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第二百七十一話:正体を明かし

「わたし、どらごん」


「ちょ、ルミエール!?」


 いきなり口走った俺を見て、フェルが慌てて口を塞ぐ。

 確かに、ディートリヒさんに正体がばれれば、殺されるリスクもあるけど、すでにあちらはこちらを人間とは思っていないようだし、今更正体を明かしたところでどうということはないだろう。

 もちろん、ドラゴンということは、今まで倒してきた強力な魔物と同じということになる。それで、剣を向けてくる可能性も十分にある。

 けど、俺はディートリヒさんのことを信じたかった。

 人外だとわかっていながら、俺のためにあそこまで必死になってくれた、ディートリヒさんのことを。


「……ドラゴンと来たか。それも、幻獣という奴か?」


「そう」


「自ら神の遣いを名乗るなんて、とは思うが、この場合は本当に幻獣だからこそ、詳しい話を知っていたと考えるべきだろうな」


 ディートリヒさんは、俺に手を伸ばして、少し彷徨わせた後、手を戻す。

 そして、代わりに頭を下げると、こちらに謝罪をしてきた。


「どうやら、君の言うことは間違っていないようだ。そして、神の遣いたるドラゴンを討伐してきたのは、私の罪。どうか、裁きを下してほしい」


「ううん、でぃーとりひさん、わるくない」


「赦しを与えるというのか? 私は、君の同胞を……」


「かんちがい、しかたない」


 今まで殺されてきたドラゴンには申し訳ないが、ディートリヒさんも悪気があったわけではない。

 悪者がいるとすれば、自らが手を出したにもかかわらず、相手がやったと被害者ぶってディートリヒさんを差し向けた人達だろうし、ディートリヒさんは仕事を忠実にやり遂げただけだ。

 これから、真実を知って、幻獣を倒すことをやめてくれるのなら、それでいい。


「……ありがとう。では、改めてルミエール様、あなたは何をやろうとしていたのですか?」


「けいご、いらない」


「それが望みならば、いつも通りに話そう。して、仔細は?」


「えっとね……」


 俺は、フェルとニクスについても話す。

 どうやら、幻獣と呼ばれるのはドラゴンだけと勘違いしていたようだけど、そうではなく、いろんな幻獣がいることを話した。

 フェルも、ニクスも、それぞれ幻獣であり、特にニクスは、遥か昔からこの世界を見守ってきた古参である。

 それを聞いて、ディートリヒさんは少し難しそうな顔をしていたが、二人が仲間、あの声の言うところの同胞であることはわかってくれたようだ。


「幻獣というのは、いろいろな者がいるのだな。そうして、人の姿になって町に来るのも、一般的なのか?」


「いちぶ、だけ」


「なるほど。なかなかに興味深い」


 人化の術は、幻獣なら大抵が知っているものだと思うけど、今もなお使っている者は少ない。

 戦争により、人々への関心が失われた後は、一部のもの好きが人の文化に触れるために使っているくらいで、ほとんどは未開の地で静かに暮らしているだけだ。

 今までを振り返ってみても、人化していたのなんて、ユグドラシルの職員くらいじゃないだろうか?

 人と幻獣の共生の象徴であるユグドラシルだからこその光景だったのかもね。


「そうなると、私のこの力は、倒すべき相手を示しているのではなく、助けるべき相手を示していたということか?」


「そう、かも?」


 言われてみれば、強力な魔物がいる場所を示しているということは、幻獣の場所を示しているということである。

 泉の声が、幻獣を助けてほしいという意味を込めていたなら、それによって授かった力は、助けるべき相手を示していたのかもしれない。

 本当に、勘違いによって、助けるべき相手を倒してしまっていたってことになるよね。

 詳しく伝えていたらこんなことには、と思うけど、苦しそうだったらしいし、そんな余裕もなかったのかもしれない。


「ディートリヒさん、これからどうするつもりですか?」


「私が使命を間違った形で叶えようとしていたことは、言い逃れの仕様もない。罪滅ぼしになるかはわからないが、これからは倒すのではなく、助けることで、罪を清算していきたいと思う」


 ディートリヒさんは、助けるべき相手を倒してしまったことを、相当悔いているようだ。

 仕方のないこととはいえ、信じていた神様の言葉を裏切ったことになるもんね。信心深そうなディートリヒさんなら、罪の意識を感じるのも頷ける。

 どうやって幻獣を助けるのかはわからないけど、頑張って欲しいところだね。


「そうだ、ニクスにも謝罪をしなければな。人だったなら、子をダンジョンの奥地に放り出すなんて許しがたいことだが、幻獣であったのなら、それも当然のことだっただろう。非礼を詫びなければ」


「いや、あれは、やりすぎ、だった」


 ニクスが落とし穴から突き落としたのはただの八つ当たりだと思う。

 まあ、俺が悪いんだけどさ。

 しかし、事情を知ってしまったディートリヒさんのことは、ニクスにも報告しておいた方がいいだろう。

 本来なら、幻獣であることはあまり知らせてはいけないことだからね。


「こんなことになるんじゃないかとは思っていたが、本当に貴様は馬鹿だな」


「あ、にくす」


 そう思っていると、どこからともなくニクスが現れた。

 フェルに任せていたから、見守るつもりはないのかと思っていたけど、ちゃんと遠くから見ていたらしい。

 過保護だなと思わなくもないけど、最悪戦闘になっていたかもしれないし、ニクスも俺がディートリヒさんに勝てないことは見透かしていたから、心配になるのは当然かもしれない。

 ちょっと嬉しいと思いながら、ニクスとディートリヒさんを引き合わせる。

 ディートリヒさんは、少し難しそうな顔をしながら、頭を下げた。


「先程の非礼を詫びよう。急に勝負を挑んですまなかった」


「ふん、大した労力でもないからどうでもいい。それより、貴様は幻獣について知ったようだな。我らの正体も」


「ああ。神の遣いである幻獣。本来なら、膝をついて敬意を払うところかもしれないが、あなたはそれを望まないだろう?」


「当たり前だ。そんな気色悪いことされても変に注目を集めるだけだしな。貴様はそのままでいればいい」


「気遣い、感謝する」


 ディートリヒさんって、元々敬語はあまり得意じゃないように思える。

 いや、多分仕えるべき王様とかには敬意を払うのかもしれないけど、仕えるべき者がいなくなった今、真に敬意を払う者はいなくなったのだろう。

 強いて言うなら、泉の声の主がそうなのかもしれないが、それは神様の声だと思っていたようだしね。

 それでも、あまり口調が崩れないのは、永くその話し方をして慣れてしまったってことだと思う。

 俺としては、変にへりくだられるよりも、そっちの方が親しみやすくていいと思うけどね。

 なんだかんだ、ディートリヒさんの暴走を止めることができて、良かった。

 見つめ合う二人を見ながら、ほっと胸をなでおろした。

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