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体調不良

ゲホゲホ…う〜。


いつぶりだろうか。僕は高熱で寝込んでしまった。姫様の従者として5年目。初めて休みをもらいました。


嵐にうたれたのが原因か、それとも突然の勇者話しが原因か正直わかりません。


わかるのは、頭痛と身体の怠さだけでした。


「にゃ?」


僕の部屋を訪れたのはジル。

何時もの稽古に来ない僕を心配してくれたらしい。


「ジル…今日は稽古はお休みだよ…ゲホゲホ。」


「大丈夫かにゃ?」


ジルは季節外れの暖炉に火を入れて僕の椅子に座りながら心配そうに付き添ってくれた。


(前に寝込みを襲うって言っていたけど…今日は勘弁してほしい。)


「ありがとう…ゲホゲホ。」


しばらくするとジルは部屋を出ていき、戻ってくると両手いっぱい果実を抱えていた。


さすが短剣使い。器用に果実の皮を剥いていく。


「あははは。」


僕を元気つけようとしたのかジルは果実を猫を模した形に切り出して渡してくれた。


「よ〜し。ゲホゲホ…尻尾から食べよう。」


「にゃ!」


僕なりの悪戯。

猫を模した果実の尻尾から食べた僕を見てジルは自分のお尻を押さえて飛び跳ねた。


別にジルを食べたわけではないのに。


全部食べた僕を見てジルは額に手をあてながら自分の体温と、比べていた。


果実はありがたいけれど、そんな簡単に熱は下がらないものなんだよ。


(や、やっぱり油断させて寝込みを襲う気だな。)


身体の怠さが僕の抵抗を鈍らせる。

ジルは僕が横になるベッドに入り込んできた。尻尾を器用に僕の足に絡め、身体を寄り添う。


たぶん僕はジルの肌触りが嫌ではなかったのだろう。

体調不良を理由にジルに抵抗をしなかった。


彼女の肌触りに安らぎを感じた僕は再び眠りにつく。


そして、体調不良の時の目覚めは、とても意識が定まらないものだと思いました。


夢だと思うけど、ジルはシルフィさんに怒られていました。ジルは、ごめんにゃ。心配だったにゃ。などシルフィさんに謝ってます。

シルフィさんもジルの性格を把握しているのか、何処か怒り切ることができなくて、そんな自分に苛立ちを覚えているような風景でした。


「私が治しますから!」


寝ていた僕に両手を翳して目を閉じたシルフィさん。不思議なもので僕の身体は高熱からくる嫌な身体の熱さではなく、姫様の美味しお茶を飲んだ時の身体の中からくる、優しい温もりに似た感覚がしました。


夢にしては、温もりに現実味があります。

寝起きで記憶が定まらないけれど現実にあったような感覚。


傷や怪我を治す魔法は知っています。かつて聖女がもちいた神聖術。今は教会を主体とした神官達が管理している魔法です。


でも、毒や麻痺などは治せても病気や持病を治す術は聞いたことはありません。

そういう治療は薬師の薬が一般的だからです。


「妙に現実的な夢だったな。」


ジルは既にいない。シルフィさんもいない自室。意識がはっきりしてくると実感する。


僕の体調不良は半日程度で治ってしまった。


窓から見える一面の星空。見慣れていた夜空が何故か僕を安心させてくれた。


そして、政務を終えた姫様が僕の部屋を訪れた。


「もう、お熱下がりましたの?」


「下がってしまいました。」


「そう。」


何で、そんな残念そうな顔を僕に見せるのだろうか。


(あ…入るんだ。)


僕の部屋から星空を見ている姫様。窓際から空をみる姿が様になる。なんて、僕が思うと思うなよ。


「グレンがグレンじゃなくなるかも。」


僕が僕じゃなくなる?


この姫様は何を言っているのだろうか。もしかして…

僕の熱が移りましたかな。


私も知らなかったの。


国宝室に保管されていた【銀夜の星剣】がまさか勇者様の剣だったなんて。


私は強い貴方に品位を与えたつもりだった。

だから、国宝室に忍び込んで、その剣をくすねたのよ。


ただの盗人じゃないか…この姫様は。


父上には、適当な嘘を並べて…強引にね。…強引に許可を貰えたのよ。 


私は嬉しかった。貴方が振るうその剣はまるで主様に出会ったかのように似合う貴方と剣を見て…


でも、貴方は馬鹿だった。それは私が悪いわけではなく、貴方が悪いのよ。


この姫様は僕を貶しにきただけかも。


剣聖が出会った勇者は、暗黒の雲を打ち消した。


「ねぇ。歴史は繰り返すって誰が、おっしゃったのかしらね?」


私が出会った従者は暗黒の雲を打ち消した。


古文書に書かれていた事が現実になった。それはつまり

新たな魔王が誕生した。


そして…新たな勇者も誕生した。


「明日、貴方に魔王討伐の命が下るの。王からの勅令よ。」


「勝手に決められても、困ります。僕には婚約者がいます。彼女を独りにしたくない!」


婚約の件は、認めません。


貴方には使命があるから。


「兄上達が決めたんだ。姫様は関係ありません。」


だから、貴方は馬鹿なのよ。国の命と地方領主のご都合を天秤にかけたら何方に傾くのかしらね。


……っ。


その剣技で貴方は、世界を救う。

剣術稽古のかいがありましたわね。


「どうして、僕なんかが勇者なんですか!兄上やロナール様…それに姫様達の方が立派じゃないですか。…何で僕なんですか。」


僕は何に対して涙を流したのだろうか。体調が悪くて辛いから。…姫様が馬鹿馬鹿言うから…勇者を拒みたいから。


…婚約を認めて貰えないから。


「ひとつだけ、提案があるの。」


僕は珍しく姫様の言葉に期待をした。第一王位継承者の提案の頼もしさに。


「私を連れて、この国から逃げませんか?」


もう意味が分からないんだよ。


初めて姫様を怒鳴ってしまった。でも、この反応しか今の僕にはできないんです。


貴方を欲したのは私だから。そして、人生を狂わしたのも私。だから、貴方を最期まで見るのも私なの。そのために王族の地位を捨てることはできる。

そのかわり貴方は、婚約者を捨てなさい。彼女に少しだけ悲しみを…そして、貴方の影を忘れさせて新しい幸せを与えなさい。


……貴方は、馬鹿だから。私が面倒をみますわ。


「貴女の方が馬鹿だろ!」


ねぇ。私と逃げましょう。


地位も名誉も捨てて僕なんかと一緒にいて貴女に何の徳があるんですか。


昨日と一緒だ。


僕を腕の中に入れて優しく抱いてくれる姫様。

昨日と違うのは、姫様の胸の鼓動がはっきり僕に聴こえてくることだ。


本気だったんですね。


だから僕も決めますよ。‥自分の未来を。





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