第四話 学年一の美少女(笑)が自宅に泊まりにくる
第四話 学年一の美少女(笑)が自宅に泊まりにくる
「可愛いと、思いませんか?」
彼女は少し顔を赤らめて、俺にそう尋ねた。
「とても可愛いよ」
俺は思ったとおりに、そう口にした。
「選ぶのに時間、かかったんですよ」
そう言って微笑むだけなら、目の前の彼女はとても綺麗だ。
だが、しかし。
「ね、お義兄さん、私……」
クラス一、いや、学年一の美少女が、俺のすぐそばで、顔を赤らめて、俺を見つめている。
「同じ名字を、名乗ってもいいですか……?」
それはまるで、愛の告白。
彼女は身を乗り出して、俺の胸にそっと手を置いた。携帯電話を俺に見せながら、
「妹さんを、私にくださいっ!」
「貴様なんぞに妹はやらん!」
携帯を奪い取り、待ち受け画面の、隠し撮り確実な妹の写真を消しながら俺は叫んだ。
「ああっ、私の茜音ちゃんがっ!」
「いつ貴様のものになった!? 永遠にそんな日はこないからな!」
「い、いい加減にしなさいこのシスコン!」
「ストーカーよりマシだボケ!」
「妹離れのいい機会です! 身を引いてください!」
「断るッ! 一生妹離れなどするつもりはないッ!」
「この変態っ!」
「貴様が言えた義理か!」
屋上、誰もいないのをいいことに、かぶっている猫をかなぐり捨てた明日葉とぎゃあぎゃあ罵りあう。
今となっては慣れた光景。
やっぱりあれだ。
学年一の美少女なんて、遠くから見てるくらいでちょうどいい。
いや、こいつが特殊すぎるのか。
「とにかくっ、私はあきらめませんからねっ!」
「諦めろ、近寄ってくんな!」
「もう遠くから見る段階は終わったのです」
「そんな段階がある時点で間違ってるからな!?」
まあ、こんな残念美人の生態など、本来どうでもいいのだ。俺に関わりの無いところで、勝手にやってくれるなら。
「今から茜音ちゃんのところに行ってきます、お義兄さんっ!」
「行くなっつてんだろ! 帰れ!」
しかし可愛い妹につく虫ならば、よかろうが悪かろうがすべてはらう。なぜなら俺は、兄だから。たった二人きりの家族だからだ。
「茜音ちゃんが待っているのですっ!」
「絶対待ってないからな!」
「じゃあ賭けましょう。今から一緒に帰って、茜音ちゃんが私と恭吾君、どちらに先に声をかけるか」
「ああ、いいさ。俺が先なら帰れよ。あとお前が帰る場所はウチじゃないからな」
「細かいですね……。いいでしょう。私が先なら恭吾君を外で時間をつぶしててくださいね」
「よし、決まりだな。じゃあ行くか」
「そうですね」
俺達は並んで、屋上を後にした。途中、同じ学校の生徒から間違った嫉妬の視線を食らうのにも慣れてきた。何度でも言う、むしろお前らがコイツを引き取ってくれ。
「猫ですっ」
そう言って駆け出す明日葉。この辺りは住宅街だから、たまに猫をみかける。だが、ビル街やマンションの方に住んでいる明日葉には珍しいのだろう。確かに猫ってビル街じゃペットショップくらいでしか見かけないよな。
そのせいなのか猫に直行した明日葉を、後ろから眺める形になる。塀の上で丸くなっている猫と、背伸びして目線の高さを合わせる明日葉。
見てるだけなら絵になるんだがなぁ。
「ねこー、ねこー」
と声をかけながら手を伸ばす明日葉。いやそれ、「人間」っつえ呼びかけてるようなものだからね?
猫は人になれているのか、なでられるままになっている。
猫にかまっているを立ち止まって眺める。俺は自分から猫によっていくタイプじゃないし、猫も一人ならともかく二人からかまわれたくはないだろう。
「にゃー、にゃー」
「…………」
本当、余計なこと喋らなければ見た目は良いのにな。こうして猫と戯れている姿は、普通に可愛らしい。
妹に向かうときの残念さも、クラスでのさりげないしたたかさも、猫と戯れる幼い姿も。
同級生に見せる顔、下級生に見せる顔、或いは猫に見せる顔? 少しずつ違うにせよ、別にどれかかが嘘って訳でもなく。
「まだまだわっかんねーな」
などとひとりごちてみたり。
しばらくそうしていると、満足したのか明日葉が戻ってくる。
「堪能しました」
「猫、好きなの?」
と、問い掛けた俺に、
「かわいいものは、好きですよ?」
そういって笑いかけた。
そういえば、俺に向けられた明日葉の笑顔を、ちゃんとみたのは初めてかも知れないな、と思った。
別にそれを可愛いとか、思ったりはしていない、ということにしておこう。




