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終話 悪役令嬢の告白


 私の名前はオルフィーユ・バスティ。いわゆる、悪役令嬢である。


 ここは『小手鞠の花咲く丘で』という、乙女ゲームの舞台となる世界。あまり人気のないアプリで、プレイ人数は少ない。ついでに言うと予算も少ないらしい。主人公となるプレイヤーが、魔法学園でイケメンの攻略キャラと甘々なシチュエーションを楽しむための恋愛シミュレーションゲームだ。


 単調なシナリオ、お約束の展開……人気がないのも頷ける。あまりの過疎っぷりで、そろそろサービス終了も近い。


 私の役どころは悪役令嬢なので、主人公が攻略キャラに近づくと出番となる。氷の魔物を引き連れて、主人公を邪魔したり嫌がらせをする。

 卒業パーティーで断罪されて、婚約破棄だの投獄だの追放だのと、散々な役回りだ。なんと処刑エンドまである。


 ところがある時を境に、ストーリーにおかしなバグが混じりはじめた。バグは、主に私のペットの魔物の周辺で発生しているらしく、暴走して私の家族や攻略キャラを殺してしまったりする。

 これでは私の出る幕がない。焦った運営は緊急メンテナンスを繰り返し、デバッグ担当者の睡眠時間が消し飛んだ。


 キャラ名すらなかった魔物が、断罪パーティーに魔王となって現れて、滅びの呪文を唱えてしまったりするのだ。もう、めちゃくちゃだ。


 これにバグを面白がる一部のユーザーが飛びついた。ネットで話題になり、過疎っていたゲームが一気に注目された。


「氷の魔物どうしたwww」

「カノンちゃん(主人公のデフォルト名)出番なし(笑)」

「オルフィーユ様、ドン引きの過去!」


 公開予定のなかった悪役令嬢の裏話まで配信されてしまい、大騒ぎになった。


 この反応に、やけ気味で運営が乗った。デバッグ担当者が全員過労で倒れたことで、もう後がなかっただけともいう。


「氷の魔物、今回もキレッキレだった!」

「えっ、シーバくん出て来なかったよ? どこ行ってたの?」

「商人やってたよ。外国で成功してた。見つけるの大変だった!」

「オルフィーユさまどうするの(笑)」

「最後、オルフィーユさま自害で、燃える屋敷で壮絶な幕切れ!」

「まじで⁉︎ 絶対見たい! もう一周やる! 巻き戻しの魔石、課金するわ!」


 私のペットの暴走は、一見ストーリーには関係ないように見えた。ゲームの片隅で、少しずつ変わっていく氷の魔物は、いつの間にかユーザの間で「シーバ」と呼ばれるようになる。私がつけた名前だ。私以外は誰も知るはずのなかった名前なのに……。


 そして私は気づいてしまった。あの子は……シーバは私を救おうとしている。何度も何度もやり直し、私を『悪役令嬢』の(くびき)から、解き放とうとしているのだ。

 どの選択肢を選ぼうとも、決して幸せになどなる未来の用意されていない悪役令嬢を、どうにかして明るい場所へと連れて行こうとしている。


 失敗しても諦めたりしない。バッドエンディングの山とデバッガーの屍を築きながら、何度でも立ち上がる。悪役令嬢の幸せなんか、誰も望んでいないのに。


 そして今回、なんと王妃さまを悪夢から救い、王子のトラウマとなった出来事を早々に解決してしまったのだ。


 乙女ゲームに出てくる攻略キャラは、みんな心に闇を抱えていたり、人知れず悩んでいたりする。主人公がそれを解決することで心を通わせ、愛を育んでゆく。悪役令嬢は主人公の純粋さや清純さの引き立て役だ。


 つまり主人公も悪役令嬢も、出番がないということだ。


 やってくれた! もうお手上げだ。運営もデバッガーも匙を投げた。まともにゲームを楽しもうとしているユーザーも、もういない。あとはシーバの暴走を面白がっている人たちばかりだ。


 もういいよね? もう、自分の心に正直になっても、いいよね?


 私は『悪役令嬢』の仮面をかなぐり捨てて走り出した。


 さあ、シーバの胸に飛び込もう! 生まれた瞬間から、私の幸せだけを望んで、何度も何度も苦しんで来た魔物。私のためにその存在すら変えた、愛しい人の胸に。


 例えば今のシーバの姿が、魔王だとしても構わない。氷の塊だとしても、私はあなたの手を取るだろう。



 だって私はもう、悪役令嬢ではないのだから。




       * * * *




『運営からの大切なお知らせ』


 いつも「小手鞠の花咲く丘で」をプレイして頂き、ありがとうございます。今回、修復不可能なバグにより、ユーザーの皆様には多大なご迷惑をお掛けしました。運営一同、心よりお詫び申し上げます。本日○月○日より、三日ほどのメンテナンスを行い、その後新章スタートとなります。

 なお、以下のキャラは今後はストーリーに大きく影響することはありませんが、本作のいたる場所でその動向を確認頂けることとなりました。幸せに暮らす二人を見守って下さると幸いです。


・オルフィーユ

・シーバ


 今回のお詫びの品として、以下の品を全てのユーザーに配布致します。今後とも「小手鞠の花咲く丘で」をよろしくお願いします。


・召喚用クリスタル1000個

・10連ガチャチケット50回分

・HP、MP全回復薬各10個

・特別スチル『雪玉シーバ&五歳のオルフィーユ』『シーバ&オルフィーユ結婚式』


                    運営より




 最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


 広告の下に、評価や感想を書く欄があります。どちらも作者、大喜びします。是非、読んで下さった足あとを残して下さいね!



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― 新着の感想 ―
[一言] ( ・ω・)鳩見すた先生みたいな作風でらっしゃいますね アンケートをとったお話も興味深く拝見させていただきました なるほど キャラが脳内に居る、動くのではなく 借り物の流行りに頼るのでもな…
[良い点] このラスト、この引きは想像してませんでした! いいですねぇ!! 最終話で一気に畳みましたねぇ そしてなんといっても、オルフィが駆けていくシーンでの幕引き 最高ですね(≧∀≦)!! [一言]…
[良い点] 完結おめでとうございます&お疲れさまです 初のテンプレ(テンプレではない)堪能させて頂きました( ˶´⚰︎`˵ ) 随所でシーバくんの過去『七度』が掘り起こされるたびに、八つの物語を同時…
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