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第9話 いつだって犬猿なのはトップだけ

 ドサァ!

 そう音を立てて地面に倒れる男子生徒。手にはタバコの箱が握られていた。


「裏庭でコソコソと校則違反など言語道断!次は無いと思え!」


 その男子生徒の手から箱を奪うようにひっ掴みながら、竹刀を向けて怒鳴るのは緑原の風紀委員長、如月撫子。ギッときつく睨みつける彼女の目に、竹刀で殴られたのであろう右頬をさする男子生徒は怯えながら立ち上がると「もうしません!すいませんでしたぁ!」と脱兎のごとく逃げていった。


「ふん、ああいう輩はまた陰で繰り返すものだ。多少は痛い目を見なければわからん」


「そ、そうなんだね……なるほど姉さん」


 逃げる男子生徒を見送る撫子の後ろからひょこりと顔を出したのは、彼女の弟の如月昴。昴は春の委員会決めで風紀委員会に入ることにしたようで、早速撫子から仕事のレクチャーを受けていた。撫子が言ったことを一生懸命メモしている。


「しかしな昴、風紀委員になってくれたのは嬉しいが、大丈夫なのか?無理に合わせずとも、鵺一のように自由にしてくれたっていいんだぞ?」


 昴はもう一人の弟、如月鵺一と違い、弱かった。更に言えば中にもう一人「コスモ」という女の人格もいた。昴だけでも大変そうなのに、ひょんな事でコスモに入れ替わってしまったらそれこそ抵抗手段がなくなる。コスモは一般的な女子だから撫子のようにゴリラではないのだ、戦えるわけがない。

 それを心配して撫子はそう昴に改めて確認をした。が、昴は問題ないという風に首を振ると、撫子に笑いかけた。


「大丈夫だよ姉さん!僕だって男だもん、姉さんや兄さんみたいに強くなりたいし、人の役に立つことしたいんだ。だから、コスモとも話し合って二人で風紀委員会に入ることにしたんだ。たとえコスモに入れ替わっちゃってもちゃんとやってくれるよ。二人で頑張るんだよ!」


 きりりとした表情で腕をぐっと曲げやる気を見せる昴に、撫子は「ウッ」と突然泣き出した。


「うぐ……昴……コスモ……知らないうちに成長して……ひっぐ」


 泣き続ける撫子に昴が若干引きながら、二人は裏庭から校庭の方へと向かっていった。校庭脇の歩道に出て、高等部の校舎沿いへ曲がった時だった。


「如月撫子」


 突然名前を呼ばれ、すっと涙が引っ込んだ撫子は顔を上げる。

 自分達が進もうとしていた方向の先、そこには、ブレザーを前はキチンとしめてかっちり着込み、ネクタイを綺麗に結びズボンもカチッと着こなした、少しウェーブがかった黒い短髪のお堅い印象の男子生徒が立っていた。


「貴様、とうとう無害の生徒に手出しか?」


 顔をしかめて腕組みをしながら立っていた男子生徒は、腕章をつけている方の腕で撫子を指差した。腕章は撫子と昴が左腕につけているものと同じようだったが、そこに刺繍されている文字は「風紀委員」ではなかった。


「たった今訴えがあった。貴様にいきなり殴られた、とな」


「とんだ言いがかりだな」


 全く身に覚えのない訴えに、撫子も顔をしかめる。すると、お堅そうな男子生徒の後ろから、見覚えのある生徒が顔を出した。

 それは本当についさっき撫子が成敗した、裏庭でタバコをふかしていた男子生徒だった。


「先程この生徒を突然殴ったそうだな。風紀を乱しているのは一体どっちだか」


 やれやれ、とわざとらしく肩をすくませ首を振るお堅そうな男子生徒に、撫子はイライラしながら返す。


「そいつはタバコを吸っていたんだ、そこを現行犯で叩いただけだ」


「証拠は?」


 撫子の反証に怯むどころか、更に威圧的な態度でお堅そうな男子生徒は尋ねる。


「彼がタバコを吸っていた証拠は?つい先程の出来事なのであれば、今彼がタバコを持っているはずだが?」


 と、自分の後ろで撫子を睨む男子生徒に確認するように振り向くと、男子生徒は首を振り、自身の制服のポケットの中身も見せた。

 それもそうだ。タバコは撫子が取り上げてしまった。彼が持っていないのは当たり前だ。

 立場の悪さを理解した撫子がぐっ、と言いよどむと、横からすかさず昴が反論する。


「それは姉さんが取り上げたからですよ!それに、僕だってその人がタバコを吸っているところ見ました!証拠なら十分じゃないですか!」


「貴様には聞いていない、黙ってくれないか」


 しかしお堅い男子生徒はピシャリと昴の発言を拒否した。


「貴様は如月の弟の一人か。確か、例の性別入れ替わりの犯人だな?」


 お堅い男子生徒は、嫌そうに顔を歪めた。


「身内の証言など信憑性に欠ける。ましてや性別が入れ替わるなど、虚言癖があるものの発言など信頼できん。貴様はさっさとその虚言癖と妄想癖を直すべきだな。貴様の気味の悪い言動で緑原の評判が下がったらどうしてくれるんだ」


「貴様!私はいいが昴を否定することは許さん!」


 一方的に昴を攻撃するお堅い男子生徒に撫子が憤慨気味に怒鳴ると、ますます嫌そうに顔を歪めた。


「そうやって怒りやすいところも貴様のダメな点だ。風紀を乱す風紀委員など論外。これ以上好き勝手は許さん、控えてもらおう」


 ぎり、と歯を食いしばりながら睨みつける撫子を冷たく見下ろし、お堅い男子生徒はまた腕組みをした。


「緑原の規律は、我々生徒会が守る」



 *



 とある日の放課後の中等部四階、第三放送室。


好吃(ハオチー)ーーーーー♡」


 幸せそうに頬張った両頬を両手で落とさないようにもちっと抑えながら、小蘭は満面の笑みを浮かべていた。


「このケーキめちゃくちゃ美味しいヨー!好吃!幸せダヨーー!」


 んー!とソファに座る小蘭がニコニコしながらつついているケーキは、駅前の人気ケーキ屋の高級苺ショートケーキ。シンプルながらもその美味しさだけを追求した、甘さ控えめ、だけど上品でさっぱりした至高の逸品だ。


「小蘭ちゃんなら気に入ると思ったですぅー!今度一緒に他のも買いに行くですよぅー」


 幸せそうにケーキを食べる小蘭の横に腰掛け彼女の様子を見ながら、ケーキを持ってきた秋江もニコニコと微笑む。

 そんな女子二人がまったりお茶会をしているソファの裏で、座布団を枕にしたジャージ姿の樹が床で死んでいた。


「樹ィ、早く食べないとワタシが残りも全部食べちゃうヨ」


「そうですよぅ、折角四人分買ってきたのに、勿体ないと思わないんですかぁ?」


「お前らオレのこの様子見てよく言えたな!!」


 ツッコミのためにガバッと立ち上がった樹は、あちこち擦り傷だらけでなんだかボロボロだった。


「オレ今超疲れてんの!!慣れない野球部の助っ人してきてボロボロなの!!ケーキはありがたいけど少し休ませてくんない!?」


 そうやってわあわあ喚く樹の足に、突如鋭い痛みがズキリと走った。


「ヴッ」


 そう情けない声を上げると、樹はパタリと再び座布団を枕にして死んだ。どうやら助っ人中に転んで打った足の傷がまだ痛むようだ。それにしても運動神経ないなこいつ。


「にしても、樹くんが助っ人に出るなんて珍しいですねぇー、こういうのは鵺一くんの出番でしょう?というか、鵺一くんどこ行ったです?部活です?」


 動かなくなった樹を見ながら、秋江は残ったもう一人分のケーキを見ながら小蘭に尋ねた。


「それが今日はまだココに来てないんだよネ、剣道部もない日なんだケド……。それで鵺一がいないカラ樹が行かざるを得なくて死んじゃったんダヨ。惜しい人を亡くしたネ」


「オレを勝手に殺すな!」


 むくりと再び蘇生しながら樹が食い気味に否定した。


「けど鵺一が来てねえのは気になるな、何だかんだ用事があって来れないとかだったら連絡くれるはずだしな」


 グデンと体勢を横向きから仰向けに変え、枕代わりの座布団の近くに放りっぱなしの自分の鞄から、樹はスマートフォンを取り出しタプタプと画面を叩いて、鵺一から連絡が来ていないか確かめてみる。が、今日は来れない、といった連絡は入っていなかった。

 同じように小蘭も自分のスマートフォンを確認してみたが、小蘭の方にも鵺一からの連絡は来ていないようだ。


「まあ、待ってればそのうち連絡か本人かが来るだろ」


 樹が自分のカバンにスマートフォンを戻し、再びグデンと床に寝転がったと同時ぐらいに、放送室入り口の引き戸がガラリと開けられた。


「お邪魔します、秋江います?」


 そう言って入ってきたのは、薄い松葉色の長い髪に白いカチューシャをつけた、ブレザーをしめ、リボンも整え、スカート丈もしっかり膝下まで伸ばしてきちんと制服を着た、左腕に「生徒会」と書かれた腕章をつけた女子生徒。


「あれ、夏芽姉さん?どうしたんですかぁ?」


 秋江がそう呼んだ通り、入ってきた女子生徒は秋江の一つ上の姉、四ノ季夏芽(しのきなつめ)だった。

 夏芽は室内の様子を見ると、少し困ったように笑った。


「あら、小蘭ちゃんとお茶会中だったのね。邪魔しちゃったかしら。……ところで神原くんはどうしちゃったの?」


 入口のすぐ横で床に倒れている樹を不思議そうに見つめながら夏芽が首をかしげると、ケーキを頬張りながら小蘭が答える。


「そいつ慣れない助っ人やってきて死んでる最中ネ」


「だからオレを勝手に殺すな!!!」


 今度は腕だけを上げて否定を入れる樹に、夏芽は苦笑した。


「それで姉さん、私に何か用です?」


 話がズレかけていたので秋江が修正して夏芽に目的を尋ねる。すると夏芽は後ろに隠すように持っていた紙袋を目の前に掲げた。


「実は、美味しいお茶菓子を西園寺くんから頂いてしまって……よければ秋江と食べようかなと思ったのだけど、丁度良かった。おたすけ屋のみんなも一緒に食べません?」


「食ベル!!!」


 問いかけに間髪入れず即答する小蘭に夏芽は笑うと、秋江と小蘭が座るソファに少し場所を詰めてもらってから座る。そして前に置かれたローテーブルに紙袋の中から箱を取り出して開けた。中には沢山の饅頭が小包装で並べて詰められていた。

 早速小蘭は一つ取り、袋を開けて中の饅頭を食べる。中身はこしあんで、滑らかでしっとりとした餡からくどくない甘さが口の中に広がった。


「好吃ーーーーー♡」


 小蘭は再び幸せそうに両頬を持ち上げた。


「ところで姉さん、西園寺さんって内人さんの方?なんでお菓子もらったです?」


「うーん、なんだかよくわからないけど、取材?に協力してくれたお礼だって言われて。少し生徒会の話をしただけなんだけど……なんだったのかしら」


 今度お返し用意しないと、と夏芽も饅頭を一つ取って、袋から丁寧に取り出すとパクリと咥える。秋江もそれに続くように、饅頭を手に取った。

 そうやってワイワイとお茶会を続けてる女子三人の後ろで、樹はなんだかだんだん居心地が悪くなってきた。それもそうだろう、樹は男子生徒だ。女子会の空気感は苦手だし、そこに飛び込めるほどの図々しさもなかった。


「……オレ、なんで床で寝てるんだろ」


 自分で自分の状況に虚しさを覚え始めた時、また放送室の入り口の引き戸がガラリと開けられた。


「神原!神原はいるか!」


 そう少し不機嫌そうに入ってきたのは、長い黒髪を高い位置で水色のリボンで結び、紺のカーディガンを着た「風紀委員」と書かれた腕章を左腕につけた女子生徒、如月撫子だった。


「撫子さん、どうしたんすか」


「いやお前がどうしたんだ神原!」


 床に寝転がる擦り傷だらけの樹に撫子は一瞬びくっと肩を跳ねらせつつ、そのまま視線を部屋の中へ移し、固まった。


「あ、ああ、四ノ季姉妹が来ていたのか……」


 少し居心地悪そうに部屋の中から視線を外しまごつく撫子に、小蘭と秋江と樹は小首を傾げた。しかし、夏芽は撫子の態度から何かを察したようだった。


「また会長がご迷惑をおかけしたんですね」


「ズボシッ」


 ピタリと言い当てられた撫子は変な声を上げながら、おずおずと夏芽を見た。


「すまないな四ノ季……しっかりした副会長の君には迷惑をかけたくないんだが、どうしてもあの会長とは折り合いが悪くてな」


「いえいえ、会長は何が何でも自分を通す方なので仕方ないですよ」


 申し訳なさそうにする撫子に、夏芽は苦笑しながら言葉を返した。

 四ノ季夏芽。彼女は四ノ季秋江の姉であり、秋江と同じくこの緑原学園の現理事長の娘である。更にそれだけではなく、緑原学園の生徒会の一員で、副会長を務めている品行方正、才色兼備な淑女だった。

 誰にでも礼儀正しく、頭ごなしに否定せず話をきちんと聞いて答えてくれる彼女を悪く思う生徒などほとんどいない。もちろん、撫子もその一人だった。


「で、その生徒会長関連でオレになんか用すか?」


 ちゃんと起き上がり、パンパンと軽くジャージをはたきながら樹が撫子に改めて尋ねると、そうだった、と撫子は慌てた様子で樹に近づいた。


「神原、力を貸してくれ!お前のその頭脳を借りたい!」


「はい?」


 どういうことだ?と樹が眉をひそめると、撫子は続けた。


「実はな、生徒会長と裁判で戦うことになった。だが、証拠集めもなかなか上手くいかず、更に私だけではあの男を言いくるめられる気がせん、だから力を貸して欲しい」


「待って撫子さん、裁判って何?何があったんすか!」


 説明されても話のつながりが全く見えてこず、撫子以外の全員が困惑していると、突然、放送室に法螺貝が鳴り響いた。

 何事だ!?と全員が音のする方を見ると、夏芽が制服からスマートフォンを取り出していた。


「ああごめんなさい、私の着信音です」


 そう言いつつピ、と着信に出ながら、夏芽は放送室から廊下に出て行く。からり、と引き戸が閉められると、夏芽と通話相手の会話は聞こえなくなった。


「ナンデ法螺貝?」


 当然の疑問を小蘭がポツリと呟いたところで、樹は改めて撫子にもう少し詳しく話してくれるよう頼んだ。



 *



「なるほど、そんなことが」


 少し前に起こった生徒会長との揉め事の話を聞いて、樹はうーむと顎に手を当てながら唸った。


「確かに撫子さんはすぐに手を上げるけど、でもどうしようもない相手にしか手は出さないし、今回だってそのタバコ持ってた男子生徒の自業自得っすよね」


「ああ。だが私が物的証拠を取り上げたのをいいことに、私をよく思わん生徒会長を利用したんだろうな。更に悪いことに、あの堅物会長は自分の目で見たこと以外は全く信用せん。私や昴の主張も証拠がない限り認めんだろうな」


 はあ、と大きく溜息を吐きながらかぶりを振る撫子に、それで、と樹は続けて尋ねる。


「裁判っていうのは、どっから出てきた話なんすか?」


 その質問に、撫子は更に深い溜息をついた。


「その、会長に訴えを出した男子生徒がな、自分以外にも冤罪で私にやられた奴らがいるはずだ。そんな奴らのためにも、今回の件をハッキリさせて私を失落させたい。と言い出したらしくてな、生徒会長もそれに同調したらしいんだ」


「つまるところ公開処刑じゃないっすか!」


 驚く樹の言葉に、撫子は肯定するように頷いた。


「あの男子は確実にクロだ。だから私はまんまと嵌められるわけにはいかん。しかし、証拠も私が取り上げてしまったし、証言も無効だ。だから、第三者のお前の手を借りたいんだ」


「ようは、撫子さんの弁護をしろってことっすね」


 依頼の内容を把握し、撫子が何を頼みたいかを理解した樹は、快く頷いた。


「いいっすよ!この天才少年、神原樹くんに任せろっす!」


 ふふん!とドヤ顔で決めポーズをする樹の後ろから、ジト目で小蘭が呟く。


「人に天才って言われると怒るくせニ、自分で自称するのは平気なんだネ、メンドクセーヤツ」


「聞こえてるぞクソチャイナ」


 自分の悪口を言った小蘭に、ぐりんと振り向きながら樹は続けた。


「つーか、お前も手伝ってくれるよな?これから証拠とか証言集めないといけないし」


「言われなくても手伝うヨー、撫子さんのピンチダモン」


 当然だと言わんばかりに、少し前の樹と同じようにドヤ顔をする小蘭に、撫子はパアッと顔を綻ばせると「ありがたい!」と頭を下げた。


「急で悪いんだが、裁判は明日の放課後に行われる。それまでに何とか頼む!鵺一には既に協力を仰いでいる、何かあれば鵺一に聞いてくれ。私は被告人になるから、すまないがこれ以上動けん」


「ああ、だから鵺一は今日来なかったのか」


 思わぬところで鵺一の行方も判明し、早速樹達は鵺一と合流すべく行動を始めた。


「あ、そだ撫子さん。その取り上げたタバコっていうの、まだ持ってたら貸して欲しいっす。証拠品として調べたいし」


 樹がそう頼むと、撫子は頷きカーディガンのポケットから白いタバコの箱を取り出し樹に渡した。


「これが没収したタバコだ。念のため取っておいたんだ。あの生徒がいた裏庭にも、もしかしたら吸い殻が残っているかもしれないな」


「裏庭か……まずはそこからだな」


 樹は小蘭と目配せ、お互いにゆっくり頷くと、まずは裏庭に向かうことにした。

 と、放送室を出て行く二人の後ろから、秋江から声がかかる。


「みなさん、私も手伝える範囲で手伝いますよぅー。まずはその男子生徒の素性を調べて金を握らせるところから……」


「「「お前はそこでお菓子食べてろ頼むから!!」」」


 樹と小蘭、撫子のツッコミがピタリとハモった。



 *



「如月さんは神原くんに頼むみたいですよ?」


『ふん、よりによって神原か。あいつも何やら好き勝手してるそうだな、無認可の部活動の真似事など規律違反だ』


「でも私のお父……いえ、理事長が活動を認めてますから……」


『だからなんだというのだ。それは君の妹による依怙贔屓(えこひいき)なだけだろう。特別扱いなど以ての外。認めるわけにはいかん』


『丁度良い機会だ。暴力に訴える風紀委員会も、無許可で好き勝手活動し規律を乱す神原達も、全てまとめて排除してやろう』


『緑原の規律は、我々生徒会が守る。そうだろう?四ノ季副会長』


「……はい、海老沢(えびさわ)会長」



 *



 ┌─────────────┐

   某月某日 午後16時52分

      緑原学園 裏庭  

 └─────────────┘


 放送室から出てきた小蘭と、ジャージから制服に着替えた樹が裏庭にやってくると、そこには既に鵺一がいた。

 鵺一は二人を待っていたようで、後から二人がやってくると近づいてきた。その鵺一の後ろにはもう一人、彼の弟である昴もいた。


「やっぱり来てくれたんだな二人とも。姉さんから話は聞いたか?」


 鵺一の質問に二人が頷くと、鵺一は撫子が指導をしたという裏庭の現場を指差した。


「昴が言うには、ここでその男子とのいざこざがあったそうだ。だがそこを改めて昴と二人で調べてみたんだが、めぼしいものは見つからなかった」


「流石に掃除されてるか……」


 うーむ、と樹は顎に手を当てて次の行動を考える。


「樹ィ、ワタシがもう一度鵺一とココ調べて見るヨ。その間樹は昴くんに話を聞いてミタラ?」


 樹の肩を叩きながら小蘭がそう提案すると、樹は頷き昴の方へ顔を向けた。


「昴くん、もしかしたら鵺一には話してるかもしれないけど、改めてオレ達にも何があったか話してもらってもいい?」


 昴は快く頷くと、男子との間にあったことを話した。


「3日ほど前に、僕と撫子姉さんが見回りをしていたら例の男子の喫煙を目撃したんです。

 それで姉さんはすぐやめるように注意したんですけど、どうやらその男子は過去にも同じことで姉さんに何回か注意を受けていたようで、今回も反省するそぶりが無かったんです。

 姉さんが注意しても棒読みの返事だけで、タバコもすぐ消してはいましたが、消したんだからいいでしょ、みたいに舌打ちされまして。

 口頭注意だけだったせいか、舐められていたみたいで、次も絶対繰り返すだろうと判断した姉さんはその男子を竹刀で殴ったわけです。

 一度痛い目を見ないとわからないだろうって」


「なるほどねえ」


 昴の話を樹はとりあえずいつも持ち歩いている手帳に書き留めておいた。こんなことをしなくても樹は持ち前の記憶力のおかげで今聞いた話を一字一句間違わずに復唱できるのだが、なんかメモとかとってたら探偵っぽい!という理由でとりあえずメモをとってみた。

 そんな樹のどうでもいい体裁に気づかないまま、昴はそれから、と話を続ける。


「ここだけの話、この学園にはどうやら喫煙グループというのがあるらしいんですよ。

 あの男子以外にも陰で喫煙をする集団がいるらしくて、姉さんは彼らを絶対検挙してやると息巻いてました。

 前、体育館の裏で大量の吸い殻が見つかって、それ以来先生達と連携をとって色々探しているらしいんですけど……」


 と、昴はそこで言葉を区切るとはあ、とため息をついた。


「それこそ、生徒会の人達だって協力してそうな話なのになあ……なんで姉さんと喧嘩しようとするんだろ……」


 樹は手帳に写した今の昴の話に赤ボールペンで線を引いた。

 そうして昴から話を聞き終わると、ちょうど小蘭と鵺一もあたりを調べ終わったようで樹達の元へ戻ってきた。


「樹ィ、昴くんから話聞けタ?」


「バッチリ。そっちは?」


 樹の問いに、鵺一は首を振った。


「やはり何も無かったな。3日も前の話だ、流石にもう片付けられたんだろう」


「そうか……」


 当然といえば当然の結果だが、樹は少し期待していただけにちょっとがっかりしてため息をついた。

 そんな樹のリアクションに、小蘭がふっふっふ、と怪しくニヤニヤし始める。


「落ち込むのはまだ早いヨ!吸い殻とか物は流石に無かったケド、別の証拠を見つけたヨ!」


 そう言うと小蘭はこっちに来いと手招きする。樹が小蘭についていくと、小蘭は少し歩いたところの足元の地面を指差した。


「この地面、不自然に盛り上がってるノ。で、この周りの土も不自然に抉れてるのネ。もし掃き掃除をしたナラ、こんな盛り上がり方しないはずダシ地面にも枯山水みたいな線が残るはずデショ?」


「お前枯山水なんてインテリワード知ってたんだな、びっくりだわ」


 余計な茶々を入れる樹の頭をひっぱたいてから、小蘭は話を続けた。


「とにかく!この盛り上がりは怪しいヨ!中に何かあるカモ!って鵺一に言ったら可哀想なものを見る目をされたカラ、樹に意見聞いてカラ掘り起こそうと思っテ」


 小蘭は鵺一をジトッと睨む。当の鵺一はまた可哀想なものを見る目を小蘭に向けていた。


「だって考えすぎだろう。それにあの程度の土の盛り上がり、自然形成されることだってある」


「なるほどな。でも鵺一、今回ばかりは小蘭の考えも一理あるぞ」


 樹はそう言うと地面にしゃがみ、土の盛り上がりをスマートフォンのカメラで撮影する。そうしてカメラに現状を収めると、その盛り上がりを掘り起こしてみた。

 結論から言えば、小蘭の読みは大当たりだった。


「ビンゴォ……!」


 土の中から出てきたのは、タバコの吸い殻だった。



 *



 ┌─────────────┐

    同日 午後17時12分

    緑原学園 体育館裏  

 └─────────────┘


「体育館裏になんて何の用があるんだ?」


 樹はそのまま小蘭、鵺一、昴を引き連れて体育館裏に移動していた。


「さっき昴くんから聞いたんだけどさ、この学園、喫煙グループがいるらしいじゃん。そっち関係でなんかないかなーって」


 そう言いながら樹がキョロキョロと地面を探し始めたので、三人もそれに付き合うかのように何か手がかりがないか探してみる。しかし、さっきと違い特にめぼしいものは見つからなかった。


「うーん、何かあればいいなと思ったんだけど、そう上手くはいかねえか」


 頭をぽりぽりとかく樹に、目的がまるで見えない小蘭と鵺一は訝しげに樹を見つめる。


「鵺一ィ、樹が何考えてるかわかル?」


「全くわからん。急に頭がおかしくなったのか?」


「お前ら聞こえてるからな!!」


 ヒソヒソと自分をディスる二人に、樹は振り向きながら噛み付いた。その傍らで、昴だけは樹の行動の真意に察しがついたようだった。


「樹さん、もしかしてあの男子と喫煙グループが繋がってるって睨んでます?」


 昴の発言に、樹はアホ二人を無視してそれそれと反応を返す。


「多分だけど、撫子さんに突っかかった奴は喫煙グループの一員のはずだ。たまたま一人で吸ってたところを見つかって捕まったけど、運良く現れた生徒会長を利用して自分達の脅威になり得る撫子さんをとっちめようって魂胆なんだろう。ここで公開処刑しとけば撫子さんは動けなくなる、つまり自分達は安全にタバコ吸い放題」


「ですが、そんな簡単に繋がってると言い切れるんでしょうか」


 樹のあまりにも安直すぎる推理に、昴は渋い顔をする。アホ二人は話についていけないので適当に相槌を打っていた。


「もしその男子がグループと関係ないなら、こんな裁判沙汰にしないと思うんだよな。生徒会長に撫子さんを叱ってもらった時点でやり返せてるわけだし。でもわざわざ公開処刑を望んできたってことは、他にも撫子さんを疎ましく思う連中がいる。間違いなく喫煙グループの奴らだろ」


 そこまで言うと、樹は体育館の外壁をコンコンと軽く叩いた。


「この場所さ、喫煙グループの集会所の一つなんだろ?だから、生徒会長とのやりとりがあった後、ここで作戦会議したんじゃないかと思って手がかりがないか探しにきたんだけど……流石にここに集まってました、なんていう証拠はそう簡単には見つからないよなあ」


 どうしたもんかなあ、と樹は腕組みをして頭をひねる。すると、話を聞いていた昴が何かを思い出したかのようにポンと手を叩いた。


「そういえば、さっき話した吸い殻が見つかったって話、あれ見つけたの生徒なんですって。確かこの場所も掃除当番が割り振られてて……」


 昴の言葉に樹はそれだ!と反応したが、またすぐに困ったような顔に戻った。


「でもオレ、ここの掃除担当が何年の何クラスかなんて知らねえぞ」


「そうですか……せめて見つけた人の学年がわかればよかったんですけど、僕もそこまでは……」


 結局振り出しに戻ってしまい、二人がはあ、とため息をついたその瞬間、横から何かが崩れる音がする。


「なにやってんダヨ鵺一ィ!こんな身軽な女の子の体重も支えられねーのカヨ!」


「ふざけるな!お前が急に動くからバランスを崩したんだろう!」


 突然の物音に樹と昴がびっくりして振り向くと、ベシャリと地面に潰れた鵺一の上に、同じく潰れたようにひっくり返っている小蘭の姿が見えた。


「いやお前らがなにしてんの」


 そんな二人を樹は冷ややかな目で見る。その横では昴がなにを勘違いしたのか赤くなりながら手で顔を覆っている。


「!!!ちがうんダヨ昴くんワタシこいつとそーいうアレなんてまっぴらゴメンダヨ!!!」


「俺だってごめんだ! ただこいつに頼まれて肩車しただけだ!そんなことより早く退いてくれ、動けん!!」


 ギャーギャー騒ぐ二人を樹はますます冷ややかな目で見つめた。と、先程はうまい具合に体の陰に隠れて見えなかったが、小蘭が腕に何かを抱えているのに気づく。


「おい小蘭、そいつって」


「そうだったヨ!ホラ!ミケ捕まえたヨ!」


 小蘭はぴょんと潰れた鵺一の上から降りると、抱えていた学園に住み着く三毛猫、通称ミケを樹に掲げて見せる。ミケは少し不機嫌そうな顔をしていたが、一言も鳴き声をあげなかった。それもそのはずだ。ミケは最初からずっと何かを口に咥えていたのだから。

 樹がその何かをよく見てみると、それはタバコの吸い殻だった。


「うおお!!ミケ天才かよ!!でもそれ毒だからペッしような、ペッ!」


 思わぬところからの証拠発見に樹は喜びつつも、ミケがこのまま間違えて飲み込んでしまわないように口から吸い殻を強奪しようとする。が、ミケはよほど渡したくないのか、ものすごい力で抵抗して放さない。

 しばらく樹とミケの吸い殻の綱引きが続くと、とうとう力が入らなくなってきた樹が負けた。


「こいつ……ッ!力強……ッ」


 感覚すら鈍くなってきた両手をさする、猫に負けた男子高校生の樹を、ミケはやたら腹立つ顔でふふんと見下した。

 ぐぬぬ、と樹が歯ぎしりをしていると、後ろであわあわしていた昴が制服のポケットからコンパクトミラーを取り出すと、ミラーを開き鏡の中の自分と目を合わせる。そしてガクン、と項垂れたかと思うと、左腕の腕章の少し下あたりに巻きつけていた白いスカーフを解いて、カチューシャリボンのように頭に結び直す。キュッ、と頭上でウサギの耳のように結び目を作ると、おどおどした目からキリッとした目に変わった。


「樹さん、ここは私に任せて」


 そうして昴と入れ替わり出てきたコスモが、ずいっと樹と小蘭に抱えられたままのミケの間に割り込み、ミケと対峙する。

 少し身をかがめてミケに視線を合わせると、コスモはにこりとミケに笑いかけた。


「怖がらせちゃってごめんねミケちゃん。でもね、私達はどうしてもそれが欲しいの。ミケちゃんの宝物、私達に譲ってもらえないかなあ……ダメ?」


 少し困ったように首を傾げてコスモがミケに訴えかけると、ミケはなにやら考えるようなそぶりを見せてからちょいちょいと前足を手招きするように動かす。コスモに手を出せと言っているようだ。その通りにコスモがミケの前に手を出すと、ミケはその手の中に咥えていた吸い殻を置いた。


「ありがとうミケちゃん!」


 コスモはもう一方の空いている手でミケの喉をわしゃわしゃと撫でてあげた。ミケは美少女(?)に撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らしご満悦のようだった。


「現金な猫だ」


 この流れを見ながら、樹は遠い目で呟いた。


「ところでミケはどこで吸い殻見つけたんだろーネ。なんか咥えてル!と思って木の上にいたところを捕まえちゃったんだケド」


 小蘭がいい加減ミケを下に降ろしながらぼやく。どうやら小蘭と鵺一は、樹が推理を展開中に木の上にミケを見つけ、それも何かを咥えているようだったからひょっとして、ということで肩車をして捕まえたようだ。そして捕まえた拍子にバランスを崩して潰れたのだろう。

 だがしかし、確かに吸い殻を咥えたミケがこの場所にいたからと言って、ここに吸い殻が落ちていたとは限らない。他の場所、最悪学園の外から拾ってきた可能性だってあるわけだ。自分達が求めていたものではあったが、出所が分からなければ意味がないことにようやく気づくと、一同はまた頭を悩ませてしまった。

 そうやってうんうん唸っていると、遠くから誰かがドタバタとこちらに走ってくる音が聞こえてきた。


「みんなーーー!愛里寿も手伝いに来たのだわーーーッ!」


 そう叫びながらやって来たとおり、駆けてきたのは愛里寿だった。


「愛里寿!?ナンデ!?」


 小蘭が驚くのも無理はない。今回の件に全くと言っていいほど関わりのないはずの愛里寿が、手伝いに来たと言ってやって来たのだ。何が何だかさっぱり分からず混乱する樹と小蘭と鵺一に、愛里寿はえっへんと胸を張るとここに来た経緯を話した。


「秋江ちゃんから話は聞いたのだわ!生徒会の人達からお侍様を助けるために動いてるんでしょう?お侍様は愛里寿の王子様なのだわ!お侍様を助けるの、愛里寿もお手伝いするのだわ!」


「はいちょっと待ってね、話を整理させてね」


 いつも通りキラキラした淡いピンクのエフェクトを辺りにまき散らし、周囲を乙女ゲーム化させる愛里寿に樹は待ったをかけて情報を整理させる。


「えーと、お侍様ってのは、風紀委員長の撫子さんのことだよな?」


「そうなのだわ」


「で、秋江から生徒会と撫子さんが揉めてる話を聞いたと」


「そうなのだわ」


「それで、撫子さんは王子様だから手伝ってくれると」


「そうなのだわ!!」


「鵺一、オレ愛里寿が何言ってるのかわかんねえんだけど」


 手伝ってくれるのはわかったがその理由が結局よくわからなかった樹は、キラキラと瞳を輝かせる愛里寿から素早く目をそらして鵺一に助けを求めた。が、


「すまない……わかりたくもない……」


 と、鵺一は虚ろな目をするだけだった。


「んふふ、お姉ちゃんったらモテモテね」


 そんな鵺一の隣で、だいたいどういうことか悟ったコスモが楽しそうに笑った。先程は勘違いとはいえ顔を赤くしてあたふたしていた昴と違い、コスモはこう言った話に慣れているようだった。すると、コスモの存在と今の発言に気づいた愛里寿が、一瞬にして顔を硬ばらせる。


「……お姉ちゃんって、どういうこと?あなた王子様のなんなのだわ!?」


 いかにもヒロインの恋敵の悪役令嬢が言いそうなセリフを言う愛里寿に、コスモは薄く笑うと口元に指を立ててみせる。


「ふふっ、どういう関係でしょう?」


「……ッ!!ま、負けないのだわ!!」


「もういい加減にしてくれないか」


 乙女の戦いを始めようとする二人に、虚ろな目を続ける鵺一は無理やり割り込んで話を終わらせた。


「来てくれたところ悪いんだけどさ、手伝って欲しいこと今はなくてな」


 話を戻し、樹は愛里寿に今の状況を説明した。

 撫子が男子を指導した場所で、吸い殻を見つけたこと。その吸い殻は隠すように地面に埋められていたこと。この学園には喫煙グループがあって、男子はそのグループの一員である可能性が高いこと。今回の生徒会との揉め事は、そのグループが生徒会を利用して撫子を失墜させようとしてるのではないかということ。そして、その作戦を実行するべく作戦会議をした証拠が出てこないか体育館裏を調べていたこと。その際、ミケが出所不明の吸い殻を咥えて現れたこと。

 一通り説明し終えると、愛里寿はわかったのかわからないのかよくわからない表情で頷いて元気よく言い放った。


「つまり!その男子は悪いやつってことね!」


「ダメだこいつわかってねえ!!」


 途中から話を理解することを諦めたような愛里寿の返答に、樹はやっぱりかと頭を抑えた。


「ねぇ樹ィ、やっぱりここの掃除当番の人を探そうヨ。愛里寿も来て人数増えたシ、五人で手分けすれば見つけるのもまだ楽ダヨ」


 話にならない愛里寿はもう無視して、小蘭は樹にそう提案する。確かに、今はその方がいいのかもしれない。少なくともここでミケが咥えていた吸い殻の出所を考えていても、答えが出るはずもない。ならば先にここの掃除当番の生徒に何か見ていないか聞いた方が早そうだった。


「人海戦術は時間がかかるからあんまりしたくねえし、もう時間も時間だからなあ……とりあえずクラスだけでも探そう。話は明日の昼休みになんとか聞くしか」


 そう樹が言い終わらないかのところで、急に愛里寿が口を挟んだ。


「ここの掃除当番ならどこのクラスか知ってるのだわ」


 突然のカミングアウトに愛里寿以外の全員が、は?と目を丸くして愛里寿を見た。


「というか、愛里寿は美化委員なのだわ。各クラスの掃除当番の場所は委員会経由でだいたい把握してるのだわ」


「そうだったお前1-Cの美化委員だッ!!」


 言われるまで愛里寿が美化委員だということがすっかり頭から抜け落ちていた、同じクラスのはずの樹、小蘭、鵺一の三人は目をパチクリさせながら愛里寿に詰め寄った。


「で!どこのクラスネ!?ここの担当は何年何組ナノ!?」


 圧迫気味に尋ねる小蘭に圧倒されることなく、愛里寿はその質問に答えた。


「ええと、ここは確か……」



 *



 ┌─────────────┐

     同日 午後17時48分

   緑原学園 高等部二階 2-A

 └─────────────┘


「なるほど、確かにそこは僕らのクラスの担当だね」


 2-Aの教室の後ろ側の扉の前で、一行は教室に残って談笑していた内人を呼びつけて事情を説明し、話を聞いていた。

 愛里寿の言った通り、体育館裏の掃除担当は2-Aで間違いなかったようだ。


「ちなみに内人先輩は今週掃除担当とかだったりしない……っすよね流石に」


 もしそうなら話が早かったのだが、樹の思った通りそう簡単にはいかないようで、内人にごめんねと苦笑を返された……のだが。


「僕は違うけど、今週当番だった人ならまだ教室に残ってるよ。話を聞いてみるから、ちょっと待ってて」


 そう言って内人は教室に引っ込むと、その当番だった生徒の元へ話を聞きに行った。

 内人本人は違かったものの、結果的に掃除当番がまだ学内に残っていたのでラッキーだ。また新しい情報が手に入りそうだと思うと、樹は少し緊張してきた。


 今まさに会話中なのだろうか、教室の中から内人の声が断片的に聞こえてくる。


「うん、そう、掃除……当番でしょ……」


「覚えてない……またそうやって君は……」


「残念だ……たこ焼き……」


「君はたこ焼きが絡むと本当に簡単になる人だね」


 少し意味のわからない単語が聞こえた気がしたが、程なくして内人が教室の中から戻ってきた。


「話聞けたよ。一昨日掃除に行ったらしいんだけど、なんか変だったって。

 いつもなら馬鹿みたいに枯葉が溜まってるはずなのに、その日はいやに綺麗だったらしくて。

 先に他の人が掃除したのかと思ってそのまま帰ったらしいんだけど、次の日同じ掃除当番班の人達に聞いてみたら、その日は全員同じように行ってみたら綺麗で先に誰かがしてくれたと思って掃除しなかったって言われたってさ」


 その話を、樹は昴から話を聞いた時のように手帳にメモをしておいた。その樹の後ろから、鵺一が申し訳なさそうに内人を見た。


「あの、内人先輩、ついでに今の話をした人に、いい加減部活に出るように言っといてください」


「ああ……うん……しとくね……」


 察した内人も遠い目をしながら、鵺一のお願いを承諾した。


「ところで君達、また面白そうな事に巻き込まれてるんだね。今度ゆっくり取ざ」


「「「先輩あざっしたァー!」」」


 内人が最後まで言い切らないうちに、樹達は逃げるように2-Aから離れた。



 *



 ┌─────────────┐

     同日 午後18時16分

   緑原学園 裏庭 ゴミ捨て場 

 └─────────────┘


 内人から逃げた一同は、ゴミ捨て場に来ていた。

 緑原学園では、掃除などでゴミを袋にまとめた後はここに持ってきて溜めることになっていた。ここに溜められたゴミは、後ほどこの地域のゴミ捨てルールに則ってゴミ回収業者が集めに来てくれるのだった。

 今日は木曜日。プラスチックと粗大ゴミの日だ。つまり、そのゴミ以外なら基本はまだ残っている。が、それ以前の曜日にも該当のゴミは回収されているわけで、話に出た一昨日、となるとほとんどのゴミは残らず回収されている可能性があった。


「一昨日は火曜日だから……燃えるゴミの日……」


 この近辺のゴミ出しカレンダーを思い出しながら、樹は曜日と内容を照らし合わせてみた。出てきた答えに言葉を一瞬詰まらせたものの、すぐにまたカレンダーを頭に出してじっくり読む。


「ゴミの回収は朝の8時。そして、学園が掃除をするのは放課後。次の燃えるゴミの回収日は金曜、明日の朝だ……つまり、今ならまだ一昨日のゴミが残っている!!」


 続いた樹の言葉に全員は顔を見合わせると大きくうなずき、燃えるゴミのスペースに積まれたゴミ袋の山へとガサ入れを開始した。

 学園内のほぼ三日分のゴミはとても量が多く、これを一人、二人で全部見るとなると下校時刻までには絶対に終わらなかっただろう。だが今はなんだかんだで四人も人手がある。……四人?

 樹、小蘭、鵺一、愛里寿がゴミをガサガサと確認する後ろで、一人ポツンとゴミ捨て場に入ろうとせずにコスモが突っ立っていた。


「先輩達嘘でしょ……?袋に入っているとはいえゴミ山に入るだなんて、流石に私には衛生的に無理よ……」


 うええ、と顔を歪ませて入りたくないとアピールをするも、時間もない中でなんとか手がかりを探そうと集中しているのか、四人には全く届かなかった。


「…………」


 コスモは無言のまま、制服からコンパクトミラーを取り出すと、自身を写して人格を入れ替えた。

 頭で結んでいた白いリボンをほどき、最初のように左腕につけた風紀委員の腕章の少し下あたりに結びつけると、昴は大きくため息をついた。


「全く、コスモはわがままなんだから……」


 そう呆れたようにぼやくと、昴も四人に合流してゴミ山のガサ入れを始めた。

 そうしてしばらく五人がかりで探していると、愛里寿が声をあげた。


「みんな!この袋、なんか破れてるのだわ!」


 愛里寿の声に他の四人が振り向くと、愛里寿は端が少し破れて枝が飛び出しているゴミ袋を高く持ち上げて全員に見せていた。

 と、そのゴミ袋に小蘭が違和感を覚える。


「ネエ、その袋の中身、なんか少なくナイ?」


 言われてみると確かに、他のゴミ袋はほとんどパンパンにゴミが詰まっているのに対して、愛里寿が掲げるゴミ袋は半分も入っていなかった。しかし、先程愛里寿が言ったように袋が破れているのなら、そこから中身が漏れただけの可能性もある。


「うーん、色々怪しいけど、それ何のゴミが入ってる袋なんだ?」


「見た感じ枯葉とか枝とかのゴミみたいだわ。外の掃き掃除で出たゴミってとこだと思うけど、それだとおかしいのだわ」


 樹の質問に答えつつ、愛里寿はゴミ袋の結び目をほどき始めた。


「外の掃除をしたことある人なら知ってると思うけど、普通はゴミ袋が満杯になるまでここには持ってこないで掃除道具入れの近くに置いておくのだわ。教室のゴミ箱と同じような感覚ね。

 だからこんな半分もいかない状態でゴミを出すなんておかしいのだわ。中身が漏れたから減った、にしては周りが綺麗すぎるし、元からそんなに量が入ってなかった気がするのだわ」


「さすが美化委員だな」


 愛里寿の推理に鵺一が素直に感心してそう褒めると、愛里寿は顔を赤らめ乙女エフェクトを展開した。


(だ、ダメよ愛里寿…!愛里寿にはお侍様が…!でも…お侍様の弟…ああっ、とても禁断なのだわ…!)


「袋ほどくなら早くしてくんない」


 変なモノローグを食い気味に樹が両断して愛里寿に行動を続けるように急かす。そうだったのだわ!と愛里寿は我に帰ると袋をほどいて口を広げ、中に腕を入れて軽く中身を確認する。枯葉や小枝、そして一緒に巻き込んだのであろう土の中に、それはしっかりと紛れ込んでいた。


「これで確定だな。少なくとも、喫煙グループは撫子さんが生徒会長と揉めた後に集まっている……!」


 ゴミ袋の底には、大量のタバコの吸い殻が溜まっていた。

 愛里寿はそのまま、タバコの吸い殻を袋からいくつか取り出す。残っているタバコの吸い口の方には銘柄が記されており、それを見比べると複数種のタバコが吸われていたようだ。一人で何種類も吸うようなことはそうそうないはずだ。やはり、何人かが集まって吸っていたのだろう。

 そして集まったという証拠を残さないために、掃除当番より先回りで掃除をして処分しようとしたのだろう。ただ中の枝が刺さって袋が破れた際、溢れた吸い殻がミケに見つかって持ち運ばれてしまったようだ。


「……うん、やっぱりあったな」


 樹は愛里寿が出した吸い殻の中から、一つ掴む。そして、撫子から託された証拠の一つ、男子から取り上げたタバコの箱を取り出すと、中から一本タバコを出して吸い殻と見比べた。

 両方とも、吸い口に記されていたのは同じ銘柄。


「男子が持っていたタバコと同じ銘柄があるってことは、やっぱりあいつも集まって吸ってたってことだな。たまたまって可能性もありそうだけど、疑わしいのは間違いない」


 それに、と樹は更に裏庭の地面の中から見つけた吸い殻も取り出す。


「少なくとも、こいつがタバコを吸ってたのは本当って証拠はここにあるしな」


 勿論そのタバコも、同じ銘柄のものだった。


「よっしゃ!これで撫子さんを助けられるネ!」


 証拠が十分に集まってきたことで、光が見えた小蘭が嬉しそうに両手を挙げた。それに同調するように愛里寿もやったのだわ!と昴の手を取りブンブンと振る。

 しかし、鵺一と樹は少し渋い顔をしていた。


「なあ、樹。今更だが、生徒会長って……」


「ああ、あの()()()だ」


 樹は更に顔を曇らせる。


「そう、あのクソ海老の身内なんだよな……直接話したことはないけど、あのクソ海老の身内が何も手を打ってこないなんてあり得ない気がする。なーんか、裏がありそう……」


 不安を募らせつつも、樹達は捜査を切り上げて明日の裁判を待った。




「と言うわけで次回、裁判編!来週も見てくれよな!」


「あの樹さん、空に向かって急に何言いだすんですか?兄さんと小蘭さんもどこ向いてるんですか、なんで決めポーズしてるんですか?」

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