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死を司る少女  作者: 真見ユタカ
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片鱗

「学校も久しぶりだなぁ」


 遠目に見えたガラス張りの建物を見て、亮介が何気なく言った。いつもヘラヘラしているから表情が読み取れないけど、なんとなくその言葉には悲しさを感じてしまう。だって亮介は自由奔放だけど本当は私より自由じゃなくて、むしろ行動を制限されている事が多いのだ。


 この国の大事な大事な予知能力者なのだから。


「最近は研究所に呼ばれてばっかでうんざりしてたんだよなぁ」


「なんで?」


「俺はお前の事以外ほとんど予知しないけど、色んな事を予知する物好きな奴等によると、予知が突然変わるんだって」


 普通は色々な事を予知するんでしょ。この才能の無駄男。ストーカー。と言いたいけど我慢した。


「予知は変わるものじゃないの?」


「そうだよ。でも変えられるのは予知能力者ぐらいだなぁ」


 どうして予知能力者だけなのかわからないけど、亮介がそう言うならそうなのだろう。わからないけど。


「未来を先に知っていないと未来を変えるなんて出来ないぜぇ。だってどれが確定した未来かなんて、予知していないとわからないだろ?」


「うん……?」


「人間って面白いもんで、予知に沿って行動してくれるんだよなぁ。もちろん本人にしちゃあ自分の意思で行動してるんだろうし、色んな選択肢を悩んで選んでるんだろうけど俺たちには筒抜けだぜぇ。今日のアリアだって、俺が予知した事と寸分変わらない事を言ってるんだぜぇ?」


「亮介気持ち悪い」


「お前を愛するあまりお前の全てを予知して把握だなんて、これも愛の賜物だよなぁ」


「ストーカー。盗聴魔。変態」


「ははは! 俺も大好きだよ」


「そんなこと言ってない!」


 せっかく真面目に話してると思ったのにどうしてこうなるのだろう。いつも真面目なら尊敬するしちょっとは素敵だと思わなくもないけど、こーーーーーーんなにヘラヘラしてたりウザイ発言が多いとイライラするし嫌いになるのは当然じゃん。それがわからないなんて亮介は本当に予知能力者なのって疑っちゃうよ。いや、でも私が思うように亮介が真面目になってときめく日々もなんか嫌だ。亮介の掌の上で転がされてるみたいで恥ずかしくて反発したくなっちゃうよ。あぁ、じゃあどうすれば……。


「真面目な俺とヘラヘラしてる俺で悩んでるの?」


「悩んでないし」


「もうアリアったらー。恥ずかしがらずに言ってよー。どっちの俺もグッとくるってさー」


「そんな事思ってない。かってに想像しないでよ」


「想像じゃないよ。予知だよ」


「私は絶対にそんな事言わないから。騙されないからね」


「ははは。ばれちゃった? でも良いじゃん。どうせ俺の事好きなんだし、たまには甘い言葉でサービスしてよ」


「バッッッカじゃないの」


「……今のはちょっとグサッてきた。そんなに嫌そうな顔して吐き捨てなくても良いのに」


 そう言って悲しそうな顔をする亮介を見て、言い過ぎたのだと後悔した。数秒の沈黙がとても長くて、重くて、頭をフル回転させてどうするべきなのかを考える。ちらっと亮介を見るとまだ悲しそうにしてて、そんな顔してほしくなくて「ごめんね」と謝ると一瞬で表情が明るくなって笑ってくれた。


「俺もアリアの事大好きだよ! 不安にさせて俺こそごめんね」


「……。好きなんて言ってない」


「俺達って相思相愛だよなぁ。いやわかってたけどさぁ、改めてそう思って言うかぁ」


「全然違うし」


「いやぁーなんか、そんなに熱く「亮介大好き」なぁんて言われると流石の俺も照れるわぁ」


「…………」


 イライラする。話しが全く噛み合わないし、また調子に乗って暴走してるし、さっきまでの悲しい顔は一体なんだったのさ! あぁぁもう亮介のばか! って言いたいけど我慢する事にした。話している間に教室に着いたし、見渡してみると私達が一番年下みたいだもん。ずっと楽しみにしていた授業で騒いで閉め出されたら泣くに泣けないよ。


「どこに座る?」


「一緒に座るの?」


「当たり前だろぉ? あ、あそこにしようぜぇ」


 自分で何処に座るか聞いたくせに自分で決めるのか。別に良いけど。


 さっさと歩く亮介の後について行き、三列ある座席中央列の一番後ろに座った。本当は一番前が良かったけど、もう後ろの席しか空いていなかったのでそれなら何処でも良かった。


 一列六名座れる白い長机に、それに付属する黒い椅子は学校に通っていた頃を思い出してとても懐かしい。座り心地は悪いけど、授業を聞くのは本当に好きで何時間でも座っていられた。本当に懐かしいな……。


 亮介と並んで座り、カバンから取り出した電子ボードを机に置くと未読データを知らせるランプが光っていた。画面をタッチして表示してみるとプライベートメッセージが一通届いている。


 それを目ざとく見つける亮介。


「誰?」


「亮介の知らない人から」


「何それ! 聞いてないんだけど!? それは浮気だろ!」


「付き合ってないし。ただの友達だし」


「メッセージの相手が?」


「亮介がだよ」


「なんでだよ! 毎日愛を確認し合ってるだろ!?」


「一人で確認してるだけじゃん。そもそも愛とかないし」


「照れなくても良いだろぉ」


「照れてない」


「じゃあちょっと照れてる」


「照れてない」


「ほんのちょっと照れてる」


「……」


「お、怒るなって。で、誰からなのそのメッセージ」


「……。内緒」


「なんで?」


「内緒だから」


「辻宗佑だろ」


「知ってるじゃん! 何で知ってるの!?」


 一度も話題に出した事はないし、辻さんの名前を声に出さないように注意してたから本当に驚いて大声を出してしまった。けれど突き刺さる視線に気付いて我に返ると教室中の注目の的になっていて、慌てて「すみません」と呟いて下を向く。そんな私に笑いながら「追い出されるぞ」と茶化す亮介を、小声で問い詰めた。


「なんで知ってるの」


「なんで知られたくなかったの?」


「私の質問に答えてよ」


「答えたら内緒にしてた理由を教えてくれる?」


「……」


「言えないの?」


「言えなくはないけど……」


 内緒にしようって言い出したのは辻さんだ。どうしてって思ったけれど、誰かに言う理由もないからそうしたんだ。約束だから破りたくない。けど……亮介が怒っている。


「けど何?」


「……内緒にするって約束した」


「でももう俺にばれちゃってるよね。だったら話しても約束を破った事にはならないよなぁ」


 いつものように笑ってるけど目が笑ってないよ。


 私が亮介の圧力に負けて話をしようとした時、丁度良く教授が来て静かにするようにと声を張った。


「……じゃあ、後で聞くよ」


「う、うん」


 それから亮介は机に左肘を突いて手に顎を置き、ずっと無言で無表情で前だけを見ていた。


 予知をしている? なんとなくそう思って亮介をじっと見ていたけれど、亮介がこちらを見返してくれないから私も前を見て授業に集中することにしたのだった。


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