修行の旅に。
チーチチチチー
キュイキュイ
虫の声? と、翼竜の鳴き声で目が覚めた。
もう朝日がすっかりのぼっている。ちょっと寝過ぎたかなと思って隣でまだ寝ているティアを起こす。
ほっぺをむにむにってさわって。
「朝だよー。起きよう?」
「うーん。もう少し……」
あは。まだ眠いかな。昨夜寝たの遅かったし。
森の中、馬車の中で目が覚めたあたし。とりあえずごそごそっと外に出て食事の支度をしようかな。
——おはようレティ。
おはようカイヤ。
——昨夜はあれからは平和だったよ。じゃぁボクは少し寝るね。
うん。寝ずの番ありがとねカイヤ。おかげでゆっくり寝られたよ。
——ふわああ。まあボクは元々は夜型だからね。これくらいは大丈夫さ。
そう言いカイヤはまだ寝ているティアのお布団に潜って行った。ああこれはティアますますおきないかな? カイヤが丸くなって寄り添ってくれるとすごくもふもふポカポカで気持ちが良いんだもの。
ちょっと羨ましく思いながら馬車から降りる。
お馬のポニにも飼葉とお水をあげる。この子にも元気であたしたちを乗せて行ってもらわないとだしね?
泉で顔を洗ったら石を並べて作った簡易かまどに火をくべてベーコンを焼く。卵も市場で買っておいたからそれも片手でポンと割り入れて今日はベーコンエッグにした。ちょこっと香辛料も振りかけると美味しそうな匂いがしてくる。
パンも切って少し焼いて。そこにベーコンエッグを載せたら朝ごはんの出来上がり。
乾燥スープの素をカップにおとしお湯に溶かしたら完璧だ。
美味しそうな匂いに釣られてティアが起きてきた。
「おはようティア。顔を洗って朝ごはんにしよ?」
「おはようレティシア。もうめんどいからここで済ませちゃう」
そういうとティア、手に魔法でお水を溜めその場でざぶっと顔を洗って。口も申し訳程度に濯いで終わりにしたっぽい。
「もう。朝の泉のお水は気持ちがいいのに」
やっぱり魔法で出したお水は味気ない。冷たい泉の湧水で顔を洗うとほんと気持ちが良くてしゃきっとするんだけどな。
しょうがないなぁ。
まあ昨夜は夜半にヘルハウンドの群れと遭遇して退治するのに手間取ったから疲れてたのもわかるし。ほんと、しょうがないのかもだけど。
ここはまだ聖王国領。ヘルマウント山脈のほとりだ。この山を迂回し北に抜けるとそこはもう帝国領、かな。
一応馬車が通れる街道が続いてるから道に迷う事は無い。紅い煉瓦の街道。帝国がその周辺に敷設したこの紅い煉瓦の道は、もう既に千年以上もの間人々の往来に寄与している。
全ての道は帝都に通じる。そんなことわざもあるくらい、この紅い街道は帝国領のみならずその周辺諸国一帯にのびている。
ティアも一緒に行くことにした事で、あたしたちは一度コンラッドに戻りギルドに顔を出すことにした。
黙って他国に出ちゃってせっかくの冒険者の資格を剥奪されても困るし。特にティアの人生を台無しにしたくなかったから。
修行の旅に出ることにしますってちゃんと話してから出発したのだ。
そうやってちゃんとギルドにことわって行く事で帝国領内のギルドでも融通が効くらしい。っていうかその辺の仕組みはよく知らなかったけど、全世界の冒険者ギルドがちゃんと繋がってるって凄いよね。
馬車も用意した。野営するのにも便利だし。
急ぐのなら空を飛んで行く事もできたけど。それだと悪目立ちすぎる。
帝国領で魔物と勘違いされて討伐対象に、とかになったら困るしね?
あくまで普通の冒険者。普通の旅人を演じなきゃ。




