表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ゆずりは
1/4

-壱-

 



彼女との出会いは女学校であった。


「あら?あなたの髪、艶があって美しいのね。ねぇ、触れてもいいかしら?」


 それが彼女の第一声である。


「えっ、あ…えぇ、構わないわ」


 入学式当日、突然隣の席へ座った子が話しかけてきたら誰でも素っ頓狂な声を上げてしまうだろう。それが容姿も声も美しければ尚更だ。


「この結い方は束髪崩しよね?あなたの髪によく似合うわ。こんなに艶があるんだもの。まとめてしまってはもったいないわ。」


 椅子に座ったまま前屈みで彼女は毛先を撫でる。そのまま中程へ指を通し持ち上げては、はらはらと指から落ちる様を楽しんでいるようだ。


「で、でも束髪崩しは主流じゃない。あなたの耳隠しの方が素敵よ。」


 人に褒められるのは慣れていなかったため、上擦った声が出てしまった。赤面してまともに顔も見られない私に、彼女は髪から手を離し肩をすくめる。


「ありがとう。この髪型が好きで、いつもお手伝いさんにやってもらってるの。でもね、お母様ったらすぐ結える束髪にしろってうるさいのよ。あなたみたいに美しい艶がないから嫌なのに分かってくれないの。ひどいと思わない?」


 その言い方にふふふっと手を口に当てて笑ってしまった。

 耳隠しに矢絣柄の着物。それに鮮やかな紺色の袴と編上げブーツ。流行を全て取り入れ、おまけに整った顔立ちの彼女はどことなく所作が雑なのだ。


 今だって美しい言葉遣いであるにも関わらず、座り方は少し足が開き気味だし、椅子へ正しく座らずに背もたれに肘を乗せている。教室中を見回したってこんな風に振る舞う女の子はいない。

 むしろそれが当たり前だ。人によっては「はしたない」と言うだろう。


 だがわたしは、そのギャップが可愛いと思った。


「何笑ってるのよ。そんなにずっと笑ってたらその髪全部私のものにしちゃうわよ。」

「ふふふ、ごめんなさい。ねぇ、これから一緒に学んでいくのよ。名前を教えてくれないかしら?わたしは麻耶よ。あなたは?」



「…幸音よ。幸福の幸に音でゆきねって読むの。よろしくね。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ