第十三章 シャイニングを見つけよ!
トニーは、球体に映るヘリの視点から、二人を探していたが、発見できなかった。フロードのスマホに連絡しても返事がない。トニーは「嘘だろ」と何度もつぶやきながら首を横に振っている。
しかし、ヘリの視点から発見できないのは当然だった。フロード達はそのヘリに乗っていたのだ。車が激突する直前に、フロードはティムを連れ、ヘリの中にテレポートしていた。
テレポートしたのは後部座席だ。前の運転席で、操縦士が慌てているのが見える。
「操縦が効かないんだろ? 失礼するよ」フロードは、ヘリの騒音に負けないように大声でそう言い、運転席のとなりに無理やり移動した。
後ろでティムが、壁にかけてあるヘッドセットを見つけた。ヘリの騒音の中で会話をするためのヘッドフォンとマイクがセットになっているような道具だ。ティムはそれを装備した。
「へ? あんたらいつのまに⁈」操縦士は驚き、フロードを見た。
「ヘリを直しに来たんだよ」
フロードは答えず、ティムが代わりにヘッドセットを通じて答えた。フロードは、ヘリの計器が並ぶ部分に手を触れ、魔力を流した。すると、ヘリに取り付いていた心が解放され、ヘリのコントロールが回復した。
「どうだ? 運転できるか?」フロードは言ったが、ヘリの騒音のせいで聞こえない。
「操縦できるようになったかい?」ティムが代わりに聞いた。
操縦士は驚きと恐怖で、何が何だかわからないと言う顔をしていたが、うなづく事はかろうじて出来た。
「よし、わかった」
フロードはそう言い、操縦士の肩に手を回すように見せかけ、操縦席の扉を開け、操縦士をそこから突き落とした。操縦士は、叫びながら海にぽちゃんと落ちた。彼のヘッドセットが、天井からぶら下がり、ゆれた。
「ひでぇなぁ……」ティムはそう言ったが、笑っている。
「いちいち降りてたら、また攻撃を受ける可能性が増すからな。ティム、運転を頼む」
「おう」
ティムは天井に手を当て、そこから魔力を流した。ヘリは一瞬青白く光り、操縦の魔法が行き渡った。ヘリは自動で目的地へと向かって行った。
フロードも助手席でヘッドセットをつけた。操縦桿は勝手に動いている。
「これなら予定より早く着きそうだな」ティムが後の座席から、フロードを覗き込みながら言った。
「初めから、ヘリを買っておけばよかったんじゃないか?」フロードは椅子に寄りかかり、ティムに顔を向けた。
「ヘリは着陸できるところが少ないんだよ。高いしな。……おっと」ティムのスマホが鳴った。ホワイトからだ。
「あ、出た! 2人とも大丈夫ですか? 爆発は⁈」スマホにホワイトの顔が映る。戦々恐々とした顔をしている。
騒音で何を言っているかわからないが、とりあえず心配をかけたようだ。あの時は確かにテレポートしていなかったら、死んでいたかもしれない、と思ったが、フロードがテレポートしなかったら、自分がフロードを連れてテレポートしていた。そんなに切羽詰まってはいない。ティムはとりあえず、オーケーサインを出して「任務が終わったらかけ直しま〜す」と言い、スマホを切った。
「そういえば俺のスマホ、車の中だったな。もう壊れているだろうなぁ……」フロードがそう言うと、ティムは、やっぱり少しやばかったかな? と思い直した。
トニーは、ヘリに取り付いていた人が、石の状態から解放された事で、2人は生きていると判断した。それでもホワイトが電話を切り、安堵のため息をつくまでは、不安で仕方がなかった。
「ヒゲ、今何人解放されましたか?」ホワイトが石にされた人たちを見回しながら言った。
「11人……残りはあと12人だ」
ホワイトはそれを聞き、教会の隅に目をやった。フロードの妻と娘は、まだ石から解放されていない。
ホワイトは思い出していた。家族が石にされたと聞いた時のフロードを。もし、2人を助けられなかったら、フロードはどうなってしまうのか? 想像してしまう自分が嫌だった。自暴自棄になるだろうか? 地面に突っ伏して、泣くのだろうか?
とにかくそんなフロードは見たくない。早くフロードの家族には解放されて欲しかった。
もちろんほかの人たちだって大事だが、ホワイトはよく知った中であるフロードを、特別扱いしてしまっている事を自覚できていなかった。
「石にされた人は、あと12人……っと」ホワイトはその内容を、ラインでティムとティムの拠点の三人に送った。
ティムの拠点にいるパドック、メントス、グリーンの三人は、暇を持て余していた。
心を具現化した地球人が、暴れ出した時のために待機しているのだが、今日のセカイトメントは平和だった。珍しい事ではないが、普段は拠点で待っているようなことはしない。大体、外で遊びながら連絡を待っている。
しかし、今日は特別だ。フロードとティムがシャイニングを殺せば、もう自分たちは殺しをしなくていいのだ。拠点で2人を待ち、任務完了を祝おうとわざわざシャンパンを買っておいたのだ。
「石にされた人は後12人だってよ」ソファーに寄りかかったパドックが、スマホを見て言った。もう片方の手にはコーラを持っている。
グリーンは「こっちにも送られて来てる」と言い、テレビのチャンネルを変えた(パドックは見てたのに、と不満を漏らした)。
国道101の事故が生中継されている。道路の片側を炎の壁が塞いでいて、カメラが引くと、車たちがあらゆる方向を向いて停止しているのが映った。その車たちは、全てがスクラップだ。
「これ、多分フロードたちへの攻撃だよ」グリーンはしかめっ面で腕を組んだ。
「シャイニングも身の危険を感じているんだと思いますよ」メントスはニュースの解説者のように、感情をこめず言い、キッチンに向かった。
突如、テレビ画面にホワイトの顔が映った。46型テレビの大画面に、ドアップで映るホワイトは、肌荒れがしっかり確認できる(男連中は気づかない)。
「皆さん、石になっている人は後12人です。気を引き締めてくださいね。あなたたちがシャイニングの攻撃を受ける可能性もあるんですから」
グリーンはため息をつき、「知ってるよ」と言った。
「フロードとティムは、シャイニングがいる場所に到着したようです。シャイニングがやけになって、暴走するかもしれませんし、いつでも戦闘ができるように準備しておいてくださいね」
「だから、わかってるって」グリーンはうんざりと言う感情を言葉に込めた。
ホワイトは今回、かなり神経質になっていた。気をつけろ、と言う内容の通信を、グリーンに何度したか分からない。昨日もした。
グリーンはホワイトの癖を分かっていた。自分がいつもと違うタイプの任務をする時は、いつもこうなのだ。そして、その心配は必ず杞憂に終わる。
グリーンはホワイトの心配を「はいはい」と受け流し、通信が切れた後、
「姉さんの心配性にも困ったものね……」と仲間に不満を聞いてもらった。
「心配されるだけいいじゃねえか。俺なんか、体重が100キロ超えたら死ねって言われてるぞ」とパドックが笑いながら、コーラを飲んだ。
「そのコーラは?」グリーンは呆れた顔で、指差した。
「ダイエットコーラだから!」パドックは豪快に笑った。
「それよりも、さっき一袋開けたポテトチップスが問題だと思いますね」メントスがそう言いながらキッチンから現れた。コーヒーをパドックに向け、「代わりにコーヒーはどうです? ダイエットにも有効な成分がありますよ。まあ、微々たるものですが……」と言い、コーヒーをを口に含んだ。
「私にも頂戴、頭が冴えなくて」グリーンがそう言うと、メントスは快く承諾し、キッチンへ行って、コーヒーをサイフォンからカップへ注いだ。
コーヒーを受け取ったグリーンは、メントスに礼を言った。コーヒーの熱を確かめながら、火傷しないよう、少しだけすすり、何となしに話し始めた。
「シャイニングってさ、石にされた人の心を操る魔法を使うワケでしょ? つまり、今もセカイトメントにいるんだよね? さっきまで魔法使ってたんだから……」
「論理的に考えると、そうなりますね。地球人が地球上で魔法を使えたという例はありませんし……」
「地球人が寝てる間にだけ、セカイトメントにこれるんでしょ? シャイニングって随分都合よく眠ってるよね?」
「もしかしたら、地球では意識不明なのかもしれませんよ。実際、そう言う例もありますし、私も昏睡状態の地球人を1人殺した事があります……」
メントスは、コーヒーの揺らぎを見つめている。まるでゆらぎの中に、殺した地球人の顔が映っているかのようだ。何を感じているのだろう。少なくとも、楽しい感情では無い事はわかる。
「まぁ、フロード達が勝てない地球人なんていないと思うけどね」グリーンはコーヒーをを持ったまま、ソファーに座り込んだ。その反動で、少しだけコーヒーがこぼれた。
フロードとティムは、目的地『有限責任会社カブリルアイ』に着いた。高さは無いが、敷地はそれなりに広く、屋上にヘリポートが設置されていた。
フロード達は堂々とそこに着陸した。フロードとティムが降りると、屋上にいた警備員が訝しげな顔をして、近づいてきた。サングラスをして、警備員の制服に身を包み、銃に手をかけている。
「いい景色だな。こんな会社で昼寝したいぜ」ティムは警備員を気にすることなく、フロードに笑いかけた。
たしかに景色はいい。太陽はほぼ真上で、その下に海が見える。青空を気持ちよさそうに、真っ白な雲が風に乗って泳いでいた。
「お前ら、許可はとっているのか?」警備員が声をかけてきた。サングラスで目は見えないが、警戒しているという事がわかる。
ティムは、胸ポケットからトランプのカードを一枚取り出し、「こういうものだ」と言った。ジョーカーだ。
警備員はそれを見ると、「申し訳ありませんでした!」と言い、会社の入り口まで案内してくれた。まるで社長を案内するかのように丁寧だった。
ティムの魔法で、催眠術をかけたのだ。トランプに魔法がかかっているわけではなく、ティムの視線から魔法が出ているのだ。カードがジョーカーなのは、ティムの遊び心だろう。
2人は、警備員が開けた扉に入った。階段が下に続いている。
ティムは階段を降りる前にスマホを取り出し、シャイニングの位置を確認した。
「シャイニングは地下にいるな」
スマホは会社の立体地図を映した。それには、地下に伸びるエレベーターがあり、その下に大きな部屋がある事がわかった。地上に出ている部分よりも、その部屋は大きかった。
その部屋に赤い光が点滅している。
「このエレベーター、地下に行くためだけにあるんだな。ほかに止まるとこねえぞ」ティムはそう言い、階段を降りて行った。
階段は、一階までしか続いていなかった。一階は静かなもので、歩き回っている人はほとんどいない。社員達は、ガラス張りのオフィスの中で、静かに仕事をしていた。時折、話し声が聞こえると思うと、電話をしている声だった。
地下へ続くエレベーターに向かい、歩いていると、怪しんだ社員や、警備員に話しかけられたが、ティムがわざわざトランプを取り出し、催眠術をかけ、やり過ごした。
「別に、透明になってもいいんだがな」フロードがそう言うと、ティムは
「こっちの方が魔力の消費が少ないだろ?」と笑い「それに……面白い」と付け加えた。
フロードはなるほどと、無表情でうなづいた。しかし、その気持ちを理解したわけではない。ティムなら楽しめるだろうと理解したのだ。
一階の奥、人気の少ない場所にそのエレベーターはあった。エレベーターホールの壁や天井は、それまでいたフロアとは異なり、金属のパネルで覆われており、そこだけ会社から隔離されているように思えた。エレベーターにはボタンが無く、代わりに鍵穴が付いていた。
「ここだな……」フロードはそう言うと、鍵穴に手を当て、魔法をかけた。
ピッという機械音がして、エレベーターの扉が開いた。前にも説明したが、地球のセキュリティは、魔法には意味をなさない。エレベーターに乗り込んだ2人はボタンを探すが、入口の横の開閉ボタンしかない。2人は何もせず、エレベーターが閉まるのを黙って見ていた。するとエレベーターは自動的に地下へ降りて行った。
「往復しかする事ないもんな、このエレベーター」ティムは納得した。
フロードは階数表示を見ようと扉の上あたりを見上げた。階数は表示されていないが、点がいくつか並んでおり、最初と最後だけ少し大きい点だった。その点が左から順番に光り、右に光が移動して行く。どうやら、光が一番右に付いた時、地下に到着するようだ。
「あれ、必要か?」ティムは光る点を指差しながら言った。
「まあ……後どのくらいこれに乗ってなきゃいけないとか、予想がついた方が精神的には楽かなぁ?」フロードが言うと、ティムはホゥと感心し、フロードとともに光る点を見つめた。
エレベーターが地下についた。どのくらいの深さなのかは分からないが、かなり長い距離エレベーターは下がっていた。エレベーターのスピードがよく分からないので、距離は測れないが、とにかく十分は下がっていたとティムは言った(実際は五分も経っていない)。なにもする事が無いと、長く感じるものだ。
エレベーターが開くと、短い廊下の先に大きな部屋があるのが見えた。部屋の手前の壁が直方体に切り取られ、そこに消火器が設置されている。床は影が反射する黒いタイルで、壁は白い。コンクリートだろうか?
廊下を抜け、広い部屋に出た。いや、部屋なんてものじゃない。ほぼ体育館と言っていいくらい広く、円形だった。壁には、壁そのものが見えないほど配線が駆け巡り、金属の柱がそれらを壁にくくりつけていた。
部屋の所々にある柱も、モニターや、何かしらの機材、配線が張り巡らされ、床から10メートルは覆われていた。
フロード達はスマホの地図を見ながら、部屋の中心へと進んで行った。シャイニングがいるのは、部屋の中心だ。時々、会社の職員がフロード達に気づき、声をかけようとしてきたが、魔法をかけ、眠らせた。ほとんどの職員は、スーツを着ているが、たまに、ジャケットの代わりに、白衣を着ているものもいた。なにかの研究員のようだ。
「こんなに機械があるの、見たことないぜ」ティムは床に固定された配線をまたぎながら言った。
「魔力研究所に行ったことあるか? あれはこんな感じだったぞ。まあ、もっと散らかってたけどな」フロードはしっかり磨かれた床に関心しているようだった。よく見ると、床に固定された配線の下は磨かれておらず、少し灰色の汚れが付着している。
ふと、フロードが、壁側に並んでいるガラス張りの箱のようなものに目をやった。箱は電話ボックスのようで、中にロボットが飾られていた。ロボットは、身長170センチくらいで、人間の骨格型が金属で作られており、その上に半透明な筋肉をつけたものだった。のっぺらぼうの顔に、カメラが一つつけられており、カメラが移動するための溝が、頭を一周していた。ロボットが入っている箱は全部で10はあった。
「こりゃなんだ……」フロードはそのロボットを訝しげに見つめた。
「ロボットか、ここはこういうのを開発してる会社だったんだな……。動く可能性がありそうだ」ティムはそう言い「壊しとこうか?」と手をかざした。
「いや、シャイニングを殺せばすむ事だ」
フロードはそう言い、部屋の奥へと足を進めた。
部屋の中心には、直径5メートルはありそうな黒い柱があり、その柱には、多くの機材が取り付けられていた。所々にモニターや配線があり、柱自体がでかい電化製品のようだった。周りに、机が並べられ、その机はパソコンと一体化している特注品だ。
その周りに三人の職員がいた。白衣を着て、まさに研究員という感じだ。これで白髪で、頭のてっぺんが禿げている爺さんだったら、まさに! という感じなのだが、全員多く見積もっても四十代ぐらいの男だった。髪もフサフサだ。
「え? あの、君たち……」1人が言い切る前に、ティムとフロードの眠り魔法が放たれた。
椅子に座っていた人はそのまま椅子にもたれかかり、話しかけて来た人は膝から崩れ落ちた。もう1人は倒れこむ2人を見て、呆然とした。コーヒーを持っていたので、「コーヒーを置け」とティムが言い、置いたところで、睡眠魔法をかけた。
ティムとフロードは、倒れた人たちを椅子に座らせた。キャスター付きだったので、そのまま蹴りとばし、遠くにやった。よく磨かれた床のお陰で、スムーズに転がっていった。
スマホの地図を確認すると、赤い点滅、つまり、シャイニングはこの柱のそばにいる事になる。
「あれ? 誰もいないぞ。そこにいるやつらは?」ティムは、椅子に乗せて蹴飛ばした人たちに歩み寄り、スマホを胸に当てた。全員、シャイニングとは心の波長が違う。
フロードは柱の周りを一周し、柱の中に入れる場所がないかを調べた。周り終えると、今度は反対周りをした。見上げながら周り、次に、手をかざし、扉を開ける魔法(鍵開け魔法)を満遍なくかけてみた。あらゆるところが開いたが、ファンが回っていたり、回線がむき出しになったり、ボタンや計器類のカバーが外れるだけだった。
「本当に心の波長はあっているのか? 標的が見つからないなんて初めてだぞ」フロードは柱とティムを交互に見ながら言った。
「間違っていたことも無いけどな……。連絡してみるか……」ティムはスマホで、ホワイトにビデオ電話をかけた。




