ったら、スピカが怯えてしまった。

いいんだよ!本能だから仕方ないよね!


「そのときは、近くで星伍たちと遊んでいていいからね」


我が国の竜舎がそうであるように、きっとライナス帝国の竜舎もめっちゃ広いに違いない。

ワイバーンたちが来なくて、スピカたちが遊べる場所がたぶんあると思う。


「でも、ネマ様のお側に…」


「スピカ。じゅう人としての本能は大切にしなきゃダメ。むりに押しこめて、感覚がまひしたら、いざというとき命取りになるから」


獣人としての本能というより、野生の本能だろう。

ワイバーンには敵わない。食べられるという恐怖が、近づかないよう警告を放つ。

それを鈍らせてしまうと、本当に命の危険があるときに発動しないかもしれない。


「わかりました」


しょんぼりしているスピカの手を握り、心配しなくてもいいと安心させる。


「ワイバーンたちは私をおそうことはけしてしないから。それに、本当にけいかいするべきは人だと思うの。だから、スピカがたよりなのよ」


貴族として、もっと社交に出るようになると、どうしても男性の護衛を連れていけない場面も出てくるだろう。

そういうときこそ、スピカの出番なのだ。

そういったことがないことが望ましいが、スピカの戦う姿、一度は見てみたいよね。

今度、訓練に立ち会ってみようかな?

スピカVSシェルの、戦うメイドって凄く萌えるよね!!


スピカとお手て繋いで、詰所が見えてきたところで、森鬼が動いた。

いや、森鬼だけでなく、スピカも私を庇うように前へ立った。

隙間から確認すると、大きなものが飛んできて、それを森鬼がキャッチして、すぐにポイッと横に放り捨てた。

その捨てられたものを見てみると、人のような……。


「大丈夫か!!」


続いて走ってきた軍人さん。

ってことは、やっぱりこれは人なんだな。


「…大丈夫ですか?」


地面に伸びている人に声をかけるも、意識がないようだ。


「お嬢様、申し訳ございません。お怪我はございませんか?」


走ってきた軍人さんにそう声をかけられたんだけど、それよりこの人を心配してあげて!


「私は大丈夫です。彼をゆうせんしてあげてください」


「ありがとうございます。いつものことなので大丈夫です」


そう言いつつも、飛んできた人を抱えて建物の方へ去っていく軍人さん。


「…なんだったの?」


「あそこで訓練をしているので、誰かに飛ばされたのかと」


スピカが指差す方向に訓練場みたいな広場があるんだけど、人間ってそんなに飛ぶもんだっけ?

森鬼やゴーシュじーちゃん並みのヤバい人なのでは?

ちょっと気になったので、訓練場を先に覗いてみることにした。

我が国の騎士団の訓練場とは違い、屋外だけど屋根はなく、運動場みたいな感じだ。

簡単な格子状の柵があるけれど、私の背より少し高いくらいで、先ほどの人はこれを越える高さで吹っ飛ばされたということになる。

隙間から中を覗いてみると、たくさんの人が戦っている光景が見れた。


「誰だっ!?」


突然、大きな声をかけられて、ビクッと体が固まってしまった。

はぁ。驚いた。


「訓練中に申し訳ございません。お嬢様が見学をしたいと仰っているのですが、責任者の方はどなたでしょうか?」


スピカが私を隠すように立ち、柵の向こうにいる軍人と話す。

こうした立ち振る舞いを見ていると、なんか大人になったんだなぁって思うよね。


「あぁ、貴族のお嬢様か。物好きだな…。ちょっと待っていろ」


そう言って、軍人さんはどこかに行ってしまった。

言葉通り、ちょっと待っていると、詰所の方から誰かが出てきた。


「むさ苦しい場所をご覧になりたいという奇特な貴族が来たと聞いたのですが…」


はいはい。物好きで奇特なお嬢様ですよ。

というか、なんでこんなに刺々しいの?

彼はいかにも面倒臭いという態度で名乗り、礼をしてくれたけど、めちゃくちゃ失礼だからね!

大人なんだから、礼節はしっかりやろうよ。


「お仕事のじゃまをしてしまい申しわけありません。ガシェ王国からまいりました、ネフェルティマ・オスフェです。今日は、みな様のくんれんをはいけんしたいのです」


美しい所作を心がけ、礼と名前を言い、今日来た理由もつける。

礼をされたからには、答礼(とうれい)はしなければならない。

絶対ではないけれど、礼儀作法が細かく定められている我が国では、答礼しないと礼儀がなってないとすぐに醜聞が流される。


「……はぁ?」


何を言われているのかわからないという顔をしている。

おかしいな。


「一応、へいかからは好きに見てもよいと言われていたのですが、きょかをもらってきた方がよかったですか?そうしたら、そうすいさんにお会いしてからの方が…」


軍の最高責任者でもある、大虎(だいこ)族の総帥にお願いした方がよかったみたいだね。

今から面会を申し込んでも、今日中は無理かも。

現場責任者がいれば大丈夫かと思っていたが、現場責任者が私のことを知らないのであれば話は違ってくる。

ガシェ王国みたいに、どこでもフリーパスの感覚でいたんだけど、私の確認不足だったね。


「ネフェルティマ様、こんなところでどうされたのですか?」


詰所から新たに現れたのは、見たことある人だった。


「隊長さん!」


隊長っていうのは確実なんだけど、誰の警衛(けいえい)隊だったかは自信ない。

テオさんのところだったかなぁ?


「軍のみな様のくんれんを見学したかったのですが、そうすいさんのきょかをいただいていなくて…」


「あぁ。それでしたら、不要ですよ。ワイバーンのいる竜舎以外、軍施設もネフェルティマ様の要望があれば見せよと通達がいっておりますから」


ん?

つまり、やっぱり私はフリーパスだった??

通達が行っているのに、それを知らない責任者がそこにいますけど?

話が噛み合わないなと首を傾げた。


「貴族の令嬢というだけで、敬遠したのでしょう」


なるほど。

通達はあっても、名前までは覚えておらず、ただ貴族の令嬢が茶化しに来たとでも思われたのか。


「ネフェルティマ様のことは、丁重に扱え。聖獣様や精霊たちに嫌われたくなければな」


隊長さんが責任者の人に釘を刺してくれたのはいいんだけど、なんだか気まずいわぁ。


「ネフェルティマ様、何かありましたら遠慮なく仰ってください。ワイバーンの竜舎は総帥へお願いした方が確実でしょうが」


ご丁寧にアドバイスまでくれたよ。

お礼を伝えて隊長さんとバイバイすると、気まずい空気の中で、責任者と私たちが残された。

早々に責任者は簡単な謝罪をして、こちらにどうぞと詰所に促してくれたけど。

ひょっとしたら、彼は貴族出身とかではなく、叩き上げなのかもしれない。

だとしたら、貴族と確執的なものがあってもおかしくないよね。

ほんと、ライナス帝国は権力争いがドロドロしすぎて、下手に首を突っ込むと、こちらが被害をこうむりかねないな。


「この詰所にいる者は、宮殿を警備する部隊の者たちです」


「じゅう人さんが多いんですよね?」


「確かに、我が帝国の軍は獣人が多いですよ。ですが同時に獣人を嫌う者も多いのです。この国が長きに渡って他国との戦に勝ってきたのは、彼らの力が大きいというのにね」


ふむ。やはり、確執があるのか。

そのため、宮殿を警備する部隊は人間の方が多いというわけか。


「では、他の場所にはたくさんじゅう人さんがいるのですね」


「…お嬢様はやけに獣人を気にしているようですが、何かあるのでしょうか?」


「何か?しいて言えば、仲良くなりたいなぁって」


仲良くなったら、耳や尻尾をもふもふさせてもらえるかもしれないしね。

獣人の知らないこともいっぱいあるし、教えてもらえたら嬉しいな。


「…仲良くなりたいと仰る貴族はそういないのです」


「そうなのですか?ライナス帝国では、しゅぞくの違いは関係ないとへいかがおっしゃっていましたよ」


現に、この国の礼にはそれが反映されている。

ライナス帝国の歴史の本には、建国時や乱世の時代に、獣人たちが大活躍したとも書いてあった。


「貴族の獣人もいるのですが、ほとんどは平民ですので、粗野だ乱暴者だと嫌われているようです」


「そんなこと言う者は気にしなくていいのではないですか?あなたたちが守る国とは、民ありきのものなのですから。民にしんしであればいいと思います」


我が国みたいに、貴族の言うことは聞きませんよってしてもいいと思う。

実際は無理でも、心ない言葉を気にしていてはきりがないし。


「そのようなこと、久しぶりに言われました」


「同じことを言った方がいらしたのですね」


「えぇ。今の皇帝陛下ですよ。私は以前、昇進を断ったのです。位が上がれば、私のような平民出身は板挟みになりかねないと。そうしたら陛下が、貴族の言うことには耳を貸すな。民が平和に暮らせるよう、民の声を聞けと」


めちゃくちゃ格好いいな、陛下!

ん、待てよ。

ということは、一応貴族である私の言うことも聞かなくていいってことになるな。それはそれで困るんですけど!


「では、私の言ったことも聞いてもらえないのはしかたがないことでしたね…」


隊長さんが口添えしてくれたので中に入れたけど、私だけだったら断られていたんだろうな。

そんなことを思っていたら、スピカが自ら責任者に話かけた。

パウルだったらまだしも、側仕えは静かに控えているべきなのに。


「ネマ様は種族関係なく、その人物を尊重されます。獣人だから、魔物だからと相手を辱めることはけしてありません」


「スピカ。関係ない者を立ち入らせるかどうかは、せきにん者であるこの方が決めることよ。ほめてくれるのはうれしいけど、今は下がりなさい」


本当に、私の肩を持ってくれるのは凄く嬉しいけど、本来ここは関係者以外立入禁止のはず。

そこに入らせる決定権は責任者にある。

陛下からの命があったとしても、訓練中で危険だと判断すれば、陛下も無理にとは言えないし、私も無理強いするつもりは今もない。


「…申し訳ございません」


スピカが謝ったので、私も(あるじ)として責任者に謝罪をする。


「付きの者が失礼いたしました」


「謝罪は不要です。お嬢様は彼女にとって素晴らしい主人なのですね」


責任者にそう言ってもらえたから、スピカの尻尾が揺れる。

そんなスピカの様子を微笑ましそうに見つめる責任者。彼は、獣人の不当な評価に心を痛めていたのかもしれないね。


「訓練を近くで見るのは構いませんが、お嬢様に無礼なことを言う者も出てくるかもしれません。度合いによっては処罰を与えることもできますが、それだけ彼らが貴族によい印象を持っていないことだけは留意ください」


「大丈夫です。もし、私に何かをすれば森鬼とスピカがだまっておりません。軍人なのですから、不当にぼうりょくを受けたと泣く者はいないでしょう?」


森鬼が強いことは知っているので、そう簡単に負けることはないだろう。

貴族に無礼を働き、その上戦いで負けたとなれば軍人の名折れだ。

もちろん、大事にするつもりはないが、少々手が出ても許してね、という言質が取れればいい。


「子供に手を出すような愚か者はいません。もし、いましたら、容赦はいりませんよ」


自分の部下たちを信用しているという自信があるのだろう。

まぁ、私も子供に手を出す軍人がいるとは思わないけどね。


「では、こちらへどうぞ」


責任者の案内で訓練場の中に入ると、運動場というよりは空き地のようだった。

本当に何もなくて、ただまっさらな地面があるだけ。

見たところ、運動場が三つは入るんじゃなかろうか?

前世に通っていた田舎の中学校のグラウンドは400mトラックと野球のグラウンド、サッカー場とテニスコート2面あったけど、それより広いというのだから。

あちらこちらで、実戦式の訓練が行われていた。

盛大に火柱が上がるところもあれば、小さな竜巻が発生しているところ。

面白いくらいに人が吹っ飛ばされるところ…。

あれは!!


(へん)族の獣人です。彼らは空を飛ぶことができるため、我が軍でも重要な機動力なのです」


そうそう、確かそんな名前だった!フリエンスっていう動物の名前の方で覚えていたから、獣人の種族の名前がとっさに出てこなかったよ。

その翩族の獣人と対しているのが、初めて見る獣人だけど、これは知っているぞ!

面長の顔に、つるっつるの鱗に、むっちむちな尻尾!

(せき)族の獣人ですね!!


「さすがに、大虎(だいこ)族、(ゆう)族に並び立つ戦闘能力を持つ蜥族でも、空中に逃げられると手足が出せないようです」


いやー、ほんと獣人って凄いわ!

体はほぼ人と同じなのに、祖となる動物の特徴はしっかりと受け継いでいるんだもん。

神様の力かもしれないけど、生命の神秘を感じるよね。

もっと近くで見てみたい!


「せき族の方とお話してみたいです!」


「…構いませんが、あいつはかなりの強面ですよ?」


強面っていうなら、一番の強面はオーグルだと思う。

それに、ゴーシュじーちゃんとかでも慣れているし。


「オーグルよりもこわいですか?」


「いや。オーグルの方が怖いですね」


さすがにオーグルと比べられるとは思っていなかったのか、責任者は苦笑しながら答えた。


「じゃあ、大丈夫です!」


ぶっちゃけ、あのときはオーグルよりも陛下の方が怖かったしね。

私の返事を聞いて、大丈夫だと思ってくれたのか、責任者は戦いが終わったら呼んでくれると約束してくれた。

離れた場所から、獣人同士の戦いを見守る。

翩族の軍人が上空から急降下し、蜥族の軍人に攻撃を仕かけようとしていた。

蜥族の軍人は高くジャンプをして、尻尾を振り、相手の剣を吹っ飛ばしたのち、首を羽交い締めにしたまま落下した。

ズドンという鈍い音がこちらにも聞こえてきたほどだ。絶対に痛い!


「勝負ありましたな」


そう呟いた責任者は、大きな声で二人を呼んだ。

翩族の軍人も呼んだのはなぜだろう?


「翩族のダユと蜥族のバルグです」


間近で見る翩族の翼は、本当に天使みたいで綺麗だった。

ただ、残念なことに、フサフサしている尻尾の毛並みは、夏のキツネのように短くなっていた。

どうみても、刈られている。

ひっじょーに残念だ!!


「こちらはガシェ王国からのお客人だ。失礼のないようにな」


責任者がざっくばらんすぎる紹介をしてくれた。


「ネフェルティマ・オスフェと申します」


「…貴族のお嬢がなんの用で?」


蜥族の軍人、バルグさんからは冷たい視線が投げられた。

人と比べると面長な顔は、眉毛はないし、つり目だし、確かに強面だった。

しかし、森鬼に劣らぬ鍛え上げられた体に、首や腕など、露出している部分から見える鈍色の鱗は強者のオーラを感じさせるには十分だ。

そして、一番に目が行くであろう尻尾は、付け根の方が太くて先に行くにつれて細くなっている。

ようは、ぜひとも触らせてもらいたいのだ!私は!!


「しっぽをさわ……」


つい、欲望のままに触らせて欲しいと口にしそうになってしまった!

初対面なのに、尻尾を触らせてとか、破廉恥すぎやしないか!?


「尻尾?」


「いえ、失礼しました。せき族の方にはまだお会いしたことがなかったので、お話したいと思ったのです」


なんとか誤魔化したものの、尻尾という単語はばっちり聞かれていた。

お願いだから、忘れてくれ!


「ほう。それで、俺を笑いにきたのか」


「とんでもない!すてきなしっぽ……すばらしい戦いぶりでした!」


私よ、少し落ち着こうか。

あの尻尾が魅力的なのがいけないんだけど、口を開けば尻尾って言うのはまずい。


「誰に言われて来たのか知らんが、どうせ影で醜いと蔑むのはわかっている」


「それは感性が違うから、気にすることはないと思いますよ」


「感性だと?」


眉毛はないけれど、眉を(ひそ)めたのがわかった。

顔や指先に鱗がないのは、複雑な動きがしやすいようにかもしれないと、ふと思った。

体中に鱗があるわけでなく、急所の部分を守るように生えているのかもしれない。


「ワイバーンをこわいと思う人とかっこいいと思う人がいる。それくらいの違いしかないと思うんです。自分と違うものをおそれる。だから、相手を見下して安心感をえようとするような方とは、はなから相入れないと気にしないのがいいのです」


「なるほど。では、お嬢様はバルグをどう思われますか?」


翩族のダユさんが聞いてきたので、少し悩んでしまった。

正直に言おうものなら、私は破廉恥な痴女認定されかねない。

しかし、取り繕ってもすぐにばれる気がする。


「…りかいされないと思いますが」


そう前置きをして、感じたことを述べた。

竜を思わせるような鱗に、鞭のように自由自在に動き回る尻尾。

外見は怖いかもしれないけど、鱗は綺麗だし、その尻尾は大変魅力的であると。

可愛さで言うならトカゲの方が(まさ)っているが、格好よさは蜥族の方が優っている。

ほんと、祖先のいいとこ取りだよね!


「…お嬢、頭がおかしいのか?」


「だから言ったのに!感性が違うの!」


貴族の令嬢らしく、丁寧な言葉遣いをしたいけれど、思わず素が出てしまった。


「確かに、尻尾が魅力的だと言うご令嬢にはお会いしたことはありませんね」


「ダユさんの尻尾はどうして毛が短いのですか?」


ガシェ王国であった翩族の人はふさふさしたキツネのような尻尾だった。

翩族こそ、獣人としていいとこ取りをしまくった種族ではないか?

天使を思わせる純白の美しい翼を持っているし。

耳と尻尾は個体差があるらしく、ダユさんは薄茶色の毛並みをした耳と尻尾だ。

光の加減によっては金色にも見えて、ある意味拝みたくなる。


「邪魔といいますか、訓練などですぐ汚れてしまうので、洗いやすいように刈っています」


……あ。長毛種ならではのやつですな。

しっかりと手入れをしないと絡まったり、ダマになったりもするしね。

人間でいうなら、髪の毛洗うの面倒臭いから坊主にするみたいな感じか。

他にも、気になったことをいろいろ質問してみた。

種族が住んでいる場所や種族が持つ固有の能力。好きな食べ物なんかまで。

ダユさんは一つ一つ丁寧に教えてくれたけど、バルグさんは大雑把だった。

話し込んでいるうちに、訓練を終えた軍人さんたちも集まってきて、なんか珍獣にでも出会ったようなリアクションばかりされた。

そんなに獣人に理解を示す貴族が珍しいのか!


「お前たち、お客人に失礼だろ。散れ」


責任者がしっしっと手で払うと、すぐにいなくなったけどね。

でも、訓練も終わりなら、次の仕事が待っているだろう。


「今日はこれくらいでおいとまいたしますね。また来てもいいですか?」


「また、来るのか!?」


バルグさんが驚いているが、行くに決まっている。

訓練も見ている分には楽しいし、まだ仲良くなったとは言えないしね。


「陛下の命もありますし、こちらから断る理由はございませんよ」


「隊長っ!?」


責任者に詰め寄るバルグさんだが、上下関係が厳しい軍では、上官の命令に逆らうことはほぼできない。

というか、バルグさんはなんだかんだ言っても、逆らうようなことはしないと思う。

実直なタイプそうだもん。


みんなにバイバイと手を振って別れたあと、今度行くときは何か差し入れでも持っていこうかなって思った。


「差し入れですか?国防を担う組織は、恨みも買いやすいため、個人的な贈り物は受け取らないようになっていますよ」


戻ってからパウルに相談したら、そう教えてくれた。


「でも、ダンさんやレスさんは受けとってくれたよ?」


私の記憶が正しければ、彼らには何度もお菓子の差し入れをしたよ。


「ちゃんと、ネマお嬢様の為人(ひととなり)を把握してからでしたよ」


パウルが言うには、私が動物たちに友好的ではあったけど、騎士たちへの態度はどうなのかと、いろいろと観察されていたらしい。

生き物のお世話をする仕事でもあるから、臭いや汚いと貶す貴族もいるんだって。

そんなことを言う貴族がいたら、私が懲らしめてやる!

彼らは民と国を守る仲間として、竜や動物たちを愛し、大切にしているんだよ。


「ですので、差し入れをするのであれば、陛下やルイベンス殿下などにお願いする方がよろしいかと」


確かに、食事や水に毒を入れて軍隊が弱っているところを強襲したっていうのもあったね。

貴族みたいに毒味役もいないわけだし、自衛のためってことか。


「わかった。へいかはお忙しいだろうから、ルイさんにお願いしてみるね」


ルイさんにその旨を書いた手紙をしたためて、パウルに届けてもらった。

そしたらなぜか、戻ってきたパウルと一緒にルイさんもいた。


「書類ばっかりは飽きちゃったから、ネマちゃんとお茶しようと思って」


サボりか!

サボりの口実に私を使ったな!


「しょるいも大事なこうむの一つですよ」


「でも、息抜きは必要だよね」


効率を考えるなら、適度に休憩を取る方がいいけどさ。

ルイさんは自分で飽きたって言ったじゃん!


「それより、訓練場に行ったんだって?どうだった?」


「せき族とへん族の方と、たくさんおしゃべりしてきたの!」


翩族の翼に触ってみたいとか、蜥族の尻尾に触りたいとか、とにかく触りたいとしか言っていない自分が恐ろしい。


「ネマちゃんだから大丈夫だと思っていたけど、別の意味で心配になってきたな」


「心配?」


「基本的に獣人は忠誠心が厚い者が多い。皇族には忠順でも、貴族には牙を剥く者もいるんだよ」


バルグさんとかは、貴族にも食ってかかってそうだ。

ますます、あの責任者の方の苦労が偲ばれる。


「獣人だからと気を緩めていると、食べられちゃうかもしれないよ?」


…その食べられるっていうのは比喩だよね?

実際にパクッてなことはないよね?

まさか、アダルティなこと……。恐ろしい想像はやめよう。精神的によろしくない。


「…気をつけます」


何が起こるかわからないもんね。

森鬼やスピカに頼りっきりになるんじゃなくて、自分でも危険を回避できるようにならないと!

忠告を肝に銘じた。

ルイさん自身は獣人とも仲がいいみたいで、総帥さんとは幼馴染みなんだって。

小さいときに、総帥さんや他の獣人たちと遊んだことや悪戯した話を聞かせてくれた。

くぅぅ。羨ましいな!


「贈り物はこちらで用意して、名義をネマちゃんにしておくから」


お茶を飲みきると、仕事に戻るかぁって、少し嫌そうな顔をして、ルイさんは去っていった。

ほんと、外見と中身が一致しない人だなぁ。


まだまだ獣人祭りは続きます!

ワイバーンの出番が遠い(´;ω;`)

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