ユークリードの友
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集落から脱出した私たちは、ユークリードへ向けて走っていく。
南下していくほど襲い掛かってくる理外の獣は少なくなり、ユークリードの町が見えるころには、その姿は見えなくなっていた。
「こっちだ。」
傷ついた一行がユークリードの町へ入ると、ムンガが町の中を先導し始めた。
やがて、町の中でもひと際大きな建物の中に入っていく。
「領主、集落の者たちの受け入れを願いたい。」
ムンガが入室した部屋には、顔に深いしわが刻まれた老人が椅子に腰かけていた。
老人が私たち一行を確認すると、重い口を開いた。
「私はユークリードの領主、ウォンガ。まずは、此度の襲撃に参戦し、戦えぬ民を守ってくれた騎士団に感謝を。」
ウォンガが深々と頭を下げた。
しかし次の瞬間、彼は鋭い目つきでムンガを見つめる。
「ムンガよ、貴様には失望したぞ。お前ならば身命を賭してあの地を守り抜いてくれると信じていたが、とんだ期待外れだったようだ。」
「・・・申し開きもございません。」
ムンガは、拳を固く握りしめながら、ウォンガに対して頭を下げる。
その様子を見て居た勇者が口をはさんだ。
「ムンガさんの覚悟を捻じ曲げたのは俺だ!叱るなら俺にしてくれよ、領主のじいちゃん!」
「・・・そなたは?」
「俺はエース。女神様の加護を賜った勇者だ。」
「ほう、貴殿が勇者か。」
ウォンガは勇者の頭のてっぺんからつま先まで眺める。
勇者はひるまずに、堂々と視線を受け入れていた。
「勇者殿、我々ユークリードの民にとって、どれだけこの地が大切か分かるか?」
「理外の獣の襲撃前に、ムンガさんから聞いたよ。俺はシルフィーナの住民だけど、ムンガさんの熱い思いを聞いて、こっちまで誇らしい気分になったんだ。」
「ならば分かるはずだ。簡単に土地を捨てたムンガへの失望が。」
「分かってないのはじいちゃんの方だ!簡単だったはずがない!」
勇者の叫びに、頭を下げていたムンガの肩が震える。
「ムンガさんは、ユークリードの土地のことも、先祖たちへの思いも捨ててなんかない!大切だから、捨てられないから、これから全員で取り戻そうとしている!理外の獣から敗走してもなお、彼は戦い続けることを選んだんだ!全てをあきらめずに手に入れようなんて、何かを犠牲にして選択するよりもよっぽど困難だってこと、じいちゃんなら分かるだろう?そんな困難に挑もうとしている彼らに、領主が簡単に命を投げ出せだなんて、俺は認めたくない!」
勇者の叫びに、ウォンガはしばらく黙り込む。
重々しい空気の中、ウォンガは優しい声で喋りだす。
「勇者殿、いや、エース殿。貴殿はムンガのことを買っているんだな。なぜだい。」
「尊敬する友達だから。」
勇者の言葉を聞いて、ウォンガはカカカと笑い声をあげた。
ウォンガは目にたまった涙を指ですくいながら、勇者に語り掛ける。
「友か、いいな。エース殿。もしよければ、わしもエース殿の友にしてくれないか。長い時を経て、何かを犠牲にすることが当たり前になっていた。エース殿の言う通り、何も犠牲にせずに物事を達成する方がよほど困難だ。そんなことも忘れておったわい。」
「ああ、ウォンガのじいちゃんも俺の友達だ。ユークリードの土地を取り戻す際には、必ず応援に駆けつけると約束するよ。」
「カカカ、頼もしいなエース殿。ムンガも、無体なことを言って悪かった。良き友を得たな。」
ムンガは黙って、頭を下げた。
その様子を見たウォンガはにやりと笑う。
「さて、今回は騎士団と我が友エース殿に随分と助けられた。もし何かあれば、我々ユークリードの民も力を貸すことを約束しよう。」
長い間微妙な関係だった騎士団とユークリードの間に、確かな絆が芽生えた瞬間だった。




