第18話 魔の森への旅路
神殿騎士団との激戦を終えた蓮たちは、魔の森へ向かう旅を再開する。だが、その道中には魔獣の群れや、彼らを追う新たな影が迫っていた。王都の混乱の余波が広がる中、蓮たちは未知の脅威に立ち向かうことになる——。
神殿騎士団を退けた後、蓮たちは夜明け前の静寂の中を進んでいた。王都の灯りが遠くに揺らめき、朝霧が地面を這うように広がっている。
「さて……これで王都とはしばらくおさらばか」
シャムが腕を伸ばしながら呟いた。
「とはいえ、また神殿が追手を差し向ける可能性があるな」
蓮は周囲を警戒しながら歩いていた。先ほどの戦いで負傷はなかったものの、魔力の消費が激しく、長時間の戦闘は避けたい状況だった。
「神殿騎士団が撤退したとはいえ、決して諦めるとは思えません……」
リーナが不安そうに呟く。彼女の手には、まだ微かに魔力の残滓が漂っていた。
「まあ、あいつらが追ってくるとしても、今は距離を取るのが最優先だな」
シャムが頷く。
蓮たちは予定通り、王都を離れ、魔の森へ向かうための道を進んでいった。しかし、旅は順調とは言い難かった。
魔の森へと向かう途中、蓮たちはいくつかの小さな村を通過することにした。装備の補充や情報収集が目的だったが、どの村もどこか不穏な空気を漂わせていた。
「……なんか、思った以上に静かじゃないか?」
シャムが眉をひそめる。
「確かに……まるで、人の気配が薄いような……」
リーナも不安げに辺りを見回す。
そして、蓮たちはすぐにその理由を知ることになった。
「くそっ、またか!」
蓮が剣を構え、目の前の魔獣に向けて突進する。
「《氷槍》!」
彼の放った氷の槍が、黒毛の狼型魔獣の群れを貫いた。獰猛な咆哮が響き渡り、倒れた魔獣が地面に崩れ落ちる。
「最近、この辺りで魔獣が異様に増えているみたいですね……」
リーナが魔法を展開しながら呟く。
「やっぱり魔の森の異変が関係してるのか……?」
シャムが剣を振るいながら、周囲を警戒する。
「可能性は高いな。魔の森の拡張が、周囲の魔獣にも影響を及ぼしているのかもしれない」
蓮は戦闘の余韻を振り払いながら、冷静に推測する。
魔獣たちは通常ならば森の奥に生息しているはずだった。しかし、彼らがこうして村の近くまで出没するようになったということは、何かが彼らを森から追い出している可能性があった。
「どちらにせよ、急いだ方が良さそうだな」
蓮たちは警戒を強めながら、さらに森の入口へと向かった。
魔の森の手前にある小さな集落で、蓮たちは一人の人物と遭遇した。
「おい、あんたら……この辺りで何をしている?」
男はフードを深く被り、片手に槍を持っていた。
「俺たちは旅人だ。魔の森の調査を頼まれていてな」
蓮が慎重に答えると、男は少し沈黙した後、溜息をついた。
「……そうか。なら忠告しておく。魔の森には近づかない方がいい」
「なぜ?」
シャムが尋ねると、男は周囲を見回し、低い声で言った。
「最近、森の中で《何か》が目覚めたらしい。詳細は分からんが、魔力の異常な流れが観測されている。魔獣だけじゃない……もっとヤバい何かが潜んでいる」
「……」
蓮はその言葉を聞いて、直感的に危険を感じた。
「その《何か》の正体は?」
「分からん。ただ、数日前に森に入った冒険者たちは、誰一人戻ってこなかった」
男の言葉は重く、警告としての力を持っていた。
「それでも、行くのか?」
「……もちろん」
蓮は迷わず答えた。
男はしばらく蓮を見つめ、最後に一言だけ残した。
「なら、せめて気をつけるんだな……」
そう言うと、男は夜霧の中へと消えていった。
「蓮、大丈夫でしょうか……?」
リーナが不安げに言う。
「分からん。だが、何が待っていようとも、俺たちは進むしかない」
蓮は決意を固め、魔の森の入り口へと足を踏み入れた。
そして——
暗い樹海の中へ、蓮たちはその身を投じていった。




