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ストロベリームーンの影 ~B-FLYER 誕生編~  作者: SHIRUSHI08


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第1話 変身

新章、始まります。これは、時間軸として以前投稿した『B-FLYER』の前の時間に当たります。

言わば、これが本当の始まりで「誕生編」と位置付けています。

よろしければお読み頂き、感想など頂けるとありがたいです。


最初と言うことで、少し長い話となっていますので少々時間を頂きます。

では、はじまり、はじまり。

 第1話 変身


 スタッ、スタッ、スタッ、スタッ

 公園内の道を、軽快なリズムを刻むように足早に進む女性が一人。

 ショートの黒髪に、うっすらとしたナチュラルメイク。


 耳元にはティアドロップ型のムーンストーンがやさしく光る以外には、無駄な装飾品は一切ない。

 淡いピンクのTシャツにタイトなジーンズを履いて、足元は動きやすさ重視のスニーカーと言った質素な服装。


 左肩に掛けたトートバッグには、財布など最低限のもののみが入れられ、携帯電話はジーンズの右後ろのポケットに放り込んである。

 一見、不用心に見えなくもないが、

 彼女が一旦走りだせば、並の男なら軽く引き離す程度には足が速く、

 腕にも少々覚えもある。


 佐伯(さえき) 美羽(みう)21歳 

 地方の大学を出て、上京したばかりの彼女は、少なくとも記憶の範囲には、

恋人と呼べる存在は居ない。


 しかし、彼女の名誉のために付け加えるが、容姿も素材も決して悪くない。

 いや、むしろいい。

 友達想いで優しい性格の持ち主で、学業成績も優秀なのだが。

 ではなぜ……? ただ、彼女の中で恋愛に関する順位が、比較的下の方にあるだけだ。


 部屋への最短経路がこの公園を抜ける道――

 自分の部屋があるアパートと、最寄り駅はこの公園のほぼ対角に位置していて、いつもの時間なら、駅からの人影がそれなりにあるのだが、少し時間がずれただけでこんなに違うのか。と思う。

 

それでも、外灯は良い間隔で点いてるし、女の一人歩きが怖く感じる公園じゃない。

 道幅も広く、公園内なので車も気にせず、ゆったりと歩ける安心な歩道である。

 

なのでまったく気楽に、むしろ電車や駅構内の雑踏から解放されて、ホッと一息つくぐらいに気楽に歩いていて、もう一段上の解放感を求めて部屋に向かって歩みを速めている。


 公園を抜けた先、二つ目の十字路の手前が自分の部屋のあるアパートなのに――

 公園を抜けるまでもう少しというところで結果としてやらかした。



(ハー……いやなことに遭遇しちゃったな。)

 公園の歩道を歩きながら、電車内で遭遇した“ある事件”でイライラしてて、電車内とかはまだ人目が有ったので抑えられてたんだけど、一気に人目が無くなったら我慢が限界を超えた。

 でその、“ある事件”っていうのが電車内で遭遇した痴漢行為。

 厳密に言えば未遂かもしれないけど、あんな車内の隅に押し込んでいった時点でアウトだわ。

 あの女の子ちょっと震えてたもんね。絶対怖かったはず。

 知らない振りもできたけど、それはない。だから、私はその男の腕を横から掴んで捻り上げた――思いっきりね。

 で、駅員に引き渡してバイバイと思ったら、ぼろくそ罵倒された。

 その場ではおとなしく引き下がったけど……


 本当に頭にくると体の動きは止まるのね。体に力が入っちゃって、手を力一杯握って足にも力が入っちゃったら

 ピシッ!と音が聞こえるくらいの、偶然だけど直立不動の姿勢になっちゃった。

 ほら、自分でも何度も何度も訓練を重ねた熟練兵みたいなきれいな『気を付け!』だと思う。


 やりきれなくてちょっと上向きにため息をついたら、なぜか逆に笑えて来ちゃって、でも声に出すような笑いじゃなくて怖い笑み?

 たぶん傍から見たら直立した女が少し上向いてなんか笑み浮かべてるって、怖くない?

 でも、その時はそんなこと考える余裕もどこかへ行っていて、気付いたら「ふっ…ふっ…ふ」って笑い声も漏れていたんで、更に不気味さ増してたかもね。



 引き締められた唇から彼女にしては異常なほど低い声が漏れる。

「この‥‥‥」

 ふつふつと湧く怒りに任せて、握られた拳は自然と胸元まで上がってきて、絶叫とともに力強く振り下ろされる。その手の動きに合わせて左足が『どん!どん!』と二度、アスファルトの地面を踏み鳴らす。


「成敗!!」

 と一言、周辺に響き渡るほどの大声で叫んだ途端吹っ切れたようなすっきりとした感覚が体内を巡ったような気がした。

 頭の中で襟首掴んで、両頬が腫れあがるまでビンタを喰らわしてやったわよ。いい気味。

 本当に何らかの罰は与えてやりたいって、思ったのは事実。

 不快感や恐怖感を与えておいて、無罪放免ってないと思う。それを問うヒーローかヒロインがいてもいいんじゃないかと本気で思った。

「あー、あいつぶっ飛ばしてやりたかった!」

 なんてセリフが口をついて飛び出す。

(あ、でもヒロインって響き私の中では弱そうなイメージが強い。)


 そうやって、大声を出してしまえば少しは、怒りも少しは収まるけれど、

 冷静さを取り戻していけば今度は大声を出した自分が恥ずかしくなって、顔が一気に熱く、赤くなって行くのが分かる。

(恥ずかし――)

 慌ててキョロキョロと周囲を見回す。


(誰も見てなかったよね……)

 これから先も暮らしていこうとしている町。なるべくなら穏便に過ごしてゆきたい。

 変な噂など立ってもらいたくないし……それでも許せないもんは許せない。


 思わず大声を上げてしまうほどだったから、その時の私は興奮のあまり、その時起きた変化にすぐ気づけなかったのよ。その変化とは……

 ひとことで言えば、私の着ていた服が木っ端みじんに分解されてしまったこと。

 いつの間にか足元には無数の布片となった私の服……今となっては元・服が数多の布片と化して落ちていたのだけれど……


「ほんとうに……往復ビンタやってやりゃぁ良かったよ。」

 それでも……大声を出して、最後につぶやいたことで多少なりとも落ち着いた。

 軽く火照りを感じていた身体も、いつの間にか涼しくすら感じる様ほどに、気持ちも落ち着き、少しばかり心が軽くなったように感じた。

「ふうー」

 と静かに息を吐けば、一刻でも暑くなったせいか夜風がいつもより涼しく、肌に直接触れるように抜けていく。

 少なくとも違和感は抱いていなかったの

(叫ぶって気持ちいいわぁ!)

 力を込めて振り下ろしていた腕もいつしか力が抜けていて、私は無意識にスッと持ち上げて背伸びをしようとした。

(あれ……? 袖の触れる感覚がない。)


 背伸びをしながら、右肩に目を向けるとそこに見えるはずのシャツの袖が見当たらない。

(あれ?……袖がない。)

 上腕の白い肌がそのまま露わになっていて、ただただ首を傾げるしかなかった。


 その時、大きく伸びたお腹のあたりで産毛が風に揺れ、思いがけないくすぐったさに手を持って行くと、指先がそのまま肌に触れた。

(……ん?)

 違和感しかない。


 目は違和感の原因を追って自然と腹部へと向けられた。

(えーと……シャツはどこ行った?)

 シャツは見えずに、直接外気にさらされたお腹が目に入るが、その光景がにわかに信じ難く、手は忙しく布の感触を求めて彷徨った。

 そして視線はさらに深刻な事態を捉えることに。

 腕から肩そして胸からお腹を通った先、見えるはずのジーンズが目に入ってこない。想定外の急な事実に直面して、視線と頭は凍り付く。

 時間としてはわずかコンマ何秒の世界なのだが、体感はそれよりもはるかに長い時間と感じた。

(…ま、さか――裸!?)

 視線の先に、地面へと真っ直ぐ伸びる二本の足があった。

 どこにも布の影がない。ベルトも靴も靴下さえも


「キャッ……」

 悲鳴は一瞬で何とか理性で口元を手で押さえて声を抑え込むと、その場にしゃがみこんで両手で体を抱きしめた。

 先程の軽い火照りどころじゃない極端な羞恥により鼓動は早くなって顔は赤を通り越して蒼くさえある。


 しゃがんだ姿勢でとにかく身を隠さないとと、ほぼ自動的に近くに見えた植え込みに飛び込む。


(なんで……なんで服がなくなるのよぉ――)

 人目を避けて植え込みに飛び込んだあとで思うのはそれであったが、今考えても答えは見つからない。ただ相も変わらず心臓は早打っている。

 それでも何とかしないと、と言う気持ちは湧いてくる。

(……部屋に帰らないと。そのためにも服。)

 植え込みから頭だけ出すと周囲をキョロキョロ見回すが、幸い人は……居ない。


(服はどこ……?)

 視線は先ほどまで自分の立っていた場所へと自然に向けられた。

 そこは外灯の明かりが差していて周囲に比べるとスポットライトで照らしているかのように浮かび上がっている。

 その明かりに照らされた中にトートバッグに携帯電話が目に留まる。そしてその周囲に積もるように一面に散らばった――あれは、布?

(あ、あそこに‥‥‥)

 美羽の見つめる先、遠目にも布片の色や素材から自分の服であったとわかる。

 それ以上に散乱している布片は素材に応じて軽く丸まったりしているようだが、サイズが比較的手のひらサイズほどで揃っているように見え、割と狭い範囲にまとまってもいる。破れた、裂けたというより、そのサイズに切り分けられたと思えるほどだ。


(何がどうして? あぁなった? どうやって帰るのよ……)

 美羽の頭の中には“絶望”の文字しか浮かんでこない。

(……頼りになる知り合いもいないしなぁ、そもそも連絡手段……)

 目にした携帯電話のことをすっかり忘れて右後ろのポケット――

 があったところに手を伸ばすが、自分の何もないお尻に直接指先が触れるだけ。

(馬鹿だ……私。携帯、あそこに見えてるのに)


 途方に暮れながらもアパートの建っている場所へと視線を向けて、道程を思い浮かべる。

(人に見られず帰る方法は?)

 家まではあと少し――あと少しと言っても、まだ百数十メートルはある。

 公園を出て、住宅街の交差点をたったひと区画分。遠くない交差点のたった2つが気の遠くなるほどの距離に感じる。

(さすがに走っても人が居たら一発アウトだわ……絶対見られる。そしたら……間違いなく露出癖女と噂される。)

「う、うぅっ……」


 それでも躊躇していられない。財布も携帯も失うわけにはいかない。そして、いやしかしか、乙女の尊厳も――

(先ずは、荷物の回収しないと……)

 取りに行く覚悟を決めて、もう一度周囲を見回す。

(よし、誰も居ない。)


 片手で胸を隠しながら静かにその場で立ち上がると、

 念のため……いやいや万が一、人目にさらされるような事態が起こっては私の一生が詰むので、念には念を入れすぎるほど目と耳を駆使して周囲をうかがう。

(……大丈夫。誰もいない。)


 植え込みから飛び出して一気にバッグと携帯を回収しようと意を決する。

 周囲に人の気配を感じれば、即戻って隠れる。もちろん荷物を回収した後も。

 ただ、ひたすらいつでもゴー&バックがかかってもいいように。

(今は、人目が一番の敵)

 身体を可能な限り小さく縮めて隠し、なおかつ周囲を警戒しながらバッグと携帯の回収に向かう。向かいながら目と耳はいつも以上に研ぎ澄ましている。なので自然と動きは羞恥と周囲への警戒で小さくて力強くはない。

 数歩歩いてチラッとバッグの位置を確認のために視線を落とす以外は周辺しか見ていない。目と耳は周囲を伺ったままでそっと片手だけを伸ばして手探りで携帯とバッグを掴もうと――スカッと手が空を切った。

(あれ?あれ?)

 伸ばした手が荷物を探し当てられず、しばし周辺を彷徨う。

 仕方なく周囲に配っていた視線を確認のため手元に戻し、位置を確認するとサッと荷物を掴み上げた。

「え、なに?」

 視線の先に飛び込んでくる自分の腕の表面に、正六角形が淡く揺らぎながら次々と浮かび上がっては指先へと広がって行くのが見てとれた。

 あまりの衝撃に美羽は掴み掛けたトートバッグを取り落とし動けなかった。


いかがでした?

少々長い話となりましたが、ここから佐伯(さえき) 美羽(みう)の変身ストーリーが開始です。

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