第49話『K』
振り返って小屋の上を見上げると、小動物がこちらを見下ろしていた。
モソモソした灰色の毛並みに、ピンクの鼻。
大きく丸みを帯びた茶色の尻尾──その根本に指輪がついている。
「指輪、俺のなんだ。返してくれよ」
小動物は尻尾を揺らし、こちらを値踏みするように首をかしげた。
『なんだァ、お前は?』
挑発するような声色に、思わず眉をひそめる。
「俺はクロ。その指輪の持ち主だよ」
『キュッキュッキュ。
何を言っている? 低能なモモンガめ!
ひょっとして、空っぽの頭の中に、クルミの殻でも詰めこんでいるのか?
かわいそうなやつだなァ』
小動物は胸を張り、勝ち誇ったように鼻をプスプスと鳴らした。
『この指輪はなァ、たった今、その女からもらったんだよォーー!!
この輝き……空を統べる私にこそふさわしい! キュェーーッ!』
「リディスが……あげただと……?
何者だ、お前は」
そいつは、屋根の上で仁王立ちし、バッと両手を広げた。
その手の先から足に向けて、俺と同じような皮膜がついている。
『まったく、無知とは哀れだなァ。
毛玉の詰まったその耳をカッポじって、よぉ~く聞くがいい。
私の名は、王。
そう……グレートムササビKだッ!
ここではみな、畏怖の念を込めて、私のことをこう呼ぶ。
……グレムサKと! キュェーッキュッキュッ!』
グレムサKは恍惚とした表情で、よだれを垂らしながら叫んでいる。
その姿は、王を名乗るにはあまりにも下品で、見ているだけで相当イラつく。
『恐怖で声も出んようだなァ!
この森も! この小屋も! そのメスも! そしてこの指輪もォォ!
全て私のものッ! 最っ高の気分だッ!!』
叫び終えると同時に、グレムサKはブワッと飛び立ち、リディスの肩にとまった。
リディスは嬉しそうに目を細めている。
『いいか、貴様のようなしみッたれたゴマツブには、枯れ葉一枚とて渡さん。
分かったら、今すぐ尻尾を巻いて、ここから失せるがいいッ!
キュェッキュェーーーーッ!!』
「おい、ふざけるなよ! それは俺たちが集めた素材で作ってもらったもんだ!
リディス、何でこんなやつに渡したんだよ!」
リディスはグレムサKを撫でながら、申し訳なさそうに笑った。
「えっ、いや……クロとそっくりだし……
それにほら、キューキュー言って……クロより懐っこくて、かわいいじゃないか」
「いや、よく見ろよ、色が違うし、尻尾の形がまったく違うだろ!
それに、下品な顔しやがって! 俺の方がかわいいに決まってるだろ!」
俺の反論にかぶせるように、グレムサKは叫んだ。
『まっっったく心外だ! 見る目のない愚かなメスめ!
私の美しさ、そのマメツブとはまるで違うことも分からんのか!
それにお前も、なんだァ? そのぺっちゃりと情けない尻尾は!
あぁ~、みじめだ! みじめで平たい! キュェェーーーッ!』
尻尾をけなされ、俺の忍耐が限界を超えた。
尻尾をピンと立てて、思わず地団太を踏む。
「ムキーッ!! この尻尾の機能美がわからんとは! お前こそ残念な奴だろ!
リディス、お前がそいつに渡したのが悪いんだろ! 早く取り返せよ!」
「えぇ? あ、あー……そうだな。間違えちゃったから、返してくれ!」
リディスが手を近づけると、グレムサKは媚びるように頭をこすりつけながら、目を細めている。
『愚かで蒙昧なメスめ……貴様も、頭の中には木の実しか詰まっていないようだな……
これは私のものだ! 返すも何もない! キュェッキューーッ!』
グレムサKはよだれをまき散らしながら、勝ち誇っている。
言葉がわからないリディスは、ニコニコして撫で続けている。
その対比が余計に腹立たしい。
俺は怒りのあまり体が震え、尻尾がぶわっと広がってしまっていた。
そのとき、背後から落ち着いた声がした。
「どうしたんですか」
振り返ると、ラースが心配そうにこちらを見ている。
「このグレムサKとかいうムササビに、リディスが指輪を渡しちゃったんだよ!
しかも俺の尻尾までけなしやがった! もう許さん。こうなったら力ずくで……」
「クロ! それはだめです!」
「ええっ、なんでだよ!」
ラースは淡く明滅し、静かな口調で言う。
「落ち着いてください、クロ。
リディスさんが誤って渡したということは、“今の所有権”はグレムサKさんにあります。
そして、本来の持ち主であるあなたが現れた以上、たしかに彼には返還義務があります。
ですが──彼が返還を拒んでいる以上、力づくで奪えば“強奪”です。
それだけは絶対にしてはいけません」
そこでラースは、ふわりと近づいてきた。
声を落とし、俺だけに聞こえるような小さな声で囁く。
「クロ……今あなたにできることは──“交渉”です」
その言葉に、思わず息をのむ。
ラースはさらに近づき、ひそひそ声で続けた。
「いいですか。“交渉”のコツは二つです。
ひとつは、交換条件や見返りを、魅力的に見せること。
そしてもうひとつは──相手のプライドをくすぐって、交渉の土台に乗せることです」
ラースは柔らかく明滅して言った。
「クロ。あなたなら、できます」
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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次回2026/5/16、0:10頃、次話を更新予定です




