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第六話 偽物(俺達)が幸福達(真)につけられる 2


 休日だってのに、何の用なんだか明日葉に呼び出された俺は、前回茜音と明日葉が待ち合わせしていた場所に来ていた。

 普段なら愚痴の一つも出ようが、昨日の今日なのでむしろ家に二人きりよりもありがたい、などと思ってしまう俺はヘタレだろうか。いやいや。

「どうしたんですか、恭吾君?」

「ああ、いや……」

 いつのまにかきていたらしい明日葉にそう声をかけられて振り向いた。

「それにしても、今日はいったいどうしたんだ? 茜音を呼ぶついでとか口実ならともかく、俺を単独でよんだりして」

「? そんなにおかしいですか? 教室でも茜音ちゃん抜きで二人じゃないですか」

「それはクラスが同じだからだろ」

 会話は例によって、茜音のことが多いが。

 ……しかしながら、うーん。

 俺は視界の端にちらついた気配を、意識に入れないように努めた。

「にてますね」

 と明日葉が笑う。その視線の端にはまず間違いなく、うん。先日の己の浅はかさを思い知る次第である。こう、素人の尾行がばれないわけないよね、というか。

 ばっちりがっちり、見知った三人がこちらを窺っているわけだが。

「……これはなんとも」

「まあいいじゃないですか。さ、いきましょう、恭吾君」

「あ、ああ」

 明日葉と並んで歩く。休日に私服で、明日葉と二人歩くというのはなんだか変な感じだ。



「ふむ、恭吾くんの方が先についてる……」

 恭吾と茜音の待ち合わせ場所――がのぞける場所に、三人は居た。

「…………」

 居心地悪そうに視線を彷徨わせる玲二。その横で静かに立っている晶子。

「晶子ちゃん、どう思う?」

「五分五分、かなぁ」

 と、茜音に聞かれた晶子が応える。二人は恭吾の元に現れた明日葉と、応対する恭吾を見比べながら何かを喋っているようだが。

「なんだか、今日は晶子が随分大人しいね」

 と余計なことを言った玲二に、晶子は首を傾げ、

「真剣な場では、乃羽だって真剣だよ?」

 と薄く笑う。この前とは偉い違いだ。真剣扱いされていなかった親友はかわいそうだな、と逃避めいたことを考える玲二だった。

 そんな彼を眺めた晶子は

「空気くらい読むよ、玲二ほど、無邪気じゃないもの」

 などと、今度は楽しそうに笑う。

「僕、いるかなぁ」

 苦笑交じりにそうぼやく玲二の手をそっと握って、

「いるに決まってるよ、いつだって」

 と告げるが、すぐに手は離して茜音の元へもどった。玲二は離された手をしばらく見つめて、やっぱり苦笑する。

「やれやれ、だね」

 そう口に出して、二人と二人の後を追う。

「あれ? ここって……?」

「前回と同じ、だね」

 二人が向かった先は、前回茜音と明日葉が行った(恭吾が更衣室に突撃した)のと同じ店だった。

「どういうことだろう……?」

「あえて同じコース、なのかな?」

 首を傾げる女子二人の後を、居づらいままついて行く玲二は、「もしかして、今帰ってもばれないんじゃないだろうか?」と、少し距離を開け始める。

(なんだ、本当、これは簡単にいなくなれちゃうじゃないか)

 と、180度反転した、途端。

「玲二、そっちじゃないよ?」

 いつの間にすぐ後ろに来ていたのか、晶子が腕を掴んでいた。

「もうっ、そんなに寂しいなら仕方ないからずっと腕を組んでいてあげるんだよっ」

「いや、違っ、痛い痛い痛いからっ、曲がる折れるとれる!」

「え? 一緒に居たい? もうっ、玲二ってば時々素直だよねっ」

「ありがちなボケをありがとう! 話し聞いてくださいたいいたいいたい」

 腕がぎゅっと、では生やさしいほど強く抱え込まれる。

「無理無理無理っ、肩外れるから。もう逃げません、だから」

「ツンデレ? 玲二は相変わらずなんだよ」

「いいか、小娘。ツンデレをなめるn今変な音した! ボキッて嫌な音したよ晶子さん!」

「か、勘違いしないでほしいんだよ! べ、別に玲二の悲鳴が聞きたいわけじゃないんだからねっ!」

「ツンデレ怖えぇぇぇぇぇ!」



「この店は、まさか……」

 ふと脳裏に浮かぶのは『女装』の二文字だったので、俺は逃げる準備を整える。

「違いますよ」

 と明日葉は笑ってみせるが、さてどうか。

「前回は『誰かさんが更衣室に飛び込んできたせいで』結局買い物ができなかったので」

「その節はどうも」

 今回はもう選ぶ服が決まっているのか、明日葉まっすぐに服をとってきた。前回俺が着せられたものの、色違いだ。

「おそろいですね」

「そんなおそろいは嫌だ……」

 というか二度と着ないからな。何故女装しなきゃならないのだ。

「まあおそろいは次の機会と言うことで」

 と良いながら更衣室へ向かう明日葉に続く。

「……何故、さも当たり前の顔をして更衣室へついてくるのですか?」

「え?」

 怒っていると言うよりは、「病院行く?」という哀れみの色をにじませて問い掛ける彼女に、俺は首を傾げた。

「何故って……前回だって茜音と入っていたんだし、一人だと着難いなんじゃないのか?」

「まあ、確かにその通りです。でも、何故恭吾君が?」

「俺しか居ないなら手伝おうかな、と思っただけのだが……」

「……はぁ」

 ため息つかれた。ただの好意なのに。更衣おっと、ついつまらないこと言いそうになった。反省反省。

「恭吾君、どこにクラスの女子の着替えを手伝う男子が居るのかを考えてください。それは普通に変態、ですよ?」

「でも下着姿なら前に見ぐはっ」

「忘れてください」

 い、今更目つぶししても意味ないだろ! と突かれた目を押さえながら呻く。

「シスコン云々以上に変態ですか。これ以上その話題に触れるなら――」

「触れるなら?」

「茜音ちゃんとお風呂に入ります!」

「なん、だと……」

 可及的速やかに、次の話題に移ろうじゃないか。

「そういうわけなのでしばらく待っていてください。……今日は飛びこんでこないでくださいね?」

「さあ、それはわからなすいません嘘です入りません」

 携帯電話に茜音の番号を表示させた明日葉にマッハで謝る。

 ぐぬう。



 茜音は黙って、二人の様子を窺っていた。

 周囲はそれぞれのグループで談笑して、全体としてがやがやと聞こえていることを思えば、その真剣な顔つきはやや浮いている、という所感を抱く。

「そういえば」

 と玲二が口を開く。その軽さは若干、甘味料がかった嘘くささを乗せていた。

「この前二人と一緒に居た可愛いこはいたたたたたたたた」

 言いかけた途端、晶子に腕をきめられて叫ぶ。けれど笑顔なのは、多分何か新しい世界に目覚めたとかではない、はずだ、きっと。

 そんな二人の方を振り返って、茜音が微笑む。

「本当に仲良いね?」

「でしょ?」

 と晶子も笑う。

「そういうのは腕を離してからやって! あ、今ボキッて! なんか変な音したから!」

「あ、大丈夫?」

 と顔をのぞき込む晶子だが、玲二はわざとらしい表情を作ると、

「くっ、残念ながら僕はここまでみたいだ……二人は先に行ってくれ……」

 などといいながらじりじりと後ずさっていく。後ろを歩いていた一団が若干顔をしかめながらよけて、通り過ぎていった。

「玲二」

 と、その腕をとって、正面から晶子が彼を見つめる。

「な、なんだよ……」

 些かばかり身を固くして、玲二が見つめ返す。

「…………」

 晶子はただじっと、彼の瞳を見上げ続ける。

「………………」

 玲二は少し目をそらす。けれど晶子はまっすぐに仰望し続けた。

「だ、だからなんなんだよ」

 しどろもどろで問い掛ける。

「帰っちゃ、や」

「うっ……」

 上目遣いで、ストレートに甘えた声を出されて、彼は息をのむ。

「…………」

 それ以上は何も言わず、たた瞻視を続ける。

「わ、わかったよ……」

 と彼が頷くと、破顔一笑。それにまた、玲二は戸惑うのだった。



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