-壱-
彼女との出会いは女学校であった。
「あら?あなたの髪、艶があって美しいのね。ねぇ、触れてもいいかしら?」
それが彼女の第一声である。
「えっ、あ…えぇ、構わないわ」
入学式当日、突然隣の席へ座った子が話しかけてきたら誰でも素っ頓狂な声を上げてしまうだろう。それが容姿も声も美しければ尚更だ。
「この結い方は束髪崩しよね?あなたの髪によく似合うわ。こんなに艶があるんだもの。まとめてしまってはもったいないわ。」
椅子に座ったまま前屈みで彼女は毛先を撫でる。そのまま中程へ指を通し持ち上げては、はらはらと指から落ちる様を楽しんでいるようだ。
「で、でも束髪崩しは主流じゃない。あなたの耳隠しの方が素敵よ。」
人に褒められるのは慣れていなかったため、上擦った声が出てしまった。赤面してまともに顔も見られない私に、彼女は髪から手を離し肩をすくめる。
「ありがとう。この髪型が好きで、いつもお手伝いさんにやってもらってるの。でもね、お母様ったらすぐ結える束髪にしろってうるさいのよ。あなたみたいに美しい艶がないから嫌なのに分かってくれないの。ひどいと思わない?」
その言い方にふふふっと手を口に当てて笑ってしまった。
耳隠しに矢絣柄の着物。それに鮮やかな紺色の袴と編上げブーツ。流行を全て取り入れ、おまけに整った顔立ちの彼女はどことなく所作が雑なのだ。
今だって美しい言葉遣いであるにも関わらず、座り方は少し足が開き気味だし、椅子へ正しく座らずに背もたれに肘を乗せている。教室中を見回したってこんな風に振る舞う女の子はいない。
むしろそれが当たり前だ。人によっては「はしたない」と言うだろう。
だがわたしは、そのギャップが可愛いと思った。
「何笑ってるのよ。そんなにずっと笑ってたらその髪全部私のものにしちゃうわよ。」
「ふふふ、ごめんなさい。ねぇ、これから一緒に学んでいくのよ。名前を教えてくれないかしら?わたしは麻耶よ。あなたは?」
「…幸音よ。幸福の幸に音でゆきねって読むの。よろしくね。」