第19話 消えた村人と夜の怪異
魔の森へ向かう途中、蓮たちは森の入り口にある村で休息を取る。しかし、村人たちは何かに怯えていた。話を聞くと、最近夜になると村の者が次々と姿を消しているという。蓮たちはその謎を追うことに——。
王都を後にしてから二日。蓮たちは馬車を走らせ、目的地である魔の森へと向かっていた。途中にある小さな村で休息を取るため、夕方には宿を確保するつもりでいた。
「ここが例の村か」
蓮は馬車を降り、目の前に広がる村を見渡した。周囲を森に囲まれた静かな村だったが、何か違和感があった。
「……なんだか、妙に静かじゃないか?」
シャムが周囲を警戒しながら呟く。確かに、時間的には農作業や家事をしている村人たちの姿があってもおかしくない。しかし、通りにはほとんど人の気配がない。
「確かに……何かあったのかもしれないな。とりあえず、宿を探して話を聞いてみよう」
蓮たちは村の中心部に向かい、一軒の宿屋を見つけた。扉を開けると、カウンターの奥で宿の主人らしき中年の男が座っていた。
「ようこそ……珍しいな、こんな時に旅の者とは」
男は憔悴した表情を浮かべていた。
「宿を借りたいんだが……何か問題でも?」
蓮が尋ねると、男はため息をつきながら、しばらく逡巡した後、静かに語り始めた。
「実はな……この村では最近、夜になると村人が消えるんだ」
「消える?」
リーナが驚いたように問い返す。
「そうだ。ある日を境に、一人、また一人と……跡形もなくな。何の痕跡も残さずに消えちまうんだ」
「野盗や魔物の仕業じゃないのか?」
シャムが尋ねるが、宿の主人は首を振った。
「そうならまだ分かるんだがな……村の周りを見張ってても、何も起きねぇ。悲鳴一つ聞こえないまま、気がついたらいなくなってるんだ」
「……なるほど、厄介な話だな」
蓮は腕を組み、考え込んだ。この手の怪異は単純な暴漢や野盗の仕業とは思えない。何かしらの魔法的な要因が絡んでいる可能性が高い。
「お前たち……もしよければ、この謎を調査してくれないか?」
「もちろん、助けてくれるなら礼はする。だが、危険なことに巻き込みたくもない……だから、強制はしねぇ」
宿の主人の言葉に、蓮は即座に答えた。
「分かった、引き受けよう。ちょうど魔の森へ行く前だし、これが何に繋がるかも分からないからな」
「蓮……」
リーナが心配そうに見つめるが、蓮は笑ってみせた。
「大丈夫だよ。こういうのは放っておくと、後で余計に厄介になる」
「……そうね」
リーナも納得し、蓮たちは調査を開始することにした。
調査のため、蓮たちは村の見張りを申し出た。
「今夜は俺たちが監視をする。何か異変が起きたらすぐに知らせるから、村の者は家から出ないようにしてくれ」
蓮の言葉に村人たちは頷き、家の戸締まりを厳重にした。
夜になり、村は静寂に包まれる。蓮、シャム、リーナの三人は見晴らしのいい屋根の上に陣取り、村の様子を観察していた。
「今のところ、何も異変はないな……」
シャムが欠伸をしながら呟く。
「気を抜くな。これまでの話だと、不意に消えるらしいからな」
蓮は夜の闇を睨みながら、魔力を感知する術式を展開していた。そのとき——
「蓮! あれ……!」
リーナが指さした先で、ある家の扉が静かに開いた。
「……誰かが出てきた?」
一人の村人が、まるで何かに誘われるようにふらふらと歩き出していた。
「待て! そっちは森だぞ!」
蓮たちは急いで飛び降り、村人を追った。しかし、村人はまるで意識がないかのように、まっすぐ森の方へ歩いていく。
「……これは、魔法の影響か?」
蓮は咄嗟に《探知魔法》を発動させた——そして、微弱だが確かな魔力の波動を感じ取った。
「リーナ、眠らせてくれ!」
「分かった……《睡眠の息吹》!」
リーナの魔法が発動し、村人はその場で倒れ込んだ。
「くそっ、何かが誘導してるな……!」
蓮が村人の様子を確認していると、背後から不気味な気配が迫ってきた。
「シャム!」
「おう! 気づいてるぜ!」
シャムが双剣を構え、襲いかかってきた影を迎え撃つ——
ザシュッ!!
双剣の斬撃が影の存在を裂いた。しかし、その正体を見た瞬間、シャムの表情が険しくなった。
「……こいつ、村人だぞ……!」
蓮たちの目の前には、目が虚ろになり、異様な魔力を纏った村人たちが立っていた。
「どうやら、こいつらは……ただ消えてたんじゃない。何者かに操られていたみたいだな」
蓮は剣を構え、次の攻撃に備えた。
「面倒なことになったな……!」
夜の静寂の中、異様な戦いが幕を開けた——。




