二度と失いたくない。
「イヤだよレティシア! 置いていかないで!」
部屋の扉のノブに手をかけたところでそう声をかけられた。
ああ。ティア。ごめん。
あたしは振り向かずそのまま固まって。
「あんたがあたいには言えない秘密があることくらい、馬鹿なあたいでもうすうすわかる。それでも、あたいとあんたは仲間だろ? あたいが足手まといだって言うならその時に見捨ててくれてもいい。だけど、こんな風に黙って行くなんて、イヤだよ。あたい、あんたがしてくれた事、感謝してるよ。だから今度はあたいがレティシアの役に立ちたい。このままお別れなんて嫌だ、よ……」
最後は涙声になったティア。
あたしも眼から一筋涙が落ちた。うん。ほんとはここでお別れなんかしたくない。したくないよティア……。
「だって。危険なんだもん……。あたしのわがままでティアを危険な目に合わせるわけにいかないもの……」
「バカ! レティシアのバカ! だったらよけいにあたい、死んでもついて行く! そんな危険なところにレティシアだけで行かせてあたいが心配しないとでも思った、の……? 嫌だ。あんたが自分のわがままだっていうなら、あたいも一緒だ。あたいも自分のわがままでレティシアと一緒にいたいんだもの!」
そういうと、ドン、と、あたしの背中に体当たりする様に抱きついたティア。
ああ。背中でうっく、ひっく、とすすり泣くのがわかる。
ああ。ダメだ。
今でもほんとはこの子を振り切って一人、ううん、カイヤと二人だけで旅立つのが正解だというのはわかってる。
道中の危険、あたし達だけならともかくこの子を守り切って辿り着くのは難しいって事も理解してる。
でも。だめ。
あたし、バカだなほんと。
寂しいんだ。たぶん、あたしの方がティアと別れるのが寂しくてしょうがないんだ。
空っぽのあたしの心に最初の愛をくれたのは大聖女様。
でも、その大聖女様を失ってもう一度空っぽになりかけたところに出会ったこの子。
短い間だったけど、もう二度と失いたくない家族、みたいな?
あたし家族ってどういうものかよくわからなかったけど、きっとこの気持ちがそうなんだろうな。そう思って。
「ごめんねティア。あたしがバカだった。あたし、ティアが大事だよ。失いたくないってそう思ってる。だからこそ今回は一人で行くべきだっていうのは頭の中ではわかってるんだ。でも……」
あたしは振り向いて。ティアを抱きしめて続けた。
「でも、寂しいよ。ほんとはすごく悲しかったの。ティアと別れたくなんかない。ごめん、ティア……」
「ううん。嬉しい。レティシアがそう思ってくれるなら、あたい……」
右手の甲で涙をぎゅっとぬぐって。
「お願いレティシア。あたい頑張るよ。魔法ももっと使えるように覚える。だから連れてって。お願いだよ……」
——人間、辞めてもいい覚悟はある?
はい? カイヤ?
「え? どういう事? カイヤちゃん?」
——ボクのこの龍のシズクを貸してあげる。そうすればきっと君は強くなれるから。
ああ。
「うん! あたい、レティシアの足手まといにならないで居られるなら、人間なんか辞めたって構わないよ!」
あう、ティア……。
いいの? カイヤは。
——ああ。ボクだってこの身体の中にある魔法結晶の力を使えば巨大化や強化くらいできるからね。今まで君の結界魔法に必要だからって温存してたけど、もういいよね?
あは。うん。そうだね。
あたしはもう聖女宮に帰る事も無いしそこでずっと結界だけはって暮らすのもこりごりだ。
それよりも。
もっとほかに出来ること、目指そう。うん。
「ありがとうティア、カイヤ。三人で行こう、どこまでも!」
あたしはなんだか心の中がすーっと楽になったような気がして、自然に笑顔が出た。




