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第五十話:従魔契約

 しばらく考えて、俺は一つの答えを出した。

 俺はその場に腰を下ろすと、テイマーの男に向かって首を差し出す。

 そう、俺は契約を受け入れることにした。


「そう、それでいいのですよ。さあ、ゴンザ、適当に名を付けてしまいなさい」


「ヘイ。そうだな……白いドラゴン、だから、お前の名前はシロだ」


 白いドラゴンだからシロとか、なんて安直なネーミングなんだろう。

 テイマーとして名付けをすることは多いだろうし、それなりにネーミングセンスはよくないといけなそうだけど、能力を持っていてもセンスまではついてこないということだろうか。

 どこか冷めた目で見ていると、エドワードはくつくつと高笑いし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「ふっ、所詮はただの魔物か。従属させてしまえばなんてことはない。これでベランジェ様もご満足されることだろう。はーはっはっは!」


「旦那、主は誰にしときますかい?」


「ふむ、そうですね。ひとまずは私でいいでしょう。後でベランジェ様に献上するとします」


「了解でさ。シロ、お前はエドワード様の命令に従うんだぞ」


『はいはい』


 二クスの話では、名付けをされるとその人物を尊敬したくなったり言うことを聞きたくなったりするらしいんだけど、今のところそんな兆候は見られない。

 返事はしたけど、別に言うことを聞きたいからというわけではなく、早くフェルを開放してほしいから投げやりになっているだけだ。

 というか、ほんとに早くフェルを開放してほしい。

 ちゃんと言うことを聞いたんだからそっちも言うことを守るべきだろう。


「エドワード殿、契約は無事に成ったようだ。そろそろフェルを開放していただけないでしょうか?」


「ああ、そういえばいましたね、そんなのも。いいでしょう、こうして従魔契約をできた以上はこの小娘も用済みです。おい、出してやれ」


「はっ!」


 エドワードの指示に兵士の一人が檻の鍵を開ける。

 そして、乱暴に腕を掴むと、こちらへ突き飛ばしてきた。


「フェル!」


 メルセウスが慌ててそれを受け止める。

 猿轡や手枷はそのままだったのでフェルもバランスが取れなかったようだ。

 開放するならちゃんと全部解けよ。くそが。

 俺はじろりとエドワードの方を睨むが、エドワードは上機嫌な様子で俺の視線に気づいていないようだった。


「さて、ドラゴンを手に入れられればここに長居は無用です。引き揚げますよ」


「ま、待って!」


 その場を去ろうと身を翻したエドワード達に向かって、少女の声が響き渡る。

 手枷はともかく、猿轡はどうやらメルセウスの手によって外されたようだ。

 エドワードを引き留めたというよりは、俺に向かって叫んだのかな?

 俺はちらりとフェルの方を見る。

 酷い扱いを受けていたのか、フェルの体は結構痛々しい傷ができている。

 フェルをこんな目に合わせるなんて許せないけど、だからと言って殺したいとも思わない。

 元人間として、流石に人間を殺すのはためらわれるのだ。

 俺は軽く手を振ると、フェルに治癒魔法をかける。淡い光がフェルを包み込むと、次の瞬間にはフェルの傷は跡形もなく消えていた。


「こら、何を勝手なことをしているのです。そんな小娘は放っておいて、私についてきなさい!」


 命令という名の拘束力。そこまで強い力ではないけれど、確かに何となく従わなければという気がしないでもないかも?

 別にこのまま森に帰ったっていいけれど、ここで帰ったらまたフェルが危険な目に遭いそうだし、戻るとしてもきちんとフェルの安全が確認できてからだ。

 俺はエドワードの後をついていく。フェルは心配だけど、治癒魔法もかけたし多分大丈夫だろう。


「ルミエール!」


 しかし、その名を呼ばれて俺は足を止めた。

 ルミエール。フェルが俺に付けてくれた初めての名前。

 その名前を聞いた時、俺は自然と振り向いてしまった。

 その名前が特別だったからというのもあるだろうが、何というのだろう、心に響いたというべきだろうか。

 シロなんて名前よりもよっぽど特別な、安心できる響きがあった。


「戻ってきて! 私を置いていかないで!」


『……もちろん。フェルを一人になんてしないよ』


 気づけば俺はフェルの下に歩き出していた。

 エドワードの命令? そんなもの知ったことではない。

 誰が主というのなら、それはエドワードではなく、フェルだ。

 フェルは俺に名を付けてくれた初めての人物。テイマーだろうがなかろうが、その名前には特別な意味がある。

 少なくとも、適当に付けられた名前よりも何倍も信頼できる名前なのだ。


「何をしている! お前の主はこの私だぞ!」


 エドワードが顔を真っ赤にして叫んでいるが、もうその言葉は俺には響かない。

 俺の使命はフェルを守ることなのだから。


「ルミエール、私のことがわかる?」


『当たり前でしょ。フェルを忘れるなんてありえないよ』


 近寄ってくるフェルを抱き留め、爪で手枷を破壊する。

 自由になった手で俺の体に抱き着いてくるフェルは目に涙を浮かべていて、信じられないといった様子だった。


「よかった……ルミエールがあいつらに従属させられたらどうしようかと……」


 まあ、確かに正式なテイマーが名付けを行ったのなら従属していてもおかしくはなかったよね。

 実際、なぜこんなに強制力がなかったのかはわからない。

 元から、テイマーの名付けによる従魔契約はこの程度の拘束力しかないのか、それとも名付けを受け入れたとはいえ、心の底では屈服していなかったからか。

 一番ありえそうなことと言えば、フェルがあらかじめ名付けを行ってくれていたからだろうか。

 フェルに対して従属したいかと言われたらそんなことはないように思えるけど、誰に仕えたいかと言われたらフェルだろう。

 俺の中で重要な部分がそちらに傾いていたから、後からつけられた名付けは無効になったと考えてもおかしくはなさそうである。

 まあなんにしても、エドワードの策略は失敗に終わったというわけだ。


「ルミエール、これからも、私と一緒にいてくれる?」


『うん。ずっと守るよ』


 そう言って俺もフェルのことを抱きしめる。

 と言っても、本気でやったら潰しちゃうから本当に軽くだけど。


「……なるほど、そういうことですか」


 しばらく抱き合っていると、エドワードが肩をフルフルと震わせながら呟いた。

 まだいたんだ。もうとっくにいなくなってると思ってたのに。


「先にその小娘が名付けを行っていたから名付けが効かなかったというわけですね。なるほど、それなら納得できます。ですが、それなら話は簡単です。そこの小娘!」


「ひっ!」


「今すぐ主の権限を私に渡しなさい。そうすれば、痛い目に遭わずに済みますよ?」


 そう言って、フェルに向かって兵士を差し向けてくる。

 しかし、それを黙って見ている俺ではない。フェルを背中に隠し、兵士の前に立ちはだかった。


「少々行き違いはあったようだが、そちらの条件はすべて飲んだはず。であれば、これ以上フェルに手を出されるいわれはない。これ以上フェルに手を出すのであれば、我々も抵抗させていただきますよ」


 俺の隣にメルセウスが出てくる。その他の冒険者もそれぞれの武器を構えながら兵士と対峙した。

 エドワードの率いる兵士と冒険者達。戦力は大体互角だろうか。俺が加勢をすれば容易に勝てそうではある。


「貴様ら……! ベランジェ様に逆らう気ですか!?」


「お言葉ですが、冒険者を私的な理由で誘拐し、痛めつけた挙句、白竜殿と引き離そうなど看過できることではない。我々はあなたの奴隷ではないのですから」


 領主とは対立したくなさそうだったメルセウスも覚悟を決めたようだった。

 こうなった以上、もはや戦闘は避けられない。

 俺はフェルの位置を確認すると、慎重に立ち位置を調整した。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
よし、やれ!
本当にすでにペット化してた! 主人公が幼女でペットという珍しい展開。
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