第九十九話:町の復興
それから二週間ほど。
メリアさんの鶴の一声もあって、町長は形だけでも真摯な対応を取らざるを得なくなった。
まず復興のための資金。町長はメリアさんの責任にして無理矢理ギルドに支払わせようとしていたようだけど、当然ながらそんなのは通らず、町の資金で支払われることになった。
その額は詳しくは知らないけど、協力してくれた冒険者の数を考えると、恐らく金貨200枚程度じゃすまないだろうな。
さらに、壊れた露店の補填に関しても町が行うことになった。
元々、あの場所で店を構えている人は皆町から許可を得て店を出しているわけで、高い出店料を払う代わりに安全を保障されていたのである。
それなのに、蓋を開けてみればスタンピードで木っ端微塵にされては黙ってはいられないだろう。
店の建て直しはもちろん、売るはずだった商品なんかの補填もしなければならず、余計に金がかかったことだと思う。
初めからニクスに金貨200枚払っておけばもっと安く済んだのに、馬鹿なことをしたもんだね。
ちなみに、報酬の件だけど、ちゃんと受け取ることができた。
それも、最初に行っていた金貨200枚ではなく、さらにその倍以上の500枚である。
今回のスタンピードを早めに収束できたのはニクスが素早くダンジョンマスターを倒せたおかげであり、そうでなければ町にも被害が及んでいたことから、この金額になったようだ。
もちろん、これも町から支払われている。
支払いを担当した二コラさんは汗だらだらで緊張した様子だったけど、まあ自業自得だから仕方がない。いくら上司の命令とはいえね。
「ニクス様、改めて今回の件、本当にありがとうございました」
ダンジョン調査のため、しばらくダンジョンは閉鎖になり、ニクスの言った通り修業はできなくなってしまったので、しばらくの間ギルドで魔法の練習に明け暮れていた。
ニクスがダンジョンマスターを倒したことはメリアさんによって周知されており、冒険者達からは英雄だともてはやされている。
おかげで魔法の練習をするのが少し大変だったが、同じ風魔法を扱う魔術師とも出会え、色々教えてもらうこともできたので悪いことばかりでもなかった。
おかげでフェルもそれなりに魔法を扱えるようになってきたと思う。少なくとも、とっさの場面でもすんなり放つことができるくらいにはうまくなったことだろう。
魔力量に関してもそこそこ増えているようで、魔法を扱っていられる時間が増えた気がする。
順調に成長しているようで何よりだ。
「修行のついでだ。大したことはしていない」
「それでもです。おかげでだいぶ快適になりましたよ」
ギルドの方も体制が見直され、人員も増えて楽になってきたらしい。
以前は町のダンジョン管理課がほぼ名前だけで仕事していなかったこともあり、そのしわ寄せはすべてギルドに来ていたようだったので、それがなくなっただけでもかなり楽になったんだとか。
メリアさんも苦労してたんだね。
「そろそろ町を発つと聞きましたが、次はどこへ行かれるのですか?」
「貴様には関係のないことだ」
「そうですか。差し出がましいことを言って申し訳ありません」
この二週間、ダンジョンの調査などでダンジョンが閉鎖されていたので魔物を相手にした修行をすることはできなかった。
なので、ニクス的にはさっさと別の町に行くなりしたかったようなのだけど、そこは復興のこともあったし、俺が頼み込んで少し待ってもらったのである。
ニクスはともかく、フェルも復興の手伝いはしたかったみたいだし、午前中は復興の手伝い、午後は魔法の修業という風にルーチンを組んでいた。
ダンジョンマスターを倒したのはニクスだと思われているが、ニクスが言っているのもあるし、フェルもそれなりの活躍をしたと思われているようで、その上さらに復興の手伝いまでしているとなればフェルの人気はうなぎのぼりである。
今ではダンジョン入り口に顔を出すだけでいろんな人から声をかけられるほどだ。
それに伴って、俺も結構声をかけられている。というか、可愛がられている。
俺みたいな小さな子が復興の手伝いをしているのが珍しかったんだろう。やたらとちやほやされた。
みんな総じて頭を撫でてくるからちょっと鬱陶しいと思ったこともあったけど、まあ、お菓子が美味しかったから良しとしよう。
「もしまたこの町に来られるようなら声をかけてくださいませ。力になりますよ」
「その機会があればな」
この町を発つというのは、復興もそこそこ終わってきたし、魔法の修業だけをするにしてもこの町である必要はないため、そろそろ次の修行場に移そうという話になったからだ。
これは以前から計画していたらしい。次の行き先はすでに決まっているらしく、そこにはまたドラゴンの姿で移動する必要があるらしい。
結構長いようなので、またこの町に戻ってくるのはあってもかなり先になることだろう。
約四か月ほどいたわけだが、案外楽しかったかな。
「ルミエール!」
メリアさんと話していると、そこに聞き慣れた少年の声が聞こえてくる。
入り口から走ってくるのは、ベル君だった。
「ルミエール、この町から発つって本当か!?」
非合法のポーターであるベル君だが、そこら辺に関しても少し見直され、一部はギルドで雇うことが決まったらしい。
元々、ベル君達が路頭に迷っていたのは町長の政策のせいもあったし、そのせいで非合法のポーターとして犯罪すれすれのことをやらなくちゃいけなかったのだから、それを見て見ぬふりをしてきたギルドとしては今回を機に手を差し出す決意を固めたらしい。
おかげで、ベル君も今ではギルドの解体職として職を手にしている。
あの時助けた四人も一緒に就職したらしいので、これで安泰だろう。多分。
「うん、ほんと」
「そっか……まあ、一緒にいるのがSランク冒険者だもんな、こんな町にいつまでもいることはないか」
ベル君とはこの二週間で何度か会っているけど、だいぶ生き生きとしていたように思える。
ようやく職を手にすることができたのだから、当然と言えば当然だけど。
でも、今はその生き生きとした表情が見られない。俺達が立つと聞いて、少し思うところがあるのかもしれないね。
「また、会えるかな」
「あえる」
「ほんとか? ほんとに会えるか?」
「きっと」
生きている限り、会える可能性は常に存在する。
特に、俺はドラゴンで寿命が長いし、ベル君が生きている限りは可能性はゼロではないだろう。
まあ、住む場所を考えると限りなくゼロに近いかもしれないけどね。
「……そっか。なら、さよならは言わない」
ベル君は少し悲しそうに目を伏せていたが、すぐにかぶりを振って顔を上げると、手を差し出してきた。
「友達を助けてくれてありがとな。また来いよ」
「うん、またね」
差し出された手を取り、しっかりと握手を交わす。
別れるのは悲しいけれど、最期の別れでないのならそれは次にまた会うための過程に過ぎない。
いつか立派になったベル君を見るのを楽しみにしておこう。
俺もその時までにはきちんと喋れるようになっておかないとなと言葉の練習に力を入れる決意を固めた。
今回で第三章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第四章に続きます。




