第三話 世界一可愛い妹(天使)が休日に出かける 4
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ど、どうも……こんにちは。喜納舞絵といいます。あのっ、あまり、可愛い服とか似合わないかもだけど、よろしくお願いします。
うん、やけっぱちだ。名前は恭吾に対応させただけ。素のテンションで女装とか……厳しい。
「ねー、舞絵ちゃん?」
悪魔、もとい妹がニヤニヤとウィヘヘの中間くらいの笑いを浮かべて話しかけてくる。
元々華奢な俺に、化粧が施されているので、さほど見苦しくはないはずだ。
だが……女装が見苦しくないのは、男としてうれしいのか……!?
「なかなか似合いますね、お義姉様?」
「いろんな意味でやめろ明日葉」
「舞絵ちゃん? 言葉遣いには気をつけないと」
「茜音さん、本当、勘弁してください」
連れてこられたカフェは、けれど俺を難なく通したし、周りからも妙な視線はない。なんてことだ……。
四人がけの席。俺の正面には明日葉。その隣に茜音が座っている。
「ねえ茜音ちゃん? 注文どうしましょうか?」
それと、茜音に話しかける明日葉を直接見て気づいたことがある。残念変態な明日葉の本性を茜音が知っているとは思っていなかったが、クラスメートが知っている明日葉とも、また少し違うみたいだ。
俺の前では残念変態。クラスでは大人しいお嬢様、後輩にはしっかりしたお姉様、それが明日葉のイメージ、のようだ。いろいろと立場がかぶってる俺だけが、その小さな違和感を抱いている。
と、明日葉が身を乗り出して茜音に聞こえないよう小声で俺に話しかけてきた。
「(ああ、メニューを悩みながら選んでる茜音ちゃんはかわいいですね、お義兄さん?)」
「(全面同意だ。しかし俺は君の兄ではない)」
「(お義姉さん?)」
「(本性ばらすぞ)」
「(どうぞ? 別に隠してるわけじゃないもの。その時その時素直に相手してるだけ)」
「(段々俺に対するキャラがぶれてないか?)」
「(そうですね。まあ、『ただのクラスメート』と『お義兄さん』に対しての態度は違って当然かと)」
「(お前、一生俺に敬語つかえ)」
「(もちろん、ですよ、お義兄さん?)」
だめだ話通じねえ。
「(しかし恭吾君。私はこうして『お義兄さん』と仲良くしようとしているのに、どうしてそんなに邪険にするのですか?)」
「(理由、言う必要あるのか?)」
「(ううん、だって恭吾君――ああ、いえ、もっとわかってからにします)」
「(なんのことやら)」
「ねえ、舞絵ちゃん?」
「はえ?」
メニューから顔を上げた茜音が、こちらを見ていた。
「やっぱり、明日葉さんと妙に仲良くない?」
「いや、全然」
「私としては、もっと仲良くしたいんですけどね」
「「明日葉さん!?」」
シンクロした。やっぱり茜音とは通じ合ってるな、じゃなくて。
「(何言ってるんだお前)」
「(? なにがです? 今さっき恭吾君本人にも言ったことじゃないですか)」
「(お前の目的は俺じゃないだろ)」
「(将を射んと欲すればまず馬を射よ、といいますでしょう、お義兄さん?)」
「(ええい、誰が馬か。猫なで声で軽々しく兄などと呼ぶな!)」
「(いいえ、親族として最大限の親しみを込めて呼んでいますよ? 妻の兄ですもの)」
「(何度も言うが、貴様なんぞ妹はやらん!)」
「お兄ちゃん!」
「な、なに……?」
急に大声を出した茜音に驚いて、俺達はそちらを見た。
「席替えをします。恭吾くん、明日葉さんと近すぎ」
といって、茜音が俺の正面に来た。え? というかはじめからこれで良くないか? 全員得じゃないか。ただ明日葉がさりげなく、さっきまでより茜音と近いのが気になるが。
その後は特に何事も無く、という感じだ。というかお互い、俺――明日葉、明日葉――茜音、茜音――俺、で関係が別なため、どちらにギアを合わせていいかよくわからないまま、というのがある。こう、授業参観の気分、というのか。
クラスと家ではやっぱり微妙に違うのだ。
女装については嫌な発見ながら、座って話している分にはさして気にならない、ということがわかった。いや、自分の姿って自分じゃ見えないしね?
元々ファッションには無頓着なので。いや、外歩くことを考えたら、無頓着とかいえる領域じゃないのは百も承知だけどさ。
まあこんなこと二度と無いだろうし、なんとか綺麗にいい思い出って事にしとけないかな、と考えたりするのだった、無理矢理。
発見と言えば。
普段、玲二と二人の時に比べて、きわめて自然に気負うことなくパフェをたのめるのはいいかな、と思った。いや、そのために女装はしないけれども。
さて。パフェを食べられて良かったね、で終わるほど、上手くいくはずもなく。
本日最後の試練が、俺にはまっていたのだった。




