拷問の全貌
姫様が、この狭い空間で手紙の内容を僕伝えに聞いている。
文字を読むだけなのに、姫様に聞かれていると思うと声がスムーズにでてきてはくれない。
「駄目。始めからよ!」
僕だって内容がわからないのに、どうしてこんな恥ずかしい思いをしなければならないんだ。
グレン様へ。
初めて交わす言葉を文章にしたことをお許し下さい。
貴方様のお兄様と我が父が、どんな理由で私達の婚約をお決めになられたかはわかりません。
お父上の為ならと、私は承諾致しました。グレン様は、どんなお気持ちで婚約を承諾したのか、お会いした時に教えてくださいね。
「今、私に言いなさい。」
姫様の横槍、逆らうわけにもいかず、僕は答えた。
「兄上、父上の為にです。」
「それなら手紙の主と同じではないか。」
「…そうなりますね。」
つまらない理由。姫様はそう言いながら早く続きを読めと促す。
(もう、叩かれたほうがマシだよ。この拷問は辛い。)
もし、私と同じ理由なら私は嬉しいです。そうしたら、私達は同じ理由で同じ場所から歩み出せるのですから。
(なんだろう…優しい印象しかでないんだけど。)
…………………………………チっ!
姫様の舌打ち。どうやら手紙の主に苛々しているようだ。
グレン様は、王国のお姫様の従者をしていると貴方のお兄様から面会した時に聞いています。
王国のお姫様。きっと美しいお方に仕えていらっしゃるのでしょうね。
私は、父上の本当の娘ではなく、養子縁組をした娘なのです。父上は大変優しくしてくれましたし、今も優しい父上に変わりはありません。
でも、容姿には自信がありません。綺麗な方々に仕えているグレン様が私を見たら、さぞがっかりしてしまうと思うと、私は会う日が怖いです。
「グレン。私は、そなたから見て綺麗な者なのか?」
(絶対に調子にのってるぞ。)
「偶に…綺麗な気がします。」
僕は発言したと同時に額を両腕で守った。扇子小突き対策。弱点は視界を自ら遮るところだけど、毎回叩かれるほど僕は奴隷化していない。
(破れるものなら破れ!)
しかし、姫様からの扇子小突きはなく、窓に薄っすら映り込む自分の顔を見て…
「偶にか…」
と、小さな声で呟いていた。
「読…読みます。」
以外な反応に戸惑いながらも僕は続きを読んだ。
グレン様は、剣術が王国でも随一の腕前だと貴方のお兄様が仰っていました。剣の王国で随一なんて凄いことです。小さな頃から努力をしていたと聞きました。
もし、私が困っていたらグレン様は私の騎士様になってくれるのでしょうか?
そんな、お姫様みたいな考えを最近は窓から、外を見ては思い描いています。
わがままですね。でも、知らない貴方に私は早く逢いたくなりました。
忙しい貴方に私は、わがままを書いてしまいました。
ごめんなさい。
(だから、優しい印象しかないし。なんだか早く逢いたくなってしまう気がする。)
「グレン…お前の剣は何の為に振るうのです?。」
(姫様ごめんなさい。その理由だけは真面目に答えないといけないんです。嘘をついたら僕は剣を持つ資格がないから。)
「この剣は、貴女様の為に振るいます。」
僕の言葉に、ドレスのスカートを握りしめる姫様。少し震えている。
「そ、その気持ち。嘘じゃあるまいな!」
(嘘も何も、仕事だから。貴女の護衛も担当してるんだし、ましてや国宝まで渡されたら、逆らうわけにもいかない。)
でも、辞めたら剣は返して重荷をはずしますけどね。
顔を赤らめた姫様は窓を全開にする。そんなに暑いわけでもないと思うけれど、あくまでも姫様の赤面は暑さのせいらしい。
扇子は本来の動きを取り戻し小突き用から扇ぐ役割を与えられる。
でも、懸命に扇子を動かす程、やっぱり暑くはないんだよな。
…初めて書いた手紙にわがままを書いてしまった私を、グレン様はお嫌いになるでしょうか?
でも、貴方に逢いのです。貴方のお兄様は、弟が忙しいから、せっかくの婚約が進まないことを良く謝りにきます。でも貴方には今のお勤めへの責任感があるのでしょう。
だから、私から逢いに行きます。本当にわがままなんです。でも、このわがままを受け止めてくれる方だと信じて私は今から王都を目指します。
領地を抜けて旅をするのはいつぶりでしょうか。
貴方に逢えるのを楽しみにしています。
シルフィ・レナ・グラミーより。
「あ、あのミセル姫様…なんか婚約者の方が王都に向かってますよね?」
正直、僕は混乱していた。優しさと憂いさを感じた内容だったけれど、兄上からの報告もないし、今から来られても、どうしたら良いのかわからない。
簡単に言ってしまえば、僕は心の準備ができていない!
「ああ。来るなら来れば良いのよ。私は第一王女。使えるものは使う。慌てるつもりもないわよ。喜んで待ちますわ。」
いやいや。姫様は関係ないでしょ。
まるで今から、戦争が始まるような雰囲気をしていますけど…
ミセル姫様は立ち上がり、広げた扇子を畳み静かにテーブルに置いた。
彼女は宮の僕の部屋の窓から城下町を見下ろしている。豆粒のように小さく見える民衆達…
あの中に既に僕の婚約者がいるかもしれないと拳を強く握りしめていた。
そして僕は、そんなに暑くないのにテーブルに置かれた扇子を許可もなく勝手にとり、自身の顔に風を送った。
日が傾きだした時間帯に、どうしてこんなに身体が火照るのだろうか。
やっぱり、今日は暑い日なのだろう。
次話から婚約者の登場となります。
姫様より、だいぶ優しい方です。
もし宜しければ彼女を応援してあげて
ください。