個人の覚悟
「仰せのままに。」
謁見の間で王様に頭を垂れたのは僕だ。
王族に貴族達が見守る前で僕は誓いを立てた。
必ず魔王を討伐すると。
「ミセル姫様。これが僕の覚悟です。5年間ありがとうございました。」
覚悟があるから二人きりや、宮内で別れは言わない。
敢えて、全員の前で誓う。
こうすれば貴女は地位を捨てれないでしょ。
「今までありがとう。グレン・ステイナーを従者の任から解きます。今後は民の為に努めなさい。」
(うん。これでいい。貴女は姫である姿が一番似合いますから。)
「駄目だ。入るな!…ぐあ!」
謁見の間の入り口の扉が勢いよく開いた。
勇者の門出だから…と言う雰囲気でもない。
「にゃ。」
衛兵を蹴り飛ばしたのは、ジルだった。援軍に駆けつけた他の衛兵達に二つの短剣を構えて大立ち回りを王族や貴族達に見せつける。
「諸君、援護にまわれ!」
衛兵達が次々となぎ倒される状況を見て騎士団長と魔法師団長が各部下に指示をだした。
数十人に囲まれるジル。さすがに分が悪い。
「私は剣聖の生まれ変わりにゃ。かかってこいにゃ。師匠は私が守るにゃ。」
ジルは僕より馬鹿だな。どうして剣聖の生まれ変わりなんて言うんだ。
「ご、ごめんなさい。」
ジルの後方から無数の光の球が囲んでいる兵達に襲いかかる。手を広げ近づいてきたのは……
シルフィさんだった。
「私は婚約者…今は違う。間違い間違い。え〜と私は大魔法使いの生まれ変わりです。勇者様の仲間です。」
シルフィさん顔が真っ赤ですよ。でも魔法…凄いな。
「何者だ!」
魔法師団はシルフィさんを見て狼狽える。
「光の裁きだと。何故、光属性第八階級魔法を扱えるのだ。それにその魔力量はなんだ!化け物か。」
「師匠!」「グレン様…泣いてますか?」
泣くに決まっているだろう。僕は貴女を見捨てようと覚悟をしたばかりだ。他の人と幸せにと思って誓いをたてたのに。
「ホッホホ。皆のもの静まれい。」
王様の言葉に兵達は武器の構えを解く。そしてシルフィさん達は僕の前で臨戦態勢を続けていた。
「めでたい。勇者が現れたら御伽噺のように、大魔法使いに剣聖様まで現れたのだ。なんとも心強い。」
王様の器が広い、だからシルフィさん達は僕の仲間として迎えられた。
納得しないものは多数いるだろう。
でも問題の答えは簡単だ。
「彼女達は僕の仲間です。」
僕が認めれば済む話だから。
「グレン。薬を!シルフィもジルも。早く飲みなさい。
飲んだ?…治りましたわね。」
何がしたいのかな?
怪我なんかひとつもないし。これは薬ではなく姫様オススメのスィーツと言う食べ物ですね。
僕達の輪に、無理矢理入りこんできたのはミセル姫様だった。
「私こそ、聖女の生まれ変わりなのですわよ!」
「貴女が一番、聖女から遠い人間だろうが!」
また叫んでしまった。この姫様が変な事を口走るのが悪いんだからな。
僕を罰するならそうすれば良い。
でも、罰するなら魔王が喜ぶと思うけど。
さぁどうする?おえらいさん達よ。
「聖女…余は偶に思っておったのだ。我が娘は聖女の生まれ変わりではないのかと。」
「さすがお父様ですわ。」
王様は…もしかして親バカなのではないのだろか。
ほら、他の姫様達が口を開けて驚いているぞ。
「私が剣聖にゃ。」
「私…私は大魔法使いのつもり…じゃなくて生まれ変わりです。」
「私は聖女…聖女姫よ。オーホホホ。」
僕を囲むいつもの三人。
僕の誓いは何だったのかな。
でも別に最初から仲間がいても良いよね。
歴史は繰り返す。確かにそうなのかもしれないけど、僕達の歴史はこれからつくるのも間違いではないはずだ。
「さあ行きますわよ!」
何故、姫様が仕切るかは一旦置いておこう。
ひとつわかるのは、彼女がいるのは心強い。
………………………………………………………………駄目だこの姫様。
お城を出て目指した先は…姫様の宮だった。
入り口に待たせている馬車にドレスを大量に詰め込むミセル姫様。僕達は後ろからその作業を見守る。
「姫様〜。僕達…馬車で旅立つんですか?」
そうよ!
「楽しすぎじゃないですか?」
え。駄目なのかしら?
「ティーセット一式必要ですか?」
魔王がお茶好きだったらどうするのですか?
ん、姫様…馬鹿なんですか?
姫様は旅行と勘違いしているのかと疑うくらい、目的から脱線している。
「僕達は歩きますんで、さようなら姫様。」
僕達は馬車に荷物を押し込む姫様に別れを告げる。
え。ちょっと待ち…待ちなさい!
姫様は振り返り僕達の背中へ言葉を投げかける。言葉は届くが馬車の荷物から手を離すことは、今は難しかった。
姫様は知っている。今、手を離したら私は荷に潰されてしまうと。
だから、普段から威張り散らす自慢の声を精一杯張り上げる。その声量のおかげで離れていく僕達に姫様の声が遠のくことはなかった。
でも、声出しに意識が行き過ぎましたね。
僕達に聴こえた姫様の最期の声は悲鳴だった。
振り返った僕達が見たのは馬車から崩れ落ちた姫様の大事な荷の下敷きになっていた哀れな彼女の姿でした。




