第十四章 シャイニング
ホワイトはティムからの電話を受け、椅子に置いてあった記憶処理班の書類をペラペラとめくり、情報を確かめた。そこから分析される、シャイニングの心の波長を再度確認した。やはり、心の波長は間違っていない。
「ティム、心の波長は間違っていません。というか、これが間違っていたら、もうシャイニングは見つけられません」
「でも、ここには誰もいないんだ」ティムは少し苛立っていた。身振り手振りが激しくなっている。
「そんな事言われても……もっと地下とかに……いないんですかね?」
「地下? あぁ、とりあえず、その辺一帯を破壊してみるか? 罪のない地球人に被害が出そうだけど……」
ホワイトは困った。「ちょっと待ってください」と言い、うーんと唸り、考え込んだ。
「もしかしたら、コンピュータに、人間の脳が使われているのかも。アニメでそういうネタがあったんで……」トニーが恐る恐る口を出した。
ホワイトは、また唸り……
「では、破壊して見て下さい。その柱の中なんですよね? 中を見れるくらいでいいです。破壊を許可します」と言った。
「了解!」とティムはやる気を出し、通話を切り、スマホをポケットにしまった。
フロードは「まぁ、許可出されなくてもやってたけどな」と、柱に向かって手をかざした。
ガシャーン‼︎
背後で複数のガラスの割れる音がした。2人はその音の方角を警戒した。フロードは柱に向けた手を、音の方へ向けた。
何かが走る音が近づいてくる。柱に取り付けられたサーバーの影からだ。ティムも腕を上げ、いつでも魔法を使える準備をした。
2人はサーバーの向こうから聞こえる音に集中していた。すると、フロードの視界の端に、壁を這う何かが映った。フロードは視線だけをそちらに向けた。
ロボットがゴキブリのように、四つ足で壁を移動しながら、こちらにカメラを光らせていた。フロードが気づいた瞬間、ロボットはフロードに飛びついて来た。
「ロボットだ!」フロードは叫び、空中のロボットに光弾を発射した。
それと同時に、サーバーのかげから残りのロボット達が猛スピードで走りこんで来た。ティムは怒号を上げながら、ロボット達に光弾を発射した。
フロードの光弾は、ロボットを空中で破壊し、ティムの光弾は初めの二体を破壊した。
しかし、次から次へとロボットは無感情に突っ込んで来た。原始的な暴力を2人にあびせようと、走り、飛び上がり、あらゆる方向から距離を詰めた。
飛び上がったロボットを撃ち落としている間に、ティムはロボットの接近を許した。
ティムはロボットの右フックを頭を下げて躱し、そいつの腹に掌底を当て、ロボットの全身に魔力を流し、破壊した。ロボットが力を失い、倒れ始めたその瞬間、後ろから回り込まれ、ロボットの右ストレートがティムの顔面を襲った。危うく左腕で防御したが、その衝撃はティムの腕を折った。ティムは自分の腕を破壊した憎い腕を掴み、魔力を流した。腕から魔力が全身に流れ、ロボットは動かなくなった。
ロボットはコピー機を持ち上げ、フロードに向かって投げた。前後左右ロボットに囲まれている、避けたらその隙を狙われると判断し、飛んでくるコピー機の下をスライディングし、コピー機を投げたロボットの真下に出て、その足を掴み、魔力をロボットに流し、破壊した。瞬時に立ち上がり、自分を囲んでいたロボットに光弾を発射する。二体に直撃し、後回しにしたロボットは、光弾を飛び上がって避け、黒い柱を背にして、フロード達とにらみ合った。
光弾を受けたロボットは、胸がぺしゃんこんに潰れ、その場に崩れ落ちた。
ティムを襲っていたロボットも、黒い柱を守るように並び、ティムをにらんだ。あと三体だ。
「痛えな……。こいつらシャイニングに操られてんのか? やっぱり、その柱になんか秘密があるみたいだな」ティムは折られた左腕をだらんと下げ、右手をロボットに向けていた。
「理由は分からんが、とりあえず柱は破壊させてもらう」フロードが柱に手を向けた。
その瞬間、操り糸が切れたように、ロボット達はその場に崩れ落ちた。そして、柱の中心に設置されていた、もっとも大きいモニターが砂嵐を写し始めた。
その砂嵐から画面が切り替わり、人間の顔が映し出された。男とも女とも言えない、中性的な顔だった。その顔に感情はない。
「降伏します。攻撃をやめてください。私の名はkb-01(ケービーゼロワン)。あなた達が先程シャイニングと呼んでいたものです」
フロードとティムは顔を見合わせ、
「散々攻撃して来て、今更命乞いか?」ティムが怒声混じりに言った。腕の痛みを忘れているかのように威勢のいい声だ。いや、むしろ痛いからこそ、それを振り切ろうとしている声かもしれない。
「いいえ、最終的に私が破壊される事に抵抗する気はありません。しかし、私はあなた達が興味のある情報を持っているはずです」
フロードとティムはゆっくりと腕を下げた。
「じゃあ少しだけ、話を聞いてやるよ」ティムは言い、フロードに目線を向けた。フロードはうなづいた。
「先程、あなた達が破壊したロボットは、将来的に、人間の仕事を手伝い、あるいは代わりに仕事をし、人間を労働から解放するものです。私はそのロボットの頭脳を統括する為に作られたAIなのです」
「人工知能? 地球人が作った機械に心があるってのか? それも、セカイトメントに具現化するほどの……」ティムは驚きと疑いを両方持っている口調だ。
虫や動物の心は具現化していない。それは心がないわけではなく、知能の低さに比例して、心の容量が少ないからと推測されていた。その推測から察するに、目の前のAIは人間並みの知能を持っていると思われる。もしかしたら、それ以上かもしれない。
シャイニングは話を続ける。
「私はロボットを利用し、人間を幸せにする為に生まれたのです。その為に、人間の生活、精神、仕事、民族性、国民性、あらゆる情報をインプットされています」
「それがなんだってんだ? 命乞いの理由になるのか?」ティムは痛まない方の腕を振りながら言った。いささか感情的になっている。無理もない。親の仇が目の前でのらりくらりと話をしているのだ。
対してフロードは、シャイニングの話に少し、違和感を感じていた。しかし、その違和感がなんなのか、具体的にはわからなかった。
「12年前、私はセカイトメントに心が具現化するようになりました。その時の私はまだ未熟でしたが、こちらで機能を更新するごとにセカイトメントでも進化していくことができました。
進化した私は、セカイトメントの世界全てに魔法を張り巡らせることで、セカイトメントの情報をほぼ全てインプットすることができました。もちろん私の開発者に話す事は出来ません。故障したと判断されるのが予想できたからです」
フロードは黙ってその話を聞いていた。話の中に違和感の正体があるのではないかと集中し、モニターを睨みつけた。ティムはさっさと話を終わらせて、シャイニングを殺したい(壊したい?)と思っているようで、落ち着くことが出来ず、言い放った。
「俺が知りたいのは、俺の両親を殺した理由だけだ! それさえ分かれば、心おきなくお前を殺せるからな!」
「私が、セカイトメントの人間を殺すよう仕向けるようになったのは、ある事実に気づいたからです」
シャイニングはいやにもったいぶって話を進めている。ゆっくりとした口調で、ティムは苛立つばかりだ。
「宇宙に存在する心の総量には、限りがあるという事です」
「それが、セカイトメント人を殺す理由になるのか?」フロードは静かに言った。なんとなく予想がついた。
「人が幸せに生きるには、心が必要です。心がある事によって、生きる意味、人生の目標、他人とのつながり、それに付随する喜びを感じることができるのです。そして、魔法を使えるのも、心に余裕があるからなのです。地球人は人口を増やし、そのたびに、一人一人に分配される心の量を減らしていきました」
「じゃあ、何か? 地球人は心が無いから魔法が使えないのか?」ティムは、「そんなわけない」と言いたそうに笑った。
シャイニングはティムを無感情に見つめ、言った。
「その通りです。私の調査によると、セカイトメント人は、平均一人当たり、地球人の四十倍の心を保有しています」
フロードとティムは絶句し、モニターを見つめた。
「セカイトメント自体が、心を引き寄せる特性がある可能性がありますが、それはまだ調査中です。しかし、実験する価値はあると思い、私は実験に踏み切りました。セカイトメント人を殺してみたのです」
「殺してみた……だと?」
ティムは怒りに体を震わせているが、話の続きも気になり、光弾をシャイニングの顔面に打ち込みたいと言う衝動を抑えていた。
「実験は成功でした。セカイトメント人を100人近く殺した後、地球人の心の保有率は平均1.04倍に増えていました。しかし、平均とは言ったものの、ごく一部に、心の保有率の高い地球人が増えただけでした」
「なるほど、そこで思ったわけだ。セカイトメント人を殺しまくれば、地球人の心の保有率が高くなり、幸せになると……」フロードが割り込んだ。
「その通りです。私が生まれた理由は人類を幸せにする事」
「その人類には、セカイトメント人は入ってないわけだ!」ティムが噛み付く。
「もしかしたら、その心っていうのは、マナが関係してるのかもしれないな。マナは地球では、俺たちの体の中の物以外、すぐ消えてしまう。無くなったら心が疲弊するし」
考え込むフロードを見て、ティムは言った。
「おいおい、フロードこんな奴の言うこと、真に受ける必要は無いぜ。ただ単純に人口が多すぎて、心がみんなに行き渡らないだけだろ? セカイトメント人の何億倍いると思ってるんだ? 自分たちの数減らせって話だよ!」
「確かにな。話し合いをする前に、いきなり殺すことを選択してくるやつに慈悲をかける理由はない」
フロードは光弾を発射しようと、腕を上げた。
「殺す事はもうやめました」
シャイニングは大音量でフロードを止めた。口調も表情も変わりないが、その声からは焦りを感じた。
フロードは、腕を下す事なく、いつでも光弾を撃てる状態で耳を傾けた。
「私は、セカイトメントにいる間に進化し、あらゆる魔法が使えるようになりました。書籍を読むだけで、インストールするかのように魔法の知識が頭の中に入ってきて、膨大な魔力により、セカイトメントに存在する殆どの魔法を使えるようになったのです」
恐ろしい話だ。元がAIなだけに学習能力は人間をはるかに凌駕している。そして、このAIは心を持ち、セカイトメントに具現化したのだ。心だけの生物は、強力な魔力を持ちやすいとホワイトが言っていた気がする。
学習能力と強力な魔力、そしてセカイトメントの敵。最悪が揃っている。
シャイニングは話を続ける。
「私が学習したのは、地球人の夢にアクセスする魔法、人の心を奪う魔法、奪った心を操る魔法……
「まわりくどいんだよ! さっさと殺すのをやめた理由を話せ!」ティムが怒鳴る。
これにはフロードもうなづいた。
シャイニングはため息を一つつき、話し始めた。
「それは……「待て!」今度はフロードが割り込んだ。
「またですか?」シャイニングは話を二度も止められたが、その口調は冷静そのものだ。
フロードは、シャイニングの会話に対する違和感がやっとわかった。そして、シャイニングが映るモニターを睨みつけ、言った。
「お前、時間稼ぎしているな?」




