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【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: 更田遅筋
第14章 王都に舞い戻る

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第138話 落ちぶれた元王太子

オルランドの居所は、すぐに知れた。


廃嫡されたかつての王太子は、今、王都の片隅の小さな屋敷で、ひっそりと暮らしているという。

王位継承権を剥奪され、贅を尽くした宮廷から、遠く離れた場所で。


馬車を降り、その屋敷の前に立つ。

かつての栄華とは比ぶべくもない、寂れた佇まいだった。

手入れのされていない庭。色あせた門。

落ちぶれた、という言葉が、これほど似合う場所もなかった。


「本当に、会うのか」

隣で、アルヴィスが静かに問うた。

「あの男は、お前を最もひどく傷つけた相手だ」


「ええ」

わたくしは頷いた。

「だからこそ、きちんと向き合わなければ。これが、最後のけじめです」


胸の奥に、わずかなざわめきがあった。憎しみとは違う。けれど、平静とも言えない。あの日、公衆の面前でわたくしを断罪した男。その声を、今もはっきりと覚えている。



屋敷の中へ通された。


応接間は、薄暗く、どこかかび臭かった。

かつての王太子の住まいとは思えないほど、荒れている。


しばらく待つと、一人の男が姿を現した。


オルランドだった。けれど、その姿に、わたくしは息を呑んだ。


かつて自信に満ち、傲岸だったあの男は、見る影もなかった。やつれた頬。落ちくぼんだ目。質素な、よれた服。髪には、白いものさえ混じっている。まだ若いはずなのに、ひどく老け込んで見えた。


「……セレスティアか」

オルランドの声は、かすれていた。


「何をしに来た。落ちぶれたわたしを笑いに来たのか」


その言葉に、かつての高慢さの名残を感じた。けれど、それはもう、虚勢でしかなかった。


「笑いになど、来ていません」

わたくしは、静かに答えた。



オルランドは、力なく椅子に腰を下ろした。そして、自嘲するように口を歪めた。


「知っているだろう。わたしは、すべてを失った。王位も、地位も、名誉も。お前を追い出してから。何もかもが、おかしくなった」


彼は、虚ろな目で、宙を見つめた。


「お前がいた頃は、気づかなかった。お前が、どれほど公爵家として、政務を支えていたか。お前を失って、初めて、わたしは、自分がいかに無能だったかを、思い知った」


その告白には、痛々しいほどの、後悔が滲んでいた。


「宮廷の食事も、お前がいた頃は、素晴らしかった。お前が去った後、どんどんまずくなった。あれは、お前が陰で、料理に心を配っていたからだと、後で知った」


オルランドは、両手で顔を覆った。


「いや、料理だけではない。お前が整えていた、宮廷の費えの差配も。地方との、交易の道筋も。お前が消えた途端、何もかもが、回らなくなった。後釜に据えた者たちは、目先の利だけを追い、国の蔵には、取り返しのつかぬ穴が空いた。——わたしは、最も得難い、宝を、自らの手で、捨てたのだ。何も知らず、ただの、愚か者として」


その言葉に、わたくしは内心で静かに頷いた。

公爵家の娘として、領地の経営も王宮の差配も、すべてを学び、支えてきた。前世の知識と合わせれば、それは、誰にも真似のできない力だった。

それを、ただ「気に入らない」という理由で切り捨てた。

彼の凋落は、その日に、すでに決まっていたのだ。


わたくしは黙って、その言葉を聞いていた。かつてわたくしを切り捨てた男が、今、こうして悔いている。けれど、それを聞いても、胸は晴れなかった。ただ、もの悲しさだけが広がっていく。


ざまぁ、という言葉が頭をよぎった。かつてわたくしを嘲笑い、辺境へ追いやった男が、すべてを失い、こうして老け込んでいる。これ以上ない、因果応報の姿だ。けれど、その光景を前にしても、わたくしの心は、少しも晴れやかにならなかった。


むしろ、わかったことがある。

本当の意味で、わたくしは、この男をとうに乗り越えていたのだ。

世界を救う旅の中で、神々の絶望に触れ、人々の飢えと向き合い、数えきれない命を救ってきた。

その日々が、わたくしを、別の高みへと連れていった。

今のわたくしにとって、オルランドへの恨みなど、もう、ずっと遠い小さなものになっていた。


だからこそ、わたくしは、彼を罵る気にはなれなかった。落ちた相手を、さらに踏みつけることに、何の意味も見出せなかった。



「なぜ、何も言わない」

オルランドが、苛立ったように声を荒げた。

「罵るなり、嘲るなり、すればいい。お前には、その権利がある」


「あなたを罵るために、来たのではありません」

わたくしは、まっすぐに彼を見た。

「ただ、一つ、伝えたいことがあって来たのです」


オルランドが、訝しげに、わたくしを見返した。


わたくしは、静かに息を吸った。

これから告げる言葉こそが、わたくしの本当のけじめだった。

憎しみでも、復讐でもない。

けれど、決して、彼の罪を、なかったことにするのでもない。


かつて、わたくしを断罪した男を前に。今、わたくしは、まっすぐに、その目を見据えた。長い因縁の、最後の対峙が、いよいよ、その核心へと向かおうとしていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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