第五話 シスコン(俺)が彼女(偽)に不意を突かれる
第五話 シスコン(俺)が彼女(偽)に不意を突かれる
夏休みはまだ遠く、当然体育祭も遠い。そんなぽっかりと空いた日程に、クラスの親睦を理由に、我が校では球技大会なるものが開かれる。
クラス対抗で、種目は四つ。フットサル、キックベース、バスケ、バレーだ。サッカーではなくてフットサルなのは、単純にスペースや人数の問題。野球ではなくキックバースなのはそれに加え、ボールが他の場所へ飛んでいくと危ないから、だそうだ。
それぞれクラスで振り分けがあるのだが、志望人数上、キックベースは男子だけになる年が多く、その例に漏れず今年も、キックベースは男子だけだ。
さて、そして競技選択、であるが。まず、「となりで女子が試合をする」ことからバスケとバレーは人気である。やれやれ。
俺はフットサルにした。ちなみに玲二はバスケにしたらしい。同学年の女など興味ないだろうに、と思って理由を尋ねると、「小学生に教えられるようにSA☆」と爽やかに笑って見せたのでコイツはもうダメだな、と思った。
俺がフットサルにしたのは単に、サッカー以外ルールを知らないから、である。クソッタレな世界、ざまあみろ(Sucks!)、だ。
付け加えるなら、我が校にはサッカー部がない。だからフットサルはハードルが低めだ。というわけで集まるメンツもそんな感じ。あまり気負わず、「まああ学校行事だし」レベルで参加できるのである。作戦会議も練習もなし。当日それなりに楽しもうぜ、というくらいのノリなのだ。
そんな、あつくなるタイプじゃないしな。
当日。
準備運動を終え、第一試合だ。
最初の方は様子見、相手と自分側、果たしてどのくらいなのか?
ゆるめに走り、パスを貰えば、周りも見て、繋ぐ。
一人がシュートを打つ、結構強いな。筋力の無い俺ではだせないパワーだ。
近年の女子サッカー人気のせいで今年は女子もそこそこフットサルをやっているので、気合いが入っているのだろうか。
などと思いながら、俺は特に活躍することもなく一試合目を終える。
ちなみに負けた。そこそこ良い線は行っているが、いかんせん上手いのが一人なので、もう一歩足りない感じだ。せめてもう一人、ちょっとはできる奴が居れば良かったのだが。
「なあ、矢代?」
「おう?」
件の、我がチーム唯一の上手い奴、鴨下がいきなり横に現れた。
コートでは他のチームが試合をしている。うん、人のこといえないが、やっぱ全体的にレベルは低いな。小学生みたいだ。
「勝ちたくはないか」
「……いや、別に?」
「……まあ、そういうなよ」
「負けたいわけじゃないが」
「おれは、勝ちたい」
「熱血キャラ?」
「そこまで本気ではないが」
ぐだぐだとした会話だ。まあ、イベント自体ぐだぐだだしなぁ。
「あれをみろ」
そう言って鴨下は一つ奥のコートを指さす。女子が試合をしていた。
「で?」
俺は尋ねる。
「え? いや、『で?』っていうか……よくみろ」
もう一度目を遣る。女子が試合をしていた。あっちも下手だなー。
「うん、で?」
「…………御堂がいるぞ」
「へぇ」
もう一度、今度は明日葉を探してみる。本当だ。試合をしている。ふむ、彼女はそんなに運動できないわけじゃないみたいだな。
「お前、彼女に良いとこ見せようとかは?」
「別に?」
彼女じゃないしな、実際。
「御堂達、さっきこっちの試合見てたぞ」
「お前、試合中によそ見してたのかよ」
勝つ気無いじゃないか。
「そしてあちらを見ろ」
そう言って鴨下が指さしたのは、クラスメートの桜井……えーっと、桜井だ。
「おれは、勝ちたい」
「ああ、そういう……」
改めてそう云う鴨下に頷いた。
「頑張れ」
「まあ、そういうなよ」
会話がループしている……。
「この試合に勝てたら、おれ、桜井に告白しようと思うんだ」
「死亡フラグだな」
そしてベタだな。
「とりあえず言いたいことはわかった。だが俺は別にサッカー得意じゃないんだ」
「頼れるのは矢代だけなんだ」
そう言って鴨下がちらりとチームメイトを見る。
「…………」
「…………ああ」
キーパー以外は弱そうだった。
「善処はするよ。ただあまり期待はするな……そうだな、あれだ、自分の手でつかみ取った勝利を彼女に捧げるんだ!」
俺は意味なくテンションを上げていってみた。
「おう! そうだな! おれは勝つ!」
そう言って鴨下は練習を始めた。なんか、素直で良い奴だな。