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第四話 学年一の美少女(笑)が自宅に泊まりにくる 3


 さて、その後。

 しっかり服を着込んだ妹が出てくるまで俺は立ち尽くしていた。

 彼女は俺から目を背け、慌てることなく横を通り過ぎると自分の部屋に入り、そのままでてこなくなってしまった。

「ど、どうしよう」

 すっかり存在を忘れていた明日葉に、居間でそう尋ねる。

「どうしよう、と言われても……」

 うぅ、役に立たない、と理不尽に思った。

「殴られるとか怒鳴られるとか、そういうのが何もないって……」

「怒鳴られたいの? 変態なの?」

「いや、違うよ……。そうじゃなくて。こう、そういうのがないってよっぽど本気っぽいじゃないか」

「殴らない方が本気っぽいの?」

「そりゃあ。こういう時って普通、怒鳴られて殴られて、ドタバタギャグっぽく落ちがついて収まる、ものじゃないか」

「恭吾君の普通は相変わらず歪んでいる気がするけれど、まあ言いたいことはなんとなくわかりました」

 彼女は頷くと、続ける。

「つまり怒鳴る気にもならないくらい本気で嫌われて、顔も見たくないとばかりに部屋に引っ込まれて、これっていつもみたいにシスコンどうこうをいなされてるとの違って、普通に冷静に嫌がられて避けられてるって、そういうことね?」

「っ!」

 ぐさぐさと言葉が刺さる。その通りだけど、その通りだけれども。

「家族だから大事にはしないけれど、極力接触を避けて、空気のように当たり障り無く上っ面だけ取り繕ってこれからは暮らしましょうと、そういう意思表示をされているというわけね」

「…………」

 泣きそうです。

「本当に?」

「なにがさ……」

 半分涙声で俺は答えた。

「勝手にそう思ってるだけじゃない? ちゃんと確かめたの?」

「確かめるも何も」

 一言も口をきいてくれないまま部屋に引っ込んじゃったし。そのまま出てこないし。

「勝手に決めつけて勝手に諦めて……恭吾君は一体何を見て、何におびえているのか、という話です」

「何ってそりゃあ……」

 妹に嫌われたことだけれど。

「だいたい『嫌われた……』で諦めていい程度のことなのですか? という話です」

「それは……」

 わかってるけど。どうしていいやら。

「何にせよ、誤解を解く努力は必要なんじゃないですか? そこからどうするか、です」

「う、うん……」

 確かにその通りだ。

「あと、こういう状況でこういうことを言うのはちょっと微妙かな、とは思いますが」

 と彼女は前置きをして。

「私の下着姿を見た直後は平然と話しかけてきたくせに、茜音ちゃんのことになった途端随分ふためいていますね?」

 と、それは挑発を含むようないい方だった。決して悪い意味ではなく、俺の背中を押すような。答えを絞る、問いかけだ。

 だから俺は深呼吸をして、彼女に応えるように返答する。

「そりゃそうさ。何せ俺はシスコンだからな。喜ぶのも落ち込むのも、全部妹のことだけだ。世界は妹の為に回っている。徹頭徹尾、首尾一貫、この世界は妹のためにある……ちょっと行ってくるよ。ありがとう」

「恭吾君も結構、可愛いですね」

 彼女は満足げに頷いてそう言った。

「ほっとけ」

 わざと素っ気なく言って、俺は世界一可愛い妹の部屋へ向かう。

 彼女は笑って、手を振って見せた。


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