第15話 イーストロックの街の最強戦士
最初のお仕事を終えてから数日が経過した。
私、アイネは、王女様であるホイップと一緒に順調にお仕事をこなしている。まあしょせんは最低ランクなFランクのお仕事だから、順調にこなせて当たり前なんだけどね。簡単なのばっかりだし。
本当に簡単だから、1日に2つ3つこなすのが当たり前って感じだ。それくらいやって、どうにか二人分の生活費を稼げているかなって感じ。
本当はもっと稼ぎの良いお仕事に挑戦してみたいんだけどね。なにせ私は元Aランクパーティー所属だし、ホイップも改名前はBランク冒険者だったし。Fランクのお仕事だとちょっと物足りないんだよね。
そんなことを考えながら、今日のお仕事を終えてイーストロックの街に帰ってきた。わりと早めにお仕事が片付いたから、まだおやつの時間くらいかな。せっかくだし、ホイップと一緒にゆっくりお茶でもしようかと思う。お金に余裕はないから一杯しか飲めないけどね。
あっ、道の向かい側からメリッサさんが歩いて来ている。ちょうど冒険者ギルドの正面のところでメリッサさんと会話ができる距離になった。私たちと会話をしようとメリッサさんが嬉しそうに片手をぴらぴら振ってくれた。
「おかえりなさいー。今日のお仕事はどうでしたー?」
ホイップが私よりも先に返事をした。
「問題なく片付いたわ。メリッサもお仕事の帰り?」
「違いますー。おやつの時間ですし、ちょっとお仕事を抜けて出ていたんですー。実は今日は馴染みのカフェのドーナツが、お一人様5個以上購入で1個無料っていうとんでもなくお得な日なんですよー。それでたくさん買って来たんですー」
メリッサさんは白い紙袋を大事そうに胸のところに抱えている。きっとドーナツが入っているんだろう。
「5個なんて食べられるの?」
「ぺろりとたいらげますよー」
「5個かー……」
「美味しいですよー」
ホイップが悩ましげに私と目を合わせてきた。
「ねえ、アイネ、このあと、そのカフェに行ってみない?」
「えっ、ドーナツを5個も食べるんですか?」
「そうよ。今日はいっぱい動いたし、いけるでしょ」
「どうでしょう……。食べられたとしても、私、お腹が丸見えの服を着ていますから、あんまり満腹になりたくないような……」
「私、上着を持っているわよ。貸してあげる。というか、街の中だし、性能の高い服を着てなくていいでしょ。一回部屋に戻ってパッと着替えてから行くのはどう?」
「それならOKです」
私、甘い物を食べるとおっぱいが大きくなっていく体質だから本当は遠慮したいんだけどね。王女様のお誘いなら断れないよね。ドーナツ5個、挑戦してみようじゃないの。
「やった。メリッサ、お店の場所を教えてくれる?」
「いいですよー。そっちの道をまっすぐに行って、三つめの角を左に曲がって、大きめの道に出たら右に行ってすぐのところですー」
店名も教えてもらった。しっかりと道順を覚えたし行けると思う。
……あれ、むむむっ、今、私の左側のずっと先で気配が大きく動いたね。何か大変なことが起きたと思う。
私がそっちを見たと同時にたくさんの人たちの悲鳴があがった。何があったのかと思えば――。
「大きな闘牛みたいなのが3頭も暴れてますね。冒険者ギルドに大激突する勢いで走ってきてますよ」
角が立派な黒毛の牛だ。筋肉が凄いし、重量もそうとうあると思う。そんな牛が恐ろしいほどのスピードで突っ込んできている。
状況を確認したホイップがもの凄く心配そうにした。
「大丈夫かしら。あんなのに激突されてしまったら、一般の人たちは重傷どころではなさそうだけど」
メリッサさんがあんまりテンションを変えずに返事をする。
「一般人さんはイチコロでしょうねー。というか、あの牛さん……。冒険者ギルドで請け負っているお仕事関連の牛さんっぽいですねー。メスは生きたまま納品ですけど、オスはツノが必要なだけなので生死問わずで構わないって感じのお仕事ですねー。むむむ~、これは怪我人が出てしまったら冒険者ギルドの管理問題になりますねー」
「大変じゃない。私たちでどうにかしましょう」
メリッサさんが目の上に手をかざして遠くを見つめる。牛のことをしっかりと観察しているようだ。
「ああ、3頭ともオスですねー。生きたまま納品なのはメスだけですので、倒しちゃって大丈夫ですー」
「了解」
「Cランク冒険者が戦うような相手ですけど、大丈夫ですー?」
「元Bランクだから問題ないわ」
ホイップの魔力が高まっていくのを感じる。ホイップが可愛らしい杖を構えた。
「いくわよ! 【フレイムスピア】!」
炎の巨大な槍が3本出現して、猛烈に突進してくる3頭の牛の頭部へとそれぞれ向かって飛んでいった。
牛たちはとんでもないスピードと力強さで走って来ているけれど、決して小回りがきくわけじゃない。ホイップの魔法には気がついていたけど、回避したりはできずにそのまま魔法と頭からぶつかっていた。
そしてその結果――。
「げげげっ、1頭だけ耐えちゃったわ。ぜんぜんダメージを受けていないみたい」
「あら~。あ、よく見たら1頭だけ種類が違いますねー。見た目はほとんど同じなんですけど、たまに炎に耐性があったり、炎の攻撃をしてくる牛さんがいるんですよねー」
「えっ、つまり私の炎魔法はきかないってこと?」
もうかなり近くまで接近してきている。ホイップの次の魔法は間に合わないかもしれない。牛は攻撃を受けたことで怒り狂ってこっちに向かってきているし、ここは私が炎以外の無詠唱魔法で倒してしまおうか。
「ホイップ、私がやりますね」
「いえ、私がやるわ。氷の魔法を思い切りぶつけてみる」
「いやあー、魔法じゃ間に合わねーだろ。お嬢ちゃんたち、ちょっとどいてな」
ん? 私たちの後ろから、というか冒険者ギルドの中から背の高い男性が出てきたぞ。
うわ、お酒くさ。上半身裸でズボンはところどころ破れていて古傷だらけの男性が出てきた。中年くらいの年代の暗い瞳の男性だ。ちょっと前に私とホイップに絡んできた人だね。
その人が私たちの前に出て牛を迎え撃つ。ふんっ、と全身に気合を入れると、強者のオーラみたいなのがゴオッと強風になって私たちにぶつかってきて、完全に油断していた私は軽い素材のスカートが完全にめくれあがってしまうのだった。
「ぎゃあああああああああああああああっ!」
「あっ、今日は清楚な純白♪」
「ホ、ホイップ、言わないでくださいっ」
「うふふふっ、ホイップお姉さんは可愛い女の子が大好きなのだよ♪」
「アイネちゃん、すっごく可愛かったですよー。センスが良いと思いますー♪」
「メリッサさんまでっ」
「お、俺も見たかった……」
「酔っ払いはダメですっ。牛さん来ますよ。大丈夫なんですか?」
「あったぼうよ。うおりゃあああああああああああああっ!」
酔っ払いの男性が両手でしっかりと牛の二つの角をつかんだ。そして、牛の強烈な突進をしっかりと踏ん張って受け止める。
ドシーンッ、と大きな音が鳴り響き、酔っ払いの男性の足元の土がえぐれていく。す、凄いパワーだ。勢いのついた牛の突進を完全に止めてしまった。
「あらよっと! へっ、いっちょあがりだ!」
酔っ払いの男性は、なんと牛の角を持って牛の超重量な身体を持ち上げてしまい、牛の身体をひっくり返すようにして地面に叩きつけていた。
それが凄い衝撃だったから、また強烈な風が吹いてしまう。けど、次は警戒していたから私はしっかりとスカートを手で押さえたよ。
牛の目がぐるぐるになっている。たったの一撃で牛を倒してしまった。近くで成り行きを見守っていた一般人さんたちが一斉に歓声をあげる。
「うおおおーっ、すげーっ」
「さすがはイーストロックの街の最強戦士ーっ」
「あんたがいればこの街は安泰だよ」
「かっこいいわー」
などなど、酔っ払いの男性を褒め称える声がたくさんあがっていた。酔っ払いの男性が歓声にこたえる。
「ははは、お前らが無事でよかったよ。明日は牛肉が安価で売られると思うぜ。美味しく食べてくれや!」
ますます大きな歓声があがる。この街でそうとう有名な人みたいだね。
ホイップが「最強戦士?」とメリッサさんに聞く。
「はい。彼の名前はグンター・ドルンブルクさん。イーストロックの街の最強戦士にしてAランク冒険者ですー」
この酔っ払いの男性ってAランク冒険者なんだ。
一般人さんがたくさん寄ってくる。牛を暴走させたと思われる冒険者たちもすまなそうに走って来た。みんなに慕われているのがよく分かった。グンターさんはこの街のヒーローって感じなんだね。




