第十八章 世界をまたぐ核ミサイル
「どういう事だ? シャイニングの本体は宇宙にいるのか? そんな事可能なのか?」
「あれじゃ無いかな?」メリが自信なさげに声を出す。「ほら……人工衛星とか宇宙船?」
シャイニングの本体は人口衛星に搭載されたAIだった。防衛、攻撃、集光、位置制御、自らの修理、など、全てを自動で行う(予定の)自立式人工衛星だったのだ。
フロードは、シャイニングが、自分を破壊する事は出来ないと、自信をもっていた理由を理解した。宇宙に行く方法など、フロードには思いつかない。テレポートは行ったことのある場所か、目視(裸眼)できる場所にしかいけない。ゲートキーパーの世界をつなぐ扉も、地球側には鏡か、それに近い光を反射するものが必要だ。宇宙にそんなものがあるとは思えなかった。しかし……
地下鉄の天井を突き破り、ミサイルが飛び込んできた。爆風と粉塵、飛ばされてきた地球人がフロードを襲った。フロードは走りだし、逃げ惑う地球人に混じって、より深くエスカレーターを下がっていった。
シャイニングは執拗にフロードを殺そうとしている。
フロードは思った。自分が気づいていないだけで、シャイニングを殺す方法は存在する。だからこそ、シャイニングは自分を襲うのだと。
フロードはホワイトのスマホに、ビデオ通話をかけた。案の定、余裕の表情でシャイニングは出た。
「おいシャイニング、降参だ。俺に対する攻撃をやめろ」降参と言いながらも、フロードは威圧的な声を出した。
「降参という態度じゃあ無いな……。何のつもりだ?」
「言葉の通りだ。俺にはお前を殺す手段がない。もう良いだろ?」
シャイニングは声を上げ笑った。
「その顔は諦めている顔では無い。私から情報を引き出そうとしている顔だ。君の期待には答えられない」そう言い、通話が切れた。
「くそ!」
こんな時トニーなら、何か有力な情報を知っていたかも知れないのに。フロードはそう思いながら、周りの人々を眺めた。人々は先ほどのミサイルに驚き、パニック状態になっている。そこらじゅうで電話をかけている人や、駅員に詰め寄っている人、行き交う人にぶつかり倒れる人。
子供が親を呼び、泣いている。フロードはその子を苦い顔で見つめた。
フロードは再度メリにビデオ通話をかけた。メリは意気消沈した顔で、スマホを覗き込んでいる。
「メリ、シャイニングの場所に、鏡があるかどうか調べるんだ。ゲートキーパーの魔法しか、宇宙に行く方法はない!」
「あ、わかった。やってみる」
メリはそういうと、精神を集中させ、地球全体を脳内でスキャンした。頭の中に、地球上全ての鏡と、それに準ずる物の位置が浮かんでくる。それは、満点の星空のように、メリの脳内に浮かんだ。
星の数ほどある鏡の中から、シャイニングの心の波長に一番近いものを割り出す。だんだんと絞り込み、その鏡を特定した。その鏡は、シャイニングを中心に、半径50メートル以内にあることが分かった。
「ある、鏡がある! しかもでかいのが!」
フロードは「よし! 俺は鏡を探す、見つかったら連絡する!」と言い走り出した。
フロードが探しているのは、自分がセカイトメントに行くための鏡である。自分の体が通れれば、小さな鏡でもいい。トイレにならあるかもしれない。
トイレのマークを発見したフロードはその矢印の方向へ向かった。その途中、天井にくくりつけられたテレビに、人々が注目しているのを見て、何か胸騒ぎを感じた。
フロードは胸騒ぎに体を引き止められ、そのテレビを見た。
核ミサイルが発射されたというニュースだった。
テレビには、空を飛ぶ核ミサイル。暗くなり始めた空を照らす輝きが、煙の尾を残し、飛んでいた。かなり大型のミサイルで、長さは二〇メートルはある。
これはシャイニングの仕業だ。そう直感したフロードは、シャイニングにビデオ通話をかけた。
「おい! シャイニング! 俺はもうセカイトメントに帰るぞ! 核なんて落としても無駄だ! やめろ!」シャイニングが出るなり、フロードは叫んだ。
「そうか、セカイトメントに帰るのか、では急がなくてはな……」
「何を言ってる! 今更まにあわない! 着弾する前に俺はセカイトメントに帰るぞ!」
「君が地球人の心配をするのは意外だが、何か勘違いしていないか? 核ミサイルは地球に落とすのではない」
フロードは息が止まった。まさか……
「セカイトメントに落とすんだよ。ちょうど近くに鏡のように綺麗な湖があってね。それを利用しようと思うんだ」シャイニングの口調には感情はないが、上機嫌だという事は伝わって来た。
「何故セカイトメントに核を落とすんだ……セカイトメント人をエネルギーにするんじゃなかったのか⁈」
「さっき気づいたんだが、セカイトメント人は少し人口が多すぎる。管理しやすい量に間引きさせてもらう。戦闘員を排除する目的も果たせるから、一石二鳥というやつだ」
「許さないぞ!」
「嫌か? なら止める方法を教えてやる。あの核ミサイルは、君の仲間の心を利用し動かしているんだ。ホワイト……だったな。彼女を殺すといい。まあ代わりはいくらでもいるがね」
フロードはスマホを握り潰しそうなほど強く握っていた。衝動で叩きつけそうになった。しかし、このスマホがないと、メリと連絡は取れない。すんでのところでフロードは我慢した。
「後悔させてやる!」フロードは捨て台詞を残し、通話を切った。
「メリ、鏡の前に来た。頼む!」フロードはトイレに駆け込みながら、スマホに向かって叫んだ。先客が排泄しながら驚いている。
おあつらえ向きに鏡は大きく、洗面台の前の壁一面だった。その鏡が一瞬輝き、次の瞬間には、教会を映していた。メリが向こう側からこちらを見ている。
フロードは洗面台に手をつき、鏡に蹴りを喰らわすように鏡に入った。フロードが床に足をついた次の瞬間、鏡は元に戻った。先客は空いた口が塞がらず、的を外していた。
教会についたフロードは間髪入れず、メリに注文を入れた。
「シャイニングの近くの鏡に扉を開け!」
「いや、ちょっと待って! その鏡は宇宙にあるんだよ? 真空状態だよ! 分かってる?」
「体を強化すれば二、三分は持つ! 行くぞ、シャイニングが核ミサイルを撃ったんだ。こっちに来る、時間がない!」
「はあ⁈ 核ミサイルをこっちによこすつもり? シャイニングってゲートキーパーの魔法も使えるの? ずるくない⁈」
「俺たちが使える魔法は大体使えると思った方が良い!」
フロードはジャケットを脱ぎ捨て、ポケットから子供用のスプーンを取り出した。
「持っててくれ、それは土産だ」
「自分で渡すんだよね?」メリは心配そうにスプーンを受け取った。
フロードは、核ミサイルを操っているのはホワイトだと言うべきか迷ったが、メリにホワイトを殺させる事は出来ない。どうせホワイトを殺しても代わりはいる。そう思い、フロードはホワイトの事を話さなかった。
「フロード、一応警察署から応援呼ぶよ?」
「ああ、そうしてくれ。何かあった時のために人手は多い方がいい」
メリは、少しためらいがちに手をかざした。教会の壁を見ながら、精神を集中する。
「帰ってこれる?」手をかざしながら、メリはフロードを見た。
「ああ、テレポートを一回残している。安心しろ」
「分かった」
メリはそう言うと、扉を開いた。
眼前が光に覆われ、教会の空間が四角に切り取られる。一瞬で目の前に宇宙空間が広がった。
ちなみに、教会の空気が、宇宙に流れ出ると言う事は無い。マナが地球に流出しないように、セカイトメントの空気が地球側に流れ出るという事は無いのだ。
「俺が行ったら閉じていい。魔力を無駄にするな」
「わかった。連絡してね」
フロードは宇宙に飛び込んだ。空間を超えた瞬間、体が浮き、皮膚を切り裂かれるような衝撃が走った。真空状態による、体の破壊だ。フロードは身体強化を強めた。
フロードは無重力に流されるまま、目の前にあった白い棒のようなものに捕まり、足を掛け、体勢を整えた。振り向くと、映画館のスクリーンに映るように、教会の風景が見えた。フロードはメリに手を振った。メリがうなづくと、空間は閉じた。
人口衛星は、宇宙に浮かぶビルのように大きかった。五〇メートルはある円柱型で、その円柱を中心に、大きなパネルが五枚ついていた。まるで巨大な扇風機だ。
そのパネルの表面が鏡でできており、美しい地球と宇宙を反射していた。その一つに教会が映っていたのである。
フロードは人工衛星本体の先端に捕まっており、そこは地球側だった。
パネルに映った地球から本物の地球に視線を映した。フロードはその美しさに見とれていたかったが、体を強化する魔力にも限界があるため、シャイニングの破壊を急ぐ事にした。
メリは鏡の半径50メートル以内にシャイニングがいると言っていた。周りを見渡しても、ほかには何もない。この円柱型の建造物を破壊すればいいのだ。フロードはパネル側に飛び移り、円柱型の部分を見た。よく見ると、この円柱の表面にも鏡が貼られている。
試しに光弾を撃ってみた。直撃した部分の表面が吹き飛び、宇宙に流れていった。破壊されたのは、ごく一部だ。ビルのガラスが一枚割れたくらいにしかならないだろう。
(こんなんじゃ100発撃っても足りないぞ……)
フロードは焦り始めた。光弾をうつだけでは、破壊し終える前に自分が死ぬ。それか、核ミサイルが落ちてしまう。どうすればいい? 考えながら、人工衛星を観察した。




